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2010.07.08

「幕府隠密帳」 死闘、御庭番vs伊賀・甲賀

 激しい暗闘の末に八代将軍の座についた吉宗は、自らに直属の隠密として御庭番を設立する。しかし、かねてから幕府隠密役復帰を悲願としてきた伊賀と甲賀の忍者はこれに猛然と反発、次々と御庭番に対してテロを仕掛ける。御庭番は薮田助八を中心に、これに果然と立ち向かうが、事態は意外な方向に…

 南原幹雄先生の時代伝奇小説には、幕府、そして御三家に仕える忍者たちが凄絶な暗闘を繰り広げる作品群が、その一角を占めています。
 本作もその一つではありますが、戦い合う相手がかなり特殊な、一風変わった趣向の作品であります。

 舞台となるのは、享保年間の初期。徳川吉宗が将軍位についた、その直後のことであります。
 吉宗が行った改革には様々ありますが、その一つとして、御庭番の設置があることは、時代ものファンであればよくご存じでしょう。
 すっかり形骸化してしまった伊賀・甲賀に代わり、紀州からやってきた忍びたちを母体とするのが、彼ら御庭番であります。

 しかしその存在が、過去の栄光と誇りを抱きつつも、既に江戸城の雑役担当になり果てた伊賀・甲賀の末裔にとって面白いはずがない。

 かくて、伊賀と甲賀の忍者たちは、御庭番の権威失墜と自分たちの地位向上を狙い、次々とテロ活動を繰り広げることになります。
 本作は、御庭番と、その伊賀・甲賀との間に繰り広げられる暗闘の数々を描く連作集。実に、ともに幕府に仕える忍者同士が暗闘を繰り広げるという点に、本作の最大の特徴と面白さがあると言えます。

 しかし、御庭番がこの暗闘に敗北することは、単に彼らのみの地位の失墜に留まるものではありません。
 吉宗が設置した御庭番は、彼が行おうとする新政になくてはならぬ手足。その手足を失うことは、吉宗の改革の頓挫にも等しいのです。


 が――実にその点が、この戦いをさらに複雑なものと変えていきます。
 御庭番が将軍吉宗の隠密であるのならば、吉宗を将軍でなくすればよい…やがて伊賀と甲賀は、吉宗に将軍争いで敗れた尾張をバックに、吉宗暗殺を最大の目的に変えていくのです。

 まさに本末転倒、皮肉極まりない発想の転換ですが、しかしそれは、目的のためであれば手段を選ばない、忍者の生き方が招いた当然の帰結なのかもしれません。


 もっとも、相手への嫌がらせとして相手方の婦女子を辱める(それに対して同じやり方で報復する)という陰惨極まりない応酬にはうんざりとさせられるのですが…あるいは、戦場働きの血を強く残しすぎた者同士の悲劇なのでしょうか。


 前半は正直なところ単調ではありますが、後半の展開で救われた感がある作品でした。


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