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2010.07.15

「佐和山物語 時の花嫁とはじまりの歌」 美しき時渡りの結末

 直継に別れを告げ、自分の時間へ還っていったあこ。それから一ヶ月半後、役目で伏見に出向いていた直継は、あこと再会する。しかし彼女は、直継と別れる少し前からの記憶を失っていた。果たして彼女に何が起こったのか、そして江戸から輿入れしてくる鳥居家の姫との関係は、そして三成の陰謀の行方は…

 佐和山を舞台に、井伊直政の子・直継と、鳥居元忠の孫娘・あこの間の純愛模様を描いた佐和山物語も、この五巻目で一区切り。二人の想いの行方と、あこの時渡りの秘密が物語られます。

直継と心を強く強く結びつけながらも、それ故に別れを――自分の時間・自分の世界に戻ることを――選び、前作ラストで直継と別れを告げたあこ。
 そして一ヶ月半後、本作の前半で描かれるのは、伏見で幕府の権威失墜を狙ってのテロに暗躍する三成・吉継・左近と、直継の決戦…なのですが、そこに何故か伏見に現れたあこが絡んでくるのが面白い。

 佐和山に現れたあこは自分の時間に戻り、いま江戸から輿入れしてくる「鳥居家の姫」は、直継が恋したあこと同一人物とは限らない――というよりそうでない可能性の方が高い。
 しかし、突如伏見に現れた彼女は、直継と別れる直前までの記憶を持っている存在だったのです。

 二人が元のままの二人として再会できる、その可能性は限りなく低い――彼女の時渡りは、単純な時間移動というより、パラレルワールド間の移動に近い――にもかかわらず、彼女と再会できたというのは一種の奇跡。しかし、彼の時間では、既に「鳥居家の姫」が許嫁として存在している…
 既にこうなることはわかっていたとはいえ、揺れ動く直継の心を未練と切り捨てることは、これまでのシリーズ読者であればできますまい。この辺り、なかなかにうまい設定であります。


 このように時渡りにまつわる物語は、ラストに来て大いに盛り上がるのですが、しかし、一冊の小説として見た場合、バランスは良くないというのが正直な感想であります。

 あこが伏見に登場することとなった、そのからくりはかなり面白いのですが、これまで佐和山で展開してきた物語の流れと比べると、いささか唐突な印象は否めません。また、この伏見パートに登場するキャラクターも、立ち位置が今ひとつ不明確なのが気になります。
(前者は、直継の心を揺らすための要素と三成との決戦の布石として、後者は、あこが祖父の死を乗り越えたことを示すため、と理解できなくもないのですが…)

 また、後半で描かれる時渡りの真相も、入り組み過ぎている上、謎解き役の主馬の存在感が大きすぎるのが気になるところ(作者が気に入ってしまったか、読者の要請かわかりませんが、猫神様との関係まで描くのは贔屓が過ぎるような)。
 ある意味、伏線をきちんと解決しておきたい、作者の律儀さの表れではあるとは思うのですが…


 しかし、それでもなお、私は本作が愛すべき作品と感じます。
 それだけ、ここに解き明かされた時渡りの真相は美しい形をしているのですから。

 それぞれに年齢に不似合いなほど大きすぎるものを背負い、孤独の中にあった二つの魂が出会い、分かちがたいものとして結びつく…それは確かに、時の環の中の出来事かもしれませんが、しかし、どこまでも互いを、人を想う心が、二人を、そして周囲の人々を結びつけ、ついには可能性の壁を乗り越えて奇跡を起こす――

 時の流れ――これほど単純で、巨大な恋の障害があるでしょうか――を乗り越えた二人の想いは、何よりも貴く、美しいものではありませんか。


 ベタもベタ、大甘ではあります。結果オーライではあります。しかし、本シリーズの読者皆が求めるのはまさにこの結末だったでしょう。

 実は本作は、時渡りの物語の完結編ではありますが、「佐和山物語」の最終巻ではないとのこと。最終巻は、二人のその後の物語等を収めた短編集となるとのことですが――この山盛りの幸福感が薄れることのない結末を期待します。

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