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2010.07.31

「一鬼夜行」 おかしな二人の絆が語るもの

 ある晩、小道具屋の若主人・喜蔵の前に落ちてきた小生意気な少年・小春は、百鬼夜行からはぐれたという自称大妖怪だった…が、妖怪も震え上がるほどの強面の喜蔵は、小春のことを恐れようともしない。成り行きからおかしな共同生活を始めた二人の周囲には妖怪がらみの事件ばかりが起こるのだが…

 全くノーマークのところから、思わぬ良作が飛び出してくるというのは、書店巡りの楽しみの一つですが、本作「一鬼夜行」も、主人公の一人・小春のように、突然目の前に転がり込んできたような嬉しい驚きでした。
 明治初頭の江戸…いや東京を舞台に、おかしな妖怪とおかしな人間が繰り広げる一種のバディものであります。

 タイトルにある「一鬼」である小春は、百鬼夜行から東京に落ちてきたという、ちょっとドジな妖怪。
 頭に小さな角があるほかは、人間の男の子と見分けがつかない小春ですが、しかしその実、そんじょそこらの妖怪など文字通り歯牙にかけない大妖怪、なのですが…

 しかし、その小春が転がり込んだ先である小道具屋の主人・喜蔵は、大妖怪もビビるほどの超コワモテで無愛想でおまけに人嫌い。
 小春や、店の小道具が変じた付喪神たちに驚きもせず、それどころか働かざる者食うべからずと、小春をこき使う始末です。

 …と、普通、バディものであれば、読者とより近いサイドに立つキャラの方に感情移入できるように描くものですが、本作はその逆なのが面白い。
 妖怪のくせに妙にお人好しでお調子者で大飯くらいの小春の方が、ほとんど表情を変えようともせず感情の動きも少ない喜蔵の方より、よほど人間的に見えてしまうのですから…

 本作は、そんなおかしな凸凹コンビが、周囲で起きる妖怪絡みの騒動を(嫌々ながら)協力して解決していく姿が描かれます。
 妖怪を妖怪とも思わない(?)喜蔵が、小春を適当にあしらい、小春がその喜蔵にムキになってつっかかり…その様を見ているだけでもおなか一杯になりそうな、キャラクターものとして見ても実に楽しい作品なのであります。


 しかしもちろん、表面に現れたもののみが、その人物のキャラクターを示すわけではありません。
 おかしな共同生活を続け、そして事件を解決していく中で、二人は、お互いの中に、外から見ただけではわからない複雑で繊細な中身を抱えていることに気づきます。

 無愛想…というより人付き合いを拒否してきた喜蔵には、自分の両親や親戚、そして親友から裏切られたという過去の心の傷がありました。
 他人を、他者を信じず、拒否していれば、自分が傷つくことはない…本来はむしろ人に優しい性格であるにもかかわらず、喜蔵は己の殻に閉じこもってきたのです。

 一方の小春は、悩みなどなさそうな脳天気な態度で暮らし、人間の生活(特に食生活)に馴染みながらも、心の底では、百鬼夜行に、仲間たちの元に戻りたいという想いを捨てきれずにいます。

 共同生活を、事件解決を通じ、二人の絆が強まるほど、自分の抱えた孤独を強く感じるようになる…それは一見皮肉なことではありますが、しかしそれも互いが出会ってこそ。そして、その孤独を乗り越えることができるのも、その絆あってこそなのです。

 人は(もちろん妖怪も!)、他者と触れあってこそ成長することができる――そんな当たり前の、しかし大切なことを、本作は軽妙なバディものの形式の中で、力強く語ってくれます。


 終盤の展開がちょっと弱いこと(一種の叙述トリック的演出は面白いのですが)、そして明治初頭という背景を十全に生かしたとは言い難いことなど、残念な部分もあるにはあるのですが、おかしな二人の友情物語としては、小さな瑕瑾でしょう。

 本作は、現代を舞台とした番外編が現在連載されているとのこと。こちらもやはり、大いに気になっているところです。

「一鬼夜行」(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
一鬼夜行 (ポプラ文庫ピュアフル)

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2010.07.30

「幕末めだか組」第3巻 めだか組最大のライバル?

 幕末の一時期、神戸に存在した海軍操練所を舞台とした時代漫画「幕末めだか組」の第三巻が刊行されました。
 勝海舟のきまぐれで生まれた癸組…通称「めだか組」に集った、いずれも一癖ある面々の青春群像劇であります。

 幕臣・藩士入り交じり(しかも女性まで混じって!)、一見協調性などまるでなさそうなめだか組も、数々の事件を乗り越えて少しずつ――本当に少しずつですが――結束を強めてきた様子。この第三巻からは、旧式の帆船とはいえ、乗る船を得て、実地訓練が始まります。

 さて、ここで四話収録されているうち、前半の二話は、これまでに引き続き、めだか組の個々のメンバーにスポットライトを当てて、物語が展開されます。

 一話目は、女性である蘭丸が、自分と同じ組なのに反発する秀才だが保守的な佐賀藩士のエピソード、そして二話目は、元・新撰組隊士である柳にまつわるエピソード。
 この一話目は、正直なところベタなお話ではあるのですが、海軍操練所が不逞浪士の巣と睨んだ斎藤一が、柳を動かして操練所の名簿を奪おうとする二話目はなかなか面白い。
 かつて己が属した新撰組のやり方に絶望して隊を抜け、隠れ場所として操練所に入った柳が、果たしてめだか組を裏切るのか――
 こちらも展開自体は予想通りなのですが、柳がめだか組を己の居場所として認め、そのために命を賭ける姿は、なかなかに感動的です。

 一方、後半二話からは、物語が大きく動き始めます。
 操練所周辺で頻発する辻斬りと、勝の周囲を窺う不穏な影…操練所を巻き込んで進行する水戸脱藩の浪士一味の陰謀に、操練所が、めだか組が巻き込まれていくことになります。

 その陰謀の正体は、この巻ではまだ明らかにはなっていませんが、操練所の船を浪士たちが狙っているところを見れば、実行されれば多くの血が流されるものであることは間違いありますまい。
 その陰謀にめだか組がどのように立ち向かうことになるのか――その伏線らしきものは、実はこの巻でも見えているのですが、仮に私の予想通りであれば、大いに盛り上がる展開となりそうであります。

 さて、最後になりますが、この第三巻では、あの人物が、ついに登場することになります。
 勝とともに第三巻の表紙を飾るその人物は、勝海舟の私塾から、海軍操練所とともに生まれた海軍塾の塾頭を勤めた人物。
 そう、才谷さ坂本竜馬、その人であります。

 本作では、ちょっと骨っぽい感じで描かれている竜馬ですが、めだか組の先輩格としての存在感は、やはりイメージ通りであります。
 いやむしろ、竜馬という大スターの存在感に、めだか組の面々が食われないよう…最大のライバルは、むしろこの人かもしれません。

 その辺りも含めて、これからの展開がやはり気になるのです。

「幕末めだか組」第3巻(神宮寺一&遠藤明範 講談社KCデラックス) Amazon
幕末めだか組(3) (KCデラックス)


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2010.07.29

「真田十勇士」第3巻 結集十勇士、そして…

 原作・柴田錬三郎、漫画・本宮ひろ志による漫画版「真田十勇士」もいよいよ後半戦に突入した第三巻。
 残る最後の十勇士・真田大助が登場し、ついに十勇士が勢揃い、そして幸村主従が大坂城入りします。

 第二巻後半で描かれたのは、八丈島に隠された豊臣秀吉の財宝を巡るエピソード。
 この巻の冒頭では、財宝を手にした幸村主従と、それを待ち受ける柳生但馬守率いる大艦隊との決戦が描かれ、冒頭からいきなりクライマックスであります。
(それにしても、専門外の艦隊戦までやらされる但馬守がかわいそう…)

 そのテンションもそこそこに、新たに展開するのは、幸村を狙う謎の忍びの影…その正体は、木曽大助こと真田大助幸綱! そう、幸村の子であります。
 父の幸村も、実は色々とよくわからない人物ですが、その子である大助は、それに輪をかけて来歴がよくわからない人物です。
 本作ではその大助を、かつて幸村を謀ってその情けを受けたくノ一が生んだと設定。父の情けを知らぬ大助は、暴走を繰り返し、十勇士と敵対するのですが――

 しかしここで、その大助に父の情けを教え、改心させるのが後藤又兵衛というのがうまい。
 又兵衛の一子を誘拐した大助は、又兵衛に旧主・黒田長政に手をついて詫びよと迫りますが…ここで又兵衛のとった行動は、無茶苦茶ながらも実に熱く、これぞまさに柴錬武士道というべきものでしょう。

 個人的に後藤又兵衛は大好きな武将なのですが、今回の扱いには満足であります。
(作中では特に語られませんが、又兵衛が浪人となった理由の一つが、長政の子への仕打ちにあったことを思えば、さらに胸に響くのです)

 さて、ついに揃った十勇士ですが、天下の情勢は、あくまでも豊臣方に不利。九度山を脱出し、大坂城に入った幸村も、大坂城に人なきことを痛感し――十勇士に豊臣秀頼の印象を聞かれて、「ブタだっ!」と切り捨てるシーンが凄まじい――ついにある決意を固めます。

 それは、十勇士たちによる家康暗殺――その一番手として、三好清海が立ち上がります。
 石川五右衛門の遺児として、かつて豊臣秀吉を病の床に就かせ、今またもう一人の天下人を狙う清海…その彼の死闘の行方についてはここでは述べませんが、その結末は、本作随一の名場面と言っても過言ではないでしょう。

 本作も残すところはあと一巻。十勇士たちの活躍を、最後まで見届けたいと思います。

「真田十勇士」第3巻(本宮ひろ志&柴田錬三郎 集英社文庫コミック版) Amazon


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2010.07.28

「夕ばえ作戦」第3巻 そして物語は異なる地平へ

 ジュヴナイル+時代活劇の名作「夕ばえ作戦」の漫画版第三巻が刊行されました。
 様々なアレンジを加えつつも、おおむね原作に沿った展開を見せてきた本作ですが、ここにきて物語は大きく異なる様相を見せ始め、果たしてどこに着地するのか、原作ファンにも読めなくなってきました。

 思わぬアクシデントから、風祭陽子とともに現代に戻ってしまった茂。しかし江戸時代には親友の明夫が、そして風魔に囚われの身の高尾先生が残っています。
 かくて、陽子を明夫の実家に預け、茂は再び江戸時代へ…

 という辺りからが第三巻の物語。ここでまず意外な展開を見せるのは、高尾先生と風魔小太郎の関係であります。
 小太郎の気まぐれで側に置かれることになった高尾先生、ここは先生という職業柄か、はたまた年の功(?)か、風魔の頭領として小太郎が内に抱えた孤独と悩みを見つめ、それを受け止めていきます。

 もちろん小太郎も風魔の頭領、そうそう己の中の弱さを認めようとしないのですが…似たもの兄妹ですね、実際。

 一方、高尾先生を何とか取り返そうとする明夫ですが、その言動と、そして何よりも小太郎とうり二つの顔立ちであったことから、次第に地虫兵衛たちの疑惑を招いていくことになります。
 そんな中で高尾先生奪還作戦は成功するのか、そして現代から戻ってくる茂は間に合うのか…


 と、本作は三人の現代人(さらに、現代に残された風祭陽子)それぞれの視点から、物語が展開していきます。

 現代と江戸時代をまたにかけた戦いという点は原作同様ですが、この漫画版ではそれに加え、物語の根幹に関係する大きな謎が設定されています。
 なぜ明夫と小太郎はうり二つの顔なのか(さらに、明夫の祖母と風祭陽子の面影がだぶって見えるのも偶然なのか)、そもそも何故時間の扉が明夫の家にあるのか…

 この謎に迫っていく上で、この巻で用いられたような、複数の目から物語を描いていくというのは有効かもしれません。

 が、その一方で、物語の中心となるべき人物が分散したことにより、個々の描写の掘り下げという点では、ぼやけてきたもの、薄れてきたものがあるという印象もあり(具体的には風祭陽子の出番が足りないとか)、厳しいことを言えば、現代っ子vs忍者の痛快バトルという原作の魅力をいささか損ねた、という印象は正直なところあります。


 さて、この巻の終盤では、それまで以上に原作とは大きく異なる地平に、本作は突入していくことになります。
 果たしてそれが、本作を原作と異なる結末に導いていくことになるのか。そして、そうであるとするならば、それはどんな結末となるのか…

 原作ファンも納得の、もう一つの結末を期待したいところです。具体的には風祭陽子○○ルート。

「夕ばえ作戦」第3巻(大野ツトム&光瀬龍&押井守 徳間書店リュウコミックス)


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2010.07.27

「若さま同心徳川竜之助 片手斬り」 恐るべき因縁の秘剣

 いよいよ風雲急を告げる「若さま同心徳川竜之助」シリーズ第十一巻であります。
 前作ラストで登場し、竜之助のライバル・柳生全九郎を打ち破った謎の剣の正体と、その驚くべき因縁がいよいよ描かれていくことになります。

 前々作ラストで左腕を失い、一時は生死の境を彷徨った竜之助。何とか回復し、前作では一種のベッドサイド・ディテクティブとなった彼も、本書では外の事件に挑むことが可能となりました。

 しかし手は繋がったものの、以前のような精妙な動きはとてもできず、風鳴の剣、そして飛燕十手も使えぬまま。
 もっとも、剣を振るうことを好まぬ竜之助自身は、影響をさほど感じていないようですが…しかし、周囲の状況はそれを許しません。

 本書でも、竜之助が出会う市井の怪事件・珍事件と、それと平行して、あるいは交錯して、葵新陰流を巡る暗闘が描かれていきます。その後者、いわば剣豪小説のパートでは、風鳴の剣、そしてそれと対になるもう一つの秘剣との因縁が、いよいよ語られることになります。

