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2010.06.06

「新・水滸伝」 再生の場としての梁山泊

 日頃水滸伝ファンを喧伝しておきながら、どうにも悔しかったのは、二年前に上演された二十一世紀歌舞伎組の「新・水滸伝」を見逃していたことでした。
 が、嬉しいことに今月五日、NHKBSでこの「新・水滸伝」が放映されました。もちろんこの機を逃さず見たのですが、これが意外かつ納得の切り口のユニークな舞台で、大いに嬉しくなった次第です。

 本作の舞台となるのは、原典(七十回)の中盤あたりの独竜岡戦。官軍と結び、梁山泊壊滅を目論む独竜岡の祝家と、林冲をはじめとする梁山泊の好漢の戦いが描かれるのですが、本作の主人公・林冲のキャラクターが非常に面白いのです。

 林冲は、原典でも初期から登場する好漢であり、また禁軍師範から山賊へと過酷な運命の変転に巻き込まれるという、ドラマチックな半生から、様々な水滸伝で主人公(格)として描かれるキャラクターであり、それ自体は珍しいことではありません。
 しかし、本作では、この林冲が当初、酒浸りで、かつ梁山泊に全く馴染めない人物として描かれているのです。
 晁蓋により梁山泊に迎えられながらも、周囲の好漢をならず者と見下し、そしてそんな中にいる自分の運命を受け入れられず酒に逃げる…これまでの「悲運の英雄」というイメージをひっくり返すようなキャラ立てなのです。

 しかし一見突飛に見えるこの設定も、林冲が高キュウにより無実の罪を着せられ、潔白を証明しようとするも果たせず、生きるために罪のない者を手にかけるまで追いつめられた(そしてそれを嘆いた妻が自ら命を絶ったと知らされた)という背景事情を知れば、それなりに納得がいきます。
 原典の林冲は、親友に裏切られた途端に山賊化して百姓の酒を奪ったりしますが、本作はその唐突な変化の途中をピックアップして、丹念に描いて見せたといえなくもありません。

 この林冲が再び戦う意志を取り戻し、そして梁山泊の好漢たちも彼を仲間として受け入れていく、いわば林冲が梁山泊で再生していく様が本作のテーマと言えるでしょう。

 そしてその一方で、もう一人、再生を遂げるキャラクターが存在します。それは青華、原典の扈三娘です。

 天性の美貌、海棠の花の如しと謳われつつも、戦場では日月両刀を手にして活躍する彼女は、水滸伝ものではほとんど必ず登場するヒロイン格ですが、本作では、彼女が何故武器を手にしたか、という掘り下げが実に面白い。

 良家の子女として生まれつつも、ある理由から纏足を施されなかったがために、己の婚約者をはじめとする周囲から真っ当な女性と認められず、その孤独を癒すために、戦士として振る舞うことで己の心を鎧った…
 考証として正しいのかはわかりませんが、青華の戦う理由の遠因として纏足を持ってきたのは、非常に(ドラマ的な意味で)説得力がありますし、また、私の知る限り他に類似のない独創的な設定ではないでしょうか。

 そして、原典では、納得いかない展開の上位に入る王英との結婚も、青華を一個の人間として認め、一人の女性として真っ正面から受け入れる王英の姿を描くことで、感動的なものに再構築してみせたのにも、また感心。
 生真面目女戦士キャラから、ほんの少しずつ自分らしさを見せていく青華がえらく可愛らしかったこともあり、扈三娘史上に残るアレンジ…と言っても良いのではないでしょうか。
 扈三娘という、冷静に考えれば個性の欠片もない名前ではなく、青華という名前がつけられているのも、彼女を一個の人間として描くためなのではないでしょうか。


 …と、キャラクター面では非常に魅力的な本作なのですが、独竜岡との合戦が二幕早々に終わってしまい、以降は林冲(と青華)が立ち直る姿が延々と描かれるという構成面は、首を傾げざるを得ません。
 終盤の、本作のテーマらしきものを台詞として全て喋ってしまう林冲も含めて、歌舞伎、あるいは舞台エンターテイメントとして見た場合には、どうかな…と、正直なところ感じます。

 しかし、人がかつての自分の殻を脱ぎ捨て、より自分らしく再生していく――そんな場としての梁山泊、物語としての水滸伝を提示して見せたのには、水滸伝ファンとしては大いに満足できたことであります。

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