「御隠居忍法 魔物」 御隠居、魔剣の怪を見届ける
城下の〆張八幡社の十二年に一度の奉納試合の立会人を務めることとなった鹿間狸斎。しかし、前回対戦相手を殺した斎木源助が今回も出場することから、不穏の気配が漂う。果たして今回も死人が出た上、源助は他道場主の後妻を連れて出奔。狸斎は、源助を追って彼の故郷である山中の十里村に向かうが…
奥州の片田舎・五合枡村に隠居する元伊賀者・鹿間狸斎の活躍を描く「御隠居忍法」シリーズの最新巻、第七弾であります。
つい先日、前作に当たる「恨み半蔵」が文庫化されましたが、今回はまた趣向の異なる物語が展開されます。
狸斎の隠居する藩の城下で、十二年に一度行われる奉納試合――三つの剣術道場が代表を送り込むその試合は、毎回死人が出ることから、「十三回忌」などと陰口を叩かれる代物。
前回は二人の選手が殺されたというその試合の立会人を引き受けることになった狸斎ですが、当然にというべきか、再び引き起こされた惨劇と、それに引き続く騒動に、狸斎は巻き込まれることになります。
騒動の中心となるのは、前回も対戦相手を死に至らしめた斎木源助なる剣士。「空飛ぶ剣」なる太刀を操る源助は、今回も対戦相手を死に至らしめた上、ライバル道場の年若い後添えを連れて出奔、狸斎は町奉行の依頼で事件を収めるために、彼の後を追うことになります。
しかし、事件は三つの道場の確執が絡むもの、源助に親族を殺された剣士たちは仇討ちに逸る上、源助が所属していた道場まで、何故か彼を狙うことに。
さらに、源助が逃げた先は、周囲の村から魔所と恐れられる、謎深き十里村…村人は、通常の言葉すらしゃべらず、しかも奇怪な術までも操るという、まさに魔所であります。
…と、いかにも御隠居が活躍するにふさわしい舞台が揃った本作なのですが、実は御隠居自身の活躍は意外と少な目。奉納試合でそうだったように、むしろ立会人的立場から、事件の一部始終を見届けることとなります。
ストーリーも比較的シンプルなものではあるのですが、しかしそれでも最後までこちらの気を逸らさず、きっちりと楽しませてくれるのはさすがと言うべきでしょうか。
終盤の展開など、このシチュエーションならこうなるだろうと当初予想していたものを覆しつつも、しかし、冒頭で軽く触れられたのみだったある事実が、大きな意味を持って立ち上がってくるという構成の妙が面白く、ベテランの技というものを感じさせられた次第です。
毎回手を変え品を変え、こちらを楽しませてくれる本シリーズ。
隠居した方がかえって忙しいのではと、いささか同情したくもなりますが、しかしまだまだ御隠居は意気軒昂、これからも楽しみなシリーズであることは間違いありません。
「御隠居忍法 魔物」(高橋義夫 中央公論新社) Amazon

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