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2010.07.05

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」を見終えて

 さて、「機巧奇傳ヒヲウ戦記」全編の感想…の前に、最終回とそれ以降についてであります。
 最終回でありながら、新展開の第一話とも言うべき内容が描かれたことの理由は――DVDボックスのブックレットに明記されています。
 本作の原作者であり、メインライターである會川昇氏によれば、本作は当初長いスパンで描かれる――ラストは大津事件まで至る!――四部構成だったものを、子供時代を中心に二部構成にしたもの。
 その第二部も当時は製作予定だったため、敢えて最終回はその予告編にした…と。

 最近のアニメでは、1stシーズン、2ndシーズンと間に期間をおいて制作される作品がありますが、本作もそういう構成を想定していたということでしょうか。
 それがなぜ1stシーズン止まりとなってしまったか――それは私にはわかりませんが、しかし、その理由如何に関わらず、私はそれなりに満足しています。
 ここまでの物語で、最低限描くべきは描かれた…そんな印象もあるからです。


 振り返ってみれば、本作は様々な側面を持つ作品でした。
 幕末という時代と、そこに生きた人々を描く歴史もの。その中で生きたヒヲウという純粋な少年の姿を描く成長もの。そのヒヲウと機の民が、歴史の流れに陰から関わっていく様を描く伝奇もの。そして、ヒヲウの操る炎の活躍を描くロボットもの――

 個々の要素については、これまでの各話紹介で折に触れて述べてきたのでここでは語りません。
 しかし振り返ってみれば、歴史上の事件や人物などドラマの題材が多く、作りやすいようでいて、その実、その史実にフィクションの部分が飲み込まれてしまう危険性も大きい幕末(伝奇)ものとして――こちらが驚くほどマイナーかつマニアックな題材を投入しつつ――本作が非常に高レベルでまとまっていたことは、間違いありません。

 それは一つには、自身が大の時代劇ファンである會川氏の時代劇に対するセンスというものがあるかとは思いますが、それ以上に、本作で描きたかったもの、描くべきものを、史実と虚構の双方に見事に具現化できていたことによるのではないかと感じます。

 本作で描かれた幕末という激動の時代――それまでの価値観が一変し、突如として外の世界の嵐に晒された当時の日本の姿は、そのまま、ヒヲウという少年の姿と重なります。
 それまで暮らしてきた世界を突然に失い、外に放り出された世間知らずの子供…それでいて、その身に不釣り合いな力を与えられたヒヲウが、本来であれば同族である風陣との戦いの中で如何に生き、如何にその力を用いるのか?

 それは成長ものとしての本作、そしてロボットものとしての本作の構造でもあったと同時に、幕末ものとしての本作の構造でもあったのです。


 さて、この全二十六話、正確には二十五話までで、そんなヒヲウの物語は、一つの結論を見たと言えます。機の民の掟という価値観と、幕末という時代、炎という力、そして己の想い――そのそれぞれに折り合いをつけ、ヒヲウは機の民という自分を捨てることなく、己の名前に込められた意味を踏まえた生き方を選びました。

 そこで、ヒヲウの成長物語、そしてロボットものとしての本作は、ひとまずの完結を見たと言って良いのではないでしょうか。
 それゆえの満足、であります。

 もちろん、生きる上での価値観を見出したとはいえ、ヒヲウの人生はまだまだこれからも続きます。
 その中では、これまでとは比べものにならないほど様々な事件と人々に出会い、様々な喜びや悲しみを味わい、その価値観もまた、様々に揺れ動くことでしょう。
 何よりも、戦を止めるはずのヒヲウの行為が元で父を失うこととなったアラシ、そしてヒヲウと共にありながら今は別の方向を見ているテツの二人が、ヒヲウの価値観もまた、一面的なものでしかないことを指摘していくことになるのでしょう。

 そして何より、幕末という時代はまだ続き、そして訪れる明治という時代も、また激動の中にあります。

 そんな中で力強く生きるヒヲウの姿をまだまだ見たいという気持ちも、今こうして本作を見直した今だからこそ、強く強く、本当に強くあります。


 …実は、本作を初めて見た時から、次回予告の「機巧はちょっぴり歴史を変える、かもね」というヒヲウの言葉がひっかかっていました。
 これだけ精緻に史実との整合性をとりつつ、もしかして本作はパラレルワールドを構築していくのかな…と。

 しかし、今回こうして見直した中で、考えを変えました。
 仮に史実、我々の現在の過去にあたるものを「正しい歴史」とすれば、それが生まれたのは、機巧の存在が、ヒヲウの冒険が、そうであったかもしれない歴史――そしてそれは、おそらくより多くの血が流され、悲しみに満ちたものだったのでしょう――を、ちょっぴり変えた結果なのではないか…と。

 もちろんそれは私の幸せな妄想に過ぎませんが、しかし、ヒヲウが江戸を焼く戦いの火を止める姿、ヒヲウ戦記の2ndシーズンを、どんな形でもいい、いつか見てみたいと、思うことくらいは許されるでしょう。

 いつか再び、機巧がちょっぴり歴史を変える様を目撃できることを、心より祈りつつ…

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