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2010.04.20

「四谷怪談忠臣蔵 仮名鑑双繪草紙」 伝奇性の豊かさと構成の難と

 先日、新橋演舞場の陽春花形歌舞伎「四谷怪談忠臣蔵 仮名鑑双繪草紙」を観て参りました。 題名通りの「四谷怪談」+「忠臣蔵」かと思い――それはそれで間違いではないのですが――特に内容の予習もせずに行ったら、これが素晴らしい伝奇的内容となっていて大いに驚かされました。

 何しろ、冒頭で登場するのが新田義貞の怨霊(言うまでもなく、本作は室町時代が舞台)。これが高師直に取り憑き、足利幕府の転覆を狙うというのですから!
 かの塩冶判官との刃傷沙汰も、この高師直=義貞が、わざと判官を挑発して起こさせたもので、これでもって足利幕府の権威を失墜させようという企み。さらに義貞の息子でやはり妖術師の大盗賊・暁星五郎と呼応して、幕府を攻め滅ぼそうという邪悪な企みが巡らされることになります。
 そして、この義貞憑依の様を目撃し、義貞と星五郎を阻むべく追うのが、本作では善玉の斧定九郎というのが嬉しい。 もうわくわくするような幕開けであります。
 ちなみにこの暁星五郎、元々は同じく忠臣蔵をベースとした「菊宴月白浪」の登場人物で、実は斧定九郎が名を変えたもの。それが本作では星五郎に挑むのが定九郎という構造も面白いのです。

 さて、全体の構造としては、「四谷怪談」と「忠臣蔵」の物語を、この星五郎の跳梁が繋ぐというイメージですが、それとは別に、さらに二つの物語をリンクさせる趣向となっているのがまた面白いところ。
 簡単に言ってしまえば、伊右衛門は終盤まで生き残り、何と小林平八郎と名を変え(!)、師直の家臣として、討ち入りの段で佐藤与茂七と対決することになるのです。
 そこでもちろん(?)お岩さんのフォローが入り、与茂七が伊右衛門を討つことになるわけですが――本来並行して(あるいは互い違いに)展開していく物語だった「四谷怪談」と「忠臣蔵」が、このように合一されるのも実に興味深いところです。

 歌舞伎は元々時代伝奇の偉大なるご先祖様ではありますが、しかしここまで自由にしていいのか! と、改めて感心。起伏に富んだ展開で、正味四時間という長さも、あっという間に感じられました。


 が――個々のエピソードについては、このように非常に面白いのですが、しかし残念ながら、全体を通してみればバランスが悪い、の一言に尽きます。
 簡単に言えば、上で述べたとおり「四谷怪談」と「忠臣蔵」が綺麗にリンクしている一方で、本作ならではの要素である星五郎と定九郎の存在が、浮いてしまっているのです。

 一応「忠臣蔵」サイドにしてみれば、討たれる側の師直と星五郎に霊的な血縁関係があるわけで、その点での繋がりはあるのですが、しかし「四谷怪談」サイドと、星五郎の存在がほとんど繋がってこないのが、実に残念に感じられるのです(一応、伊右衛門が主家から奪った三千両を、星五郎に横取りされている=伊右衛門の困窮とお岩さんの惨劇に繋がってはくるのですが…)。

 本作の最後の場面は、赤穂浪士が首尾良く本懐を遂げた後に、明神ヶ岳に籠もった星五郎と、判官の霊から妖術封じの宝の矢を与えられた定九郎が死闘を繰り広げるという非常に伝奇テイスト溢れる内容で、本水を使った殺陣も楽しいのですが、しかしこれとて、「四谷怪談」と「忠臣蔵」が二重のクライマックスを迎えた討ち入りの後だけに、非常に厳しい言い方をすれば、物語的には蛇足という印象があります。

 史実から「忠臣蔵」へ、「忠臣蔵」から「四谷怪談」へ、「四谷怪談」から本作へ…という複雑な経緯・構造を考えると実に興味深い作品でありますが、しかし「忠臣蔵」と「四谷怪談」に存在したような明確な対比・対置の関係が、本作でははっきりと見えてこないのが実に残念であります。
 星五郎と定九郎――本来は同一の存在(しかも「忠臣蔵」では悪人とされた定九郎が、「菊宴月白浪」では実は善人なのだから実にややこしくて面白い)が、二つに分かれて相争う中に、これも裏表の物語である「四谷怪談」と「忠臣蔵」が挟まれるという構造は、色々と象徴的ではあるのですが、これが効果を挙げていたかといえば…ううん、実に勿体ない。

 本作の売りには、現在では上演時に常にオミットされる「四谷怪談」の「深川三角屋敷」と「忠臣蔵」の「十段目天川屋」と、この二つが復活していることがあります。
 しかし、これも希少価値以上のものであるかと言えば首を傾げるところで――本作では主役の一人とも言える直助権兵衛の最期を描く前者は格別、後者は内容的にも微妙なだけに――この時間をほかの場面に当てていれば、というのはこれはないものねだりかもしれませんが、そういう感想も浮かんでくると言うのが正直なところです。


 何だかずいぶんとネガティブな感想になってしまいましたが、前半に述べたように、決して全面的につまらない舞台というわけでは、もちろんありません。
 歌舞伎の伝奇性というものの中で、「忠臣蔵」という物語の構造を、新たな角度から見せてくれたかもしれない作品だけに、構成の難が実に勿体ないと…そう感じられた次第です。

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