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2010.07.23

「玉精公記」 封印されたもう一つの公記

 死の床にある「信長公記」の作者・太田牛一が、謎の老僧の求めにより語り始めたもう一つの「信長公記」。信長は若き日に八尺瓊勾玉の正体である紅の碁盤と出会い、その精・玉精と契約を交わしたのだ。玉の導きを受け、天下統一まであとわずかと迫った信長の前に、玉の宿敵である鏡の力を持つものが…

 「囲碁漫画原作大賞」グランプリを小説化したという、いささかユニークな由来の作品であります。
 信長の家臣であった太田牛一の手になる「信長公記」は、今なお信長に関する第一級の史料として伝わっていますが、その牛一が封印していたもう一つの公記があった! という、実に興味深い設定の作品です。

 かつて信長がうつけ者と呼ばれていた頃、夢に導かれるように向かった熱田神宮の地下で信長が出会ったもの――
 それは、三種の神器の一つ・八尺瓊勾玉、しかしてその正体は、神代の昔に大陸から我が国に伝来した、紅の碁盤…
 天智帝が熱田神宮に封印して以来眠りについていた碁盤は、今自らの下僕として天下を治めるに相応しい者として信長を選び、招いたのでありました。

 そして、その碁盤の精――玉精の言を受け入れ、血の盟約を交わした信長に対し、彼を補佐する者として玉精が遣わしたのは、牛の魔物と猿の魔物…
 もうおわかりでしょう、この魔物にそれぞれ憑かれた者たちこそ、太田牛一と木下藤吉郎。この二人と玉精の力を借りて、信長は天下統一に乗り出すことになります。

 さて、勾玉の正体が碁盤というのは、お題ありきの作品とはいえ強引のように見えるかもしれません。
 しかし碁盤の目の数が一年の日数を象徴するのをはじめ碁盤がこの世界を象徴していること、そしてそもそも囲碁はその碁盤を通して天と交信するものであったことなどを語られると、なるほどそういうものでもあるか…と感心させられます。
(信長が天意を知るのが、牛一と囲む碁盤を通じて、というのがなかなか面白いのです)

 何よりも、己の意志を持ち、盤の裏の「血だまり」に、盟約者の血を本当に溜めて吸い取る碁盤、というというだけで、何だかゾクゾクするではありませんか。


 …が、それで本作が素晴らしく面白いか、といえば、残念ながら否、というのが正直なところであります。

 そもそも、うつけだった信長が、超越的存在の庇護を得て超人的な力を振るう、という作品は、存外多いもの。
 確かに上に述べた通り、その存在が碁盤、というのはオリジナリティがありますし、後半登場する碁盤=玉の宿敵が鏡、というのもやはり面白い設定です。

 しかし、そこ止まりになっているが何とももったいないのです。結局、史実に鏡と玉を当てはめて語るのに終始してしまったと言いますか…
(鏡の盟約者に選ばれるのが××××というのも、すぐ予想がつくことですし…)

 設定は良かったのですが、それを物語に結びつけるのが今一つであった、と言うべきでしょうか。
 神器たちと人とのかかわり合い、神器が存在する意味などを掘り下げれば、あるいは…と感じるだけに、勿体ないお話であります。

「玉精公記」(大石直紀&帯坂篁太郎 小学館文庫) Amazon
玉精公記 (小学館文庫)

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