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2010.08.31

荒山徹トークセッション「百済・新羅 石田三成を巡る時空」(その三)

 荒山徹トークセッション「百済・新羅-石田三成(ソクチョン・サムスン)を巡る時空-」レポートの第三回、最終回です。ラストはあらかじめ会場から募った質問コーナーでした。

質問コーナー
質問:自作が宝塚化すると思いますか
荒:なったらいいなとは思います

質問:コミカライズをどう思いますか
荒:漫画は好きなので抵抗はありません。コミカライズの話があればありがたいが、今のところはありません

質問:影響を受けた作家は
荒:西村寿行先生です。一に寿行、二に寿行。高一の時に「白骨樹林」を読んで以来、ほとんど全部読んでいるのでは
細:作品に影響を受けている部分がありますか
荒:どんどんエスカレートしていくのがそうかもしれない
細:山田風太郎や五味康佑には?
荒:お二人ともプロになってから読んだ。伝奇ものということで言えば荒俣宏さんの影響では

質問:前回お話ししていたベトナムや中国を舞台にした作品は進んでいますか
荒:…進んでます

質問:自作が大河ドラマの原作に採用されると思いますか
荒:絶望(切望?)してます

質問:家康が朝鮮人だと本当に思っていますか
荒:いえ全く

質問:福島でつい先日陰陽道指南書が発見されましたが、作品に影響は
荒:特に…陰陽師を出したのは、柳生のことを調べていて調べていて友景の存在を知ったことと、夢枕獏先生の柳の下のドジョウを狙ったから。しかし天平時代には興味があるので、その辺りで陰陽師のことを書くかもしれません

質問:宗矩は白と黒とどっちが書いていて楽しいか
荒:黒ですね(即答)。やはり「柳生一族の陰謀」の萬屋錦之介の宗矩の笑みが、ああ黒い、と

質問:朝鮮と柳生以外で一番書きたい題材は
荒:(しばらく悩む)中国に題材を取ったものの構想はあります。周辺民族の物語を書きたいですね。たとえば金の側から見た話であって、岳飛の側からは書きたくない

質問:「石田三成(ソクチョンサムスン)」の中に「秘奥義」という語がありましたが、宮下あきらの漫画の影響でしょうか
荒:宮下あきら先生については一言言わせて欲しい。友人からお前の作品は民明書房のつもりかと言われたが、何のことかわからなかったんです。ジャンプは一時期ずっと読んでいたが、ただ一つだけ、絵が苦手で読んでいなかったのが「魁! 男塾」でした。だから宮下さんの影響ではないのです

質問:五味先生の「柳生石舟斎」を復刊させて下さい
荒:どうして単行本になっていないのでしょうね
細:差別問題がひっかかって連載中止になってそのまま続きは書かれず、単行本にもなってません。一時期本になるという話もありましたが

荒山先生からのご挨拶
細:最後に何か一言お願いします
荒:どうもありがとうございます。前回、「鳳凰の黙示録」を直して出すと言ったのに、結局そのまま出してしまい申し訳ありません。黙示録は好きな言葉ですが、相性は良くないようです。しかし「柳生黙示録」はちゃんと直して出します。
 これからも伝奇の灯を絶やさずいきたいので、ご支援賜りたいと思います。


感想
 今回のトークセッションは、前回よりも時間的にはちょっと短めでしたが、その分、実に充実した内容だったと思います。

 荒山先生は、以前以上に髭を伸ばされたようで、いよいよ怪しく仙人のような印象でしたが、質問に答える口調は柔らかく、訥々と語られる姿からは、先生の人柄がうかがえます。…ああ、全部本気で書いていらっしゃるんだなあ、と。

 何はともあれ、非常に楽しいイベントでした。「KENZAN!」の連載が単行本になる度の開催とのことですが、ぜひまた、三年と間を空けず開催していただきたいものですね。


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2010.08.30

荒山徹トークセッション「百済・新羅 石田三成を巡る時空」(その二)

 荒山徹トークセッション「百済・新羅-石田三成(ソクチョン・サムスン)を巡る時空-」レポートの第二回であります。(一部修正しました)

細:「竹島御免状」なども山田風太郎作品が前提となっていますが
荒:鳥取に取材に行った時に「鳥取は剣豪の里」とあった。それで剣豪たちを出そうと思いましたが、皆時代が異なるので、じゃあ甦らせようと。しかし荒木又右衛門を甦らせるのに「魔界転生」を無視して甦らせる方が卑怯だと思って。一言、又右衛門に言わせないと不敬という気がしました
細:二回甦ったら何回も甦るのでは
荒:伊福部昭さんが、映画音楽をやるのは最初はいやだったが、一度やったら後はもう…と言っていました。が、節度をもってやりたい

細:「柳生黙示録」も「魔界転生」でしょうか
荒:そうです。どこを掘っても山田風太郎が出てくるのが我が国の伝奇の土壌。山田風太郎層のような

細:「石田三成(ソクチョンサムスン)」では「伊賀忍法帖」ということで
荒:そ、そうでしたっけ…ああそういえば
細:果心居士が出てくるのは珍しいのでは
荒:大学の時に映画で成田三樹夫がやったのが格好いいと、ずっと頭の中に残っていました
細:雑誌連載時のタイトルが「柳生大作戦」のわりに柳生が出てこないように思いますが
荒:前半に宗矩、後半に五郎右衛門、古代でも出てくるし、一応柳生は出てくると自分なりに思っています

細:三成が百済党の党首というのはどこから出たものでしょう
荒:自分の中では自民党や民主党などの前に卍党があって、党というのは格好いいものだという頭があります。これは牽強付会ですが近江は百済と縁が深いので、その子孫が三成でもそんなにおかしくないと思いました
細:柳生の出自も出てきましたが
荒:田道間守(タジマモリ)がタジマノカミになるので、ああいける! と

荒:隣国の歴史をもう少し身近に感じてもらうためにはどうしたらよいかといつも考えています。今回も関ヶ原や柳生を絡めると親しんでもらえるのではないかという戦略でした

細:時事ネタを盛り込むのが好きですね
荒:今までそういうことはしないようにしようと思ってきましたが、去年の政権交代を見ていて、近江朝廷とはこういうものかとダブったので、鳩山さんには申し訳ないが使わせてもらいました
荒:白村江の戦からの流れと幕府が倒れて明治政府になる流れがダブるという説はあるけれども、そこに現代もダブるという意識がありました。読者もその歴史の一員だと思ってもらえれば


その他の作品について
細:「柳生黙示録」は本になるのでしょうか
荒:終わりがバタバタしたので、もう少しページをもらって書き直さないとと思っています。出版社の応諾ももらっています。あの作品ではキリスト教が日本に伝来したことの重大さに書き始めて気付き、これは大変なものを相手にしてしまったとパニックになってしまった。その辺りをちゃんと調べて書いてから出したいと思います

細:朝鮮から離れたものを書く予定は?
荒:講談社百周年記念の書き下ろしで、英仏を舞台としたものを書いてます
細:でも十兵衛は出てくる?
荒:はい! 「友を選ばば柳生十兵衛」というタイトルで
細:当然ダルタニャンは出てくると
荒:最初は敵、あとは味方ということで。年齢は十兵衛がダルタニャンの一歳上で同時代人です
細:ブルボン柳生やハイランダー柳生が出たりは…
荒:今回はダルタニャン視点なので控えます。ヴェルサイユ柳生というのも考えましたが
細:ダルタニャンというと佐藤賢一先生の「二人のガスコン」がありますが
荒:もちろん読みましたが、こんな人には張り合えないので、オレ流で行こうと。佐藤賢一先生のダルタニャンはデュマのそれよりもずっと高尚ですが、こちらはデュマの「二十年後」の前に「十年後」を想定して、講談社文庫版の「ダルタニャン物語」の2.5巻目のつもりで

細:「オール読物」誌の「朝鮮通信使」ものは?
荒:あと一本追加して単行本化します。意図的に江戸時代を除いて書いてきましたが、それはなぜかという話を書きます

細:「シャクチ」はまだ単行本には?
荒:まだ…これから武帝の朝鮮侵略を書きます
細:第一話の参考文献にブライアン・ラムレイの「地を穿つ魔」があったのにも驚きましたが、各話のタイトルを見るとこれは(ロバート・E・ハワードの)「コナン」だろうと思いました
荒:三年前に新装版で出た時に読んで、こんなに面白いものがあったのか! と驚きました。ラヴクラフトは昔から好きで読んでました
細:「石田三成(ソクチョンサムスン)」でも海底の神殿が出てきましたが
荒:それもラヴクラフト
細:ではそのうち十兵衛が邪神と戦うことも…
荒:やってみたいです

細:新聞にも連載しているとか
荒:「砕かれざるもの」というタイトルで北日本新聞などに連載しています。加賀前田藩を支えている秘文書が奪われ、八丈島から宇来多秀家の孫が戻ってきて十兵衛と戦う話です
細:ということは伝奇もの?
荒:怪獣も妖術も出ないので剣豪ものかも。たまには節度あるものをと

細:長曾我部元親が主人公の「蓋島伝」も「小説新潮」誌で連載していますね
荒:長曾我部がゲームでいま人気があるとか。ゲームでは片目だそうですが、「高麗秘帖」で来島通総を片目で書いたので先鞭をつけた…というのとは関係なく、四国を調べていたら、元親しかいないと思いました
細:まず素材ありきということでしょうか
荒:その通り。順番としてはまず題材、次に時代です

細:「KENZAN!」の方では?
荒:次の号に、はじけたものを書きたいと思っています


 長くなりましたがもう一回続きます。


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2010.08.29

荒山徹トークセッション「百済・新羅 石田三成を巡る時空」(その一)

 実に三年ぶりの荒山徹トークセッション「百済・新羅-石田三成(ソクチョン・サムスン)を巡る時空-」が、前回と同じ池袋のジュンク堂書店にて、8月28日に開催されました。
 聞き手も前回同様、文芸評論家の細谷正充氏ということで、荒山先生もすっかりリラックスしてのトークセッションという印象、一時間もあっという間でした。
 今回のイベントは、ジュンク堂のサイトに後日音声ファイルがアップされるとのことですが、速報性も大事、ということで、前回同様、概要を掲載したいと思います。また、神無月久音さんが一足先にレポートをアップされているので、こちらもご覧いただければと思います。

「徳川家康(トクチョンカガン)」について
細:この作品を書こうと思った動機は?
荒:隆慶先生へのリスペクト、オマージュです。先達の足跡を踏もうと
細:コリン・フォーブスの「石の豹」の影響があるのでは。外国のスパイが要人に化けて…という
荒:海外ミステリが結構好きで、フォーブスも好きな作家。あの作品の要素を取り入れれば隆さんと違うものが描けるのではと思った
細:他に海外ミステリで好きな作家は?
荒:フレデリック・フォーサイス、クレイグ・トーマスなど。国際謀略小説の類です

細:徳川家康が朝鮮人というのはどの辺りからでたアイディアでしょう?
荒:韓国の李舜臣の映画を見ているときに、小西行長役の人が風車の弥七そっくりだった。そこから、影武者だから日本人に限定する必要はないと思った

細:隆慶一郎をどのくらい凌駕できたと思いますか?
荒:凌駕どころか、「風の呪殺陣」の域まで行ったか行かなかったかというところです

細:後半は幸村がずいぶん目立ちましたが
荒:幸村を鬱っぽいキャラクターにしたら手応えがあったため、そっちに行ってしまいました。幸村は鬱だったのではないかなと。追いつめられて自暴自棄になって、後世に名を残そうというのは尋常な状態ではないと思う

「石田三成(ソクチョンサムスン)」について
細:連載時の「柳生大作戦」からタイトルが変わった理由は?
荒:「徳川家康(トクチョンカガン)」が自分の中ではそれなりに手応えがあったので、柳の下のドジョウを狙いました
細:本当に「三成」で「サムスン」と読むんでしょうか
荒:本当は「サムソン」ですが、三星電子も日本では「サムスン」と言われているので良いかなと。まあ、あやかろうと思ったわけですが

細:今回は戦国と古代の両方が並行して描かれていきますが
荒:前作「柳生大戦争」で作中の時代が移り変わっていったのを踏襲しつつ、二つの時代を平行して描き、それぞれに影響していくと…あ、いま気付いたんですが「柳生十兵衛死す」ですね、これ
細:歴史は繰り返すということでしょうか
荒:たまたま関ヶ原が壬申の乱の舞台に重なっていると知ったときに面白いと思いました。妻が岐阜の人間で、桃配山の話などを教えてもらって、両者の重なりに気づきました
細:同じ行為を繰り返すことで力が強くなるという考え方が呪術にはあります。その辺りを終盤の展開は意識しているのでは?
荒:(あまりピンとこない様子で)個人的にそういう構造が好きなのだと思います

細:今回も怪獣大戦争があったが、これは好きだからということでよいでしょうか
荒:子供から青年時代に至るまで、アニメとか特撮とかといった文化がありました。そうした文化の所産です。年輩の時代小説作家の方にとっての歌舞伎のようなものです

細:「竹島御免状」で式神に乗り込むシーンがありましたが、あれはマジンガーZのパイルダーオン?
荒:あれはジャンボーグAのイメージです

細:臘鷺守(ろうろす)は当然ロプロス?
荒:ハイ申し訳ありません
細:ロプロスが出たらポセイドンとロデムはいつ出るかと思ってましたが
荒:一つ出したからもういいかと思ってしまいました
細:他の作品に残りを出すことは?
荒:…出したいと思います

細:八岐大蛇は「柳生雨月抄」に出たのと同じでしょうか
荒:ちょっと違います。あれは田中啓文さんの「UMAハンター馬子」の影響を受けてます。あの作品では、他のUMAは実は○○だった、という展開だったのに、八岐大蛇だけはそのまま出てきた。でも八岐大蛇はタコじゃん、と思ったので「雨月抄」ではタコにしてます

細:それで次はキングギドラと…
荒:韓国で「イルボンハングギドラ(日本は韓国だった)」という本を見た時に「これいけるじゃん!」と思いました
細:それはいつ頃の話か
荒:留学したときだから、もう十四、五年前ですね

細:ガウガメラは…
荒:講談社から「興亡の世界史」という本が出ていて、アレキサンダー大王のところでガウガメラの戦いが出てきたので、「いけるじゃないか!」と
細:ギドラとかガメラという単語を見ると反射的に考えてしまうということでしょうか
荒:探しているわけではなですが、たまたま出会うと…

細:甲賀天津敏斎は当然天津敏だと思いますが、どの天津敏がモデルでしょう
荒:赤影の天津敏です
細:あっさり倒されてしまっいましたが…
荒:ひどく申し訳ないことを敏さんにはしたと思います。最初はもっと活躍させるつもりが、すまん、ここで死んでくれ! と


 本当に天津敏にひどいことしたよね、と思いつつ次回に続きます。


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2010.08.28

「射雕英雄伝EAGLET」第4巻 彼自身の積み上げた強さ!

