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2010.06.23

「うろつき夜太」 柴錬&横尾、奇蹟のコラボレーション

 右足の裏に観世音菩薩、左足の裏にはキリスト磔刑図の刺青を持つ素浪人・夜太。莫連のお妻にそそのかされ、千両箱を強奪した夜太は、それをきっかけに幕末の動乱に巻き込まれていく。眠狂四郎、鼠小僧次郎吉、地獄人こと六木神三郎…様々な怪人傑物と出会いつつ、夜太の運命は意外な変転を見せる。

 柴錬作品数ある中で、最もブッ飛んだ作品、はっちゃけた作品は何かと問われれば、私は――いや、ファンの大半も同様ではないかと思いますが――この作品の名を挙げます。
 上に記したあらすじこそ、通常の時代小説していますが、しかし、これはあくまでも基本設定。
 ここからほとんど文字通りのライブ感覚で描かれた波瀾万丈に過ぎる作品内外の展開が、本作の真骨頂であります。

 当時かなりのスランプだった柴錬先生が、あの横尾忠則とがっぷり四つに組んで執筆された本作、一年間高輪プリンスホテルで共同生活を送るという破格の条件で連載開始にこぎつけたということなのですが…

 何となく予感できるように、やはりそこで展開されたのは波瀾万丈の綱渡り。時事ネタパロディは序の口、眠狂四郎も飛び出して夜太そっちのけで活躍すれば、夜太はあっしが主人公なのにと柴錬先生に文句を言い…
 そのうちに、何故か柴錬先生の海外でのギャンブル経験のお話になったりと、虚実(虚虚?)入り乱れて、物語は展開します。

 そしてそんな中でも屈指の超展開は、ついに書けなくなった柴錬先生が、延々と書けない理由を書いた上に、イラストの横尾忠則に丸投げする回で…
 「読者諸君!」で始まるこの書けない理由の告白は、後に朝松健の「その後の私闘学園」でもパロディにされていましたが、まあとにかく、それだけ印象に残る、柴錬史上に残る怪エピソードであるかと思います。
(このエピソード、竹熊健太郎氏のブログで紹介されているので、ご覧になった方も多いかもしれません)


 このように、良く言えばライブ感覚溢れる、悪く言えば行き当たりばったりの面が多い本作ではありますが、もちろんそれだけでは終わらないのが柴錬先生の柴錬先生たるゆえん。
 江戸時代後期世界を舞台に、八方破れの活躍を見せた夜太が最後に現れたのは、なんとフランス革命当時のパリ!

 波瀾万丈にもほどがあるというべきか、革命の嵐吹き荒れるパリを舞台とした夜太最後の大暴れの末に迎えるのは――しかし、何とも言えぬ哀切さすら感じさせる結末。
 これも勢いに任せた果てかもしれません(というか柴錬先生ご自身がそう言っている)が、しかしこの「うろつき夜太」という作品、そして魂の自由人たる柴錬主人公にはまことにふさわしい、実に味わい深い結末であります。


 と、私が書こう書こうと思いつつ書けないでいた本作の感想をついに書くことができたのは、本作の単行本を手に入れることができたからであります。

 集英社文庫版では横尾画伯のイラストは削除されておりますが、これがいかに不完全なものであるか、雑誌連載時に近い形で刊行された単行本を見れば、一目瞭然。
 私は先に、集英社文庫版で本作を読んだのですが、その時に感じたライブ感が、実は全く序の口であったことを、つくづくと思い知りました。

 単にイラストのみならず、横尾先生お得意のコラージュを多用したページ構成まで含めて――全てが、本文の爆発力を何倍にも高めるために機能している、というよりも、相乗効果で大変なことになっているというのが正直なところ。もはやロックというよりパンクの域に達している、としか言いようがありません。
(このイラストは、別途「絵草紙 うろつき夜太」として集英社文庫で刊行されていますが、小説の方と合わせたからと言って、元の味わいが戻るとは言い難く…)

 今まで、「面白いんだけど…」だった本作を、「とんでもなく面白い!」という評価に変えたのは、この相乗効果あってこそ。
 今ごろ気付くのもお恥ずかしいお話ですが、この奇蹟のコラボレーションに出会えたことを感謝する次第です。

「うろつき夜太」(柴田錬三郎&横尾忠則 集英社) Amazon

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