 今回、剣豪小説パートの中心となるのは、先代の風鳴の剣の継承者であり、竜之助の師である柳生清四郎と、意外や意外、かつて風鳴の剣との対決を望みながらついに果たせず、江戸を去った中村半次郎であります。
 それぞれの立場から秘剣の謎を追う二人が知ったのは、もう一つの秘剣・雷光の剣の存在と、それを伝えるのが、剣豪小説ではおなじみのあの家の者であるという事実。
 それ自体は、前作まででほぼ予想がついていたことではありますが、しかし、事実として語られると、いよいよここまで来たか…と、何やら胸に迫るものがあります。

 もっとも、そんな因縁は、竜之助にとっては、迷惑意外のなにものでもありません。
 いまや彼にとっては、剣を取って勝ち負けを決めること自体が無意味なこと。
 彼の望みは、作中での岡っ引きの文治が語る「負けたやつとか、しくじったやつ、うまく生きてこれなかったやつ」に、優しい眼差しを向け、共に生きていくことなのですから。
 さらに言えばこのスタンスは、彼に限らず風野作品の主人公全体に通じるものであり、それ故に、我々は彼らに好感と魅力を感じるのですが――

 閑話休題、そのためには、どれほど迷惑で、避けたいものであっても、彼を縛る因縁の糸を断ち切らなくてはなりません。
 本書のラストでは、ついに竜之助はその一歩を踏み出すのですが…さてその結末はどこに向かうことになるのか。

 そして、半次郎が見つけた絵巻物に記された、意外すぎるにもほどのある、二つの秘剣の因縁(伝奇的にはほとんど爆弾のようなインパクト! 読んだときには笑い転げました)がどのように絡んでいくのか、悔しいですが、今回も続きが気になって仕方ないのです。

「若さま同心徳川竜之助 片手斬り」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon
片手斬りー若さま同心徳川竜之助(11) (双葉文庫)


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2010.07.26

八犬伝特集その十一の二 「THE 八犬伝」 第二話「闇神楽」

 さて、色々な意味でなかなか感想の書きにくい「THE八犬伝」の第二話「闇神楽」であります。
 今回は、第一話以上に原作の流れに忠実に、物語が描かれることになるのですが…

 今回展開されるのは、本編の序盤、犬塚信乃の物語であります。

 早くに母を亡くし、父・番作の手で育てられた信乃。
 赤子の頃から共にいる犬の与四郎とともに成長した信乃ですが、叔父・蟇六夫婦は番作が持つ足利家の重宝・村雨丸を執拗に狙います。

 かつては許嫁だった蟇六の養女・浜路との仲も裂かれた上、与四郎が陣代の使者・網干左母二郎を襲ったと因縁をつけられ、その代償に村雨を奪われそうになったところで番作が切腹。
 己の命を以て信乃の身分と浜路との仲、そして村雨丸の帰属を保証させることになります。
 父を喪った信乃が、痛めつけられ瀕死の与四郎に止めを刺してやると、その傷口からは不思議な玉が…

 父の四十九日も過ぎ、いよいよ村雨丸を古河公方に献上するために旅立つ信乃ですが、その前に現れたのは左母二郎。
 意外な強さで信乃を瞬く間に追い詰めた左母二郎は、しかし、その命を奪うことなく、何故か去っていきます。
 しかし信乃の受難は終わりません。大塚家からの独立をエサに刺客に仕立て上げられていた額蔵は、渡し船の上で信乃に襲いかかるのですが、その時二人の袂からそれぞれ玉が転がり出て――


 と、すみません、最初にこのエピソードを見た時には、「今更原作をそのままやられても…」などと思ってしまったのですが、こうして整理してみると、原作の枝葉を整理して(例えば、信乃と額蔵が互いに玉を持つことを知るのは、原作では古河行きよりももっと早い段階です)、短い時間内にきっちり必要なエピソードを収めていることに、感心させられます。
 また、例えば額蔵が信乃に密かに嫉妬している描写があるなど、キャラクターも、原作の延長線上にありつつも、より肉付けしたものとして描かれているのも巧みなところ。

 こうして見てみると、本作のスタンスというのは、原作を、現代の技術で――矛盾点は解消し、不足は補いながらも――忠実に映像化する試みなのかな、という印象を受けます。
 かなり意外なことではありますが、(少なくともこの時点で)原作に忠実な映像化は、本作とあと幾つあるかどうか、という状況を考えれば、これは大きな意義があることでしょう。


 …が、それほど単純な構造でもない、と感じさせるのは、今回の物語の中で原作から半歩踏み出した感のある網干左母二郎の存在であります。
 原作では単なる色悪の浪人という印象ですが、本作では陣代の関係者と設定が変更され――もっともこれは、当時の大塚に歌舞音曲の師匠がいるか、という原作の穴をフォローしたもののように思いますが――番作の切腹も、彼が仕掛けたものとアレンジされた左母二郎。

 そして何よりも、今回の後半、釣り竿一本で信乃を翻弄し、簡単に殺せるところまで追い詰めながらも、彼の命を奪わず去っていく姿からは、時折見せる蛇めいた表情も相まって、彼が単なる見かけ通りの人間でないことを強く感じさせます。

 八犬伝リライト、八犬伝アレンジでも人気のある左母二郎でありますが、本作では彼がどのような役割を果たすのか――
 それはあるいは、本作の方向性をも示すものではないかと感じた次第です。

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2010.07.25

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第06話「恐るべし!!必殺胡蝶の剣」

 堺で信長配下の侍が次々に辻斬りに遭う。犯人は、信長に恨みを持つ霞丸だった。霞丸と対決した青影は傷を負い、赤影も刀を折られてしまう。折しも堺から銃を手に入れようとしていた信長は、その警護役を柳生宗厳に依頼する。宗厳の輸送隊を襲撃する霞丸と邪鬼率いる忍者たち。霞丸の胡蝶の剣に追いつめられる宗厳だが、そこに赤影ら、そして信長軍が駆けつけたことで金目教側は撤退し、かろうじて銃は守られたのだった。

 さて、結構楽しくなってきたアニメ版赤影、今回は赤影のライバル的存在である謎の美形剣士・霞丸を中心としたエピソードであります。
 その佇まいといい、幻妖斎の恭しげな態度といい、ただ者ではなかろうと思っていましたが、その出自は、かつて信長に滅ぼされた香月家の生き残り。父よ母よ妹よ、という目に遭わされた霞丸にとって、信長は不倶戴天の敵…ということです。

 その霞丸は抜刀術の使い手、その速度と威力たるや、太刀風が金色に輝いて、離れたところにいた青影に傷を負わせるほど。
 さらに必殺技の霞流胡蝶の剣は、霞丸の着物の胡蝶紋が抜け出して相手の周りを飛び回り、斬れば斬るほど分裂、それに目が眩んだ隙に斬るという…それ、結構卑怯。

 さて、今回の幻妖斎の悪だくみは、信長が手に入れようとしている堺銃(どうやら堺産の質の良い銃の様子)を横取りすること。
 その運搬警護役となる信長配下の腕自慢たちを斬るのが霞丸の役目ということになります。

 しかし信長も黙ってはいられません。彼が次に招いた切り札というべき武芸者――
 まだ青年ながら、信長の眼前で兜割…どころか台にしていた石灯籠まで斬ってしまった恐るべき使い手、剣を持っては未だ負けを知らない男、その名は柳生宗厳!
 そう、後の柳生石舟斎であります。

 時期的には新陰流の印可を受けた直後くらいでしょうか、いずれにせよ日の出の勢いの宗厳は二つ返事で警護を引き受けますが、影一族が協力するというのにはあまりいい顔をしません。

 ちなみに今回信長(本作では角刈りのちょっとワイルドなオヤジ)が初登場したわけですが、上で触れたように、影一族の存在を知り、接点もある様子。
 もちろん、原作では赤影たちは信長…というか秀吉に協力していたので、本作でもそうなのでしょう。

 それはさておき、今回のクライマックスでは、峠道で霞丸と邪鬼丸たちが宗厳の輸送隊を襲撃。
 宗厳が霞丸と対峙している間に、邪鬼と配下の忍者たちが荷駄に襲いかかりあたりは大混乱、宗厳もしっかり胡蝶の剣に囚われ大ピンチに…

 というところで赤影が助太刀に入り、忍者たちも白影・青影が相手にして大乱戦と相成ります。

 この時、青影が、地面に火薬玉を叩きつけて八方に炎を走らせた上、爆発するという忍法火走りを使ってるのですが…
 荷駄は大丈夫なのかしらと心配になっていたら、その炎を見て信長軍が駆けつけてくれたので霞丸・邪鬼丸も撤退してめでたしめでたし。
 宗厳も、よけいなことしやがって…などとは思わず、素直に赤影に感謝するのでした。

 と、今回は、さほどひねった内容というわけではありませんが、見ていてトホホな場面もなく、普通に楽しめる回でした(脚本は…と思ったらやっぱり(?)井上敏樹氏)
 霞丸のアクションシーンでBGMに鼓と笛を使うというのも、ベタではありますが良かったと思います。

 ちなみに今回、冒頭で馬庭念流の武芸者が霞丸に斬られるのですが、樋口定次がこの流派を立てたのは関ヶ原の合戦の少し前くらいなので、ちょっと無理があったかな…
 まあ、念流自体は既にあったから、ニアミスということで。


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2010.07.24

「月の蛇」第3巻 激突、飛虎対虎殺し

 反・水滸伝と言うべきか裏・水滸伝と言うべきか、実は極悪人集団であった梁山泊に戦いを挑む男・趙飛虎の戦いを描く「月の蛇」の第三巻であります。
 今回、前半で描かれるのは飛虎の主君・翠華の過去の物語、そして後半は、飛虎とあの虎殺しの豪傑が激突することになります。

 第二巻で飛虎と翠華を引き離し、それぞれ襲いかかる李俊と張横・張順の江州組の頭領たち。これを辛うじて退けた飛虎に対し、翠華は自分の過去を語り始めるのですが…

 彼女の姓は「祝」。そう、かつて済州独竜岡に存在した祝家荘の末娘――
 祝家荘で平和に暮らしていた彼女は、ある日襲来した梁山泊軍に親兄弟を皆殺しにされ、以来、忠僕と二人、梁山泊を滅ぼすために放浪していたのでありました。

 …という翠華の身の上ですが、個人的にはあまりのひねりのなさにがっかりした、というのが正直なところ。
 原典で正義の味方だった梁山泊が極悪人となっているのですから、原典で悪役だった者が気の毒な被害者――というのは、ある意味当然の設定なのかもしれませんが、価値観の転換も二つ重なると意外性は皆無です。

 作中では、翠華の行為はあくまでも私怨、と断じられるのですが、悪人への敵討ちというのはドラマ的には正しい行為であって、別にとがめる気もになりません。
 実は当時幼かった翠華の記憶違いで、祝家荘もまた一種の悪だった、という設定になると面白いのですが…
(あの家僕も、この設定の割りには強すぎるような)


 と、保守的な水滸伝ファンみたいな感想は置いておくとして、後半に登場する武松のキャラクターには、私も大満足。
 一触即発と化した街の破落戸と飛虎の間に割って入り、豪快な収め方をしてみせるその姿は、まさに豪傑好漢、出会ったときには互いの正体を知らず、翠華に一目惚れしてしまうという一本気ぶりも楽しいのです。
(もっとも、武松の経歴を考えたら、ここは飛虎と豪傑同士交誼を結んだ方が良かったのかな…)

 しかし互いの正体を知っては黙ってはおれず、そこで繰り広げられる武松と飛虎との一騎打ち。武松は虎を素手で倒した剛の者、その彼が飛「虎」と対決するというのも面白い趣向でしょう。

 そして、それと平行して、梁山泊の不協和音――抜け駆けして飛虎を討とうという下位の頭領たちの姿が描かれるのもまた面白い。
 この辺りのキャラクター配置・描写は水滸伝ファンであれば大いに頷けるところで、何とも嬉しくも癪なところであります。

 しかし、武松は祝家荘攻めの時点では梁山泊に属していなかった男。そんな男でも、そして豪傑として正しい気風の男であっても、いま梁山泊に属しているという理由で倒さなくてはならないのか?
 その辺りの葛藤が、サラッと描かれただけなのは何とも勿体ないのですが…


 何はともあれ、虎殺しとの戦いも一段落付き、これから描かれるのは飛虎の過去の物語。いよいよ語られる黒い蛇矛・月の蛇の由来に期待しましょう。

「月の蛇」第3巻(中道裕大 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon


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2010.07.23

「玉精公記」 封印されたもう一つの公記

 死の床にある「信長公記」の作者・太田牛一が、謎の老僧の求めにより語り始めたもう一つの「信長公記」。信長は若き日に八尺瓊勾玉の正体である紅の碁盤と出会い、その精・玉精と契約を交わしたのだ。玉の導きを受け、天下統一まであとわずかと迫った信長の前に、玉の宿敵である鏡の力を持つものが…

 「囲碁漫画原作大賞」グランプリを小説化したという、いささかユニークな由来の作品であります。
 信長の家臣であった太田牛一の手になる「信長公記」は、今なお信長に関する第一級の史料として伝わっていますが、その牛一が封印していたもう一つの公記があった! という、実に興味深い設定の作品です。

 かつて信長がうつけ者と呼ばれていた頃、夢に導かれるように向かった熱田神宮の地下で信長が出会ったもの――
 それは、三種の神器の一つ・八尺瓊勾玉、しかしてその正体は、神代の昔に大陸から我が国に伝来した、紅の碁盤…
 天智帝が熱田神宮に封印して以来眠りについていた碁盤は、今自らの下僕として天下を治めるに相応しい者として信長を選び、招いたのでありました。

 そして、その碁盤の精――玉精の言を受け入れ、血の盟約を交わした信長に対し、彼を補佐する者として玉精が遣わしたのは、牛の魔物と猿の魔物…
 もうおわかりでしょう、この魔物にそれぞれ憑かれた者たちこそ、太田牛一と木下藤吉郎。この二人と玉精の力を借りて、信長は天下統一に乗り出すことになります。