 相変わらず金庸らしさはほとんどないのにそれでも何故か面白い「射雕英雄伝EAGLET」第四巻が刊行されました。
 第二巻から続いてきた武術大会・江南論剣も、ついにこの巻で決着がつくことになります。

 洪七公による驚異の睡眠学習法・睡功により、付け焼き刃とはいえ驚異的な内功を得た郭靖。
 この力でついに決勝にまで進出した郭靖ですが、しかし、一日やそこらで得た力が通用するのには限界があります。

 準決勝第二回戦で完顔康と対決するも、力及ばず敗れ、あわや九陰白骨爪の餌食となりかけた黄蓉を救うために内功を使い果たした郭靖は、これまでのダメージも一気に吹き出し、もはや立っているのがやっとの有様に…

 それでも戦う意志を捨てない郭靖の前に現れたのは、なんと西毒・欧陽鋒!
 宿敵である北丐・洪七公が何故か入れ込む郭靖に興味を持った欧陽鋒は、郭靖に、自分であれば点穴により、通常を遙かに上回る力を五回出すことができるようになると誘いかけます。

 この誘いに乗り、欧陽鋒言うところの「五発の大砲」を手にして完顔康との決勝戦に臨む郭靖ですが――ここからが今回の面白いところであります。

 確かに瞬間的にすさまじい力を出すことを可能とするこの法。
 しかし「五発の大砲」の代償は、使用する者の五感――すなわち、一度力を解放する毎に、視・聴・嗅・味・触の五つの感覚が、一つずつ失われていくこととなるのです。
 たとえ超絶の力を発揮しようとも、五感が失われていく状態でそれを活かすことは難しい。しかも、放てば放つほど、感覚が失われ、不利になっていくとあれば…

 なるほど、欧陽鋒が郭靖に助け船を出し、郭靖がそれに乗ってしまった時は「?」と思いましたが、これはいかにも欧陽鋒らしいやり口と言っていいでしょう。

 しかし、このいわば借り物の力で戦う郭靖が、ここで彼自身の強さを見せるという展開が心憎い。
 そう、力は借り物であっても、己の感覚を失いゆく中で決してあきらめずに戦いを続け、、放つべく時に得た力を放つのは、紛れもない彼自身が積み上げてきた、彼自身の強さであります。

 郭靖は原作でも天才とはおよそほど遠い、努力型の主人公でしたが、その彼の特徴を、こうした形で示してくるとは…いや、やっぱりこの漫画は油断できません。

 前の巻で明かされた郭靖と完顔康の因縁が、それほどお話に影響してこなかったのはちょっと残念ですが、相変わらず達者なアクション設計もあり、十分に楽しませていただきました。


 そして江南論剣に決着がついても、まだまだ郭靖の旅は続きます。

 金に協力する欧陽鋒の琴に込められた内功により、わずか数刻後には己の意志を失ってしまうことになった洪七公(もはや何でもありだな…)。
 彼は、己を止めさせるため、残る時間で郭靖に降龍十八掌を全て伝授しようとするのですが――さて、郭靖は降龍十八掌を会得することができるのか、そして洪七公を止めることができるのか。

 やはり目が離せないもう一つの「射雕英雄伝」であります。

「射雕英雄伝EAGLET」第4巻(白井三二朗&金庸 講談社シリウスKC) Amazon
射ちょう英雄伝 EAGLET(4) (シリウスコミックス)


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 「射雕英雄伝EAGLET」第2巻 見るべきものはアクション描写
 「射雕英雄伝EAGLET」第3巻 彼の、最初の戦場

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2010.08.27

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第8巻 秀吉の欲したもの

 諸般の事情で感想の方は一巻分飛ばしましたが、相変わらず快調の「義風堂々!! 直江兼続」第八巻。時は流れていよいよ秀吉が天下統一に王手をかける中、兼続と景勝の周囲にも時代の流れが押し寄せることとなります。

 天下統一を目前としながらも本能寺に消えた信長。そのおかげで窮地から辛うじて脱した上杉家ですが、天下の趨勢はむしろ一層混沌とした状況に。
 信長の後継者として秀吉と柴田勝家がしのぎを削る中、兼続は秀吉という男をより知るために、その腹心たる石田三成に接近します。

 と、実はこの巻のもう一人の主役は、この石田三成。
 三成と言えば、本作のスピンオフ元である「花の慶次」では、前田慶次郎(というか原作者の隆慶先生)にさんざんイジメられる損な役回りですが、しかし、その慶次郎の親友である兼続の親友であるという面白い関係にあります。

 もちろんこの時点では三人はほとんど他人(というより敵同士)というのが歴史の皮肉という感もありますが、何はともあれ、ここで兼続と三成の交誼が始まることとなります。

 もっとも、「漢が惚れる漢」兼続に対して、三成はまだまだ肩に力が入りすぎた優等生。しかも、以前秀吉が越後を攻めた際に、他でもない兼続に痛めつけられた過去があるわけで…

 まあ、結論から言うといつもの調子で兼続は仲良くなってしまうのですが、今まで本作に登場した英雄豪傑たちとはまた微妙に肌合いが異なるキャラクターとして三成が描かれているのは楽しいものです。
(本当に面倒なツンデレぶりがいかにも「らしく」て良いのです)


 そして後半で描かれるのは、天下人となった秀吉との落水城での対決。
 本作の冒頭から幾度となく描かれてきた兼続と秀吉の関わりですが、その秀吉がついに関白に、事実上日本の最高権力者となってしまえば、今まで通りのやり方は通じません。
 しかも今回、こともあろうに秀吉はわずかな供回りで上杉の落水城に現れるという人を食ったやり方。ある意味、兼続のお株を奪うような致しようであります。

 そしてその秀吉の狙いとは、景勝から兼続をもらい受けること――
 秀吉が兼続の才を気に入り、配下に加えんと欲したというエピソードは人口に膾炙しており、意外性はない…と言いたいところですが、しかし本作では、その意味は異なります。

 本作における兼続は、実は謙信の遺児。その兼続を秀吉が手元に置くということは、越後の象徴の遺児を人質に取ったも同然ということ――
 なるほど、こういう展開があったかと感心すると同時に、それに対する兼続と景勝の反撃がまた「いかにも」でニヤリとさせられました。


 一方、その秀吉に屈する形となっている家康も、兼続の存在に注目し始めた様子。
 さらに次巻の予告では、あの真田幸村が登場するとのことで、まだまだ兼続の周囲はにぎやかなことになりそうであります。

 …幸村のデザインは「花の慶次」から変えて欲しいなあ。

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第8巻(武村勇治&原哲夫&堀江信彦 新潮社バンチコミックス) Amazon
義風堂々!!直江兼続前田慶次月語り 8 (BUNCH COMICS)


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2010.08.26

「風の忍び六代目小太郎 風の掟」 ぶつかりあう二人の想い

 十兵衛に再修行を命じた柳生宗矩。宗矩の狙いは、自らが天下の権を握る障害となる風魔の打倒だった。江戸に帰り、裏柳生総帥として風魔を討つことを命じられた十兵衛は、親友である風間伊織こそが六代目小太郎であることを知る。裏柳生の罠により、対決を余儀なくされる伊織と十兵衛の運命や如何に。

 ついに第五巻目に突入した「風の忍び 六代目小太郎」シリーズ。前作「太夫の夢」からかなり短い間隔で刊行されたもの嬉しい本作ですが、しかしここでシリーズは大きな転換点を迎えることになります。

 五代目風魔小太郎が神君家康と交わした約定により、江戸を闇の世界の住人から守る使命を帯びた風魔一族。
 その上忍として一族を束ねる六代目小太郎こと風間伊織の活躍を描いてきた本シリーズですが、しかし、今回の敵は、これまでとは大いに趣を異にします。
 その敵こそは裏柳生。将軍家指南役・柳生宗矩が、己の野望のために組織した、剣法と忍法を修めた裏の戦闘集団であります。

 そもそも本作の宗矩は、父から柳生新陰流正統を継げなかった怨念を胸に秘め、同じく父にコンプレックスを持っていた二代将軍秀忠に接近。こともあろうに大御所家康暗殺を吹き込むほどの黒い人物。
 しかし、その刺客団を五代目小太郎ら風魔に殲滅され、宗矩の野望は挫かれることに。それでも、権力への渇望を胸に秘め、宗矩は着々と幕府で地位を固めていくこととなります。

 そして、自分が手を全く汚すことなく裏柳生を指揮する者として、十兵衛が十分に育ったと見るや、有無を言わせず裏柳生総帥の座に十兵衛をつけ、風魔一族との対決を命じる宗矩。
 ――十兵衛のほとんど唯一の友人である、風間伊織が、六代目小太郎その人であることを明かした上で。

 なおも裏柳生の奸策は尽きません。
 十兵衛にとってかけがえのない人間を術中に陥れ、風魔の名を騙って惨殺する――そこまでやるか、とこちらが暗澹たる気持ちになる策をとってまでして、十兵衛を裏柳生総帥に据えようとする、その執念をなんと表すべきでしょうか。
 隆慶一郎作品の宗矩像に近いようでいて、しかし全く異なる、おぞましいまでに黒い宗矩の姿がここにあります。

 しかし、これを救いと喜ぶべきか、悲しむべきか――やむを得ず総帥として伊織と対峙する十兵衛の心中にあるのは、悲しみでも、諦めでもありません。
 そこにあるのは、己が全力でもって当たれる相手を得た喜び…それが親友であっても、いや、それだからこそ、彼の抱えた鬱屈を正面からぶつけられる相手を得たことは、彼にとってこの上ない喜びなのです。

 もちろん、それを受け止めることができるのは、風魔の上忍として桁外れの器を持つ伊織ならではです。
 いつものことながら春風駘蕩にして秋霜烈日な伊織(今回、登場するなりとんでもない理由で半死半生の状態となっているのが実におかしい)は、闇の世界の住人でありながらも、しかし、誰よりも強い光を放つ存在。

 その器でもって、これまでも戦国時代から取り残されてしまった哀しき忍びと戦い、ある種の救いを与えてきた伊織だからこそ、十兵衛の巨大な悲しみと渇きを癒すことができるのです。

 もちろん、そんな二人のぶつかりあいは、しかし、命のやりとり以外の何物でもありません。
 一切の小細工なし、お互いが死力を尽くして正面からぶつかり合う死闘は、本シリーズのクライマックスともいうべき迫力。
 十兵衛の「血が沸き立つとはこれだ。これなんだよ、風間っ」という叫びは、読者である我々のそれでもあります。


 そして…二人にとっては悲しむべきことに、我々にとっては喜ぶべきことに、この対決はあくまでも始まりに過ぎません。
 伊織と十兵衛の戦い、風魔と裏柳生の戦い…その行方を――それは、もちろん、本シリーズの行方でもあります――これからも、少しでも長く見つめていられたらと願う次第です。

「風の忍び六代目小太郎 風の掟」(柳蒼二郎 学研M文庫) Amazon
風の忍び六代目小太郎 風の掟 (学研M文庫)


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2010.08.25

八犬伝特集その十一の六 「THE 八犬伝」 第六話「鬼哭蝉」

 いよいよ「THE八犬伝」もこの第六話で一区切り。今回の舞台となるのは再び大塚村。陣代と主殺しの罪で捕らわれた荘助を救うため、犬士たちが集います。

 前々回、怪物と化した陣代・簸上宮六を倒して蟇六の仇を討った荘助。
 しかし陣代が怪物と化したなどという話が信じられるわけもなく、諸々の罪を引っ被らされて激しい拷問を受けた末に、処刑を宣告されてしまいます。

