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2010.03.11

「蒼きサムライ」 百五十年前の青春に見るもの

 水谷家の一人息子で元服したばかりの秀太郎は、先輩たちにからかわれながらも、剣の修行に励む毎日。そんなある日、剣術の師である杉田が、町で破落戸たちに袋叩きにあわされたという噂が流れる。師の汚名を濯ぐため、想いを寄せる師の娘・凛のため、秀太郎は先輩たちと真相を探るのだが…

 時代小説というと、どうしても比較的高い年齢層向けという印象がありますが、最近は、売り方次第では十分イケると気づいたのか、若い層をターゲットとした時代小説も、少しずつではありますが増えてきた印象があります。

 本作「蒼きサムライ」も、その一つと言えるでしょう。あまり「らしく」ないタイトルといい、ワカマツカオリ氏のイラストといい、若い層のアレルギーを刺激することなく、時代小説を手にとってもらおうという意図が感じられます。

 さて、そんな本作の舞台となるのは、江戸から離れたとある藩。元服したばかりの主人公・秀太郎の通う剣術道場の主が、町で破落戸に袋叩きにあったという事件をきっかけに、彼は大人の世界を垣間見ることになります。

 道場主の娘との叶わぬ恋の悩み、正しいことを主張すれば勝てるとは限らない大人の世界の仕組み、尊敬する先輩の裏切りへの疑い…
 ちょっとした(?)非日常的事件をきっかけに、突然それまでと全く異なる世界に放り込まれた主人公の心情の動きが、鮮やかに伝わってくるのには、好感が持てます。
(主人公の、強すぎず弱すぎず、目立ちすぎず埋没しすぎずな存在感が良い一方で、主人公の恋愛模様の描写は、ちょっと豪快過ぎるオチも含めてひっかかるものがなきにしもあらずですが、そこは好みの問題でしょう。)


 もっとも、本作に登場するキャラクターが、主人公をはじめとして、あまりにメンタリティが現代の若者のそれに過ぎる、という印象は強くあります(まあ、若い衆の考えてることは、いつの時代もそうそう違うとも思えませんが)

 この辺り、時代劇はちょんまげを載せた現代劇なのか(そしてそれで良いのか)という、ある意味永遠のテーマを否応なしに思い出さされますが、一つのツールとしての時代小説というものもあって良いのでしょう。
 現代に比べ、より制限の多い時代だからこそ、よりビビッドに見えてくる人間の心の動きを描くための――


 何はともあれ、本作は小説としてみれば、なかなか面白いものであることは間違いありません。終盤で、ある歴史的事件がひょいと顔の覗かせてくる趣向も好みであります。
 主人公の一人称が時々「僕」だったり、考証的にどうなのかなあ、と思う点は幾つかありますが…


 約百五十年前の若者の青春の中に、現代の若者が自分たちのそれを(一種逆説的ものも含めて)見出すのであれば、それはとても楽しいことだと思います。

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