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2010.03.06

「白疾風」 風は、再び吹く

 かつて「疾風」の異名を取った伊賀の忍び・三郎は、今は忍びを捨て、妻の篠とともに、武蔵野で農地を開墾して暮らしていた。そんな中、村を束ねる平蔵が、武田の隠し金山の在処を隠しているとの噂が流れ、村に次々と怪事が起こる。村を守るため、再び疾風が立ち上がる…

 先年惜しくも亡くなられた北重人先生は、作家デビューこそ遅かったものの、その分、これまでのご自身の人生経験を反映したかのような、味わい深い作品を発表してきました。
 本作「白疾風」は、ジャンルでいえば伝奇もの、忍者ものと言えますが、しかし作中で描かれる空気感は、やはり北作品と言うべきものが、色濃く感じられるのです。

 本作の主人公・三郎は、かつては凄腕の忍びとして活躍しながらも、秀吉の小田原攻めを最後に忍びを辞め、同じく忍びだった妻・篠とともに、老境にさしかかった今は、静かに農民として暮らす人物。
 そんなある日、協力して開墾を行ってきた元・武田家の武士の家に、武田の隠し金山――大久保長安ゆかりの黄金の手がかりがあるという噂が流れ、少しずつ、少しずつ、平穏だった村の生活に、歪みが生じていきます。
 三郎は、かつての仲間たちの協力を受けつつ、敵の姿に一歩一歩迫っていくのですが…

 既に戦いの場から退いたかつての戦士が、己の生活を守るため、再び立ち上がるというのは、アクションものの一つのパターンではあります。
 しかし、本作では、そこに至るまでの三郎たちの日常と、そしてそれを取り巻く武蔵野の自然の姿を丹念に描くことにより、単なるアクションもので終わらない、滋味溢れる物語が展開されていると言えます。

 特に、かつては食うか食われるかの苛烈な戦いの世界に身を置きながらも、今は篠と二人、土とともに暮らす三郎の姿には、一種澄み切った安らぎとも言えるものが感じられるのです。
(特に、物語の後半で語られる二人の互いに抱く想いが語られる場面の描写が実に良い)

 この辺りの描写は、やはり若い作家にはおそらく難しい部分、人生経験を積み重ねてきた者の筆によるものと言えるでしょう。

 そしてまた――この安らぎの世界が描かれるからこそ、それを壊そうとする者たち、利用しようとする者たちに対して、三郎が安らぎを捨ててまで立ち上がることに、説得力とカタルシスが生まれます。

 個人的な趣味で言えば、ラストの展開はもうちょっと別の形にならなかったのかという印象は強くあります。
 しかし、結末に至り、三郎と、我欲に動いた者たちの対比がより明確になったことは間違いなく、これはこれで納得のいく結末ではあります。

 諸国を吹いた風は、ついに留まるべき地を見つけたのですから――

「白疾風」(北重人 文春文庫) Amazon
白疾風(しろはやち) (文春文庫)

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