 そうとも知らず、信乃は小文吾と別れ、現八とともに大塚村へ向かったところで、この事態を知ることになります。
 もちろん荘助を見捨てるわけもなく、助けに向かおうとする信乃を助けるのは現八。捕り手・獄舎番時代の経験がものを言ったか、刑場周辺の地理を分析した末、前夜から二人は刑場に潜みます。

 一方、両親を失った大八を預けるために二人と一旦別れた小文吾は、とある川のほとりで、握られたままだった大八の手の中から、あの玉が現れるのを目撃します。
 それに応えるように登場したのは、あの伏姫と八房――第一話以来、これほどはっきりと伏姫が登場するのは初めてだったかと思いますが、彼女は大八を預かり、何処かへと消えていきます。
 「まだその川を渡ってはなりません」とい意味深な言葉を残して…

 八犬伝ファンであればこの大八が、後に犬士の一人・犬江親兵衛になることはよくご存じかと思いますが、ここで気になるのは、大八と旅する小文吾が、ぬいと房八の実在を疑うような独白を見せることであります。
 確かに、死した後に犬の死体に変化するという不思議を見せた二人ですが、さて二人は何者なのか。
 そして何よりも、その二人から生まれた大八/親兵衛とは――

 ぬいが「いぬ」から、房八が「八房」から来るネーミングであることは、これは原作からの設定ではありますが…あるいは、ある意味八犬士の案内人ともいえる網干と同種の――誘う方向は違うかもしれませんが――存在なのかもしれません。

 そして、ついにやってきた処刑の朝。
 今まさに荘助の命が奪われんとした時、信乃と現八が飛び出してきたのは、処刑場に積み上げられた死体の山から(この辺り、犬士に死の影が濃厚にまとわりつく本作らしい演出と感じます)。

 信乃は刀、現八は鎖鎌を振り回して刑場になだれ込み、ついに荘助を助け出すのですが…ここで磔柱を背負った形でそのまま走り回ったり転がり落ちたりする羽目になる荘助さんが、「ああやっぱり」という感じで何とも。
 それはともかく、善戦したものの多勢に無勢、三人が鉄砲隊に追い詰められたところに折良く駆けつけたのはもちろん小文吾。刑場の竹矢来をまとめて引き抜き、それで兵士を一網打尽にするという豪快な活躍で、ついに四人は難を逃れます。

 と、思いきや――巨大な雷が落ちたかと思いきや、四人が立っていたのは鬼火漂う異空間。そこで彼らを待っていたのは…言うまでもありません、網干左母二郎であります。
 犬士たちの苦悩が自分の糧となると嘯く網干は、彼らが八人揃うことを楽しみにしているとだけ告げ、何処かに消えていきます。
 そして四犬士は、気付けば川に流され、何処かの岸に打ち上げられて…

 ここで、この第六話は終了。「THE八犬伝」はひとまずの幕となります。
 まだまだ「南総里見八犬伝」の物語は序盤ではありますが、「THE八犬伝」はここで折り返し地点。

 果たして残る犬士たちは(そして今回ほとんど虚脱状態を見せるだけだった道節も)どのように登場するのか。
 犬士たちが存在することの意味は、そして彼らの旅の終着点はどこになるのか。

 まだまだわからないことだらけ(そもそも本当に解があるかどうかも含めて!)ですが、それは新章全七話を観てのお楽しみ、であります。

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2010.08.24

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第10話「はしれ赤影!! 信長との賭け」

 影一族を名乗る者が信長軍を襲撃したことを口実に、堺から軍資金を奪うために軍を出す光秀。赤影は一人信長の元に潜入し、真犯人・おろち丸の首と引き替えに、堺侵攻を止めると約束させる。折しも青影たちの前におろち丸と白蛇が襲来、駆けつけた赤影も蛇の尾に捕らわれてしまう。しかし赤影が白蛇に飲み込まれんとした瞬間、富蔵が爆裂弾を口に投げ込み、おろち丸もろとも白蛇は大爆発する。間一髪、堺は救われたのだった。

 前回とは前後編の関係にあたる今回は、おろち丸により信長軍襲撃の汚名を着せられた赤影たちの逆襲編であります。

 てっきり前回の幻妖斎の罠を逃れたことで信長軍襲撃の件は解決したものと思い込んでいましたが、信長はそれほど甘くはなかった(冷静に考えれば当たり前)。
 堺からの軍資金徴収の件もまだあきらめていない信長に対し、幻妖斎と結んで調子に乗った明智光秀は、一挙に要求額を前回の倍以上の五万貫に引き上げると言い出します。
 幻妖斎は光秀を利用する気満々なのも知らず…

 さて、光秀は二千の軍勢を率いて堺に向けて進発、このままでは堺の町は戦場となってしまう…という危機に、赤影は一人、信長に直接会うと飛び出します。

 主題歌二番に合わせて信長の元にひた走る赤影(かっこいい!)の前に現れるは、信長配下の赤忍者に城侍、鉄砲隊。これを全て蹴散らし、影盗みの術で信長の配下の影に潜み、ついに信長の前に!
 が、この信長、結構怖じ気づいているようですが(「抜忍伝説」版?)…と、これは影武者。本物は奥の部屋から現れました。

 ここで信長に何故影武者と見抜いた、と聞かれて、人には器量というものがある、自ずと本物かどうか顕れるものだ、というようなことを答えた赤影は、当然自分たちのこともそうだと言っているのでしょう。

 ここで、話は聞いてやるが、この信長の槍を受けて、それでも口がきけたらと無茶なことを言う信長さん、すさまじい槍捌きで赤影を襲いますが、もちろん赤影の敵ではなく、おろち丸の首を持ってくれば堺攻撃の命令を取り消すと約束します。
(この場面、先日来、信長の側に仕えているらしい柳生宗厳さんの容赦ないレフェリングが光る)

 さて、タイミング良くと言うべきかどうか、その直後に近所の森で待つ青影たちを襲うおろち丸と白蛇。赤影もすぐに参上、移動する白蛇の上という面白いバトルステージ上でおろち丸と切り結びますが、やはり蛇の扱いはおろち丸の方が上。
 水中に落とされた上に白蛇の尾に巻かれ、絶体絶命の危機…と思いきや、ここで意外な男が活躍。

 珍しく前線に出てきていたからくり富蔵が、用意したカタパルトで爆裂弾を投擲、それがタイミング良く白蛇の口の中に入って大爆発!
 さしもの白蛇も豪快に四分五裂しては生きてはおれず、おろち丸も爆発に巻き込まれて息絶えるのでした。

 個人的にはこの辺り、もう少し忍怪獣として白蛇には頑張って欲しかったところですが、まあ口の中に爆弾ドカンというのも美しい様式美ですので良しとしましょう。

 見届け役の宗厳の急報で光秀は軍を撤退させる羽目となり、勝手に信長を逆恨みする光秀…というところで今回終わります。


 今回、お話としては可もなく不可もなく――でしたが、ところどころ、やけに赤影が格好良い&動きが良いと思ったら、金山明博さんが作監でした。
 今となってみれば貴重…かな?


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2010.08.23

「あやかしがたり 2」 そして彼が歩む道

 山手藩のでのお家騒動を解決して江戸に帰る途中、新之助たちは、仮面の男たちに襲われていた少女・すくねを助ける。彼女が山の民に崇められているカンナギであることを知った新之助は、すくねを守ることを決意する。だが、そんな新之助の想いは、彼に運命の選択を突きつけることになるのだった。

 小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞を受賞した渡航先生の時代アクション「あやかしがたり」の、シリーズ第二巻であります。
 あやかしを視る力を持つことから、他者から疎まれ、また他者との関わりを避けてきた少年・大久保新之助が、故郷である山手藩のお家騒動を解決する姿を描いたのが前作「あやかしがたり」。
 それに引き続き、本作では、彼があやかしとの関わりの中で、重要な選択を迫られることとなります。

 前作で共に事件を解決した怪しげな拝み屋・ふくろうや化猫のましろ、そして前作ラストで仲間となった犬神のくろえと共に、江戸に向かう新之助。
 江戸に帰れば新しい平穏な暮らしが待っていたはずですが…しかし、山の民のカンナギ・すくねを救ったこと、そしてすくねと山の民を守ろうとしたことから、新之助は更なる戦いとあやかしの世界に踏み込むことになります。

 前作での戦いが、彼の故郷を救うためのものであったのに対し、本作での戦いは、本来であれば、彼にとっては無関係なもの。
 そんな事件に首を突っ込んでしまうのは、時代ヒーローであれば当然なのかもしれません。
 しかし、新之助があやかしを視る力を持ち、それゆえに幼い頃から差別されてきたという彼の設定を考えれば、あやかし絡みの事件に自ら関わることを、そのようにあっさりと割り切ることはできません。

 単なる人助けではすまされない巨大な力との対峙。彼自身が普通の人であり続けることができるかの岐路にあって、彼が何のために、誰のために戦うか――それが本作のキモとであります。

 そして、そんな彼の決断に影響を与えるのが、「あやかし」という概念の相対性です。
 確かに、本作の序盤の挿話で語られる(タイトル通りの)あやかしに関する語りは、この手の話題が好きな人間にとっては常識以前の内容ではあります。
 しかし、「あやかし」という存在が、必ずしもそれとして生まれてくるものでも、自ら望んでなるものばかりではなく、他者からそうされてしまうものもあること――それを新之助に教えるという点では、大きな意味があります。

 そしてそのことを知った新之助の選んだ道が、あやかしを敵視のみするものでも、あやかしを力として使役するものでもないことは、ある意味当然なのでしょう。


 もちろん、己の進むべき道を決めただけで、すべてが順調に行くわけでは、もちろんありません。事実、本作の終盤の展開においては、新之助はある意味主人公失格の扱いとなってしまいます。
 しかしそれだからこそ、彼が主人公として次の一歩を踏み出し得るという構造にも、また納得できるものを感じるのです。


 地の文でもキャラクターの喋りでも「語り」が多すぎるなど、小説として荒削りな部分は、相変わらずあります。
 時代ものとしての必然性も――前述のあやかしの概念はそれなりですが――まだまだ薄いでしょう。

 しかしそれでも、主人公同様、このシリーズが己の歩むべき道を見つけ、手探りながら歩き出していると…そしてまた、その行く先を、本作で見えたように思える可能性の行方を、見届けたいと、強く感じるのです。


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2010.08.22

「狐隠れの君」 潔い時代アクションロマンス

 幕府の役人の陰謀により藩を乗っ取られ、弟共々追われる身となった蓮華姫。彼女が頼ったのは、藩の忍者集団・真鍋蛇の一人であり、幼なじみである如月丸だった。藩奪還を目指す蓮華は、如月丸と共に隠れ潜み、遺臣たちと共に蜂起の時を窺うが、敵は一枚上手だった。一人城に捕らわれた蓮華の決断は…

 おそらくは江戸時代初期を舞台に、亡国の姫君と、彼女を守る忍者の活躍を描く時代アクションロマンスであります。

 豊富な銀鉱で知られながらも、それがために悪人に目を付けられた真鍋藩。藩主である父は罠にはめられて命を失い、主人公である蓮華姫は、まだ幼い弟と二人、着の身着のままで逃げ出すことになります。

 彼女が頼ったのは、かつて真鍋藩が誇った忍び・真鍋蛇の最後の生き残りであり、幼い頃に自分の側に仕えたいわば幼なじみの如月丸。
 ある事件がきっかけで藩を離れ、山中で一人暮らす如月丸と久々に出会った蓮華ですが、如月丸は姫を姫とも思わぬ態度で…まあ、蓮華の方も姫とは思えぬ荒くれぶりなのですが。

 それはさておき、久々に出会った(イケメンの)幼なじみ、姫に忠実に(?)仕えるナイト、喧嘩してばかりいるけど実は…な二人というのは、いずれも定番パターン。しかし、それを全て盛り込んでみせたのは、ある意味潔いお話。敵方の企みが少々無理があることに目をつぶれば、なかなか楽しい漫画であります。

 何よりも、如月丸の力を必要としつつも、それでもなお、彼を縛るまいとけなげに振る舞う蓮華のキャラクターがよろしい。
 如月丸の属した真鍋蛇は、戦国時代は真鍋家を支えて大活躍した忍者集団ですが、平和な時代になれば無用の長物。いや、それどころではなく、各藩が独自の忍びを持つことを忌む幕府に目を付けられた末に、藩の手で真鍋蛇は全員誅戮されたという過去が実はあります。

 幼い蓮華の懇願で命を救われ、一族の菩提を弔うという名目で、唯一山に放たれた如月丸にとっては、真鍋藩のために戦う義理などありません。
 それを蓮華も痛いほどわかっているからこそ、自分と弟を匿ってもらう以上のことを彼に求めず、彼が自由な生き方をすることを望むのですが…まあ、それでヒロインを見捨ててどこかに行くようでは、ヒーローではありませんわな。

 クライマックスの大乱戦は、あっと驚くどんでん返しもあって、これ以上はないハッピーエンド。
 ご都合主義と言えば言え、こういう結末が必要不可欠な物語もあるのだ…と、私は心から思った次第です。


 ちなみに本書には、農民として育てられながら、実は徳川家斉の隠し子だったヒロインを主人公とした「花始華」も収録されているのですが――

 これが、時代考証には拘らない私もちょっと呆気にとられた作品。戦国時代、せめてこちらも徳川時代初期を舞台にすればよかったのに…とのみ申し上げます。

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2010.08.21

「平安ぱいれーつ 東国神起」 史実通りに、しかし…

 将門の乱に便乗して凶暴化した海賊が西国に流れてくることを憂う純友は、山吹丸と小頭四天王を連れ、東国に向かう。その途上、不思議な魔力を感じて立ち寄った相馬で彼らを待ち受けていたのは、将門の腹心・興与王だった。しかし彼には、思わぬ強力な力が後ろ盾となっていて!?

