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2010.06.09

「謎斬り右近」 秘宝争奪戦という王道の中で

 豊臣家滅亡から十年後、天海僧正は配下の山王御供衆を動かし、謎の「豊国神宝」を求めていた。その争いに巻き込まれ、愛する人を奪われた木下右近は、己の剣のみを頼りに、豊国神宝を求めて旅立つ。天海、家光、忠長、政宗、武蔵…権力に憑かれた者たちとの戦いの果て、右近が知った神宝の正体は。

 「火の児の剣」「裏切り涼山」など、ここ数年イキの良い時代小説を次々と発表している中路啓太氏の新作は、時代伝奇小説の王道を往く作品。
 江戸時代初期を舞台に、豊臣家が残したと、幕府を転覆させるほどの力を持つという「豊国神宝」を巡る争奪戦の中で孤剣を振るう青年・右近の姿が描かれます。

 豊臣家を滅ぼし、天下を掌中に収めた徳川家――しかし、神君家康亡き後は、三代将軍家光が、大御所・秀忠と、そして弟・忠長と内輪で激しい権力争いを演じ、さらに、伊達政宗も未だ天下を窺って暗躍する有り様。そんな中、天下の趨勢を決定づけると伝えられる、豊臣家が残したという在処も姿もわからない謎の神宝の存在が明らかとなります。

 秀吉の正室である高台院の甥・木下延俊の子である右近は、師がこの争いに巻き込まれて命を落とし、さらに愛する娘・豪が何者かにさらわれたことから、自らを修羅の道に置き、この神宝の謎を求めて戦うことになります。
 彼の前に立ちふさがるのは、将軍家指南役の座に釣られ、天海の走狗となった宮本武蔵。さらに柳生宗矩や木村助九郎なども顔を見せ、三つ巴、四つ巴の暗闘が繰り広げられる中、右近の戦いは、幕府はおろか朝廷を巻き込んで繰り広げられることになります。。
(ちなみに、右近の後見的立場として、武蔵の父・新免無二斎が登場するのも面白い)


 …が、そんな本作が無条件に面白いかと言えば――まことに残念ながら――私個人としては、首を傾げざるを得ません。
 本作を手に取ってから、読み終えるまで、実のところ、隔靴掻痒の想いがずっとつきまとっておりました。

 その理由は幾つかあるように思いますが、その最大のものは、主人公たる右近のキャラクターに魅力が乏しいことでしょう。

 突然神宝を巡る争いに巻き込まれ、親しい者・愛する者を奪われた彼が、血気に逸るのはよくわかる、むしろ当然ではあります。
 しかし、そんな悲しみを味わい、そして敵とはいえ人の命を奪うことの重みから、彼が何を得て、そしてそこから彼がどのように成長したかというものが、あまり感じられないのです。
(修羅の道を行く、という彼の決意も、むしろ短慮の表れに見えてしまうのが何とも)

 本作で右近の敵として登場するのは、権力の座を巡り、他人の命を踏みつけにして醜い争いを繰り広げる者たち。右近は、おそらくはその対極として存在すべきキャラクターであるはずなのですが…

 もちろん、時代伝奇小説においては、主人公のキャラクターがある程度薄くても成立する作品もあります。
 しかし、本作をご覧になった方であればよくおわかりかと思いますが、本作の秘宝争奪戦の中で、彼の存在は、単に主人公である以上に重いもの。
 そこが明確に描かれていなければ、本作の中心がぼやけてしまうのではないでしょうか。


 非常に厳しいことを書いてしまいましたが、神宝の正体と、それが徳川幕府、そして天海にとって持つ意味など、非常に面白かっただけに――そして、何よりも作者の力に期待しているからこそ、敢えてここに記す次第です。

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謎斬り右近

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