 さて、勾玉の正体が碁盤というのは、お題ありきの作品とはいえ強引のように見えるかもしれません。
 しかし碁盤の目の数が一年の日数を象徴するのをはじめ碁盤がこの世界を象徴していること、そしてそもそも囲碁はその碁盤を通して天と交信するものであったことなどを語られると、なるほどそういうものでもあるか…と感心させられます。
(信長が天意を知るのが、牛一と囲む碁盤を通じて、というのがなかなか面白いのです)

 何よりも、己の意志を持ち、盤の裏の「血だまり」に、盟約者の血を本当に溜めて吸い取る碁盤、というというだけで、何だかゾクゾクするではありませんか。


 …が、それで本作が素晴らしく面白いか、といえば、残念ながら否、というのが正直なところであります。

 そもそも、うつけだった信長が、超越的存在の庇護を得て超人的な力を振るう、という作品は、存外多いもの。
 確かに上に述べた通り、その存在が碁盤、というのはオリジナリティがありますし、後半登場する碁盤=玉の宿敵が鏡、というのもやはり面白い設定です。

 しかし、そこ止まりになっているが何とももったいないのです。結局、史実に鏡と玉を当てはめて語るのに終始してしまったと言いますか…
(鏡の盟約者に選ばれるのが××××というのも、すぐ予想がつくことですし…)

 設定は良かったのですが、それを物語に結びつけるのが今一つであった、と言うべきでしょうか。
 神器たちと人とのかかわり合い、神器が存在する意味などを掘り下げれば、あるいは…と感じるだけに、勿体ないお話であります。

「玉精公記」(大石直紀&帯坂篁太郎 小学館文庫) Amazon
玉精公記 (小学館文庫)

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2010.07.22

「童の草」第1巻 生意気お子様幸村伝

 真田家忍頭・猿飛佐助に課せられた任務。それは主君の幼き息子・真田幸村を警護することだった。しかし、佐助を玩具と呼び、振り回す幸村のわがままぶりに、佐助の怒りも爆発寸前。しかし、そんな幸村の心の奥底にあるものに気付いた佐助は…

 ガンガン系歴史・時代漫画紹介シリーズその3。
 童――少年時代の真田幸村と、草――猿飛佐助をはじめとする十勇士の一風変わった交流を描くユニークな幸村&十勇士伝であります。

 最近の歴史ブームでは、政宗と並ぶ人気を誇る真田幸村。今までこのブログでも取り上げてきたように、彼と、その頼もしき真田十勇士を描いた作品も、それこそ無数にあります。
 …が、本作はその中でも特にユニークな部類の作品。
 なぜなら、本作の幸村はまだほんのお子様、子供らしい傍若無人さで周囲を振り回す、はた迷惑な存在なのですから…

 そんな幸村のお守をする羽目になったのは、剽悍な真田忍の頭領・猿飛佐助。役目柄とはいえ、そんな彼が、ナマイキなお子様に膝を屈するのは屈辱以外の何ものでもなく、その怒りが爆発する日が来るのですが――

 と、もちろんこれで幸村が単なるクソガキで、佐助が単なる短気な忍者であってはお話にならないわけで、そこでちょっとイイ話的に二人は固い主従の絆で結ばれるようになるわけであります。

 本作は、そんな調子で次々と配下を増やしていく魔性のお子様の物語…と表しても当たらずとも遠からずのお話。
 もちろん、幸村と佐助がこの調子であるからして、他の十勇士もいずれも一癖も二癖もある連中であります。
 この第一巻に登場しただけでも、やたら脳天気ながら凄腕の暗殺者の霧隠才蔵、天狗様の存在を信じるピュアな孤児兄弟の三好清海&伊佐、恐ろしい姿に優しい心の老海賊・根津甚八、愛に独特の拘りを持つ超美形の琵琶法師・海野六郎と、本当によそではお目にかかれない連中ばかり。
 そんなくせ者たちの心を、次々と幸村がゲットしていく姿を見ると、無邪気の力というものを考えさせられます。

 さて、本作の魅力は、そのキャラクターやストーリー展開のみではありません。
 作者の過剰に装飾的であるようでいて、どこか荒っぽさを感じさせる絵柄は、他の何にも増して、本作を唯一無二の作品として、印象づけてくれるのです。

 初めて作者の絵を(本作の第一話で)目にした時には、ずいぶんクセのある絵だな…と思いつつ、きっちり動きを見せてくれる――つまり、単なるコマ割りをしたイラストではない、一個の漫画として成立している――のに感心したのですが、その印象は、一冊通して読んでも変わりません。
 好き嫌いは大きく分かれるかもしれませんが、これは捨てがたい才能と言うべきでしょう。

 本作のラストに収録されたおまけページでは、十年後の幸村と十勇士の姿が描かれ、その中にはこの第一巻にもまだ登場しない面子が含まれているのですが、こちらもどうみても食わせ物揃い。
 現在は連載休止ということですが、再開が楽しみであります。

 ちなみに作者は、伊達政宗を主人公にした「伊達人間」(凄まじいタイトル…)を並行して連載中ですが、これが無茶苦茶なテンションの一作で、こちらの単行本化も今から楽しみにしているところです。

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2010.07.21

「鴉 KARASU」第1巻 黒衣の青春群像

 ガンガン系歴史・時代漫画紹介シリーズその2。幕末の仙台で活躍した細谷十太夫と衝撃隊(カラス組)を描く本作、以前紹介したD-BOYS主演の舞台「鴉 KARASU」を漫画化した作品であります。

 カラス組(鴉組)については、以前にも紹介しましたが、もう一度簡単におさらいすると、仙台藩士の細谷が、博徒などを集めて結成した遊撃隊。
 本来の名前は「衝撃隊」ですが、黒装束に身を包み、長ドス一本で新政府軍に夜襲を繰り返したことから、鴉組の異名をとった集団であります。

 本作は、その史実を下敷きに、迫る長州軍との戦いを目前に、細谷を中心に結成されたカラス組に参加した若者たちの姿を描く青春群像劇です。

 本作に登場する、細谷と副隊長の乾進之介以外のカラス組の隊員は、以下の通り――
 酒好きのスナイパー・吾郎
 無口なスキンヘッドの浪人・堀田半兵衛
 斧が相棒の樵・竜
 博徒の寅吉
 農民の兄弟・太一と宗次
いずれも、浪人もしくは武士以外の身分のアウトサイダーたちではあるものの、それぞれにやむにやまれぬ理由を抱え、カラス組に参加した面々であります。

 内容的には、舞台同様、細谷自身を描くというより、細谷とカラス組を通じて、周囲に集った彼ら隊員の生き様を描くという趣向
 物語の展開も、細かい部分は追加されているものの、ほぼ舞台をなぞったものとなっています。

 もっとも、漫画ということもあってか、カラス組の敵となる長州の奇兵隊は、さらにカリカチュアされて、世が世紀末であれば、モヒカン頭で暴れ回っていそうな連中ばかり。(隊長がラオウ調の豪傑なのがまたその印象を煽る)

 それだけならばまだしも、敵の中ボスクラス(?)のキャラが、青山輝馬とか華山雄蔵とか芝田秀之&阿須香涼とか、各方面に謝れな名前なのは、さすがにいかがなものかと思いますが…

 折角、漫画ではほとんど手つかずのユニークな題材を用いているのですから、奇兵隊を単なる面白悪人集団としてではなく、血の通った相手として描くことができれば、より面白くなりそうなのに…というのは、正直な感想であります。


 さて、この第一巻には、「ガンガン戦」誌に掲載された、細谷の過去を描く番外編も収録されています。

 実は細谷、仙台藩士として、京都警護に当たっていた時期があるのですが、この時、芝居小屋で「伽羅先代萩」を観て、史実と違うと怒って大暴れした末に仙台に返されるという面白いエピソードがあります。

 番外編では、この時細谷は土方歳三と対決していた! というなかなか面白い意外史となっています。
 しかも、剣では結局土方に敵わなかった細谷が、後に土方の出自を知ったことから、鴉組の構想が生まれるという趣向が実に面白く、今後描かれるであろう土方との再会が、楽しみになった次第です。

「鴉 KARASU」第1巻(柳ゆき助&町田一八 スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス) Amazon
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 「鴉 KARASU 04」 若き鴉、舞台に見参

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2010.07.20

「御指名武将真田幸村 かげろひ KAGEROI」第1巻 草食系幸村見参!

 太閤秀吉の座する大坂で次々と起きる怪事件…それに対処するためとして、秀吉は一人の青年を指名した。人質として秀吉の下に置かれ、日がな一日自室に引きこもって書物と暮らすその青年の名は、真田幸村。秀吉に仕える少女忍者・猿飛佐助とともに、虚弱体質の幸村が大坂を駆ける。

 ここのところの歴史ブーム、歴女の存在もあってか、若年層、女性層向けの歴史漫画雑誌もいくつか刊行されるようになってきました。
 その一つ、「ガンガン戦」からスタートしたのが本作「御指名武将真田幸村 かげろひ KAGEROI」です。

 御指名って…と、タイトルを見ると何やら戦国パロディ、戦国ギャグ的内容を想像してしまいますが、そういう要素もふんだんに盛り込みつつも、本作はなかなかユニークな角度から幸村に切り込んだ作品となっています。

 そのユニークさの一つ目は、本作においては、主人公である真田幸村の、人質時代を描いていることでしょう。
 世に幸村を主人公とした作品は無数にありますし、最近のブームの中でも、幸村は人気者の一人。…にもかかわらず、そこで描かれるのは関ヶ原の戦と大坂の陣の間の姿がほとんど。
 幸村が人質として諸家を転々とし、最終的には秀吉の下にあったことを題材とした作品は、非常に少ないように感じます。

 さて、この題材選びのユニークさに加えて、もう一つユニークなのは、その料理法であります。
 本作の幸村は、異常なまでの読書マニアで引きこもり、そして刀を振っただけで手首が脱臼するほどの超虚弱体質という設定。
 人質という身分に加え、この武士にあるまじき草食(?)ぶりで、秀吉子飼いの武将からはバカにされている幸村ですが、頭の冴えは天下一、何か事件があれば秀吉の指名を受け、解決に乗り出すことになるのです。

 この第一巻で描かれるのは、大坂に夜な夜な現れる辻斬り事件、秀吉の花見を騒がさんとする伊達政宗との対決、そして幸村の名を騙る女性誘拐犯の追跡…いずれも一筋縄ではいかない事件ばかり。

 ここで正直なことを言ってしまうと、ストーリー展開自体は少々…いやかなり粗っぽい部分があり、このあたりはまだまだ改善の余地あり、ではあるのですが、しかしこのストーリー展開の部分でも、他では見られないユニークな輝きがあることは、間違いのないところです。

 特に第二話では、幸村と並ぶ当代人気武将の政宗を、「いかにも」なキャラクターとして登場させながらも、ものの見事にそれを逆手に取っての展開が実に面白いのです。
 考えてみれば幸村がこうなのですから、他の武将も同様で済むわけはないのですが…いや参りました。

 第三話のラストには、ある意味幸村の最大のライバル足りうる人物が――しかしおそらくは本作ならではのアレンジを加えて――登場し、これも大いに期待を持たせてくれます。

 ユニークな題材とユニークな調理法、そして時折、いやしばしば投入される脱力ギャグと…今後が楽しみな作品であります。

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御指名武将真田幸村 かげろひ-KAGEROI- 1 (ガンガンコミックスIXA)

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2010.07.19

「観 KAN」 室町を観た十七歳

 武家と宮方の争いの余塵収まらぬ頃、天性の美貌と才能を持つ大和の猿楽太夫・三郎は、既存の猿楽に飽きたらず、自分だけの新たな一座を持とうと考えていた。かつて垣間見た足利尊氏の威容に惹かれ、その前で舞うことを目指す三郎だが、しかし彼の周囲には、その才能を利用しようという者たちの手が…

 ライトノベルの次のステップ、ライトノベルと一般書籍の間を埋めるものとしてあろうとするように、快調に新刊を生み出しているメディアワークス文庫ですが、その中には歴史もの、時代ものに属するものも含まれています。
 後に能楽を生むことになる観阿弥の少年時代を描いた本作「観 KAN」も、その一つであります。

 その子の世阿弥とともに、いまや歴史の教科書には必ず登場する観阿弥。
 しかし、その前半生にはほとんど記録が残っておらず――当時の芸能者の身分を考えれば全く不思議ではないのですが――謎の部分も多いこの人物を主人公とするのは、まず着眼点の妙と言えるでしょう。

 とはいえ、一読した印象としては、内容的には、芸道小説…というよりバンド小説といった方がしっくりくる内容。
 若く才能あふれる少年が、自分だけの、自分の思い通りの音楽をやるために世間を相手に苦闘する。仲間を集め、場を探し、しかし大人に裏切られ、傷つき…それでも自分のライブを成功させる。
 本作は、基本的にはそんな典型的な(と言ってはやはり乱暴に過ぎるのですが)内容の作品であります。

 十七才の観阿弥が、基本的に一人称形式で語る本作は、もちろん若き天才らしい一種の独善性と、それと裏腹の脆さ・儚さに満ちたものでありますが、それもまた、現代の我々から見ても違和感を感じるものではなく、むしろ現代と地続きのそれを感じさせます。


 そんな本作が独特の輝きを放っているのは、本作の内容が、現代性を持ちながらも、室町という時代に沿って描かれているからでしょう。

 室町時代の、それもごく初期――後醍醐帝の下で鎌倉幕府を倒した足利尊氏が、その帝に反旗を翻し、自らの幕府を作り出す。そんな強烈なパラダイムシフトの最中に、十七歳の観阿弥は生きています。

 足下の価値観が揺らぎ、いやそればかりか己の命を守ることすら危うい時代。
 しかしそんな時代だからこそ、古い時代の殻を破って現れる新しいものがあります。

 本作において、観阿弥が、それまでの猿楽を、そして猿楽師としての身分を突き破って生み出そうとしたものとして描かれる能もまた、その時代性と呼応したものとして感じることができます。

 その意味では、本作の観阿弥は室町という時代の象徴であります(そんな彼が、尊氏に強烈に惹かれたというのは、何よりも象徴的であります)。

 本作は、そんな室町の申し子である観阿弥が、己を、己自身の芸術を通して、現代の我々にも通じる悩み・苦しみを描き出したと同時に、室町という時代を「観」たものといえるでしょう。