 藤原純友に仕える(見かけは)少年・山吹丸と、一人一人が特異な力を持つ半妖の小頭四天王が繰り広げるドタバタを描いた「平安ぱいれーつ」シリーズも、この第三弾で残念ながら完結であります。

 異国から来た心優しき狼男・黒金、竜宮城の乙姫と人間の間に生まれた青鷺、正体は超有名人の異国の魔術師・真朱、人間の女性の魂を持つ護法童子・白露…
 生まれも育ちも種族も違う四天王、共通するのは純友への忠誠心と、山吹丸ラヴ(山吹丸は半妖にものすごく好かれやすい体質なのであります)である点のみという、あまりに個性的すぎる面子ともこれでお別れというのも、何とも寂しいお話です。

 しかしもちろん、お話の方は寂しいと感じる暇もなかなかない大騒動。
 本書に収められた中編二本とその間の短編一本のエピソードを、彼らは一気に駆け抜けていきます。

 表題作の「東国神起」は、これまで幾度か背景として語られてきた平将門にまつわる物語。
 本人は叛乱の意図など全くなく、マイペースで暮らす純友たちにとって、勝手に乱を起こして、いつの間にか共犯のような扱いになっている将門は大いに迷惑。彼らと話し合うために東国に向かった一行は、相馬の古御所で滝夜叉、その正体はなんと阿修羅王と対決する羽目となってしまうのでした。

 偽物でも何でもなく、本物の阿修羅王を向こうに回して、四天王も大苦戦。ほとんど総力戦の果てに、事態は意外な結末を迎えることになります。

 実のところ、阿修羅王が登場する理由は(それなりの説明はあるものの)薄いですし、将門の扱いがあまりに小さいのもちょっと残念なのですが、しかし阿修羅王との戦いの描写はさすが、と言うべき迫力。
 特に、阿修羅王の法力と真朱の魔力、東西の全く異なる体系の術と力のぶつかり合いをきっちり描いてみせるのは、これは昔から変わらぬ作者の腕の冴え、と言うべきでしょう。

 そして、インターミッションというべき短編を挟んで、ラストの「海之彼方」は、いよいよ純友たちが官軍に追い詰められていく姿が描かれます。

 シリーズ開始当初から心配していたことですが、言うまでもなく、一度は将門と並び世を騒がした純友の叛乱は、朝廷によって鎮圧され、純友は命を落とすというのが史実に伝えられているところ。
 一体その辺り、史実とどのように折り合いをつけるのか、純友の、山吹丸の、四天王の運命の行く先は…と、読者は皆ハラハラしていたかと思います。

 さて、本作で描かれるのは、あくまでも史実通りの展開。
 朝廷の追捕使に追われた末に太宰府に向かった純友は博多湾の戦いで敗れ、本拠である伊予に逃れるも、そこでの戦いの果てに…
 と、過程のデコレーション――伊予での、賀茂忠行(たぶん美形)操る朱雀と、真朱の激突がまた盛り上がる!――はあるものの、やはり史実というのは曲げられないのか? と思いきや、やっぱりやってくれました。

 詳しくは読んでのお楽しみですが、ここで山吹丸と四天王が打った、文字通り起死回生の一手は、まさに本シリーズの総決算と言うべきもの。
 山吹丸の心と四天王の力、そして大事な大事な山吹丸のアレも合わさってのクライマックスの展開は、なるほどあの要素がこう繋がるか、と納得&驚きの展開(特に白露の扱いがうまい)であります。

 史実は史実として尊重しつつも、その背後に波瀾万丈の活劇をちりばめ、そしてラストはもちろんハッピーエンド――いうことなしの結末でした。


 そして、最後の最後に再び合法ショタとは…やはり如月先生には端倪すべからざるものがありますね。

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平安ぱいれーつ 東国神起 (ウィングス文庫)


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2010.08.20

「戦国落城秘話 青柳の糸」 大坂落城が浮かび上がらせるもの

歴女の存在が喧伝されるようになる前から、女性向け漫画――というより少女漫画――の世界では、歴史漫画の伝統が元々存在しておりました。
 本書「戦国落城秘話 青柳の糸」も、その伝統の先に存在する、歴史漫画の佳品であります。

 本書の副題にある「落城」とは、大坂城落城のこと。本書に収録された「青柳の糸」「桐の葉」「水底」「水鳥」「霧の籬」は、いずれも大坂の陣に命を賭けた武将を中心に、その想いを描いた作品であります。

 たとえば、表題作の「青柳の糸」は、木村重成を主人公にした物語。
 大坂夏の陣で壮絶な最期を遂げた重成の首実検の際に、彼が髪に香を炊き込めていたことで家康を感心させた、というのは有名な挿話でしょう。
 本作では、その香りと、重成の妻・青柳との出会いを絡めて描かれることになります。出会いの時から悪印象を抱いていた二人が、いつの間にか惹かれて――というのは古典的なロマンスですが、その結末をこちらが知っているだけに、そこには何ともいえぬ感傷が伴います。

 一方、その重成に殺されかかったことのある片桐且元を主役とした「桐の葉」は、卑怯者扱いの多い且元の内面を、彼が若き日から仕えた茶々との結びつきから描いた好編。
 二度の落城による辛酸を嘗めた茶々が、秀吉に求めた平和への希望――
 それを受け継ぎ、実現するために奔走した想いが次々と裏切られながらも、それでも最後までその想いを貫いた且元の不器用な姿が印象に残ります。


 そして個人的に最も気に入ったのは、毛利勝永を描いた「水底」であります。
 関ヶ原で敗れ、山内家に預けられた若き日の勝永。そこで一豊の甥で後の二代藩主・忠義に兄のように慕われ、忠義の侍女・浜乃を妻とした勝永は、土佐で穏やかな暮らしを送るのですが…

 史実では、後に土佐を脱出し大坂の陣で幸村と並ぶ活躍を見せた勝永ですが、山内家では厚く遇された彼が――豊臣恩顧であっても家康についた大名が多い中で――なぜ、敢えて大坂に入ったか?
 史実に残るエピソードに現れる勝永の人柄を尊重しつつも、本作ならではの、勝永と浜乃、そして忠義のそれぞれの想いの交錯を通じて描いていく様が、実に読ませるのです。
(勝永の元に何度も届けられる、離縁した前妻の手紙に見えたものが実は…という小道具の使い方がうまい!)

 一方、本書で描かれるのは豊臣方のみではありません。その勝長に夏の陣で討たれた本多忠朝を描いたのが「霧の籬」。
 あの本多忠勝の剛勇を継ぎ、家康に愛された忠朝が、己の信念と、家康の政治手法との間で苦しみ、結果として死に向かった様を、忠朝が大坂の陣の時期に酒に溺れていたという挿話を生かしつつ描いた佳品であります。

 もう一編、本書には天保年間を舞台とした「水鳥」が収録されています。
 詳しくは触れませんが、大坂の陣で天保…? と思っていたところに、結末で思わぬ意外な繋がりが浮かび上がって驚かされる番外編であります。


 以上五編、派手さや奇想といったものとは無縁ですが、丹念に描かれた好編揃い。
 まだまだ少女漫画の方面には疎い私ですが、本書のような作品に出会うと、こちらもきちんと追いかけておかねば…と襟を正す思いになったことです。

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2010.08.19

「天下一!!」第2巻 異なるもの、変わらないもの

 戦国時代にタイムスリップしてしまった女子高生・武井虎が、元の時代に帰るために信長を本能寺で生き延びさせるべく奮闘するという異色の時代漫画「天下一!!」の第二巻であります。

 訳のわからないまま戦国時代にタイムスリップした挙げ句、人買いに捕まって売り飛ばされるというハードコアな展開に巻き込まれた虎。
 運良く、親切な(?)根来衆に拾われ、情報収集のため信長の下に潜入することになった虎ですが、彼女の選んだ手段は、男装して信長の小姓衆に加わること…かくて、虎のドキドキ小姓生活が始まることとなります。
(と書くとコメディのようですが、虎が小姓を選んだのは、もう一方の選択肢が「信長の側女になる」だったためなわけで…何という説得力!)

 すったもんだの挙げ句、男だらけの世界に紛れ込んだ(ただ一人、森蘭丸だけは彼女の正体を知っているというのはお約束)虎は、現代の女子高生らしい物怖じのなさと知識で、信長に気に入られていきます。

 この辺りも無茶と言えば無茶ですが、何せ史上に残る新しいもの好きの信長のこと、前職は切支丹の占い師という虎の触れ込みもあってか、何かと虎に目をかけるようになるのですが…
 だからって、虎が左義長(いわゆるどんと焼き)で女装ダンパというアイディアを出して、それにホイホイ乗ってしまう信長様というのもどうかと思いますが、もちろん、そんな浮ついたコメディ展開だけで進むわけではありません。

 そう、その一方で描かれるのは、突然の環境の変化の中で翻弄され、悩み苦しむ等身大の少女としての虎の姿。

 突然連れてこられた戦国時代で、ほとんど頼る者もなく、ただ一人生きていかなければならない――
 小姓衆に加わり、同年代の若者と暮らすことで、その寂しさを紛らわすことができたかに見えた彼女に、自分がいかに異邦人であること、そして男の中の女一人であることを文字通り痛いほど感じさせたのが、毎月のアレというのが、実に強烈なインパクトを残してくれます。
(一応、タイムスリップして以来止まっていたという設定はあるのですが、信長が本能寺に泊まることを知ったショックのあまりに…という理由付けが実に生々しくて恐ろしい)

 そして、それが単発のイベントで終わらないのが、作者らしいストーリー運びの見事なところであります。

 苦しむ虎に痛み止めの薬を与えてくれた信長の側室の侍女・弓。
 彼女が虎の同僚・松寿の恋人だったこともあって、彼女に親近感を抱く虎ですが、しかし彼女は実は…という残酷な展開に繋がっていくのです。

 その彼女の正体が暴かれるのが竹生島事件――信長が竹生島に参拝に出かけた間、城から外出した侍女たちを、予定を変更してすぐに帰ってきた信長が捕らえ、処刑した事件――というのも、こうくるか! と唸らされます。

 しかし物語はそこでとどまらず、罪悪感に捕らわれた松寿に対して、虎のような現代の女子とは全く異なる形で気遣い、支える蘭丸ら戦国の男子の心のありようが描かれるというのがまた心憎いのでります。。


 現代と戦国、二つの時代で全く異なるもの、変わらないもの――それを巧みに取り出し、時にコミカルに、時に実にシリアスに描き出してみせる。
 華やかな外見にだまされそうになる方もいらっしゃるかもしれませんが、やはり本作、芯の一本通った良作であります。

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2010.08.18

八犬伝特集その十一の五 「THE 八犬伝」 第五話「夜叉囃子」

 「THE八犬伝」正編も残すところあと二話。第五話の今回登場するのは、第五の犬士、心優しき巨漢・犬田小文吾であります。
 しかし、これまで登場した犬士がそうであったように、彼にもまた、悲劇的な運命が待ち受けることに…

 行徳(いきなりローカル)で古那屋という宿屋を営む小文吾が、漁の最中に拾ったのは、前回芳流閣から豪快に転落した信乃と現八。小文吾と現八が旧知の仲であったこともあり、二人は古那屋に匿われる匿われることになります。
 この現八と小文吾、昔は結構やんちゃしていたようですが、今は小文吾は己の刀を紙縒で封じ、ごろつきに絡まれて袋叩きにされても反撃一つしないのは、いささか不思議であります。

 そんな古那屋に顔を出したのは、小文吾の妹・ぬいと、夫の房八、そして子の大八(あ、第六の…)。房八は、古河城下を騒がせた罪人、すなわち信乃を突き出すよう薦めるのですが…

 その信乃は前回、主筋から自分の、そして父の忠義を否定されたことがよほどショックだったのか、一時的に気が触れたような状態になってしまうのですが、彼の精神世界の描写がなかなかコワイ。

 古河城の大広間を思わせる場で、信乃が村雨から水を出そうと振り回しているうちに、刃から流れる水。「水でございます!」と狂喜している間にその色は赤く変わって…実はその水の正体は切腹した父から流れる血! というのは、お約束的ではありますが、悪夢の理不尽さが良く現れていて実に恐ろしい。
 その後も続く悪夢の中、次々と追い詰められた信乃は、ついに幼児に退行し、百鬼夜行に追われた末に、その中に飲み込まれてしまいます。

 悪夢の中で信乃が苦しむ最中、現実世界では、古河公方の追っ手がついに古那屋を包囲、信乃の首のみを差し出せばよしと、小文吾たちの前に現れたのは房八――

 しかし、もちろん、これを素直に飲む小文吾と現八ではありません。
 現八は古那屋の屋根の上で、捕り手を向こうに回して縄術の腕を存分に発揮しての大立ち回り。そして小文吾は、封印していた刃をついに引き抜いて、房八と切り結びます。

