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2010.04.01

「陰陽ノ京」巻ノ五 命を隔てるものと陰陽の道

 安倍晴明が留守の間に、天狗を引き連れた盗賊団が京を襲った。愛宕山の天狗とともに盗賊団を追う保胤だが、その間に盗賊団は安倍邸を襲い、晴明の妻・梨花と息子の吉昌、そして時継がさらわれてしまう。盗賊団を操る謎の外法師・鶴楽斎とと対峙する時継だが、その時思いも寄らぬことが…

 第四巻から約三年ぶりに刊行された「陰陽ノ京」シリーズ第五巻は――これまでの巻がそうであったように――また実にユニークな内容の作品。
 妖と化し、奇怪な術を操る外法師との対決を描きつつも、単なる術合戦には決して終わらず、意外な方向に物語は展開していきます。

 旅の外法師に封じられていた謎の妖…それは、鶴楽斎を名乗る元・人間の外法師。己の体を捨て、妖と化した鶴楽斎は、封印が解けたのを機に、はぐれ天狗と盗賊の一団を配下に収め、行動を開始します。
 その目的は、強き力を持つ陰陽師――安倍晴明の体を奪うこと。
 一種の精神生命体と化した鶴楽斎は、更なる力を振るうために、肉体を必要としていたのであります。

 ここで鶴楽斎と、主人公・慶滋保胤をはじめとする陰陽師たちの死闘が…始まりそうに見えて、ちょっとかわしてくるのが何とも面白い。
 鶴楽斎に捕らえられた晴明の妻・梨花のあまりにも意外な側面が飛び出したことから、とんでもない事態が発生してしまうのですが…
(この辺り、梨花のベタなキャラクターから、一転思いも寄らぬ状況にスイッチしてみせるのは見事)


 その詳細は措くとして、この騒動を通じて描かれていくのは、しかし、全く意外なテーマ――「生命とは何か」「生きるとは何か」という問いかけであります。

 騒動の中心たる鶴楽斎は、上で述べたように、かつては人間でありながら――つまり、生ある者でありながら――その生を捨て、妖となった存在。
 己の意識はある。自律性はある。しかし、彼は「生きて」はいない(かといって死んでいるわけでもない)。

 そして彼と対照的なのが、本作で初登場の晴明の息子・吉昌であります。
 ある事情から己の意志を表せず、自分に閉じこもったままの吉昌は、自分で動くこともままならず、また動こうともしません。しかし、彼は「生きて」いるのです。

 果たして彼らを明確に隔てるものは何なのか――その答えを示してくれるのは、生きるもの、生命を産み出す力を持つ女性たち。
 陰陽の力を持たぬ彼女たちがこの事件を解決するというのは、一見皮肉なことかもしれません。
 しかし本シリーズが、陰陽道を通じて自然を、人間というものを描いてきたことを考えれば、これはこれで、一種当然の帰結なのかもしれません。

 最後は母の愛というものに物語が収斂するあたり、作者の家庭環境の変化を想像してしまう…というのはこれは邪推ですが、しかしいかにもこのシリーズらしい、優しい結末であったと思います。

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