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2010.07.07

「霧幻の峠 五城組裏三家秘帖」 積み重なり、繋がる謎のゆくえ

 伊達家五城組裏三家の望月彦四郎は、藩内部で続く事件の真相を追い、仙台に向かう。一連の事件が、二十八年前の寛文事件に由来すると見た彦四郎は、その際に何らかの役割を果たしたという父に真相を問うが、彼は逆に、彦四郎がかつて朋輩と決闘する羽目になった風越峠の一件を追えと告げるのだった。

 私が新刊を楽しみしているシリーズの一つ、武田櫂太郎先生の「五城組裏三家秘帖」の新刊が、実に一年半ぶりに刊行されました。
 伊達家の監察機関・五城組の、その中でも隠密任務に携わる裏三家の一人、望月彦四郎を主人公にした、一種の時代ミステリであります。

 時は元禄の頃、伊達家の中で相次ぐ不審な事件。これまで二度にわたり、それが大事になることを防いできた彦四郎ですが、事件の背後にあるものは未だ明らかにならないまま…
 今回、彦四郎は裏三家の同輩であり兄貴分でもある片倉辰吾の言を受け、これまでの舞台であった江戸を離れ、仙台に帰国することになります。

 そこで彼が追うのは、二十八年前の寛文事件――いわゆる伊達騒動の真相。
 言うまでもなく伊達家を大いに揺るがせたお家騒動ですが、それが果たして今の事件にどのように繋がっているのか、それを探らんとした彦四郎は、その前に思わぬ謎に突き当たります。

 それは六年前、風越峠で彼自身の身に起きた事件――
 朋輩の石母田主税に執拗に絡まれた末、峠で決闘する羽目となり、木刀で主税を打ち据えた彦四郎。その後、主税は切腹した姿で発見され、事件は穏便に収められたものの、彦四郎は江戸に出されることとなった一件であります。

 実はこの事件自体は、シリーズの主人公たる彦四郎の背景事情としてこれまでも語られていたのですが、しかし、彼も、そして読者である我々も、既に終わった過去の事件と思っていたもの。
 一見全く関係のなかった事件、それも主人公の個人的な過去の事件と思われていたそれがが突然、現在の事件に繋がるものとして目の前に立ちはだかってくるという一種のダイナミズムが、本作の面白さの最たるものと感じます。

 そして、今と過去のリンクは、この点のみに留まりません。
 寛文事件、そして風越峠の事件と繋がるもの、一連の謎を解く鍵として描かれるのは、あの松尾芭蕉の「奥の細道」。
 芭蕉隠密説というのはいささかベタに感じられるかもしれませんが、「奥の細道」に記された小さな矛盾が、これも巨大な謎の一部として、彦四郎の前に現れます。

 寛文事件-奥の細道-風越峠の事件-そして今の事件へと…積み重なり、繋がったものが、巨大な謎を浮かび上がらせる様は、我々が普段使っているのとはまた異なる意味で「時代ミステリ」というものを感じさせてくれます。


 ただ残念なのは、今回浮かび上がったものが、まだ輪郭に留まることなのですが…
 舞台は再び江戸に戻ることを示唆して終わりますが、果たしてそこで描かれるものは何か?

 前作の感想でも書いてしまいましたが、本シリーズの唯一の欠点である、刊行間隔が長いという点を、次回はぜひ克服して、この謎のゆくえを早く明らかにしていただきたいものです。

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