 実はこの封印、かつて小文吾が酒に酔って大暴れした際に、それを止めようと割って入った父が巻き添えで斬られて以来のもの。
 肉親との縁が薄い八犬士の中でも、原作ではほとんど唯一、父と共に長い間暮らしていた小文吾ですが、本作ではこのような形で父を失っていたとは…

 と、驚く間もなく、乱闘の果てに房八の刃をぬいを斬り、その血は信乃と大八に…それに怒った小文吾の刃は房八の首を断ち、捕り手たちはそれを信乃の首と思い込んで、退散していくこととなります。

 …結果としてみればこの辺りは原作とほぼ同じですが、しかし大きく異なるのは、このぬいと房八の死に、房八の意図がどこまで働いていたか、という点。
 原作では、破傷風で瀕死の信乃を癒し、そして自らが身代わりとなるため、ぬいを斬ってあえて小文吾の刃を受けた房八ですが、本作ではそのような彼の意志は見られず、全ては過失であったようにも見えます。

 そして強く印象に残るのは、現実世界で信乃がぬいの血を浴びた途端、悪夢世界で妖怪たち、そして網干も苦しみ、退散していった点であります。
 それまでの悪夢が嘘のように、晴れ渡った青空すら見せた信乃の内面ですが、しかし、それをもたらしたのが人の血というのは…

 原作ではこの辺りは、破傷風を癒すのに男女の生き血が必要という設定で、さすがにそれは無理がある故の改変かもしれません。
 しかしそんなこと以上に――これまで本作の感想で幾度か触れてきたように――周囲の人々が、傷つき、血を流すことによって生かされる、一種呪われた存在としての犬士が、ここでも描かれてるように感じるのです。

 さて今回のラストでは、そんな彼らの因縁を知る可能性のある唯一の人物、丶大法師が信乃・現八・小文吾そして大八の前に現れます(しかし丶大に従うもう一人の僧は…?)
 残すところあと一話、その中でどこまでが物語られるのか、見届けましょう。

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2010.08.17

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第09話「恐怖のおろち丸!!」

 堺に軍資金供出を命じた信長の使者が、影一族を名乗る者に襲われた。怒りに燃える信長だが、幻妖斎配下のおろち丸の仕業だった。密かに明智光秀と結び、影一族を犯人に仕立て上げようと企む幻妖斎の指示により、邪鬼がまず青影を捕らえ、さらに、青影を人質に赤影・白影をも捕らえようとする。しかしやまぶきの助けもあって赤影は青影を奪回、おろち丸の操る大蛇も、赤影の忍法火炎柱でかろうじて撃退に成功するのだった。

 今回のエピソードも、ある意味ニセ者話。二話続いて影一族に汚名を着せようという幻妖斎の企みを描く展開ですが、前回は堺と影一族を敵対させようとしたのに対し、今回は信長と影一族を敵対させようという作戦であります。
 しかもそこに明智光秀が絡み…と、似ているようでいて、だいぶ印象の異なる内容となっています。

 さて、堺を守る代償と称して、信長軍が二万貫もの軍資金を吹っかけてきたのがことの発端。
 これまでのエピソードでは、赤影と協力して幻妖斎たちと戦ったこともある信長軍ですが、しかしそれはあくまでも共通の敵があってのこと。あくまでも天下獲りのために動く信長と、自分たちの自治が守られればよい堺、そして天下の平和のために戦う影一族と、微妙にスタンスが違っているということなのでしょう。

 今回の幻妖斎の企みは、その隙をついたと言うべきもの。やり方はかなり大雑把ではありますが――もっとも、光秀と結んでいることでその辺りはカバーしているようですが――なかなかにクレバーな作戦であります。

 さて、その作戦に当たるのは今回初登場のおろち丸ですが、このおろち丸が操る白蛇がまたとんでもない。
 全長十数メートルはあろうかという巨体ながら、その動きは青影らを捉えるほど素早く、赤影の刀も弾き返す鱗の固さ。

 やまぶきによれば、代々おろち丸の一族により育てられてきた不老不死の蛇とのことですが――
 特撮版ならば知らず、本作では破格の怪獣であります(がま法師の千年ガマも立派な怪獣でしたが、蛙と蛇では相手が悪い…)

 このおろち丸と白蛇、横山先生の漫画版にも登場し、ほとんど手の付けられない無敵ぶりを発揮したのですが、今回もその力の一端を、存分に発揮してくれたかと思います。
 もっとも、今回の作戦に適していたかは別ですが…いや、鉄砲隊までいた信長軍を襲ったのですから、このくらいの戦闘力が必要なのかな。

 このおろち丸と共同して赤影たちを襲った邪鬼も、青影を捕らえた上で、火薬を積んだ小舟に縛り付け、辺り一面油を浮かべた湖の上に浮かべて赤影・白影の動きを封じるという非道ぶり。
 やまぶきのフォローなければ、さすがにかなり危ないところでありました(が、この邪鬼、やまぶきにメロメロなこともあって、妙に憎めないんですな…声は屋良さんだし)。

 結局、白蛇は赤影を尾で締め上げたところに赤影渾身の忍法火炎柱(実際の炎というより化学反応で光と熱を出している印象?)で赤影を離したところに目つぶしをくらい、ようやく撃退――というより赤影たちが撤退できたというところ。
 またもや強敵が登場した、というところであります。

 ところでこれで三回連続で助っ人役を果たしたやまぶきですが…もうスッパリ影一族に入った方がいいんじゃないかしらん(本人の安全的にもドラマの展開的にも)。

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2010.08.16

「石田三成 ソクチョンサムスン」 二つの時代、二つの欠点

 文禄の役の最中、石田三成は千年前の遺跡を開放、古代百済の魔力を己のものとする。百済復興をもくろむ三成に挑むのは、歴史の陰で百済党と戦ってきた柳生の剣士。そして百済を巡る柳生の戦いは、数百年前にも行われていた。時空を越えて、日本の運命を左右する二つの東西の激突が繰り広げられる…

 荒山徹先生の問題作、「柳生大作戦」改め「石田三成 ソクチョンサムスン」が単行本化されました。

 タイトル通り、物語の(一方の)中心となるのは、石田三成その人。
 実は歴史の陰に潜み、千年以上前に滅んだ百済の復興を目論んできた近江百済党の党首だった三成。
 己の目的を果たすため秀吉に接近し、文禄の役で渡った朝鮮で、古代百済王の残した百済復興の魔力を手に入れた三成は、その魔力で次々と邪魔者を滅ぼし、日本を自らの掌中に収めようと暗躍します。

 その陰謀に立ち向かうのが、歴史の陰で百済党と戦ってきた柳生一族。その俊英たる柳生宗矩は、魔人と化した三成を倒すため、徳川家康に接近していくことになります。

 そして、本作の最大の特徴は、この柳生の戦い、百済復興を巡る暗闘が、平行してもう一つ描かれることであります。

 それが、戦国時代から約千年遡った、天智天皇の御代に繰り広げられた戦いです。
 亡命百済人を広く受け入れた天智天皇とその庶子・伊賀皇子は、百済復興のための国策を次々と邁進。それに危機感を感じた天智天皇の弟である大海人皇子と、その腹心・柳生崇矩は、その野望阻止に立ち上がります。

 実は柳生一族こそ、天日槍、そして田道間守ら新羅人の血を引き、その異能をもって百済と戦ってきた一族。
 天智天皇と伊賀皇子が百済復興を画策していることを知った崇矩は、それを阻止しうる存在として大海人皇子に力を貸すこととしたのです。

 かくて、飛鳥時代と戦国時代、二つの時代の間で目まぐるしく視点を変えながら、柳生と百済の死闘が描かれていくこととなります。そしてその二つの時代でキーアイテムとなるのが、恐るべき力を持つ百済の神器・指南亀。大戦の行方を左右するこの神器を巡り、剣士と陰陽師、剣士と怪獣、怪獣と怪獣が縦横無尽に入り乱れる物語が展開されることになるのです。


 ――が、それが面白いかというと、これがまことに残念ながら、Yesとは言い難いというのが正直なところであります。

 中盤までは、壬申の乱に向かっていく歴史の流れを朝鮮との関係から捉え直そうというダイナミックな視点、そしてそれが千年の時を隔てて繰り広げられる家康と三成の対立にオーバーラップしていく様を興味深く読むことができたのですが…

 好きな作家のこういう点を述べるのは好きではないのですが、荒山作品では、時として二種類の欠点が顔を出すことがあります。
 一つは、歴史の流れを詳述することに力を入れるあまり、物語の大半がそれで埋め尽くされる点。
 そしてもう一つは、その時点で作者が興味を向けた(と思われる)ネタに、物語全体がシフトしていってしまう点であります。

 これまでどちらか一方が表れるに留まっていたこの二つの欠点が、同時に出てしまった…本作は、そんな印象があります。

 後半、飛鳥パートでは伊賀皇子と大海人皇子の壬申の乱に至る争いが歴史書を見るように羅列され――一方、戦国パートでは何故か、指南亀を手に入れるために飛鳥時代に時間跳躍することを志した柳生宗章の苦闘記が延々と続く(特に前半のヒーローたる宗矩が全く姿を消してしまうのには愕然)。

 一体この物語はどこを目指しているのだろう? と不安になってきたところで、ほとんど短編もののオチのような形でばっさりと物語が幕を下ろしてしまうに至り、さて、本作をなんと評すべきか…と悩んでしまうのです。

 先に述べたように、視点・構成は実に独創的であり、特に壬申の乱をこれまでにない角度から描いた点は大いに評価できるのですが――
 「柳生大作戦」というタイトル予告に胸躍らしていた時のことを思うと、何とはなしに物悲しい想いになるのであります。

「石田三成 ソクチョンサムスン」(荒山徹 講談社) Amazon
石田三成 ソクチョンサムスン


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2010.08.15

「怪異いかさま博覧亭」第5巻 博覧亭、これで見納め!?

 妖怪馬鹿の青年・榊が経営する見世物小屋・博覧亭を舞台に両国で繰り広げられる、お江戸ドタバタ人情コメディ活劇(?)「怪異いかさま博覧亭」もこれでひとまずの見納め。最終巻第五巻が発売されました。

 当時の地球上最大の都市の、最大の繁華街・両国。そこに掛かった妖怪専門の見世物小屋・博覧亭に集まった、人間妖怪付喪神、入り乱れての大騒動を描いてきた本作。
 切れ味・テンポの良いギャグに嫌味のない魅力的なキャラクター、散りばめられたお江戸のうんちく、どこか呑気で暖かいストーリー展開と、ほとんど私好みの要素だけで構成されたような作品だけに、ここでひとまず幕というのは、残念というほかありません。

 もっとも、これで最終巻だからといって、ことさらよそゆきの内容にならないのがいかにも本作らしいところ。
 もともとが一話完結のギャグ漫画だけあって、基本的にラスト近くまでは通常営業であります。

 この第五巻でまず目を引くのは、冒頭に収められた、悪徳見世物小屋に売られた二口女の少女を巡る大勝負でしょう。

 突然頭の後ろにもう一つの口が生まれたばかりに見世物にされた彼女とその恋人を救うため、榊と仲間たちが挑んだのは、なんと大食い勝負。
 元々二口女は「食べること」「食欲」と繋がりを持って語られる妖怪。その二口女を相手に大食い勝負とは、無謀もいいところですが、もちろん妖怪馬鹿の榊がそれを知らないわけがありません。

 妖怪知識+海千山千の強者らしい「いかさま」で少女の苦境を救う展開は痛快そのもの、その後の対処の鮮やかさも相まって、いかにも本作らしいエピソードであります。


 そしてもう一つ強く印象に残るのは、ラスト三話に渡って描かれる、本作ではたぶん初の連続エピソード。
 が、その内容が両国を挙げての一大鬼ごっこ…と聞いたときには首を傾げましたが、この追いかける相手が本物の鬼というのであれば話は別でしょう。

 昔々、悪行の果てに高僧に捕らえられ、もろともに仏像に封じられた天邪鬼――
 その鬼を解き放って、江戸の朱引から外に逃れられれば鬼の勝ち、その前に鬼に蹴りを入れられれば参加者の勝ちという、いささか鬼ごっこというには逆転したルールではありますが、そこに賞金が絡めば、四の五の言う者はおりません。
 かくて、ほとんどオールスターキャストでの鬼ごっこ、と相成ります。
(それにしても、少年時代の榊が参加した前回の鬼ごっこの時点では朱引はなかったということは、本作は文政年間のお話ということになりますね。意外なところで年代がわかったな…)

 それにしても、いくら逃げ切れば自由の身になれるとはいえ、これでは鬼にちょっと酷な話。そして何よりも、わざわざ鬼ごっこのために鬼を一時的とはいえ解放するというのも…
 と思えば、結末に明かされるのは、意外で、しかし微笑ましくも馬鹿馬鹿しい真の目的。この辺りのひっくり返し方も、いかにも本作らしいや…
 と思わされる一方で、高僧の言葉から、榊が密かに行ってきた、両国を人とあやかしが共存できる一種のアジール化の試みが、しっかりと根付いたことを確認させるという展開が何とも秀逸で唸らされた次第。

