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2010.04.09

「陰陽ノ京 月風譚 黒方の鬼」 変わったもの、変わらぬもの

 左大臣・藤原実頼の館から、彼を呪詛する符が見つかった。事件を未然に防ぐため、陰陽頭・賀茂保憲の息子・光榮は、密かに事件の調査にあたる。異国の血を引く女外法師・藤乃とともに京の闇を行く光榮の前に、奇怪な鬼の姿が…賀茂光榮と住吉兼良、若き二人の陰陽師が闇に挑む。

 ようやく追いつきました。約三年ぶり、そして新主人公による「陰陽ノ京」シリーズ最新巻であります。

 主人公を務めるのは、これまでもシリーズに準レギュラーとして登場していた賀茂光榮。
 大陰陽師・賀茂保憲にして前の(と書くのは抵抗ありますが)主人公・慶滋保胤の甥というサラブレッドですが、見かけは浮浪者のような無頼漢、しかしうちには優しき心を秘めた愛すべき男であります。

 物語の舞台となるのは、晴明が京を離れ、貴年と「その主人」が安倍邸に世話になっていることから、おそらくは巻ノ五の直後の世界。
 時の左大臣・藤原実頼を狙い京を跳梁する奇怪な鬼に、光榮とその相棒(?)住吉清良が挑むことになります。

 果たして実頼を狙う者は何者か、そして何故狙われるのか…その謎を追う光榮たちの姿と平行して描かれるのは、実頼と、彼女と因縁のある女外法師・藤乃の心の交流。
 その二つの流れが絡み合った末に迎える結末までには、一ひねりも二ひねりもあり、派手な術描写のみに頼らず、人と人の繋がりを陰陽道に託して描くという、本シリーズのカラーは変わっていないと感じさせられました。


 しかし、その一方で変わったと感じさせられた部分もいくつかあります。

 その一つは、物語の背景として、史実との関わりを明確に描いたことでしょう。
 これまでのシリーズでは、晴明や保憲といった実在の人物こそ登場したものの、それ以外の実在の人物は登場せず、背景として平安時代というものは存在しつつも、その背景が物語に有機的に結びつくことはほとんどありませんでした。
 それが本作では、事件の中心を実頼という人物と、ある歴史上の事件に置くことにより、明確に物語を史実に結びつけているのです。

 もう一つ言えば、貴族を呪詛から守るために戦う陰陽師という本作の構図は、陰陽師ものの定番のシチュエーションではありますが、本シリーズはかなり珍しいものであります。

 こうして考えると、本シリーズそのものがある意味異色だったわけで、本作で、それがいわゆる陰陽師ものの定番に近づいたと言えるかもしれません。
 この辺りは、新レーベルにて新シリーズ――なのでしょう、きっと――を開始するに伴い、シリーズの方向性を少し変えたということなのでしょう。

 それが果たしてシリーズの今後にどのような影響を与えるか、それはまだわかりませんが、しかしそれでも上で述べたように、陰陽道を媒介に、人と人の繋がりを中心に描くという部分に変わりはありません。
 そうである限り、本作も、そしてこれからの作品も安心して読むことができます。

 後に望むことはただ一つ、次回作はあまり待たせないで欲しい、ということのみです。

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