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2010.05.19

「白狐魔記 天草の霧」 無理解と不寛容という名の霧

 数百年ぶりに帰ってきた白駒山の仙人の命で、南蛮堂煙之丞という人間の弟子を取ることになった白狐魔丸。九州に旅に出た煙之丞を追った白狐魔丸は、そこでキリシタンの農民たちが、苛政に耐えかねて蜂起するのを目撃する。彼らを指揮するのは、不思議な力を持つ少年・天草四郎時貞だった…

 数百年にわたり人の営みを見つめ続ける狐・白狐魔丸を主人公とした「白狐魔記」の久々の新刊であります。
 今回の舞台となるのは、信長の姿を描いた前作から約五十年後、江戸時代の初期。人と人との戦い、殺し合いを目撃してきた白狐魔丸が今回立ち会うこととなるのは、題名からわかるように、島原の乱であります。

 かつて、長島の一向一揆を間近で見た経験を持つ白狐魔丸。一向一揆と島原の乱はその基盤に宗教があるという共通点がありますが、しかし本作において白狐魔丸の目に映った島原の乱は、かつての一向一揆とは些か異なるものとして描かれます。

 島原の乱勃発の原因…それは単なるキリシタン弾圧のみではなく、領主の松倉勝家の苛政、つまりは年貢の限度を超えた収奪という点――そしてその苛政の根拠としてキリシタン弾圧があったわけですが――にもありました。
 つまり、一見、キリスト教の教えの下に一枚岩となっていたようにも見える一揆軍ですが、しかしその実、参加した者全てがキリシタンではなかったという点で、島原の乱は一向一揆と異なっていることになります。

 この点において、白狐魔丸は、一揆軍とも幕府軍とも異なる立場で、乱に参加することとなります。
 戦を生業とする者や、信仰に殉じる覚悟の者は良い。しかし、苛政に苦しみ、やむなく一揆に加わった者は救いたい…その想いから、白狐魔丸は、一揆軍が立て籠もった原城から、戦う気力を失った者を逃がすべく、密かに行動することになるのでした。

 そしてその中で彼が出会ったのが、この一揆の中心人物――言うまでもなく天草四郎時貞。
 本作における天草四郎は、トリックやまやかしなどでなく、真に超常的な力を持つ存在。その力たるや、結界を張って幕府軍の砲弾を受け止めるほどなのですから凄まじい。
 しかし、この天草四郎が真にユニーク(という言葉が適切かわかりませんが)なのは、彼がまさに信仰的なレベルで、自らを神の子だと信じ込んでいる点でしょう。
 白狐魔丸は、作中で幾度かこの四郎と出会い、言葉を交わすこととなります。これまでの作品と同様、何故人間は同族同士殺し合うのか、その答えを知るために――

 とはいえ、自らを堅く神と、神の子と信じる四郎のメンタリティは、狐の白狐魔丸にとっては――いや、我々にとっても――不可解なもの。しかしそれこそが、白狐魔丸が知りたがっていた答えの一つなのかもしれません。人が戦う理由には、間違いなく互いへの無理解と不寛容があるのですから…
 本作の題名となっている「天草の霧」とは、四郎が現れ消える時に霧をまとう点から取っているものと思われますが、その霧は、なかなかその中を窺い知ることのできぬ四郎の、ひいては人間の心の有り様をも示しているのでしょう。

 と、そんな人間の複雑怪奇さに比べれば、やはり狐の心はわかりやすいかもしれません。今回も登場するレギュラーキャラクターであり、白狐魔丸同様、不思議な力を持つ狐・雅姫を見ているとそう感じさせられます。
 かつて北条時輔を愛し、彼を思わせる平家顔の男に弱い雅姫が今回愛したのは、板倉重昌(!)。重昌と言えば、島原の乱の当初、幕府の上使として派遣されながらも戦果を挙げられず、新たな上使として松平伊豆守が派遣されたことを知り、原城に無謀な攻撃を仕掛けて戦死した人物として、あまり良いイメージで描かれないことが多い人物ですが、雅姫にとっては四郎は重昌の仇。

 物語の後半は、雅姫の復讐に巻き込まれる人を減らすべく、白狐魔丸は奔走することとなります。
(ちなみに本シリーズは児童文学なのですが、この雅姫の言動には妙に「女」を感じさせる生々しさがあって実に面白いのです)

 そんなこともあって後半は――特にラストは――雅姫がちょっと前面に出過ぎた感はありますが、しかし、安直に事の理非や善悪を定めず、こちらの判断に任せる本シリーズの作風は本作も健在で、これまで以上に複雑怪奇な人の心というものを、白狐魔丸と共に垣間見させていただきました。


 さて、次回作のタイトルは「元禄の雪」…とくれば、もちろんあの事件が題材なのでしょう。人間の間でも(?)解釈の分かれるだけに、白狐魔丸の目にあの事件がどのように映るのか、今から楽しみです。

「白狐魔記 天草の霧」(斉藤洋 偕成社)


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