 単に話の規模のみならず、その中に流れる精神の点からも、本作のひとまずの締めくくりにはふさわしいエピソードであります。


 さて、冒頭から述べてきた通り、本作はこの第五巻でひとまずの幕となります。
 しかしこれは、冒頭からしつこく「ひとまず」という言葉を使ってきたように、これで榊たちとのお別れということを意味しません。

 実はこの後、本作は掲載媒体をこの冬に創刊される電子コミック誌「電撃コミックジャパン」に移して再開されるとのこと。
 つまり本当にこれはひとまずのお別れ、あと少し待てば、再び博覧亭は見世開きすることになります。

 その日が少しでも早く来ることを祈りつつ、それまではこれまでの五冊の単行本を読み返すとしましょう。

「怪異いかさま博覧亭」第5巻(小竹田貴弘 一迅社IDコミックス/REXコミックス) Amazon
怪異いかさま博覧亭 5巻 (IDコミックス REXコミックス)


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2010.08.14

「大帝の剣」第5巻 そして新たな旅へ

 漫画版「大帝の剣」の第五巻「神魔咆吼編」であります。。
 ここで一区切り、第一部完なのですが、ラストを飾るようにバトルまたバトルの連続、幾つか物語の秘密も明かされて、相当の盛り上がりを見せてくれました。

 本作の開始以来、次々と役者が――それも凄玉ばかりが――ぞろぞろと登場してきましたが、ついにそれぞれがぶつかり合い始めた、と言うべきでしょうか。

 この第五巻では、
 宮本武蔵vs犬権三
 万源九郎vs蛭丸
 万源九郎vs犬権三
 宮本武蔵vs天草四郎
と、ほとんど間をおくことなく次から次へと死闘の連続。

 冷静に考えてみるとこの漫画版、原作小説の「天魔降臨編」を第一~三巻までで消化しているのに対し、続く「妖魔復活編」は第四巻、そして「神魔咆哮編」と「凶魔襲来編」の大部分を、この第五巻を消化しています。
 つまり、巻を追うごとに原作圧縮率(?)は高まっているのですが、しかし、それが逆に物語のテンポをアップさせ、結果、戦いと戦いの連続で物語を進めていくというスタイルが、良い方向に転じていると感じます。

 そしてまた、渡海氏の作画も、このテンポが合ったのか、実にイキイキとしたアクションを展開していきます。。

 何よりも、漫画であることと画であることを、巧みに使い分けていると――言い換えれば、動と静のコントラストを実に効果的に使っており、好印象。
 特に、源九郎が権三を叩き斬るシーンなど、漫画でなければ見られないような構図に大いに驚かされました。

 その他、見開きの絵の右端に「ぬおおおおおおおっ!!」「ダダダダダダダダダッ」といった吹き出しを大胆に付けるという手法も楽しく、ここにきて、これまで以上に絵と物語が噛み合ったという印象があります。


 これまでで一番面白かった――というより、群を抜いて面白かったこの第五巻ですが、しかし、ここでこの漫画版はひとまずの完結となります。

 当面の強敵である犬権三を倒し、源九郎と舞/蘭、申と才蔵が新たな旅に踏み出すという結末は、正直なところ、絵に描いたような「第一部 完」ぶりですが、これはこれで、キリの良いところで終わったと言うべきでしょう。
(「神魔咆哮編」と「凶魔襲来編」で新たに登場したキャラクターたちも省かれていますが、これはこれで正しい判断でしょう…)

 いよいよノってきた印象が強いだけに、ここでの第一部完はまことに残念ではありますが、ここは素直に、いつか再び、渡海氏の手になる万源九郎の活躍を目にすることができることを祈って終わるとしましょう。

「大帝の剣」第5巻(渡海&夢枕獏 エンターブレインビームコミックス) Amazon
大帝の剣 5 (ビームコミックス)


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2010.08.13

「開花あやし事件帖」 人間と隣人たちとのちょっとおかしな交流記

 月刊「あやし」の編集者・青山千方は、編集部に持ち込まれた箱に封印されていた生きている手・手手丸に気に入られてしまう。しかし手手丸は、長らく眠りについていた強大な妖怪・阿猛丸の片手だった。自分の手を取り戻そうとする阿猛丸に追われるうち、千方は不思議な事件の数々に巻き込まれる。

 「猫絵十兵衛御伽草紙」の永尾まる先生が「コミック「怪」」誌に連載していた連作短編コミックが単行本化されました。

 明治の頃、不思議な鬼の手・手手丸に好かれてしまった青年・千方が、その手の持ち主である阿猛丸をはじめ、様々な妖怪・幽霊と出会い、事件を解決していくという趣向の本作。
 言うまでもなく、最大の特長は、主人公の相棒(?)が生きている手であることでしょう。

 作中で詳細は語られてはおりませんが、本体の阿猛丸(明示されていませんが、作中で「角ある蛇」と呼ばれているのを見るとその正体は…)から切り離され、別個に封印されていた手手丸。
 そのビジュアルは本当に手首がついた巨大な手――というと実に猟奇的ながら、しかしまるで捨てられていた子犬のように千方に懐いてしまった姿はなかなかにかわいらしく、千方もすっかり情が移ってしまうのですが…

 しかし、阿猛丸にとっては迷惑極まりないお話、俺の腕に何をする! …と、何やら三角関係めいたお話になってしまうのがおかしい。
 しかも千方はどうやら人外を呼び寄せる体質の上に、オカルト雑誌の編集者という職業柄、次々とおかしな事件に巻き込まれて、毎度大騒動に展開していくことになります。

 本作の特色は、その事件が――掲載誌の性質ゆえか――「猫絵十兵衛」に比べると、いささか怪奇度が高めな点でしょうか。

 没落華族の屋敷の跡地に立ち入る者にまとわりつき、埋め尽くそうとする付喪神たち、恨みを晴らそうと出没する生首幽霊と首なし幽霊、そして齢数百年を数えるであろう巨大な蜘蛛の妖…
 普段コミカルで可愛らしい絵柄の永尾先生ですが、その絵柄を生かしつつも、ギョッとするような怪奇描写が不意打ち的に来るのが印象に残ります。

 特に生首幽霊は、生首の切断面も生々しく、しかも上下逆さまに登場するという念の入れよう(?)で、しかし顔は永尾絵という違和感もあってインパクト抜群。
 「猫絵十兵衛」がコミカルさ主体なだけに、こういう側面もあったか、と今さらながらに驚きました。


 しかし、本作が他の永尾作品と変わらないのは、そうした人外のモノたちと、人間との付かず離れずの距離感であります。
 我々人間と同じ世界に在り、時に我々のと暮らしと交錯しながらも、決して我々と同じ――その生きる時間も含めて――存在とはなりえないモノ。しかし、それでいて、決して我々と相容れぬわけではない隣人…

 人と、そんな彼ら隣人との微妙な距離感、不思議な交流を微笑ましく、瑞々しく描く――そしてそこに不思議な安心感を感じさせる――永尾作品の魅力は、その両者の距離感がより広がったように見える明治を描いた本作でも健在であります。


 残念ながら、一巻本という分量ゆえか、どのエピソードも詰め込みすぎという印象があり、それゆえ――特に最後のエピソードなど――若干の消化不良さをも感じる面はあるのですが、それでもなお、永尾作品の味わいは十分以上に健在であります。

 明治に花開いた、人間とその隣人たちのちょっとおかしな交流記。小品かもしれませんが、しかしやはり魅力的な作品であります。

「開花あやし事件帖」(永尾まる 角川書店) Amazon
開花あやし事件帖 (怪COMIC)

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2010.08.12

「鳴門血風記」 伝奇物語を借りて描かれるもの

 秀吉の四国討伐後、阿波に入った蜂須賀家政に反発した祖谷の三十六家の豪族たちは蜂須賀家の軍を退ける。しかし、彼らの前に現れた美青年・小野寺喜内は、弁舌巧みに彼らに取り入り、三十六家を分断してしまう。果たして喜内の真の目的は、そして彼の前に現れた不思議な青年・筒井喬之助とは…

 白石一郎先生が直木賞を受賞した「海狼伝」とほぼ同時期に執筆された、一風変わった伝奇時代小説であります。

 蜂須賀家の阿波入りを背景に、それに反発する阿波の土豪たちの戦いと没落が描かれ、そこに安徳天皇の秘宝伝説が絡む本作――
 その語り起こしは、後に阿波の木地師(惟喬親王の末裔という伝承を持ち、良質な材木を求めて山中に住んだという職人たち)の長となる青年・筒井喬之助の数奇な生い立ちから、となります。

 猿たちに育てられていたところを発見された一人の赤子――その身元を知る手がかりは、彼が肌身離さず持っていた錦の小袋のみ。
 中に砂金と絵地図の一部が収められていたその小袋から、尋常の生まれではないと思われたその赤子は、木地師の里で育てられるうちに、不思議なカリスマ性と武術の腕を示し、筒井喬之助と名乗ることになります。

 しかしこの喜内がとんだ食わせ者、三十六家を巧みに分断して互いの反発心を煽り、さらに配下の飯綱使い(=忍び)を暗躍させて、山岳党を配下に収めてしまいます。
 しかし彼の真の狙いは、自らが持つ錦の袋と同じ袋――実はそれこそが、実は阿波に落ち延びたという安徳帝の秘宝の鍵!

 と、ここまでくれば、喬之助がこの喜内の野望に真っ向から挑み、安徳帝の秘宝の謎を解き明かす物語になると当然想像できますが…それが実はならないのであります。

 確かに喬之助は、物語の途中で喜内の存在とその野望を察知はするのですが、基本的に外界のことには関与しないという木地師の掟に忠実に――というより、世俗のことに、特に権威権力に興味を持たない彼自身の性格から、喜内の行動を黙認します。

 さすがに物語の終盤においては、目に余る喜内の行動を矯めるために現れるのですが…ここでの選択がまた、主人公にあるまじきもので、はて、本作は喜内が主人公のピカレスク・ロマンだったのかしらん、と読者を悩ませることとなります。


 このように伝奇時代小説のフォーマットに則りつつも、それを完全に外してみせる本作ですが、それはもちろん、作者の意図したところでありましょう。

 実のところ、喬之助の活躍よりも喜内の暗躍よりも、本作で力を入れて描かれるのは、自分たちの血筋に――それも実はほとんどが架空の――とらわれた山岳党の人々の姿であります。
 すでに下克上の時代すら終わろうとしている中に、その流れが完全に目に入らず、かつての誇りにすがって生きる…その果てに喜内の口車に乗せられ、同士討ちの果てに滅びの道を歩む彼らの姿をこそ、本作は描きたかったのではないかと、私は感じます。

 そうであるとすれば、喬之助が、そんな人々とは無縁の存在として超然と立ち、物語の流れに踏み込んでこないことも納得できます。
 彼は、そんな人間の悲しさ・醜さ・愚かしさを映し出す鏡なのでしょうから…

 そして本作が伝奇時代小説の形式を借りているのも、極端な状況下で浮かび上がる人々の姿を写し取ろうとしたと考えれば、これも納得がいくというものです。

 純粋に伝奇ものを期待する向きにはお勧めしませんが、しかし個人的には実に興味深い作品でありました。

「鳴門血風記」(白石一郎 徳間文庫) Amazon

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2010.08.11

八犬伝特集その十一の四 「THE 八犬伝」 第四話「芳流閣」

 さて、「THE八犬伝」もいよいよ名場面、犬塚信乃と第四の犬士・犬飼現八の、芳流閣の決闘ですが――
 脚本が鳴海丈先生のためか、はたまた作画監督のためか、これまでのエピソードとはまた毛色の大きく変わった内容となっています。

 大きく分けて、前半は荘助の仇討ち、後半に芳流閣の決闘という構成のこの第四話ですが、冒頭パッと見て驚かされるのは、その絵のタッチの違い。
 この絵はどうみても…とおもいきや、やはり作画監督はなかむらたかし。時期的には「AKIRA」の数年後ですが、やはり大友タッチが残っております。

 さて、中途半端なマニアのお話は置いておくとして、浜路を弔った後、大塚村に戻った荘助が見たものは、蟇六の屋敷から逃げ出す奉公人たちの群れ。

 浜路が抜け出したことも知らず陣代・簸上宮六を迎えた蟇六夫妻ですが、座を持たせるために献上した村雨は真っ赤な偽物、かえって怒りを買って簸上らに殺されてしまう…という内容自体は原作と同様ですが、しかしこちらでは、その間に大変な事件が発生します。

 蟇六ともみ合ううちに偶然顔に怪我をした簸上の供・軍木五倍二が偶然顔を怪我したかと思えば…顔を上げた軍木の姿は、犬とも猿ともつかぬ奇怪な妖怪に!?
 さらに簸上もさらに巨大な妖怪に変化し、蟇六夫妻を惨殺するのでした。

 この妖怪たちが登場する際には、これまで幾度となく登場したあの赤い橋のイメージが現れ、さらに、玉梓までもが一瞬姿を現すのですが――
 いつ怪物と化したかは知らず、簸上らは、八犬士に仇なす者として、玉梓により配置されたということでありましょうか?