 もちろんそれは、彼の生涯の、そして歴史の流れのごく一部分に過ぎません。
 これから彼が何を観るのか、そしてそれが我々の生とどのように響きあっていくのか…この先の物語も観てみたいものです。

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2010.07.18

八犬伝特集その十一の一 「THE 八犬伝」 第一話「万華鏡」

 今から約二十年前に第一話が発売され、足かけ五年に渡り展開されたOVA「THE八犬伝」を、今回から一話ずつ紹介していきましょう。
 かの滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を原作とした本作、第一話「万華鏡」は、その原作の冒頭、伏姫の死までが描かれるのですが…

 恥ずかしながら私、今回初めてこの作品を見たのですが、いやはや、これほど感想が書きにくい作品であったとは、と驚かされました。

 さて、あらすじ的にはこの第一話、ダイジェストされているとはいえ、ほとんど原作の冒頭部分に忠実な内容であります。

 長禄元年(1457年)秋、房州里見家は安西景連の裏切りにより窮地に陥ってた。里見義実の娘・伏姫の許婚である金碗大輔も戦場に消え、風前の灯火となった里見家では、義実が飼い犬の八房と戯れにある約束を交わす。
 その言葉を耳にした八房は景連の首を取り、里見家は奇跡的に救われたのだが――義実と景連の約束とは、伏姫と八房を沿わせるというものだった。
 その約束を守り、八房と二人暮らす伏姫。生きていた大輔が八房を狙った銃弾は伏姫をも貫き、伏姫の数珠は仁義礼智信忠孝悌の文字を浮かび上がらせ、宙に消えた――

 と、これは原作読者であればおなじみの展開(ただし、それ以外の方はどれだけついていけたのか…?)
 原作と異なる点と言えば――うろおぼえではりますが――安西景連が明らかに妖魔の力を得ていた点と、金碗大輔が景連に憑いた妖魔により深手を追わされた点、そして伏姫を撃ってしまった大輔に死を禁じるのが伏姫自身である点くらいでしょうか。


 しかし――もちろん、本作が、原作がベタにアニメ化しただけの作品であるわけでは、もちろんありません。
 実は、この第一話では、長禄元年の物語と平行して、文明十年(1478年)五月初旬の物語が描かれることになります。
 そこで描かれるのは、おそらくは八犬士+丶大法師と、傀儡のような兵たちや、犬の姿の怪物たち――不気味な妖魔たちの群れとの戦い。

 八犬士たちの誕生の物語とめまぐるしく交錯しつつ、集結した八犬士たちの姿が描かれる…それは、原作通りの冒頭の展開のみではあまりに地味すぎるということなのかもしれませんが、しかし、それに収まらないものをも感じさせます。
(ちなみにこの時期、原作では序盤、信乃がまだ大塚家で暮らしている頃なのですが…この違いにはどのような意味があるのでしょう?)


 そう感じさせるのは、もう一つ、この二つの時代の物語を結ぶように現れる象徴めいた存在――真っ赤な風車を持った少女の存在であります。

 冒頭から幾度となく現れる赤い風車と、それを手にして泣く少女…
 それはおそらく――少なくとも現時点では――伏姫の、伏姫の中の少女性の象徴であることは想像がつきますし、そしてその少女が橋を渡って向こう側に行こうとする姿と、八房と伏姫が沿うて暮らす姿が平行して描かれるのも、また実に象徴的であります。


 そして、ここで今更ながらに気づかされるのは、八犬伝という物語のゆがみ、ねじれというものであります。
 里見家に仇なす妖霊の力を持つ犬と、里見家の姫の間に霊的に生まれた八犬士――忌まわしい生まれを持つはずの八人が、人間の八つの徳目を象徴として戦い、里見家を守る。

 一見、至極まっとうな英雄譚であり、そこで描かれる人物模様もまた明確ではありますが、しかしその根本には善と悪、聖と邪が結びつき、入れ替わり、そして昇華されていく様があるのではないか…まさに万華鏡のように。
 八犬士は生まれついての善なる存在ではなく呪われた存在、里見家と、人間と相対する存在ではないか――特にこの第一話の終盤、八犬士と、巨大な犬の妖魔が戦うシーンを見て、それを強く感じさせられた次第です。

 もちろんそれはこの第一話の時点での私の勝手な印象、果たして、その印象が正しいのかどうか、そして本作が八犬伝をどのように解釈するのか――これは楽しみであります。

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2010.07.17

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第05話「危機一髪! 忍法花ふぶき」

 上州屋の娘・ゆりを誘拐し、金目教に金を上納させようとする幻妖斎。赤影たちは金目教の根城のある鬼面山に向かう。洞窟の中でゆりを発見する赤影だが、それは赤影を父の仇と付け狙うやまぶきだった。しかし幻妖斎は赤影を倒すためやまぶきもろとも洞窟を爆破してしまう。青影と白影は本物のゆりを金目教から取り戻し、爆発を逃れた赤影も鬼念坊を撃退する。赤影に救われたやまぶきは、傷心のまま一人旅立つのだった。

 見ているこちらが番組のノリにも慣れきて、なかなか面白くなってきましたアニメ版「仮面の忍者赤影」。今回は、金目教のくノ一・やまぶきを中心に据えたお話であります。

 地道に悪事を働く幻妖斎、今回は娘たちを神隠しを装って誘拐し、金目教にすがれば助かると言って金を上納させるという、かなり卑劣な自作自演ぶり。
 その被害者の一人・上州屋のゆり(上州屋の丁稚の声、塩沢さんの声に聞こえるんですが…何でまた)を救い出すため、金を上納した後に娘たちが見つかるという鬼面山に赤影たちは向かいます。

 手分けして山を探索する赤影の前に現れたのは、やまぶきと、今回初登場の邪鬼。
 見かけは顔に傷のある貧相な中年男といった邪鬼、狭い谷底で戦う赤影の頭上から、忍法自在岩石落とし(一見、忍法? と思いましたが、なんかすごい分量の岩が落ちてたのでやっぱり忍法でしょう)で襲いかかるものの、岩石を逆に足場代わりにして上ってきた赤影にあっさり斬られてしまいます。

 が…何故か体から変な煙を出し、一瞬のうちにミイラ状態になって谷に落ちていく姿に、赤影ならずともびっくりです。

 さて、その邪鬼に、ガマ法師が実は霞丸に斬られたと聞かされたこと、そして赤影と対峙した時に微妙に話が食い違ったことから、そろそろ父の死の事情に疑念を抱き始めたやまぶきですが――
 あっさり幻妖斎にその辺りはぐらかされ、赤影必殺の策を授けられます。それは、ゆりに化けて赤影をおびき寄せ、不意打ちを仕掛けることでした。

 見事にその策に引っかかった赤影に、木の葉隠れのお花版みたいな忍法花吹雪を放ち、四方八方から攻撃するやまぶきですが、赤影は真剣山彦返し(解説が全くないのですが、殺気に反応して相手の攻撃を受け止めている術でしょうか)で反撃、一瞬で形勢逆転していまいます。

 と、そこに割って入ったのは、なんと死んだはずの邪鬼。
 実は邪鬼は、死んでも水さえあれば復活できるという特異体質、降ってきた雨を吸収して復活したのでした。
 この辺り、原作漫画に登場した不死身の陣内や「伊賀の影丸」阿魔野邪鬼(あ、だから邪鬼なのか!?)…というか雨夜陣五郎と薬師寺天膳を足して二で割ったような印象ですね。

 それはさておき、実は幻妖斎がやまぶきもろとも赤影を爆殺しようとしていると告げる邪鬼。
 邪鬼は山吹に惚れてるらしい描写があったのですが、そこまでしてやまぶきを救おうとするとは、存外好人物なのかもしれません。

 が、時既に遅く、洞窟はもんのすごい勢いで豪快に爆発…!

 一方、上州屋が鬼念坊に上納金を納めようとしていたところに駆けつけたのは、本物のゆりを助け出した白影と青影。しかし今度は上州屋が人質に…
 が、そこで一瞬にして下忍たちを倒し、上州屋を助け出す影――そう、赤影参上!

 もう無茶苦茶な神出鬼没ぶりですが、むしろこれでこそ時代劇ヒーローであります。
 考えてみれば、第一話からクライマックスでの「赤影参上!」を貫いている本作。ヒーローものとして、これは実に正しい演出と言えましょう。

 赤影に圧倒された鬼念坊は、邪鬼のフォローを受けて這々の体で退散、一件落着するのでした(いや、今回、ゆりが幻妖斎から金目教に入信するよう洗脳される描写があるのですが、これはスルーでいいのかしら…)

 と、その一方で、赤影の手により爆発から救い出されていたやまぶきは、誰を信じるべきかわからくなったまま、いずこかへ去っていくのでした…


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2010.07.16

「ドリフターズ」第1巻 死をも超えた豪傑たちの激突

 関ヶ原の戦で、本隊を逃すべく捨てがまりとなって敵将の首を狙う島津豊久。死闘の末に、無数の傷を負い戦場を彷徨う彼は、いつの間にかどことも知れぬ世界にいた。そこで彼を待っていたのは、織田信長と那須与一…彼ら漂流物(ドリフターズ)と呼ばれる者たちの異世界での戦いが始まる。

 このブログで取り上げるのは反則かもしれませんが、まあいいじゃないですか。死んだはずの歴史上の有名人・豪傑たちが、異世界で激突を繰り広げる平野耕太の新作「ドリフターズ」第一巻であります。

 私は基本的に雑誌連載作品は単行本派なので、第一話のみ読んで楽しみに待っておりましたが、期待通りこれはとんでもない物語。
 関ヶ原の戦で、井伊直政相手に捨てがまりを敢行して命を落としたかに見えた島津豊久――しかし彼は死の直前、謎の男の手により、何処とも知れぬファンタジー世界に送り込まれていたのであった!
 という冒頭部分、わざわざ島津豊久をチョイスしてくるセンスに驚かされたわけですが(ビジュアル的にえらく現代的に見えるのは、うーんこの時代の薩摩の文化ってよく知らないしなぁ…)、しかしそれからの展開はそれに輪をかけてとんでもない。

 瀕死の重傷を負った彼を拾い、助けたのは、本能寺の炎に消えたはずの織田信長と、女とも見まごう美青年・那須与一。
 見たこともない世界に出現した「漂流物」(ドリフターズ)と呼ばれる豊久たち三人は、戸惑いながらも成り行きからエルフの村を解放…と、ここまでで、それぞれが(ヒラコー的ギャグを交えながらも)持ち味を出していて、もうニヤニヤするほかないのですが、ここからがむしろ本番、であります。

 時同じくして、北方では「漂流物」と対峙する「廃棄物」を率いる、黒王なる存在が侵略を開始。
 その配下の廃棄物の面々は、土方歳三、ジャンヌダルク、皇女アナスタシア、そして九郎判官義経――
 一方、その場に集った漂流物は、ハンニバルとスキピオ、ワイルドバンチ強盗団(おそらくはブッチ・キャシディとサンダンス・キッド)、さらに紫電改のエースパイロット・菅野直まで乱入して、もう一体どうしたらよいのかわからないようなテンションであります。


 …正直なところ、歴史上の有名人たちが死から復活して一同に会する、あるいはこの世界の人間が超越的存在のコマとして異世界で戦わされる、という物語は、本作が初めてではありません。
 SFファンであれば、その先駆となる作品を幾つか挙げることができるでしょう。

 しかしそんなこととは関係なしに本作が素晴らしく面白いのは、平野耕太以外であれば思いつかないであろう漂流物・廃棄物双方の顔ぶれと、その彼らを違和感なく動かし、存在させてみせる描写力にあることは、言うまでもないでしょう。
 ドリームチームが必ずしも強いとも、その試合が面白いとも限りませんが、しかしメンバー一人一人の力に監督の采配がきっちりと噛み合えば、それはもう無敵に決まっています。


 そしてそれ以上に、個人的に嬉しいのは、本作においても、前作「ヘルシング」同様、平野耕太流人間賛歌と言うべきものが、節々に感じられる点であります。

 どれほど人の命が、尊厳が軽んじられる世界にあろうとも、それでもなお、己の身命を賭して、その理不尽に抗う、人間の好もしい戦いの姿――
 それは、本作でも、エルフを虐げる者に怒る豊久の姿に、砦を蹂躙する黒王軍に激高する菅野直の姿に、見て取ることができます。(それにしても、菅野の「てめえ…この野郎 この野郎手前ェ!!」から、ハンニバルの「ゼロじゃないさ」に続く場面の熱さは尋常ではない)

 もちろん、人間がそれほど善き面だけで構成されているわけでは、もちろんありません。廃棄物はともかく、漂流物の中にも、容易に暴走しそうな面々は含まれています。
 それも含めて――この、死をも超えてしまった一種の極限状況下でどのような人間模様が描き出されるのか、その点にも大いに期待しているのです。

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2010.07.15

「佐和山物語 時の花嫁とはじまりの歌」 美しき時渡りの結末

 直継に別れを告げ、自分の時間へ還っていったあこ。それから一ヶ月半後、役目で伏見に出向いていた直継は、あこと再会する。しかし彼女は、直継と別れる少し前からの記憶を失っていた。果たして彼女に何が起こったのか、そして江戸から輿入れしてくる鳥居家の姫との関係は、そして三成の陰謀の行方は…

 佐和山を舞台に、井伊直政の子・直継と、鳥居元忠の孫娘・あこの間の純愛模様を描いた佐和山物語も、この五巻目で一区切り。二人の想いの行方と、あこの時渡りの秘密が物語られます。

直継と心を強く強く結びつけながらも、それ故に別れを――自分の時間・自分の世界に戻ることを――選び、前作ラストで直継と別れを告げたあこ。
 そして一ヶ月半後、本作の前半で描かれるのは、伏見で幕府の権威失墜を狙ってのテロに暗躍する三成・吉継・左近と、直継の決戦…なのですが、そこに何故か伏見に現れたあこが絡んでくるのが面白い。

