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2010.08.19

「天下一!!」第2巻 異なるもの、変わらないもの

 戦国時代にタイムスリップしてしまった女子高生・武井虎が、元の時代に帰るために信長を本能寺で生き延びさせるべく奮闘するという異色の時代漫画「天下一!!」の第二巻であります。

 訳のわからないまま戦国時代にタイムスリップした挙げ句、人買いに捕まって売り飛ばされるというハードコアな展開に巻き込まれた虎。
 運良く、親切な(?)根来衆に拾われ、情報収集のため信長の下に潜入することになった虎ですが、彼女の選んだ手段は、男装して信長の小姓衆に加わること…かくて、虎のドキドキ小姓生活が始まることとなります。
(と書くとコメディのようですが、虎が小姓を選んだのは、もう一方の選択肢が「信長の側女になる」だったためなわけで…何という説得力!)

 すったもんだの挙げ句、男だらけの世界に紛れ込んだ(ただ一人、森蘭丸だけは彼女の正体を知っているというのはお約束)虎は、現代の女子高生らしい物怖じのなさと知識で、信長に気に入られていきます。

 この辺りも無茶と言えば無茶ですが、何せ史上に残る新しいもの好きの信長のこと、前職は切支丹の占い師という虎の触れ込みもあってか、何かと虎に目をかけるようになるのですが…
 だからって、虎が左義長(いわゆるどんと焼き)で女装ダンパというアイディアを出して、それにホイホイ乗ってしまう信長様というのもどうかと思いますが、もちろん、そんな浮ついたコメディ展開だけで進むわけではありません。

 そう、その一方で描かれるのは、突然の環境の変化の中で翻弄され、悩み苦しむ等身大の少女としての虎の姿。

 突然連れてこられた戦国時代で、ほとんど頼る者もなく、ただ一人生きていかなければならない――
 小姓衆に加わり、同年代の若者と暮らすことで、その寂しさを紛らわすことができたかに見えた彼女に、自分がいかに異邦人であること、そして男の中の女一人であることを文字通り痛いほど感じさせたのが、毎月のアレというのが、実に強烈なインパクトを残してくれます。
(一応、タイムスリップして以来止まっていたという設定はあるのですが、信長が本能寺に泊まることを知ったショックのあまりに…という理由付けが実に生々しくて恐ろしい)

 そして、それが単発のイベントで終わらないのが、作者らしいストーリー運びの見事なところであります。

 苦しむ虎に痛み止めの薬を与えてくれた信長の側室の侍女・弓。
 彼女が虎の同僚・松寿の恋人だったこともあって、彼女に親近感を抱く虎ですが、しかし彼女は実は…という残酷な展開に繋がっていくのです。

 その彼女の正体が暴かれるのが竹生島事件――信長が竹生島に参拝に出かけた間、城から外出した侍女たちを、予定を変更してすぐに帰ってきた信長が捕らえ、処刑した事件――というのも、こうくるか! と唸らされます。

 しかし物語はそこでとどまらず、罪悪感に捕らわれた松寿に対して、虎のような現代の女子とは全く異なる形で気遣い、支える蘭丸ら戦国の男子の心のありようが描かれるというのがまた心憎いのでります。。


 現代と戦国、二つの時代で全く異なるもの、変わらないもの――それを巧みに取り出し、時にコミカルに、時に実にシリアスに描き出してみせる。
 華やかな外見にだまされそうになる方もいらっしゃるかもしれませんが、やはり本作、芯の一本通った良作であります。

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