 何はともあれ、こんな怪物たちを相手にすることになった荘助はやはり不幸、妖怪たちは斬っても斬っても増えていくばかり、さながら悪夢の中にいるかのよう…

 しかし、ここで荘助を助けたのは、あの不思議な玉。
 宿敵とも言うべき妖怪たちを前に爆発的な力を放つ玉は、荘助を空に舞い上がらせ、なおも追いすがる簸上を貫いて大爆発を起こします。

 …と、なんだか大変なことになってしまいましたが、原作同様、荘助は一連の騒動の犯人扱いで捕らわれるのでした…


 さて、そんな大騒動が起こっているとはつゆ知らぬ信乃はいよいよ古河で足利成氏に対面するのですが――ご存じの通り、献上するはずの村雨は偽物。

 父の、自らの忠義を根底から否定されながらも、信乃は生き延びるため城内を斬り抜けることとなります。

 進退窮まった信乃の猛烈な立ち回りに手を焼く横堀在村は、ついに、牢に入れられていた犬飼現八の解放を決意するのですが――この現八がまた、なるほどこれは幽閉されるのも無理はないわいという怪物。

 いきなり城の壁を崩して登場するなり野人のようなテンションで信乃に襲いかかり、応戦する信乃ともども、壁を破り天井をぶち抜き(やっぱり建物崩壊するんだ…)、縦横無尽に大暴れであります

 そして二人が死闘の果てに辿り着いたのは、芳流閣の屋根の上。
 にらみ合う二人、そしてそれを見つめる網干の前で、突如あの玉が飛ぶや、突然、辺りは黒雲に包まれ――二人が激突しようとしたその時、激しい雷が落ち、芳流閣は崩壊していくのでありました…


 と、表面上のあらすじ(事件の発端と結果)は同じものの、その過程は大違いという今回のエピソード。
 これまでも網干の扱い等、原作から踏み出した要素は見られましたが、良くも悪くも、ここにきて一気に爆発した感があります。
(それでいて、信乃と荘助、二人の「忠義」の想いが裏切られ、裏目に出る様を描くという点はきっちり描いているのは面白い)

 残り二話がいかなる展開を見せるのか、さて!?

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2010.08.10

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第08話「激突!! 赤影VS赤影」

 堺の会合衆・但馬屋が赤影に襲われ、拉致された。見に覚えのない赤影は、探索の最中に但馬屋を発見するが、背後から不意打ちを受けて深手を負う。赤影を助けたやまぶきは、その正体を変幻自在の忍者・くぐつの甚内だと教える。その間に、堺で次々と会合衆を襲う甚内。警戒に当たっていた白影・青影も窮地に陥った時に、本物の赤影が参上、二人の赤影の対決は、本物の方に軍配が上がったのだった。

 今回のエピソードも、ヒーローものの定番、ヒーローの偽物登場編。しかし、前回同様、今回も定番でありながらも、面白い一ひねりが加わっています。

 それは、ニセ赤影が襲うのが、堺の会合衆であることであります。
 戦国時代の堺は、特定の領主を持たず、一種の自治都市として機能していたことはよく知られていますが、その評議機関的存在である商人の集まりが、この会合衆。
 堺に拠点を置いて活動する赤影たち影一族ですが、これまでのエピソードの中でも、堺の商人たちと接点を持つことが折に触れて描かれてきました。

 なるほど、そうであれば、影一族と会合衆の間に密接な繋がりがあっても不思議ではありませんが、そこをついてきたのが、今回の幻妖斎の作戦というわけで、単に偽物が暴れ回るよりも、お話として説得力があります。

 それにしても、今回の作戦をたった一人で遂行するだけあって、くぐつの甚内はかなりの強敵。
 その変装は、何も知らない商人たちや兵士はともかく、白影や青影たちも欺く完成度です(ここで、基本的に他の影一族にも赤影の正体が秘密になっている=四六時中一緒にいなくても不思議ではない本作の赤影の設定がうまく機能しているものだと感心します)。

 さらに、本物の赤影を襲撃した際には、但馬屋に化けて、襲いかかるその瞬間まで、赤影に悟らせず、ほとんど致命傷に近いダメージを与えることに成功するほどですから、これは単なる変装術の使い手というレベルではありません。

 ちょっと面白かったのは、そのあまりの真に迫った赤影ぶりに、「貴様本当にくぐつの陣内じゃろうな」と、幻妖斎まで軽く疑ってしまうシーンがあることですが、ここでの甚内の返しがなかなか面白い。
 甚内、目の前の幻妖斎に変身して、「見事だ甚内、褒美は何なりと取らせよう」などと、しれっと言ってしまうのですから、気が利いています。

 ちなみにこのくぐつの甚内、ほぼ同じ名前で特撮版に登場、やはり無双の変身能力を披露していますが、アニメの方では、配下の人形を操る術を披露していないのがちょっと惜しい。
 おかげで、どの辺りがくぐつなのか、わかりにくくなっています。

 閑話休題、赤影が瀕死となっている間にも、殺人・放火と悪事の限りを尽くす甚内のおかげで、赤影はほとんど鬼か悪魔のような恐れられ方をするはめに。
 ついにニセ赤影を追いつめる白影と青影ですが、なんと偽物は、飛騨忍法「みだれ髪」まで披露、二人とも逆に窮地に陥ってしまいます。

 しかし――ここでもちろん響きわたるのは、本物の「赤影、参上!」の名乗り。
 巨大な満月をバックに、屋根の上に立つ赤影の姿は、まさに千両役者であります。

 そのまま、満月をバックに激しく切り結ぶ二人の赤影ですが、もちろんここで勝つのが本物であることは、言うまでもありません。
(ここで、勝って背中の鞘に刀を収める赤影が、背中の傷の痛みで顔をしかめることで本物であることを示すのがまたうまい)

 ニセ赤影である甚内は死してその骸骨めいた素顔を晒し――本当はここでニセ赤影が甚内であったことを宣言しておく必要があったんじゃ…という気もしますが――まずはめでたしめでたし。
 源之介さんが、寺を空けていたことを怒られたり、背中を触られて痛がったりしてましたが、きっと偶然でしょう。


 ちなみに今回、ニセ赤影が警護の兵を襲うシーンで、やたら気合いの入った断末魔の画があったのですが、原画に森下圭介さんの名前があったことと関係あるのかしら…

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2010.08.09

「山風短 第一幕 くノ一紅騎兵」 忍者として、人として

 関ヶ原の戦の前年、直江兼続の前に現れた美少女と見紛う美童・大島山十郎。美しさのみならず、大の男を取りひしぐ力を持つ山十郎に強く惹かれた上杉景勝は、彼を深く寵愛するようになる。が、徳川との緊張が高まる最中、意外な事態が…

 せがわまさき先生が山風先生の短編を漫画化していくという「山風短」。その栄えある第一弾「くノ一紅騎兵」が単行本化されました。
(以下、内容に深く踏み込むので未読の方はお気をつけください)

 関ヶ原の戦で徳川・石田に劣らぬ大きな役割を果たした上杉家に現れた絶世の美少年・大島山十郎。彼の存在が上杉家に起こした小さな嵐が、実に、実に意外な形で歴史に影響を与える様を描いた、一種の関ヶ原異聞とも言うべき作品であります。

 ここでいきなり白状してしまえば、原作を読んだ際――もうずいぶん前ですが――私は、さまで面白いとは思いませんでした。
 登場する忍法自体は地味な上に、作品の仕掛けも、妙に回りくどいと…全く恥ずかしながら、そのように感じたのです。
 しかしこの「山風短」となった「くノ一紅騎兵」を読み返した時、その印象は一変いたしました。

 ある程度本作のネタばらしをしてしまえば、山十郎の正体は、ある目的で上杉家に潜入したくノ一・陽炎。乳房を自在に膨縮させる能力を持った彼いや彼女は、生涯不犯を貫く上杉景勝に近づき、その子を孕むことに成功します。

 さて、一度は上杉家から姿を消した彼女は、結末で再び景勝の前に姿を現します。そして景勝の「男か? …女か?」の問いに対して――
 彼女は、諸肌脱いで己の乳房が女性のそれに変化することを見せた上で「これが…わたしでございます」と答えるのです。

 実は原作でのこの場面は、至極あっさりしたもの。「これが…わたしでございます」という台詞も、漫画版のみのものです。
 しかし、この台詞こそが、私を強く感動させてくれたものであります。

 女と生まれながら、任務を果たすために男と化す。女として慕った相手に抱かれるために、男と化さねばならない。
 そんな歪んだ愛の形を強いられた彼女にとって最後に許された、己の真の姿の、想いの宣言――それが、「これが…わたしでございます」という言葉なのです。
 いわば一世一代の告白であるこの台詞を目にしたとき、恥ずかしながら私は目に熱いものがこみ上げてきました。


 己の任務のために己を殺し、ただ己の修得した忍法を行使することにのみ、己を表現することを許される…山風忍法帖に登場する忍者たちのほとんどは、その枠の中で生き、死んでいきます。
 しかし時に、その枠を乗り越え、人として生の感情を見せる忍者がいます。その忍者としての態度と人としての態度のぶれが大きければ大きいほど、それを目にしたとき、我々は強く心を揺さぶられます。

 本作のラストでせがわ先生が描き出したのは、まさにそんな姿。
 原作ではあまり表に現れてこなかったその想いを、原作の内容を全く壊すことなく表に取り出して見せた…それに大いに驚かされるとともに、感じ入りました。

 単に原作を忠実にビジュアライズするのみならず、その裏側にある想いをも形にしてみせる…山田風太郎は、せがわまさきという最良の描き手を得た、と改めて感じ入った次第です。

「山風短 第一幕 くノ一紅騎兵」(せがわまさき&山田風太郎 講談社KCDX) Amazon
山風短(1) くノ一紅騎兵 (KCデラックス)


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2010.08.08

「Ninja Attack !」 日本語でも読みたい忍者常識マニュアル

 最近は忍者解説本がひそかに何冊も刊行されていますが、そのある意味決定版が登場しました。それも、海の向こうから。
 知る人ぞ知る「YOKAI ATTACK!」の作者コンビである依田寛子とアルト・マットが、時代劇アジテーター・近藤ゆたか先生をイラストレーターに迎えて送る好著であります。

 本書"Ninja Attack !: True Tales of Assassins, Samurai, and Outlaws"の本書の章立ては、以下の通りとなっています。
NINJA'S NINJA
NINJA GONE BAD
NINJA MAGIC
NINJA RIVALS
NINJA USERS
NINJA DESTROYER

 大雑把に訳せば、それぞれ「忍者の中の忍者」「悪に染まった忍者」「妖術幻術と忍者」「忍者の好敵手」「忍者を操る者」「忍者を滅ぼすもの」と言ったところでしょうか。
 本書は、この各章において、関連の人物を一人一人紹介していくスタイルをとっています。その数、約三十…決して類書に比べて多いわけではありませんが、しかし一人当たりの紹介が、色々な意味で実に濃いのです(巻頭から望月出雲守、戸隠大助、日野阿新丸の三連発ですからね…)。

 その本書の濃さの由来の一つであり、そして本書の最大の魅力となっているのが、近藤ゆたか先生によるイラストであります。
 「蔵出し絶品TV時代劇」の編著から、傑作時代伝奇漫画「大江戸超神秘帖 剛神」の作画、アニメ「大江戸ロケット」の時代考証等、時代劇アジテーターとして八面六臂の活躍を見せる氏ですが、これだけまとまった形で、カラーイラストを見ることができるのは珍しい。

 本書に登場する忍者約三十人に付されたイラストは、いずれも力作と呼ぶにふさわしいものばかり。
 わずか一枚のイラストで、その人物の特徴や人となり、位置づけetc.を示す――それも、それなりのリアリティを維持しつつ――というのは本当に困難であったかと思いますが、しかし本書で氏は、それを見事にやり遂げていると断言できます。


 もちろん、依田寛子とマット・アルトの両氏による解説も充実していることは言うまでもありません。
 ちょっとゲームの能力値風に記載された各キャラクターの関連データもわかりやすいのですが、本文の、彼ら一人一人を掘り下げての解説文がなかなかの充実ぶりなのです。

 何よりも私が本書を気に入っているのは理、本書の記載が、単なるキャラクター紹介や無味乾燥な史実の抜き書きに終わらず、彼ら忍者と関係者たちにまつわる伝説や巷説、さらには後世の漫画等に至るまでをピックアップしていることでしょう。

 いささか大げさに言えば、本書に記載されているのは、文化としての忍者――忍者自身の事績のみならず、彼らが後世へどのような影響を与え、どのように解釈・受容されていったか、その姿であります。


 もちろん、記載されている情報量やその深度においては、本書を上回るものが、日本では刊行されているでしょう。
 しかし、忍者の本場である我が国であらばこそ、逆に気づかない視点を、本書は外部の立場であらばこそ、教えてくれるように感じるのです。
 この内容、外国人だけのものにしておくには勿体ない…これが私の正直な気持ちであります。


「Ninja Attack !: True Tales of Assassins, Samurai, and Outlaws」(依田寛子&アルト・マット&近藤ゆたか )Amazon
(英文版) 外国人のための忍者常識マニュアル - Ninja Attack !: True Tales of Assassins, Samurai, and Outlaws

