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2010.07.06

「勝負鷹 強奪二千両」 覆面作家の快作ケイパー・ノベル

 各地で「仕事」を行う凄腕の男・勝負鷹は、棒祭りで沸く鹿島神宮を訪れる。今回の彼の標的は、関東の名だたる親分衆が開く花会の寺銭二千両。だが、到着早々、仲間の一人が何者かに殺害され、鷹自身も襲撃を受ける。仕事の陰に危険な罠の存在を感じながらも、鷹と仲間たちは二千両強奪に命を賭けるが…

 まったく、いつ面白い時代小説が飛び出してくるかわからないものです。
 覆面作家・片倉出雲が先日光文社文庫から発表した本作「勝負鷹 強奪二千両」は、実にユニークな趣向を取り入れた、時代エンターテイメントの佳品であります。

 主人公・鷹(勝負鷹)は、前歴不明の謎の浪人。明晰な頭脳と、凄まじいまでの柔の技を持つ彼の稼業は、白波…簡単に言ってしまえば盗賊であります。
 しかし、彼が手を染めるのは、どでかいヤマばかり。今回の標的は何と二千両――それも、大前田の英五郎、笹川の繁蔵、飯岡の助五郎といった、大親分たちが開催する花会(天保水滸伝の「鹿島の棒祭り」「笹川の花会」が題材となっているのでしょう)の寺銭をかすめ取るという大仕事であります。

 そんな不可能に挑むのは、鷹のほか、五人の仲間たち。
 強奪計画を計画した謎の男「隠居」、変装と潜入を得意とする美女「百化けの早乙女」、アル中のの錠前破り「ウズメ屋季之助」、逃走経路を確保する「弓手の弥平次」、花会の参加者として手引きを行う貸元「牛久の清兵衛」――そんな個性的な面々が、強奪ミッションに挑むことになります。

 私は本作の解説等を読むまで、恥ずかしながらほとんど全く触れたことがなかったのですが、本作のような形式の作品をケイパー・ノベル(強奪小説)と呼ぶとのこと(映画でいえば、「オーシャンズ11」がまさにこのジャンルに当たるかと思います)。
 そんな私でも、そのケイパー・ノベル形式の時代小説がほとんど存在しないこと――すなわち、本作が極めて独創的なスタイルの作品であることはわかります。

 それだけでも評価は決まったようなものですが、しかし本作の面白さは、その点にとどまりません。

 何しろチームのメンバーが顔合わせする前に、このうちの一人が殺害され、さらにもう一人の犠牲者が…と、冒頭から波乱に次ぐ波乱の連続。
 そんな危機の中でも敢えて困難な仕事を遂行するのに並行して、鷹は一連の事件の背後にある陰謀を暴くため、推理を巡らせることとなります。

 つまり本作は、独創的な時代ケイパー・ノベルであると同時に、鷹を探偵役とした優れた時代ミステリとして成立していることとなります。

 花会の真っ最中に、別室から二千両を奪うというサスペンスフルな作戦の発動から、計画を破綻させかねない異変発生、そしてあまりにも意表を突いた「場」で行われる鷹の謎解きへと――
 二段構え、三段構えで雪崩れ込んでいくクライマックスの面白さは、まさに本作の二つの側面を、見事に象徴していると言えるのではないでしょうか。
(まあ、事件の黒幕の正体が、かなり早い段階で割れてしまうのはご愛敬)


 そしてもう一つ驚かされるのは、そんな快作を著した作者の正体が、謎のベールに包まれているということ。
 冒頭でも触れましたが、本作の作者・片倉出雲は覆面作家。既に百冊以上の作品を発表している作家の別ペンネームとのことで、確かにこのエンターテイメントとしての呼吸はベテランならでは…と納得するとともに、それがあえて覆面で登場するという点に、実に興味をそそられた次第です。
(それにしても、私も色々と考えてみたのですが、その正体は全くわからず――)

 しかし、その正体も含めて、これからが楽しみな作家がまた一人登場したことは、間違いありません。


 関東の名だたる親分衆に、図らずも名と顔を売ってしまった勝負鷹――それが彼の次なる仕事にとって吉と出るか凶と出るか?
 鷹の次なる冒険が少しで早く読めることを祈っている次第です。


「勝負鷹 強奪二千両」(片倉出雲 光文社文庫) Amazon
勝負鷹 強奪二千両 (光文社時代小説文庫)

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