 佐和山に現れたあこは自分の時間に戻り、いま江戸から輿入れしてくる「鳥居家の姫」は、直継が恋したあこと同一人物とは限らない――というよりそうでない可能性の方が高い。
 しかし、突如伏見に現れた彼女は、直継と別れる直前までの記憶を持っている存在だったのです。

 二人が元のままの二人として再会できる、その可能性は限りなく低い――彼女の時渡りは、単純な時間移動というより、パラレルワールド間の移動に近い――にもかかわらず、彼女と再会できたというのは一種の奇跡。しかし、彼の時間では、既に「鳥居家の姫」が許嫁として存在している…
 既にこうなることはわかっていたとはいえ、揺れ動く直継の心を未練と切り捨てることは、これまでのシリーズ読者であればできますまい。この辺り、なかなかにうまい設定であります。


 このように時渡りにまつわる物語は、ラストに来て大いに盛り上がるのですが、しかし、一冊の小説として見た場合、バランスは良くないというのが正直な感想であります。

 あこが伏見に登場することとなった、そのからくりはかなり面白いのですが、これまで佐和山で展開してきた物語の流れと比べると、いささか唐突な印象は否めません。また、この伏見パートに登場するキャラクターも、立ち位置が今ひとつ不明確なのが気になります。
(前者は、直継の心を揺らすための要素と三成との決戦の布石として、後者は、あこが祖父の死を乗り越えたことを示すため、と理解できなくもないのですが…)

 また、後半で描かれる時渡りの真相も、入り組み過ぎている上、謎解き役の主馬の存在感が大きすぎるのが気になるところ(作者が気に入ってしまったか、読者の要請かわかりませんが、猫神様との関係まで描くのは贔屓が過ぎるような)。
 ある意味、伏線をきちんと解決しておきたい、作者の律儀さの表れではあるとは思うのですが…


 しかし、それでもなお、私は本作が愛すべき作品と感じます。
 それだけ、ここに解き明かされた時渡りの真相は美しい形をしているのですから。

 それぞれに年齢に不似合いなほど大きすぎるものを背負い、孤独の中にあった二つの魂が出会い、分かちがたいものとして結びつく…それは確かに、時の環の中の出来事かもしれませんが、しかし、どこまでも互いを、人を想う心が、二人を、そして周囲の人々を結びつけ、ついには可能性の壁を乗り越えて奇跡を起こす――

 時の流れ――これほど単純で、巨大な恋の障害があるでしょうか――を乗り越えた二人の想いは、何よりも貴く、美しいものではありませんか。


 ベタもベタ、大甘ではあります。結果オーライではあります。しかし、本シリーズの読者皆が求めるのはまさにこの結末だったでしょう。

 実は本作は、時渡りの物語の完結編ではありますが、「佐和山物語」の最終巻ではないとのこと。最終巻は、二人のその後の物語等を収めた短編集となるとのことですが――この山盛りの幸福感が薄れることのない結末を期待します。

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佐和山物語 時の花嫁とはじまりの歌 (角川ビーンズ文庫)


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2010.07.14

「戦国SANADA紅蓮隊」第3巻 ついに集った十人の兵!

 あの真田幸村が、いつもの平松作品の文法で外道相手に大暴れの痛快バイオレンスアクション「戦国SANADA紅蓮隊」の第三巻です。
 上杉家での戦いを終え、仲間を求めて旅立った幸村は、霧隠才蔵と出会うのですが…

 北条と上杉の和睦の使者として陰腹を切って死にかかり、そこを逆に気に入られて上杉景勝の、直江兼続の客分となった幸村。
 しかし、そこに家康の命を受けた三人の外道忍びが襲来、やっぱりこの展開か! とファンが大喜びしたところで第三巻に突入であります。

 刃も跳ね返す鋼の巨体の怪忍者・斬怪相手に死闘を繰り広げた幸村ですが、やはり貫目の違いというべきかこれに圧勝。爽やかに景勝・兼続と交誼を結んだ彼は、しかし上杉に留まることなく、仲間を求めて旅に出ます。

 そう…股肱の臣である猿飛佐助を含め、十人の兵(つわもの)を求めて!


 というわけで、佐助とくればやっぱり次は才蔵。
 格好良いことを言いつつも色街に繰り込んだ幸村と佐助は、そこで身分を隠して働く霧隠才蔵と出会います。

 この才蔵、長髪で見るからに正統派の美形ですが、当然ながら(?)なかなか他人に心を開かない孤高の男。
 実は才蔵、かつて伊賀忍者として服部半蔵の下に仕えながらも、その余りに外道なやり口に怒りを抱き、彼に反旗を翻して抜忍となった過去があったのでした。
(ちなみにこの時に半蔵に入れられた額の「才」の字の傷が彼のトレードマークであります)

 と、見ていて色々な意味で何となく不安になる佐助に比べ、真っ当にヒーロー的な才蔵。そんな彼には唯一心を許す女郎・夕霧がいたのですが…

 ゲストキャラ(それも後ろ暗い過去持ち)の恋人で美人で風俗業とくれば、平松作品的にはわかりますね? そう、外道に捕まり大変な目に遭わされるわけです。
 この外道、表向き小間物屋、裏の顔は伊賀忍者の三河屋に対し、もちろん幸村の怒り爆発! クールに燃える才蔵、そして巻き添えで自分を男にしてくれた女郎を殺された佐助と、怒りのトリオの大暴れが始まるわけであります。

 相手は忍者の元締め、そしてド外道というわけで、待ちかまえるのは無数の罠と敵――
 そんな中に先陣切って飛び込む幸村は、確かに三河屋の言う「日本一の馬鹿な侍」ではあるのですが、それに「オレにとっちゃあ最高の誉め言葉だぜエエエ~~!!」などと返されたら、そりゃあ才蔵だって惚れ込みます。

 一つの悲劇の果てに、才蔵は仕えるべき主を、そして幸村は頼もしい仲間を得ることとなります。
 残る勇士、あと八人…


 というところまで来たところで急展開! 幸村なき上田城に迫る家康軍の前に、真田家は風前の灯火。しかしそこに駆けつけたのは…
 幸村と十人の兵、名付けて真田紅蓮隊!

 …要するにここで打ち切りとなったわけであります。佐助と才蔵に続く十勇士は、誰が誰と名前が出るでもなく、見開きで勢ぞろいして登場するのみですが――格好いいんだ、これが。

 実にもったいないとは思いますが、前半の歴史ものっぽい展開(それにしたって十分アレですが)が今一つで、エンジンに火が点くのに時間がかかったためでしょうか…

 一応勝ち負けが史実としてはっきり見えている世界で平松バイオレンスは厳しかったのかな、と思わないでありませんが、いやはや、残念なことではありました。

「戦国SANADA紅蓮隊」第3巻(平松伸二 日本文芸社ニチブンコミックス) Amazon
戦国SANADA紅連隊 3巻 (ニチブンコミックス)


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2010.07.13

「必殺仕事人2010」 帰ってきた小五郎チーム!

 ほぼ一年前に終了した「必殺仕事人2009」が、スペシャル番組「必殺仕事人2010」として帰ってきました。
 今回の題材は「事業仕分け」と聞いた時は驚きましたが、蓋を開けてみれば、これまでのシリーズ同様、一筋縄ではいかないキャラクター描写の作品となっておりました。

 今回の中心人物となるのは、若き勘定吟味役・風間右京乃助(小澤征悦)です。
 筆頭老中を後ろ盾に、幕府の財政再建のために事業仕分けを行い、辣腕を振るう彼ですが、幕府内では既得権益に群がっていた役人らから、外側では景気が悪くなり仕事がなくなった庶民から、非難と怨みを一身に受ける毎日…

 しかしそんな彼にはもう一つの顔が。彼は、旗本の三男坊・柿本平三郎と名乗り、職を失った人々のために、私費を投じて炊き出しを行っていたのであります。
 果たして右京乃助は悪か善か? 右京乃助のために仕事を失い、両親が自殺した娘から仕事を請け負った涼次、そして偶然平三郎と知り合い、その人柄に触れた小五郎は、それぞれの立場と視点から、それを探っていくのですが…

 と、お話的にはスペシャルとはいえどイベント性はほとんどなく、純粋に前作の延長線上にある物語、という印象。
 前作は、単純明快な悪人というのは存外少なく、悪人といえど複雑な内面を持つ様が、あるいは善人が悪事に染まり転落していく様が描かれていったのが印象に残りますが、今回の右京乃助も、その線上にある人物と言えます。

 物語の後半、政敵から、炊き出しの費用のため、将軍家から下賜された家宝を質入れしたという弱みを握られた右京乃助。
 さらに、炊き出しを手伝っていた町娘が彼の子を宿したこと、そしてその兄たちが、江戸を騒がす武士殺しの犯人であったことを知り、彼の心は黒く染まっていくことになります。

 右京乃助も、元々は理想に燃える有能な官僚であり、その実現のためであれば、自らがどれほど悪評を被ろうと、毅然として立ち向かう気概を持った男であります。
 その一方で、その償い、そして何よりも悪評を被ることに耐えられぬ彼の心の平衡を保つため、平三郎を名乗っての貧民救済を行う彼の心の中には、その強さと裏腹の弱さがあります。

 単なる理想家ではなく、もちろん無情な悪人でもなく、弱さも強さも持つ一個の人間である彼は、少なくとも涼次が仕事を請け負った時点では、仕事の標的となるべき者ではありません。
 それがひとたび躓き、バランスを崩した時――これまでの顔が嘘であったように豹変し、仕事人の相手として相応しい存在と化す、その辺りの皮肉な展開が、実に印象的です。
 スペシャル枠という時間の長さを用いて、この辺りをじっくりと描いたのが、今回の魅力でありましょう。

 もっとも、その後の右京乃助の言動が、あまりにも血も涙もなさすぎて、そこから先は、ごく普通の悪役になってしまったのは、本当に残念なところ。
 かつての想いをどこかに残していれば、などと言うつもりはありませんが、もう一ひねり、何かしらのドラマがあれば良かったのですが…結果としては、普通の悪人退治で終わった感があります。


 さて、今回もう一つ印象に残ったのは、本作撮影中に急逝した藤田まこと演じる中村主水の去就であります。
 本作では、西方(言うまでもなくあの世の謂でしょう)へ配置換えのため、家に置手紙を残して去っていったという設定。
 冒頭をはじめとして、作中の随所で、ぽっかりと穴が空いたように感じられる――もちろんそれは意図的なものですが――のが、いよいよ切なさを増してくれます。
 特に、冒頭、主水が去ったことを知った小五郎が、「必殺仕事人」のOPナレーションを引用して主水を偲ぶ姿は、ある意味非常にずるいのですが、グッと来ました。
(ラスト、主水の十手や名札を懐にしての仕事はちょっとやりすぎの感もありましたが…)

 もちろん、主水以外のレギュラーは皆健在で、相変わらずのドラマを見せてくれるのはありがたいところ。
 特に、キャラが薄い薄いと言われてきた小五郎も、妻の懐妊に対する複雑な心境と、図らずも同じ立場となった右京乃助との対比もあって、なかなかよい描写であったと思います。

 中村主水は去りましたが、もう彼らだけでも立派にやっていける…それを示すためにも、この小五郎チームのシリーズは、まだまだ続けていただきたいものです。


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 「必殺仕事人2009」 第13話「給付金VS新仕事人」
 「必殺仕事人2009」 第14話「武士の異常愛」
 「必殺仕事人2009」 第17話「ゴミ屋敷」
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2010.07.12

「舫鬼九郎 鬼九郎鬼草子」 宿敵の企みや如何に!?

 江戸市中で幡随院長兵衛が奇怪な術の使い手に襲撃された。それが宿敵・左甚五郎配下の根来傀儡衆であると知った鬼九郎と仲間たちは、甚五郎たちを追って会津に旅立つ。折しも不穏な動きが伝えられる会津で何が起ころうとしているのか? 鬼九郎たちを待ち受ける意外な真相とは…

 つい先日、最新作が刊行された高橋克彦先生の「舫鬼九郎」シリーズの第二作を岡村賢二先生が漫画化した「鬼九郎鬼草子」であります。

 長髪の美形にして、服装は着流しの下にワイシャツ、その下には一面の刺青という異装の貴公子・鬼九郎。
 その正体は全く不明ながら、あの南光坊天海が貴人に仕えるが如く接し、剣は柳生新陰流の達人――まずは今日日気持ちよいほどの時代劇ヒーローであります。

 その彼が、幡随院長兵衛、天竺徳兵衛、柳生十兵衛といった錚々たる面々と交誼を結び、幕府転覆を目論んだ左甚五郎らの野望を打ち砕いたのが前作ですが、その続編たる本作でも、宿敵・左甚五郎との対決が中心となって描かれます。

 …が、本作がユニークなのは、その甚五郎の企みがなかなか見えてこないところでしょう。
 もちろん、悪人の企みが見えてこないことはよくあること…というより当たり前。それを探るのがヒーローのお仕事であります。

 本作ではそのため、甚五郎一味を追って鬼九郎たちが会津に旅立つことになるのですが、その旅の最中に襲い来るのは、甚五郎配下の根来傀儡衆。両国の芸人に扮して暗躍し、その芸人の芸を殺人技まで高めた(正確には逆なのですが)彼らと、鬼九郎たちの攻防戦が、本作の中心として描かれることになります。

 さて、この時期の会津で何が起こっていたか、ということは時代ものファンであればよくご存じかもしれません。
 本作の中盤以降は、この事件と、鬼九郎と甚五郎との戦い、さらに由比正雪一党の野望まで絡んで盛り上がっていきますが…
 最後の最後に待っている大ドンデン返しには、原作を既に読んでいた私でも、やはり驚かされたのですが、それは読んでのお楽しみであります。

 さて、原作の内容ばかりになってしまいましたが、それはある意味、この漫画版が、原作の内容と全く一体化して、違和感ないものとなっているゆえであります。
 前作で単行本二冊、本作で三冊目ということもあって、新登場のキャラも含めて、キャラクターデザインに違和感が全くないことは言うまでもありませんが、彼らの繰り広げる激しくトリッキーなアクション描写に至っては、原作以上…と言っては言い過ぎでしょうか?

