「幇間探偵しゃろく」第1巻 向島の名探偵登場
向島の幇間・舎六は、大酒飲みで、気に入らない客を客とも思わず怒鳴りつける問題児。しかしそんな舎六には、隠れた推理の才能があった。贔屓筋の和田宗の若旦那を巻き込んで、舎六は様々な事件を解き明かしていく。
伝奇ものではありませんが、たまにはこういう作品もよいでしょう。
「ふしぎ道士伝 八卦の空」の青木朋が作画担当ということで期待していた人情推理「幇間探偵しゃろく」の単行本第一巻でます。
タイトルロールの舎六は、幇間という稼業でありながら、大の酒好きで皮肉屋、短気な男。野暮な客を怒鳴りつけることもしばしばという鼻つまみ者ですが、こと推理力においては天才的な男です。
そんな舎六にまとわりつかれているのが、人は良いが頼りない、日本橋の大商店「和田宗」の次男坊・宗次郎。
というわけで、本作では「舎六(しゃろく)」と「和田宗(わだそう)」、シャーロック・ホームズとワトスンをもじったこのコンビが昭和初期の向島を舞台に活躍することになります。
「桜」「風鈴」「葛」「落鰻」「春芝居」「川開き」「夏畳」と、この第一巻に収録されたているエピソードは、タイトルを見ているだけで気分が良くなるようなものばかり。
舎六が挑む事件も、殺人事件などの明らかな犯罪もありますが、事件に至らないような人の心の綾を扱ったものも多く、まずは人情推理ものといったところでしょう。
そのため(?)お話的には甘々の内容も多いのですが、そこに舎六のちょっと毒のあるキャラクターが絡んで、ちょうどよい味つけ。
さらに、何故か舎六は表に出ず、若旦那を名探偵に仕立て上げて、周囲に事件の真相を語らせるという変化球ぶりが楽しいのです。
(もっとも、その後、若旦那は舎六に一杯飲ませる羽目になるのですが…)
さて、そんな本作で見落としてはならないのは、本作の設定年代が昭和初期ということでしょう。
岡本綺堂先生の随筆などでも語られていることですが、古い東京は、関東大震災によって消え去ったといいます。
本作で描かれる昭和初期は、それから数年後…大震災から見かけ上はほぼ復興したものの、しかしそれ以前とは全く同じではない――そしてそれからわずか後には暗い時代へと傾斜を強めていく――そんな時代に、舎六たちは生きています。
そんな時代の有り様は、必ずしも作中で明確に描かれているわけではありませんが、しかし、古きものと新しきものの間、昼と夜の間の夕暮れの時代の空気というものがどこかしら感じられるというのは、さほど穿った見方ではないのでは…と感じる次第です。
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