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2010.05.25

「紀文大尽舞」 物語ることの意味と力

 一代で莫大な富を築きながらも没落した紀伊国屋文左衛門。戯作者志望のお夢は、その半生を題材とするため彼につきまとうが、何者かに殺されかけたところを謎の侍・倉地に救われる。倉地とともに紀文の謎を追い始めたお夢が、大奥にまで潜入して掴んだものは、将軍継承にまつわる恐るべき秘密だった。

 米村作品と言えば、明るくどこか呑気な女性主人公が、持ち前の好奇心から事件に首を突っ込み、陰で進められていた陰謀を痛快に打ち砕く、というパターンが真っ先に思い浮かびます。

 本作「紀文大尽舞」も、一見はその路線の作品として映ります。
 戯作者となるという夢目指して一直線の主人公が、紀文の半生を追ううちに、彼が目論む巨大な陰謀の正体に気付き、仲間とともにそれに挑む…というのはやはりいつもの米村節、と感じられます。

 …が、そういった先入観は、途中で完璧に打ち砕かれることになるのが本作の恐ろしいところであります。
 本作の中盤、お夢の命懸けの活躍で、紀文の陰謀がほぼ明らかになったと思われた後に物語中で起きる事件――存外人があっさり死ぬ米村作品でも類を見ないほどの大殺戮の果てに我々が否応なしに気付かされるのは、本作が、単純な善悪の争いを描いたものではない、ということであります。

 これは文庫の帯にも記されていることですので、ここで書いても良いかと思いますが、本作の中心となるのは、徳川将軍位の継承争い。幕府の、日本の頂点である将軍の座を巡る暗闘が、本作では描かれることとなります。
 時あたかも六代家宣から七代家継を経て、八代吉宗へと将軍の座が転々としていく時期。お夢が首を突っ込んだのは、まさにこの将軍継承の舞台裏。
 そしてそこで展開されるのが、綺麗事ばかりではない――いや、汚れ事ばかりであることは、考えるまでもないでしょう。

 そんな本作は、実のところ、その他の米村作品のような時代活劇、時代伝奇小説というよりは、むしろ時代伝奇推理…いやむしろ、社会派時代推理小説と言っても良いやに感じられるのです。


 しかし、本作がユニークなのは、その点のみではありません。
 本作の主人公であるお夢を、戯作者、今で言えば小説家志望に設定することにより、本作は、物語ることの意味と力を描くのです。

 本作において幕府を揺るがす大陰謀、歴史の闇を暴く役割を果たすお夢は、しかし、決してスーパーヒロインではありません。
 家柄が良いわけでも武術体術に秀でたわけでもなく、更に言ってしまえばそんなに美人でもなく…そんな彼女が、個人が抱えるには巨大すぎる秘密を知ってしまった後に、いかにして自らの身を守るのか?

 …と、それは本作の後半の主題の一つでもあるので詳細は述べませんが、ここでお夢が生き残りのための武器とするのは、物語ることの力であり――そしてそれが見事に彼女が事件に巻き込まれるきっかけとなった紀文の半生記と結びついて描かれる様には、ただ感心するほかありません。

 もちろん、いかなる力も、それに溺れる危険性と表裏一体。
 それは、将軍の権力という力に溺れた権力亡者たちの姿に、何よりもよく表れてはいますが、しかし、物語ることの力もまた、使い方を誤れば容易に人を傷つけ、害する手段となる…

 そんな点も含めて、本作には、自身の生業に向けた、米村先生自身の視線も感じられるのが実に興味深く感じます。


 一筋縄ではいかない作品ばかりの米村ワールド…その中でも屈指の曲者であり、そして屈指の重みを持つ作品であります。

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