 ちなみに、基本的に原作に漫画化されている本作ですが、終盤の展開は、少しアレンジされて、より意外かつ派手な展開になっているのも、また楽しいところであります。


 さて、鬼九郎シリーズの漫画化はこれで一段落の様子。原作三作目は短編集ということもあり、いささか漫画化しにくいのかもしれません。
 とはいえ、やはりこれでお別れというのはいかにももったいない。第三弾、第四弾の漫画化にも期待したいところであります。

「舫鬼九郎 鬼九郎鬼草子」(岡村賢二&高橋克彦 リイド社SPコミックス) Amazon
舫鬼九郎鬼九郎鬼草子 (SPコミックス)


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2010.07.11

「幇間探偵しゃろく」第1巻 向島の名探偵登場

 向島の幇間・舎六は、大酒飲みで、気に入らない客を客とも思わず怒鳴りつける問題児。しかしそんな舎六には、隠れた推理の才能があった。贔屓筋の和田宗の若旦那を巻き込んで、舎六は様々な事件を解き明かしていく。

 伝奇ものではありませんが、たまにはこういう作品もよいでしょう。
 「ふしぎ道士伝 八卦の空」の青木朋が作画担当ということで期待していた人情推理「幇間探偵しゃろく」の単行本第一巻でます。

 タイトルロールの舎六は、幇間という稼業でありながら、大の酒好きで皮肉屋、短気な男。野暮な客を怒鳴りつけることもしばしばという鼻つまみ者ですが、こと推理力においては天才的な男です。
 そんな舎六にまとわりつかれているのが、人は良いが頼りない、日本橋の大商店「和田宗」の次男坊・宗次郎。

 というわけで、本作では「舎六(しゃろく)」と「和田宗(わだそう)」、シャーロック・ホームズとワトスンをもじったこのコンビが昭和初期の向島を舞台に活躍することになります。

 「桜」「風鈴」「葛」「落鰻」「春芝居」「川開き」「夏畳」と、この第一巻に収録されたているエピソードは、タイトルを見ているだけで気分が良くなるようなものばかり。
 舎六が挑む事件も、殺人事件などの明らかな犯罪もありますが、事件に至らないような人の心の綾を扱ったものも多く、まずは人情推理ものといったところでしょう。

 そのため(?)お話的には甘々の内容も多いのですが、そこに舎六のちょっと毒のあるキャラクターが絡んで、ちょうどよい味つけ。
 さらに、何故か舎六は表に出ず、若旦那を名探偵に仕立て上げて、周囲に事件の真相を語らせるという変化球ぶりが楽しいのです。
(もっとも、その後、若旦那は舎六に一杯飲ませる羽目になるのですが…)

 さて、そんな本作で見落としてはならないのは、本作の設定年代が昭和初期ということでしょう。

 岡本綺堂先生の随筆などでも語られていることですが、古い東京は、関東大震災によって消え去ったといいます。
 本作で描かれる昭和初期は、それから数年後…大震災から見かけ上はほぼ復興したものの、しかしそれ以前とは全く同じではない――そしてそれからわずか後には暗い時代へと傾斜を強めていく――そんな時代に、舎六たちは生きています。

 そんな時代の有り様は、必ずしも作中で明確に描かれているわけではありませんが、しかし、古きものと新しきものの間、昼と夜の間の夕暮れの時代の空気というものがどこかしら感じられるというのは、さほど穿った見方ではないのでは…と感じる次第です。

「幇間探偵しゃろく」第1巻(青木朋&上季一郎 小学館ビッグコミックス) Amazon

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2010.07.10

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第04話「守れ!!霧の南蛮船」

 カルロスの黄金五十万両をなおも狙う幻妖斎。何事もなく出向する船だが、海上で怪しげな霧が発生し、その中から金目教の巨大船が出現する。船に潜入していた青影は、襲いかかる金目教の忍者に立ち向かう。海から参上した赤影だが、その前には霞丸が立ちふさがる。鬼念坊の怪力に苦しむ青影だが、そこに空から大凧に乗った白影が空から爆弾を降らせ、形勢逆転させる。不利と見た鬼念坊たちは撤退し、南蛮船は守られたのだった。

 前回に続き、南蛮商人カルロスの黄金五十万両を巡る影一族と金目教の攻防戦であります。
 前回、カルロスから船積手形を奪おうとしながらも赤影らに阻まれた幻妖斎。それでもあきらめない幻妖斎は、やまぶきに命じて船の出航日を探らせます。
 南蛮屋敷の宴会に紛れ込み、読唇術でその情報を仕入れるやまぶきさんはさすがに忍者…ですが、父の仇と信じ込んだ赤影を模した等身大の藁人形に手裏剣や刃を打ち込む姿はどうかと思います。

 それはさておき、金目教側に伝わってしまった出航日。しかしそれが伝わろうと伝わるまいと、その警備体制が厳重であるが故に小回りが利かず、何かあっても出航日を変えられないというのは面白い展開だと思います。

 さて、厳戒態勢が功を奏したか、無事南蛮船は出航――しかし、そのままでいくはずがないのはすぐに予想がつくこと。
 立ちこめる怪しい赤い霧の中から現れたのは、船首に巨大な龍の頭を戴き、巨大な櫓を二つも乗せたド派手な船…その直前、白影が赤影にもたらした情報には「怪しい船」が岬の洞窟に、とありましたが、本当に怪しい!

 その怪船に乗っていたのはもちろん金目教の忍者たち。今回の襲撃の司令官格である鬼念坊を中心に、無数の紫忍者(ザコ)、そしてやまぶきと霞丸も加わっています。
 これだけの忍者を向こうにまわしては、南蛮船の護衛も多勢に無勢。万が一のため積荷に紛れ込んでいた青影(何もなかったらどうするつもりだったんだろう…)が助っ人に加わりますが、その前に現れたのが鬼念坊であります。

 この鬼念坊も、特撮版から登場している由緒正しきキャラクター。名前からして恐ろしげな奴ですが、ビジュアル的にも、額に縦に入った傷も印象的な荒法師であります(しかし、数珠の真ん中に、牙を生やしたスマイリーフェイスが付いているのが妙にラブリー)。
 その大力で振り回す鎖鎌(またか!)の前に、青影もたじたじ。
 そこに海を泳いできた赤影が参上しますが、その前にはやまぶき、そして霞丸が立ち塞がります

 見るからに戦闘能力なさそうなやまぶきさんはともかく、霞丸は、幻妖斎も客分的に遇していたことから予想できたようにかなりの腕前。
 ビジュアル的にも構え的にも忍者には見えませんが、いずれにせよ剣の腕は赤影と互角、赤影憎しに凝り固まったやまぶきが余計な手出しをしなければ、勝負の行方はどうなったかわかりません。

 さて、引き続き苦戦している青影ですが、そこに思わぬ援軍が空から。そう、赤影で空といえば大凧、大凧といえば白影!
 というわけで本作ではガチムチのおじさん白い影がようやく登場であります。
 これまで各地で金目教を追っていた白影がここに合流、空から爆弾を降らせたり、素手で下忍をぶっ飛ばしたりと、外見通りの豪快ファイトです。

 影三人が揃っただけでも面倒なのに、そこにようやく奉行所の船も救援に駆けつけ、形勢不利と見た金目教は、実は鬼念坊が吐いていた赤い霧に紛れて逃げ出すのでした。


 白影が登場し、ようやく赤・青・白とそろい踏みした影の忍者。赤影とやまぶき、赤影と霞丸の因縁も生まれ、なかなか盛り上がって参りました。

 ちなみに今回、ようやく青影は源之介と赤影が似ていると気付きますが…そんなまさか、ねえ(この直前、剣術を教えてくれと言われて「そろばん読み書き飯のタネ 剣術剣法生兵法はケガの元」と歌い踊りだす源之介が楽しいのです)

 も一つ、声優の兼役がちょこちょこある本作ですが、今回、カルロスの用心棒の声が思いっきり塩沢さんだったのは、伏線なのかそうでないのか結構混乱しました…

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2010.07.09

「カミヨミ」第12巻 新皇と帝の間に

 明治の世に復活した平将門公を巡る「将門の首」編もいよいよクライマックス。太古の日月二つの神剣を巡る悲劇から、舞台は再び明治の帝都へと移り、意外な結末を迎えます。
 ついに完全体として復活し、通ろうとする者の命を奪う黒い壁で帝都を封鎖した将門公。かつて新皇として帝に刃を向けた公は、今再び、宮城におわす帝を襲わんとします。

 もちろん、この事態に手をこまねいている零武隊ではありません。懐かしの秘密兵器をもって迎撃体制を整え、さらにはあの人物までもが本領を発揮して(可哀想な子供たち…)活躍しますが――
 しかし、相手はパワーアップした天馬すら一撃で屠った将門公。鎧袖一触とはまさにこのことと、言わんばかりの力で突き進みます。
 最後の希望は、異形と化しながらも初代カミヨミの力で復活した天馬と、帝から三種の神器の一つ・八尺瓊勾玉(いかにも本作らしい異形の神器!)を与えられた帝月のみ――

 一方、冥府の女王と化した菊理のもとに現れたあの北の大国の使者の手には、もう一つの神器が…
 と、まさに事態は風雲急を告げることとなります。

 が、個人的には今回の「将門の首」編は、ちょっと残念な印象。
 「将門の首」本来のエピソードはともかく、この「カミヨミ」という物語全体の本筋――日月の神剣を巡る過去の物語、そして菊理の跳梁が並行して描かれることにより、将門公の存在感が薄れたように感じられるのです。

 こうした構成上の弱点(?)は、大河伝奇ものの後半にはまま見られるものではありますが…
(もっとも、それでも完全に食われたわけではない辺りは、さすが将門公と言うべきでしょうか)

 しかし、残念なままでは終わらないのが、やはり本作の本作たるゆえん。
 いかなる武力も退けた公の怒りを真に静め、板東の守護神としての心を取り戻したもの、そして、その将門公に対して、帝が手向けた言葉の内容――
 この巻のラストで描かれたそれが、実に実に良いのです。

 直球ストレートな展開の中に、こうしたハッとさせられるようなひねりを紛れ込ませてくるのは、本作の最大の魅力。
 これまでもエピソード毎にやられてきましたが、今回もきっちりとこのひねりの妙味を味合わせていただきました。まったく、これがあるからファンをやめられません。


 さて、次の巻より、いよいよ物語は最終章に突入します。
 将門公が消えてもなお残る帝都封鎖の障壁の意味は。果たして過去の悲劇は繰り返されるのか(飛天坊の正体はもしや…)、三種の神器が集まった時に何が起こるのか…

 最大最後の盛り上がりに期待します

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2010.07.08

「幕府隠密帳」 死闘、御庭番vs伊賀・甲賀

 激しい暗闘の末に八代将軍の座についた吉宗は、自らに直属の隠密として御庭番を設立する。しかし、かねてから幕府隠密役復帰を悲願としてきた伊賀と甲賀の忍者はこれに猛然と反発、次々と御庭番に対してテロを仕掛ける。御庭番は薮田助八を中心に、これに果然と立ち向かうが、事態は意外な方向に…

 南原幹雄先生の時代伝奇小説には、幕府、そして御三家に仕える忍者たちが凄絶な暗闘を繰り広げる作品群が、その一角を占めています。
 本作もその一つではありますが、戦い合う相手がかなり特殊な、一風変わった趣向の作品であります。

 舞台となるのは、享保年間の初期。徳川吉宗が将軍位についた、その直後のことであります。
 吉宗が行った改革には様々ありますが、その一つとして、御庭番の設置があることは、時代ものファンであればよくご存じでしょう。
 すっかり形骸化してしまった伊賀・甲賀に代わり、紀州からやってきた忍びたちを母体とするのが、彼ら御庭番であります。

 しかしその存在が、過去の栄光と誇りを抱きつつも、既に江戸城の雑役担当になり果てた伊賀・甲賀の末裔にとって面白いはずがない。

 かくて、伊賀と甲賀の忍者たちは、御庭番の権威失墜と自分たちの地位向上を狙い、次々とテロ活動を繰り広げることになります。
 本作は、御庭番と、その伊賀・甲賀との間に繰り広げられる暗闘の数々を描く連作集。実に、ともに幕府に仕える忍者同士が暗闘を繰り広げるという点に、本作の最大の特徴と面白さがあると言えます。

 しかし、御庭番がこの暗闘に敗北することは、単に彼らのみの地位の失墜に留まるものではありません。
 吉宗が設置した御庭番は、彼が行おうとする新政になくてはならぬ手足。その手足を失うことは、吉宗の改革の頓挫にも等しいのです。


 が――実にその点が、この戦いをさらに複雑なものと変えていきます。
 御庭番が将軍吉宗の隠密であるのならば、吉宗を将軍でなくすればよい…やがて伊賀と甲賀は、吉宗に将軍争いで敗れた尾張をバックに、吉宗暗殺を最大の目的に変えていくのです。

 まさに本末転倒、皮肉極まりない発想の転換ですが、しかしそれは、目的のためであれば手段を選ばない、忍者の生き方が招いた当然の帰結なのかもしれません。


 もっとも、相手への嫌がらせとして相手方の婦女子を辱める(それに対して同じやり方で報復する)という陰惨極まりない応酬にはうんざりとさせられるのですが…あるいは、戦場働きの血を強く残しすぎた者同士の悲劇なのでしょうか。


 前半は正直なところ単調ではありますが、後半の展開で救われた感がある作品でした。


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幕府隠密帳 (学研M文庫)

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2010.07.07

「霧幻の峠 五城組裏三家秘帖」 積み重なり、繋がる謎のゆくえ

 伊達家五城組裏三家の望月彦四郎は、藩内部で続く事件の真相を追い、仙台に向かう。一連の事件が、二十八年前の寛文事件に由来すると見た彦四郎は、その際に何らかの役割を果たしたという父に真相を問うが、彼は逆に、彦四郎がかつて朋輩と決闘する羽目になった風越峠の一件を追えと告げるのだった。

 私が新刊を楽しみしているシリーズの一つ、武田櫂太郎先生の「五城組裏三家秘帖」の新刊が、実に一年半ぶりに刊行されました。
 伊達家の監察機関・五城組の、その中でも隠密任務に携わる裏三家の一人、望月彦四郎を主人公にした、一種の時代ミステリであります。

 時は元禄の頃、伊達家の中で相次ぐ不審な事件。これまで二度にわたり、それが大事になることを防いできた彦四郎ですが、事件の背後にあるものは未だ明らかにならないまま…
 今回、彦四郎は裏三家の同輩であり兄貴分でもある片倉辰吾の言を受け、これまでの舞台であった江戸を離れ、仙台に帰国することになります。

 そこで彼が追うのは、二十八年前の寛文事件――いわゆる伊達騒動の真相。
 言うまでもなく伊達家を大いに揺るがせたお家騒動ですが、それが果たして今の事件にどのように繋がっているのか、それを探らんとした彦四郎は、その前に思わぬ謎に突き当たります。

 それは六年前、風越峠で彼自身の身に起きた事件――
 朋輩の石母田主税に執拗に絡まれた末、峠で決闘する羽目となり、木刀で主税を打ち据えた彦四郎。その後、主税は切腹した姿で発見され、事件は穏便に収められたものの、彦四郎は江戸に出されることとなった一件であります。

 実はこの事件自体は、シリーズの主人公たる彦四郎の背景事情としてこれまでも語られていたのですが、しかし、彼も、そして読者である我々も、既に終わった過去の事件と思っていたもの。
 一見全く関係のなかった事件、それも主人公の個人的な過去の事件と思われていたそれがが突然、現在の事件に繋がるものとして目の前に立ちはだかってくるという一種のダイナミズムが、本作の面白さの最たるものと感じます。

 そして、今と過去のリンクは、この点のみに留まりません。
 寛文事件、そして風越峠の事件と繋がるもの、一連の謎を解く鍵として描かれるのは、あの松尾芭蕉の「奥の細道」。
 芭蕉隠密説というのはいささかベタに感じられるかもしれませんが、「奥の細道」に記された小さな矛盾が、これも巨大な謎の一部として、彦四郎の前に現れます。

 寛文事件-奥の細道-風越峠の事件-そして今の事件へと…積み重なり、繋がったものが、巨大な謎を浮かび上がらせる様は、我々が普段使っているのとはまた異なる意味で「時代ミステリ」というものを感じさせてくれます。


 ただ残念なのは、今回浮かび上がったものが、まだ輪郭に留まることなのですが…
 舞台は再び江戸に戻ることを示唆して終わりますが、果たしてそこで描かれるものは何か?

 前作の感想でも書いてしまいましたが、本シリーズの唯一の欠点である、刊行間隔が長いという点を、次回はぜひ克服して、この謎のゆくえを早く明らかにしていただきたいものです。

「霧幻の峠 五城組裏三家秘帖」(武田櫂太郎 二見時代小説文庫) Amazon
霧幻の峠 五城組裏三家秘帖3 (二見時代小説文庫)


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2010.07.06

「勝負鷹 強奪二千両」 覆面作家の快作ケイパー・ノベル

 各地で「仕事」を行う凄腕の男・勝負鷹は、棒祭りで沸く鹿島神宮を訪れる。今回の彼の標的は、関東の名だたる親分衆が開く花会の寺銭二千両。だが、到着早々、仲間の一人が何者かに殺害され、鷹自身も襲撃を受ける。仕事の陰に危険な罠の存在を感じながらも、鷹と仲間たちは二千両強奪に命を賭けるが…

 まったく、いつ面白い時代小説が飛び出してくるかわからないものです。
 覆面作家・片倉出雲が先日光文社文庫から発表した本作「勝負鷹 強奪二千両」は、実にユニークな趣向を取り入れた、時代エンターテイメントの佳品であります。

 主人公・鷹(勝負鷹)は、前歴不明の謎の浪人。明晰な頭脳と、凄まじいまでの柔の技を持つ彼の稼業は、白波…簡単に言ってしまえば盗賊であります。
 しかし、彼が手を染めるのは、どでかいヤマばかり。今回の標的は何と二千両――それも、大前田の英五郎、笹川の繁蔵、飯岡の助五郎といった、大親分たちが開催する花会(天保水滸伝の「鹿島の棒祭り」「笹川の花会」が題材となっているのでしょう)の寺銭をかすめ取るという大仕事であります。

 そんな不可能に挑むのは、鷹のほか、五人の仲間たち。
 強奪計画を計画した謎の男「隠居」、変装と潜入を得意とする美女「百化けの早乙女」、アル中のの錠前破り「ウズメ屋季之助」、逃走経路を確保する「弓手の弥平次」、花会の参加者として手引きを行う貸元「牛久の清兵衛」――そんな個性的な面々が、強奪ミッションに挑むことになります。

 私は本作の解説等を読むまで、恥ずかしながらほとんど全く触れたことがなかったのですが、本作のような形式の作品をケイパー・ノベル(強奪小説)と呼ぶとのこと(映画でいえば、「オーシャンズ11」がまさにこのジャンルに当たるかと思います)。
 そんな私でも、そのケイパー・ノベル形式の時代小説がほとんど存在しないこと――すなわち、本作が極めて独創的なスタイルの作品であることはわかります。

 それだけでも評価は決まったようなものですが、しかし本作の面白さは、その点にとどまりません。

 何しろチームのメンバーが顔合わせする前に、このうちの一人が殺害され、さらにもう一人の犠牲者が…と、冒頭から波乱に次ぐ波乱の連続。
 そんな危機の中でも敢えて困難な仕事を遂行するのに並行して、鷹は一連の事件の背後にある陰謀を暴くため、推理を巡らせることとなります。

 つまり本作は、独創的な時代ケイパー・ノベルであると同時に、鷹を探偵役とした優れた時代ミステリとして成立していることとなります。

 花会の真っ最中に、別室から二千両を奪うというサスペンスフルな作戦の発動から、計画を破綻させかねない異変発生、そしてあまりにも意表を突いた「場」で行われる鷹の謎解きへと――
 二段構え、三段構えで雪崩れ込んでいくクライマックスの面白さは、まさに本作の二つの側面を、見事に象徴していると言えるのではないでしょうか。
(まあ、事件の黒幕の正体が、かなり早い段階で割れてしまうのはご愛敬)


 そしてもう一つ驚かされるのは、そんな快作を著した作者の正体が、謎のベールに包まれているということ。
 冒頭でも触れましたが、本作の作者・片倉出雲は覆面作家。既に百冊以上の作品を発表している作家の別ペンネームとのことで、確かにこのエンターテイメントとしての呼吸はベテランならでは…と納得するとともに、それがあえて覆面で登場するという点に、実に興味をそそられた次第です。
(それにしても、私も色々と考えてみたのですが、その正体は全くわからず――)

 しかし、その正体も含めて、これからが楽しみな作家がまた一人登場したことは、間違いありません。


 関東の名だたる親分衆に、図らずも名と顔を売ってしまった勝負鷹――それが彼の次なる仕事にとって吉と出るか凶と出るか?
 鷹の次なる冒険が少しで早く読めることを祈っている次第です。


「勝負鷹 強奪二千両」(片倉出雲 光文社文庫) Amazon
勝負鷹 強奪二千両 (光文社時代小説文庫)

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2010.07.05

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」を見終えて

 さて、「機巧奇傳ヒヲウ戦記」全編の感想…の前に、最終回とそれ以降についてであります。
 最終回でありながら、新展開の第一話とも言うべき内容が描かれたことの理由は――DVDボックスのブックレットに明記されています。
 本作の原作者であり、メインライターである會川昇氏によれば、本作は当初長いスパンで描かれる――ラストは大津事件まで至る!――四部構成だったものを、子供時代を中心に二部構成にしたもの。
 その第二部も当時は製作予定だったため、敢えて最終回はその予告編にした…と。

 最近のアニメでは、1stシーズン、2ndシーズンと間に期間をおいて制作される作品がありますが、本作もそういう構成を想定していたということでしょうか。
 それがなぜ1stシーズン止まりとなってしまったか――それは私にはわかりませんが、しかし、その理由如何に関わらず、私はそれなりに満足しています。
 ここまでの物語で、最低限描くべきは描かれた…そんな印象もあるからです。


 振り返ってみれば、本作は様々な側面を持つ作品でした。
 幕末という時代と、そこに生きた人々を描く歴史もの。その中で生きたヒヲウという純粋な少年の姿を描く成長もの。そのヒヲウと機の民が、歴史の流れに陰から関わっていく様を描く伝奇もの。そして、ヒヲウの操る炎の活躍を描くロボットもの――

 個々の要素については、これまでの各話紹介で折に触れて述べてきたのでここでは語りません。
 しかし振り返ってみれば、歴史上の事件や人物などドラマの題材が多く、作りやすいようでいて、その実、その史実にフィクションの部分が飲み込まれてしまう危険性も大きい幕末(伝奇)ものとして――こちらが驚くほどマイナーかつマニアックな題材を投入しつつ――本作が非常に高レベルでまとまっていたことは、間違いありません。

 それは一つには、自身が大の時代劇ファンである會川氏の時代劇に対するセンスというものがあるかとは思いますが、それ以上に、本作で描きたかったもの、描くべきものを、史実と虚構の双方に見事に具現化できていたことによるのではないかと感じます。

 本作で描かれた幕末という激動の時代――それまでの価値観が一変し、突如として外の世界の嵐に晒された当時の日本の姿は、そのまま、ヒヲウという少年の姿と重なります。
 それまで暮らしてきた世界を突然に失い、外に放り出された世間知らずの子供…それでいて、その身に不釣り合いな力を与えられたヒヲウが、本来であれば同族である風陣との戦いの中で如何に生き、如何にその力を用いるのか?

 それは成長ものとしての本作、そしてロボットものとしての本作の構造でもあったと同時に、幕末ものとしての本作の構造でもあったのです。


 さて、この全二十六話、正確には二十五話までで、そんなヒヲウの物語は、一つの結論を見たと言えます。機の民の掟という価値観と、幕末という時代、炎という力、そして己の想い――そのそれぞれに折り合いをつけ、ヒヲウは機の民という自分を捨てることなく、己の名前に込められた意味を踏まえた生き方を選びました。

 そこで、ヒヲウの成長物語、そしてロボットものとしての本作は、ひとまずの完結を見たと言って良いのではないでしょうか。
 それゆえの満足、であります。

 もちろん、生きる上での価値観を見出したとはいえ、ヒヲウの人生はまだまだこれからも続きます。
 その中では、これまでとは比べものにならないほど様々な事件と人々に出会い、様々な喜びや悲しみを味わい、その価値観もまた、様々に揺れ動くことでしょう。
 何よりも、戦を止めるはずのヒヲウの行為が元で父を失うこととなったアラシ、そしてヒヲウと共にありながら今は別の方向を見ているテツの二人が、ヒヲウの価値観もまた、一面的なものでしかないことを指摘していくことになるのでしょう。

 そして何より、幕末という時代はまだ続き、そして訪れる明治という時代も、また激動の中にあります。

 そんな中で力強く生きるヒヲウの姿をまだまだ見たいという気持ちも、今こうして本作を見直した今だからこそ、強く強く、本当に強くあります。


 …実は、本作を初めて見た時から、次回予告の「機巧はちょっぴり歴史を変える、かもね」というヒヲウの言葉がひっかかっていました。
 これだけ精緻に史実との整合性をとりつつ、もしかして本作はパラレルワールドを構築していくのかな…と。

 しかし、今回こうして見直した中で、考えを変えました。
 仮に史実、我々の現在の過去にあたるものを「正しい歴史」とすれば、それが生まれたのは、機巧の存在が、ヒヲウの冒険が、そうであったかもしれない歴史――そしてそれは、おそらくより多くの血が流され、悲しみに満ちたものだったのでしょう――を、ちょっぴり変えた結果なのではないか…と。

 もちろんそれは私の幸せな妄想に過ぎませんが、しかし、ヒヲウが江戸を焼く戦いの火を止める姿、ヒヲウ戦記の2ndシーズンを、どんな形でもいい、いつか見てみたいと、思うことくらいは許されるでしょう。

 いつか再び、機巧がちょっぴり歴史を変える様を目撃できることを、心より祈りつつ…

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機巧奇傳ヒヲウ戦記 DVD-BOX(下)


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2010.07.04

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第26話「さらば龍馬! やがて東京と呼ばれる町へ」

 竜馬の奔走で大政奉還が実現した頃、ヒヲウたちは十津川郷で暮らしていた。竜馬の誕生日を祝おうと近江屋を訪れたヒヲウは、しかしそこで謎の機巧に襲われ瀕死の竜馬を発見する。「炎はまた舞わねばならぬ」と末期の言葉を残す竜馬。犯人を探すヒヲウたちの前に現れた雪弥は、竜馬が江戸が燃えるかもしれないと語っていたと告げる。折しもマユが江戸に嫁入りするという今、ヒヲウは炎の封印を解き、江戸に向い旅立つ。

 半年に渡り紹介してきた「機巧奇傳ヒヲウ戦記」もこれで最終回ですが…これがいつにも増して盛りだくさん。上のあらすじもずいぶん削りましたが、ある意味本作らしく、最後の最後までぎゅっと詰まった回であります(が…)

 さて、その最後のOPは、まさかのスペシャル、竜馬バージョン。
 いつものOP曲に合わせて、忙しくかけずり回る竜馬の姿に象徴されるように、長州での戦いから目まぐるしく時間は流れ――その中で寺田屋での竜馬襲撃の一件も描かれますが、さすがにおりょうさんは羽織ってましたね――ついに竜馬は、大政奉還を実現します。

 その頃、ヒヲウたちはといえば、前回のラストに描かれたように、十津川郷に作った新しい機の民の村で平和に生活していました。
 おや、竜馬と十津川郷と言えば…

 さて、最初の旅から五年半の時が流れ、ヒヲウたちもずいぶん成長しました。
 皆元気ではありますが、それぞれに時間の流れを感じさせる中、一番変わったのはテツでしょう。
 マスコットキャラぶりはどこへやら、姿はかつてのヒヲウと瓜二つながら喋りはですます調、グッと優等生チックになった彼は、寺田屋事件の時にも竜馬の傍にいたり、薩摩の志士たちと面識があったりと、一番積極的に世の中に――というより倒幕側に――関わっている様子です。

 そんなテツに引きずられて薩摩屋敷に行ったヒヲウは、そこで西郷(弟)たちから、炎を出して欲しいと依頼されます。
 どうやらヒヲウによりどこかに祀られた(封印された)らしい炎ですが、薩摩は御印として使おうという腹づもり。
 確かに、かつて帝の傍に仕えた機の民の象徴とも言える炎が薩摩につけば、単純な戦力以上の力となることでしょうが…もちろんヒヲウはこれを拒絶します。

 さて、折しも時は竜馬の誕生日。近江屋に竜馬が滞在していることを知ったヒヲウとシシは、お祝いに行く約束をしますが…

 そして運命の日、近江屋を訪れる十津川郷士を名乗る者…が、扉を破って現れたのは、ムカデヘビ機巧でありました。
 そんなことになっているとはつゆ知らず、近江屋を訪れたヒヲウたちが見たものは、朱に染まった竜馬。
 竜馬は、懐中に収められていた物をヒヲウに託し、そして「炎はまた舞わねばならぬ」と謎めいた言葉を残して息を引き取ります。

 と、犯人を求めて表に飛び出したヒヲウの前に現れたのは、西洋甲冑と駝鳥を合わせたような奇妙な機巧・甲冑恐竜に乗ったアラシ。
 実にタイミングよく居合わせたアラシですが、竜馬殺しは否定し、いずこかへ去っていきます。
 今回、彼の出番これだけ…

 それはさておき、かすかな手がかりを元に、犯人を追うヒヲウたちは、所司代では松平定敬と服部正義、新選組屯所では原田左之助と懐かしい顔には出会ったものの、収穫はなく、かえって自分たちが犯人として疑われていると知ります。
(しかし、十津川郷の者が近江屋を訪れることを知っている者はごくごく限られているはず…と思うと、恐ろしい考えになってしまうのですが今は伏せましょう)

 そんな中、ヒヲウたちの前に現れたのは、藩主となった雪弥と、美しい姫君姿の華。雪弥は、かつて竜馬が「江戸が燃えるかもしれない」と語っていたと告げます。

 この言葉と、末期の言葉…竜馬の二つの言葉から、ヒヲウは、江戸で戦いが起きようとしていることを悟ります。そして竜馬がそれを止めようとしていたことを…

 江戸はこれからマユが嫁入りする地。サイとジョウブも彼女を送って江戸に向います。
 彼らを――そして、江戸でごく普通に暮らしている人々の幸せを守るため、ヒヲウはついに炎の封印を解くことを決意します。

 その時を窺っていた風陣残党のアカとヌエ(懐かしい!)の機巧を一蹴したヒヲウは、同行を申し出た華を一行に加え、江戸に旅立ち――その場面で、この最終回は、「機巧奇傳ヒヲウ戦記」は幕となります。


 …ええっ、これで終わり!? と唖然とした当時の視聴者の顔が浮かぶようですが(というか私も唖然とした)、本作は、いわば第二部の第一話の時点で、終了したことになります。
 これは当時、散々批判の声があったこともよくわかりますが…それを十年後に言っても仕方ありますまい。

 予想されるその後の展開と、そして本作全体の感想は、長くなりましたので、稿を改めることといたします。

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2010.07.03

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第03話「狙われた黄金五十万両」

 堺の町に見物に出かけた青影と源之介。そこで何者からの手紙を受け取った青影は、影一族の集合場所である唐国屋で赤影とカラクリ富蔵に出会う。富蔵から、五十万両の黄金を積んだ南蛮商人カルロスの船が金目教に狙われていると聞かされた青影。しかし彼が金目教のやまぶきと戦っている間に、カルロスが八つ身の藤十郎に襲われる。そこに現れた赤影は藤十郎の分身の術を破り、カルロスを守り抜くのだった。

 舞台を堺に移して第三話であります。さすがに前二回とはパターンを変えて、今回の物語の中心となるのは、貿易で巨利を挙げた南蛮商人を狙う金目教と、赤影・青影の戦いであります。

 強面の眼帯、しかも声が大塚周夫という時点でどうみても悪役の幻妖斎は配下のくノ一・やまぶきに対しては、平等主義者的な顔で、貧しい人から暴利を貪る南蛮商人どもに天誅を! と焚きつけます。
 このやまぶきは、前回登場して、味方であるはずのガマ法師のバックアタックで殺された忍者・一剣の娘。
 赤影に一剣は殺されたというガマ法師の嘘を真に受けているのをいいことに、幻妖斎は、やまぶきの赤影への憎悪を煽ります。

 ちなみに第一話から意味ありげに登場している美剣士・霞丸(声はもちろん塩沢さん(涙))は、どうやら客分といったところらしく、幻妖斎の彼に対する態度も恭しげ。
 しかし霞丸も真犯人の正体を知っているのだから、やまぶきに話してやればいいものを…

 一方、青影と源之介は、堺に来たばかりのあかねと正太を連れて町の見物へ。
 この辺り、比較的どうでもいいギャグシーンが続きますが、その中で、青影でも一個も取れなかった玉投げの景品を、飄々とした源之介がただの一投で全部取ってしまうというシーンは、ちょっと面白いと思いました。

 と、何処からか投じられた手裏剣に結びつけられた手紙に従い、唐国屋という店に向かう青影。
 その地下で青影を待っていたのは、赤影と、カラクリ富蔵という男。富蔵は影一族のための武器制作者(007のQみたいなもの?)兼連絡役といったところでしょうか、赤影と青影は、彼から南蛮商人カルロスが狙われていることを聞かされます。

 この南蛮商人カルロス、声が銀河万丈という時点で危険な予感がしますが、今回の時点では良い人っぽい印象。
 しかし黄金五十万両という利益を挙げたことから、その船積手配書を狙う金目教の襲撃を受けて、供を皆殺しにされてしまいます。
 この襲撃者のリーダーは、真っ赤な忍者装束の八つ身の藤十郎という男、そのネーミングから容易に想像がつきますが、得意技は分身の術。
 しかもこの術、ご丁寧に分身毎に色が違うという派手なもので、カラーリング的には、一人多いものの、レインボーマンを思い出させます。

 いや、本体が赤で分身の色が違うんだったら簡単に本体がバレるのでは…というのは素人考えなのでしょう、赤影を取り囲んで周囲をグルグル回るという攻撃に、さしもの赤影もたじたじであります。
 …が、ここで頼りになるのは飛騨忍法「乱れ髪」。分身したんだったら全員捕まえてしまえばいいじゃない、とばかりに全員に絡みついた髪は、本体を発見し、追い詰められた藤十郎と赤影は空中で一瞬の交錯!

 着地した藤十郎、不敵に笑ったと思ったら次の瞬間、ウッときて倒れるのでした。
(赤影の周囲をグルグル走ったりこの倒され方といい、基本に忠実な奴だったなあ…)


 さて、今回は守り抜かれた五十万両ですが、まだまだ油断はできません。次回にもこのエピソードは引っ張られる模様です。

 …そして、やまぶきや藤十郎を陰から見張っていたのに戦闘シーンには登場しなかった白い衣装の謎のおっさんは一体何者でしょうね(棒)

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2010.07.02

「おそろし 三島屋変調百物語事始」 歪みからの解放のための物語

 実家で起きたある事件をきっかけに心を閉ざし、江戸の袋物屋・三島屋の叔父夫婦に預けられたおちか。そんな彼女がある客の応対をしたことをきっかけに、叔父は、人々が心の中に抱いている奇怪な物語・不思議な物語を聞くよう彼女に言いつける。人々の語る物語は、少しずつ彼女の心を溶かしていくが…

 先日、宮部みゆき先生の「おそろし」が新書版で刊行されました。以前から読もう読まねばと思いつつも果たせずにいたのですが、この機会にようやく読むことができました。

 ある悲しい体験がきっかけで己の心を閉ざした少女・おちかを主人公に、彼女が、そして様々な人々が経験し、胸の奥に秘めてきたおそろしい物語、怪談奇談が描かれていく、短編連作に近いスタイルの作品であります。

 通常の百物語が、人々が一堂に会して一晩で百話の怪談を語るのに対し、副題にある「変調百物語」とは、語り手が一人一人三島屋を訪れ、おちかに怪談を語るというもの。
 そんなおかしな会が始まるきっかけとなったのが、第一話「曼珠沙華」であります。

 叔父・伊兵衛が留守の間に訪れた客を応対することとなったおちか。何故か曼珠沙華を異常に恐れるその客は、おちかに何かを感じ取ったものか、それまで誰にも語ったことのない、過去の物語を彼女に語り始めます。

 そして、同じような想いを抱える人々の物語を聞くことが、おちかの頑なだった心を開くことを期待して、伊兵衛が始めたのが変調百物語であります。

 破格の謝礼目当てに不思議な屋敷に住んだ一家の辿る奇怪な運命を描く「凶宅」、おちか自身が三島屋の女中に語る自らの物語「邪恋」、美しすぎる娘の禁断の恋と彼女の残した手鏡が生んだ破滅を語る「魔鏡」、そして全ての物語が絡み合い、魂の救済が描かれる「家鳴り」――

 これら、本作に収録されている五つの物語は、いずれもバラエティに富んだ内容ですが、しかし一つの共通項を持ちます。
 本作で語られる物語は――主人公であるおちかの経験したそれも含めて――いずれも、家族に、家に縛られた者の物語なのです。

 家族という血の繋がり、それを内に収めた家という空間――社会の最小の単位であるそれは、人間にとって当然のもの、あるべきものではありますが、しかし、そこからはみ出した部分があった時…その歪みが生んだ悲劇が、本作では語られていきます。

 もっとも、そんな中で第二話は、「家」を舞台にしたものと言い条、その「家」は、外に存在して、その内部に人々を招き入れるものであるという性質を考えれば、いささか趣向を異にするものであるよう感じられます。

 しかし、その違和感もまた、ある程度は計算されたものなのでしょう。
 最後の物語によって描かれるのは、その「家」からの――そしてそれと等しいものとして見ることができる――おちかをはじめとして全ての人々が己を縛り付けてきた己自身の物語からの、解放なのですから――
(もっとも、それでもやはり、構成についてはなにがしかの違和感は残るのですが)


 百物語という行為――人の物語を聞き、記憶するという行為を通じて、自分たちを取り巻く家族の、家の生み出した歪みに囚われた人々を解放したおちか。

 しかし、変調百物語はまだ始まったばかり。おちかがこの先も生きていく限り、そして人が人であり続ける限り、百物語は続きます。
 近日中に本作の続編も刊行されますが、この先も彼女を、彼女が受け止める怪異譚を見守っていきたいと思います。共に百物語を聞く者として…

「おそろし 三島屋変調百物語事始」(宮部みゆき 新人物往来社新人物ノベルス)
おそろし (新人物ノベルス)

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2010.07.01

七月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 今年の春はやけに寒い日が続きましたが、ようやく例年並みの気温になって、季節の花も色々咲きました…と思えば、もう七月。今年も半分過ぎてしまったわけで、色々と愕然としますが、そんな気持ちを抑えて七月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。(敬称略)

 …と、いきなりですが文庫小説は時代伝奇的観点からするとほぼ壊滅状態。数少ない希望は、ある意味わかりやすいタイトルの「若さま同心徳川竜之介」シリーズの最新刊「片手斬り」と、こちらはそろそろ結末っぽいタイトルの「佐和山物語」シリーズ最新刊「時の花嫁とはじまりの歌」くらいという状況…
 あとは先月の「空色勾玉」に続き刊行の「白鳥異伝」、発売が一ヶ月延びた角川文庫の山田風太郎コレクションくらいでしょうか。

 むしろ七月は、単行本の方がすごい。夢枕獏の「天海の秘宝」(最初空海の秘宝と空目しました。そりゃ別のシリーズだ)、京極夏彦の「西巷説百物語」、宮部みゆきの「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」、畠中恵の「ゆんでめて」、そして荒山徹の「柳生大作戦」改め「石田三成(ソクチョンサムスン)」(しかし、このタイトル変更だけはないよなあ…)と、注目の作品、シリーズ最新作が目白押しであります。


 一方、漫画の方は、豊作すぎた六月ほどではないものの、個人的に注目作が多く登場です。
 まず初登場としては、一部で話題沸騰の時代伝奇クトゥルー漫画「伴天連XX」の第1巻。ここまで直球の時代クトゥルー漫画も珍しいのではないでしょうか?(と、思いきや…)
 もう一つ、これは1冊で完結ですが、猫絵十兵衛の永尾まるの「開花あやし事件帖」も非常に楽しみであります。

 また、シリーズものの続巻としては、連載は終了するものの続くらしい(?)「怪異いかさま博覧亭」5をはじめ、「夕ばえ作戦」3「真田十勇士」3「幕末めだか組」3、も一つおまけに「月の蛇」3と、3巻が続きますがこちらも期待しているところです。

 と…復刊の方では、ある意味伝説の作品が登場。森田信吾のあのカルト的怪作「幕末世界 攘夷」が何故か今! 復活であります。
 だいぶ以前に当ブログで紹介しましたが、夷狄が本当に怪物だった世界を舞台に、粘液と電波が充満したアクションが繰り広げられるという悪夢のような作品。クトゥルーものに通じる感覚もあり、そちらがお好きな方にもおすすめであります。


 映像作品の方では、大映の「大魔神」三部作が登場。やー、時代劇でちゃんと魔神様が大暴れする大魔神はやっぱりいいなあ。


 ゲームの方では、色々物議を醸しつつも期待を集めてきた「戦国BASARA3」が登場。私はせっかくだからWii版を選ぶぜ!(ちなみに同日にベスト版で「戦国無双2」が発売されるのにはちょっと噴きました)


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