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2010.08.07

「伴天連XX」第1巻 キャラクターは良し、あとは…

 佃島に出没するという河童――その噂を追う瓦版屋の番太郎は、異形の左腕を持つ浪人・無命獅子緒と、異国の宣教師フランシスコ・ザビエルX世と出会い、太古から地球を窺う旧支配者の存在を知る。一連の事件を追い、佃島で行われる奇怪な儀式に辿り着いた三人だが、そこでは旧支配者だごんの影が…

 以前、連載初期にも紹介いたしましたクトゥルー・チャンバラ「伴天連XX」の単行本第一巻がついに発売されました。
 右に伝説の神刀を持ち、左に奇怪な妖魔ないとごぉんとを宿した剣士・無命獅子緒と、禁断の知識と聖別された釘を武器とする奇妙な宣教師・ザビエルX世(Xavier X…すなわち伴天連XX!)が、江戸を狙う邪神たちとど派手な戦いを繰り広げる時代アクションであります。

 この第一巻に収録されているのは佃を舞台とした一連のエピソード。
 奇怪な魚面の佃衆の暗躍と、彼らが召喚せんとする邪神だごんとの対決、さらにあの邪神まで登場して…と、物語の導入部を兼ねながら、この時点で既に手加減なしの突っ走りぶりには少々驚かされました。

 もっとも、他ではまずお目にかかれないようなとんでもない設定(左腕にないとごぉんとを持つサムライですよ!?)に比して、この第一巻のエピソードは、むしろクトゥルーものとしてはごく定番の内容といった印象であります。

 非常に厳しい言い方をしてしまえば、あの呪われたインスマスの町を江戸に持ってきただけ――もっとも、インスマスのマーシュ一族に当たる存在として、佃島の衆を当てはめたのはこれは見事! と大いに賞賛すべきだとは思いますが――で、もう少しひねりが欲しかった…というのが正直な印象ではあります。

 また、先の感想でも述べたように、生の神話用語が江戸時代に飛び交う様にはやはり違和感が強くあり、その点においても、神話作品を江戸に移植しただけ、という印象は禁じ得ません。
 邪神側に、(M78星雲人みたいなデザインの)平賀源内を持ってくるのも面白いのですが、その正体も定番過ぎて…


 もちろん、江戸時代にクトゥルー神話を持ち込んだだけでも、大いに嬉しいところではあるのですが、やはりそこに何がしかの必然性と整合性は用意して欲しい…というのも、伝奇マニアとしての正直な思いであります。

 厳し過ぎる評価かもしれませんが、キャラクターは良し、あとは物語と世界設定に独自性を出してくれれば…と、心からの期待を込めての評価であります。


※お詫び
 この感想で、「ないとごぉんと」と書くべきところを、「ばいやくへー」と書いてしまった箇所がありました。
 クトゥルーものとしては云々などと作品の批判をした人間が、斯様な初歩的・根本的ミスを犯すとは、まことに恥ずかしく、また申し訳なく思います。
 ここに訂正とお詫びをさせていただきます。

「伴天連XX」第1巻(横島一&猪原賽 エンターブレインファミ通クリアコミックス) Amazon
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2010.08.06

「春風仇討行」その二 宮本作品の光と影

 宮本昌孝先生の「春風仇討行」収録作品のうち、残る「蘭丸、叛く」「瘤取り作兵衛」の紹介であります。

「蘭丸、叛く」

 同じ小姓の松千代から愛を告げられた森蘭丸。しかし彼は、信長が松千代に見せる態度に、ある疑惑を抱く。松千代にまつわる秘密を知り、彼を守り抜こうとする蘭丸だが…

 織田信長の忠臣として知られる森蘭丸と、彼と同じく信長に仕えた美少年・松千代の愛を通して、意外な秘密の存在と、あまりにも皮肉な結末を描く佳品であります。

 自分の同僚であり、後輩である松千代から愛を告げられた蘭丸――その想いを受け入れたいと欲する一方で、蘭丸の心の中にあったのはある疑念でありました。
 臣下の落ち度を容赦なく罰する信長、その信長が、唯一、破格の優しさを向けていたのが、松千代だったのです。

 単なる小姓への鍾愛とも異なるその態度に秘密の存在を感じ取った蘭丸は、ある夜、松千代とともにいたところを刺客たちに襲われたことをきっかけに、その秘密に迫るのですが…

 と、美少年同士の禁断の恋愛模様が描かれるかと思いきや、しかし物語は意外な方向に展開していきます。
 蘭丸の探索の果てに明かされる真実は、さして意外なものではないようにも感じますが、しかし、何者が刺客を送ってきたのか、その真相は一ひねりが効いていて、なかなか面白いのです。

 しかし、本作の真骨頂は、全ての謎が解けた果てに待ち受ける、あまりにも皮肉かつ切ない結末であることは間違いありません。

 信長の忠臣として知られる蘭丸が、一体何故、どのようにして「叛く」というのか――
 本作を読み始めた時から頭にあった疑問が、最後の最後で、もっとも鮮やかな形で明かされるというのは、これはまさに構成の勝利でしょう。個人的には、本書でもっとも印象に残った作品であります。


「瘤取り作兵衛」

 右頬に大きな瘤を持つ明智家の武辺者・安田作兵衛。本能寺で信長に槍を付けながらも、その一徹ぶりから秀吉に許された作兵衛が何処かへ消えて数十年後、作兵衛は立花宗茂に見出されるが。

 最後に収録されているのは、信長に槍を付けた男・安田作兵衛の人生を巡る、光と影の物語であります。

 安田作兵衛は、明智光秀の臣・斎藤利三に仕えた侍で、本能寺では信長を襲ったほか、前作の主人公である森蘭丸を討ったという人物。
 山崎の戦で敗れた後は、天野源右衛門と名前を変え、様々な家に仕官した後、立花宗茂に仕えたと言われていますが…それはあくまでも史実と伝えられる内容であります。

 それを本作では、作兵衛と源右衛門は別々の人物だった、と設定することにより、痛快な豪傑譚を展開しつつも、同時に陰影に富んだ人間絵巻を描くという離れ業を成立させているのですから驚かされます。

 本作では作兵衛を、癇癪持ちでありながらも、どこまでも豪快、そして筋目の通った好人物として描き出します。
 光秀の命で信長を襲いながらも、信長の威名を辱めないため、信長を討った男と名乗ることを拒む一徹ぶりと、そして光秀の娘・玉子(ガラシア)を密かに慕う純情さを併せ持つ、まさに男らしい男、なのであります。

 それに対して、源右衛門は対照的に小心者で分を過ぎた野心家、強い者に諂い、弱い者に居丈高になり…といいところなしの人物。
 明智家で同輩だったそんな二人の運命が、本能寺をきっかけに分かれ、そして意外な形で再び絡み合う姿を、本作は時にユーモラスに、時に残酷に描き出します。

 ことに印象に残るのは、本作が、いかにもヒーロー然とした作兵衛のみならず、敵役として生まれたような源右衛門にも、優しい視線を向けている点でしょう。
 考えてみれば、宮本作品には数多くの悪役が登場する中で、純粋な悪のための悪というのは存外に少なく、むしろ、人間としてやむを得ない弱さを持っているが故に悪を行う人物が、多く存在することに気づきます。

 本作の源右衛門はまさにその系譜の源流に立つ人物ですが、その彼が、本作では作兵衛とまさに表裏一体の存在として描かれていることは、なかなか象徴的ではないでしょうか?


 以上四作…宮本作品の颯爽とした部分、光の部分だけでなく、その背後に影が存在すること、そしてそれも含めての宮本作品の魅力であることを、改めて感じさせてくれる作品揃いであります。

「春風仇討行」(宮本昌孝 講談社文庫) Amazon
春風仇討行 (講談社文庫)

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2010.08.05

「春風仇討行」その一 その名にふさわしい仇討ち譚

 「春風仇討行」「一の人、自裁剣」「蘭丸、叛く」「瘤取り作兵衛」の四編を収めた、宮本昌孝先生の最初の時代短編集であります。
 初版の刊行は十五年前ですが、今みてもほとんど古びた点のない、よくできた作品揃いであります。以下、各作品毎に紹介していきましょう。

「春風仇討行」

 丸亀藩の名物娘・りやは、ある日、自分の実の両親を殺した男の存在を聞かされ、仇討ちのため江戸に出る。しかし、その介添えに付けられた青年はてんで軟弱者で…

 表題作である本作は、藩評判の美しさながら「むさんこ」(無鉄砲)としても知られる娘・りやを主人公とした仇討ちものであります。

 思わぬことから両親の敵の存在を知ったりやが、頼りない優男の侍とともに江戸に出て、苦難の果てに見事仇を討つ…という内容は、仇討ちものの定石通りの展開ではありますが、しかしそれでもやっぱり面白いのは言うまでもないこと。
 さほど長くない中で、りやの幼い頃の淡いロマンスから、剣鬼との対決、腰抜け侍との交流から、ラストの決闘の意外な展開まで、様々な要素を盛り込みつつ、一気に読ませる作品であります。

 作者の初期の作品であるためか、若侍の正体があまりにも予想通りであったり、りやのキャラクターが作者にしては類型的にすぎる――特に、真面目な女性読者は怒り出すかもしれません――点など、惜しい部分は、確かに皆無ではありません。
 しかし、りやの仇討ちの背景に、親孝行を異常に重要視する時の将軍・綱吉への藩上層部のおもねりがあったり、敵方の剣鬼の背景にも、やはり藩の身勝手さがあったりと、決して脳天気なだけの物語で終わっていない点には注目すべきでしょう。

 もっとも、やはり本作で見るべきは、いかにも宮本作品らしい爽やかな味わいでしょう。
 終盤で描かれるある小道具の気の利いた使い方から、心温まる結末に至るまで、「春風」という言葉にふさわしい、まことに心地よい作品でした。


「一の人、自裁剣」

 秀吉の甥というだけで、関白になってしまった男・豊臣秀次。万事周囲の思惑に振り回される彼にとって、唯一心を開けるのは、剣の師である富田景政のみだったが…

 しばしば時代小説の題材に取り上げられる豊臣秀次の死に至るまでを描いた作品。
 秀次の「殺生関白」という異名が正しいものであったかは、作家によって全く異なる解釈がなされていますが、本作は、秀次の師・富田景政との交流を通して、秀次の複雑な心中を描き出しています。

 単に秀吉の甥というだけで、単なる百姓の身の上から、何の功績もなく――それどころか多大な失敗を重ねながらも――「一の人」まで上り詰めてしまった秀次。
 彼が抱えた孤独をもっとも良く知り、少しでも癒そうとした景政の試みは、一旦は成功したやに見えますが、しかし、皮肉な歴史の流れは、秀次をついに狂気の蛮行へと駆り立ていきます。

 その秀次に対し、景政が最後に残した奥義――その内容は、一見ひどく皮肉かつ毒のあるもののように感じられます。
 しかしそれこそは、景政の師としての最後の思いやりであり…そして、それ以外に秀次になすすべを持たなかったその断腸の思いを考えれば、粛然とせざるを得ません。

 剣法者と暗君(として伝えられる人物)を描いた作品は、隆慶一郎や戸部新十郎なども著しており、その意味では新味というものはありませんが、作者の確かな人物眼が印象に残る作品であります。


 長くなりましたので、残る二編は、次回の紹介といたします。

「春風仇討行」(宮本昌孝 講談社文庫) Amazon
春風仇討行 (講談社文庫)

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2010.08.04

「新選組刃義抄 アサギ」第3巻 両巨頭を襲う刃!

 ちょっと間が空きましたが、ガンガン系歴史漫画シリーズ。蜷川ヤエコ&山村竜也の新選組漫画「新選組刃義抄 アサギ」の第三巻です。
 いよいよ不穏な空気が高まる近藤派と芹沢派ですが…そこに、思わぬ事件が発生することになります。

 新兵衛&以蔵の人斬りコンビから松平容保を救ったことをきっかけに、京で順調な第一歩を踏み出したかに見えた試衛館組。
 しかし、芹沢鴨(二重人格者というのが実にややこしい)一派の横暴な振る舞いはいよいよ目に余るようになり…

 と、ここで普通の(?)新選組ものであれば、近藤一派の鴨暗殺に直結していくところですが、本作ではここに思わぬ展開を見せます。
 何とか手打ちの席を設けた近藤と芹沢が、それぞれ何者かに襲撃されるという事件が発生――当然(?)両派はそれぞれ相手方が犯人と睨み、その決定的な証拠を掴むため、奔走することとなります。

 そしてもう一つ、その事件の背後で進行するのは、実は長州の密偵である斎藤一と、前の巻でその外道ぶりを発揮した佐伯又三郎の暗躍…
 ことに、藤堂平助は佐伯が行った商家押し込みを芹沢の犯行と信じ込んだことから、事態はより一層、ややこしい状況になっていきます。

 この辺りの両巨頭襲撃事件を巡る物語の入り組み方は、これはこれで実に面白いのですが、個人的には、その物語の中に、それぞれの登場人物が埋没してしまったように見えて、あれほど個性的だった面々が、ずいぶんとおとなしくなってしまったような印象があるのが、残念ではあります。

 もっとも、紆余曲折の果てに暴かれた犯人の正体は実に意外である上に、山村先生の解説を見ると「なるほど!」と思わされるのですが…いや、ミステリ的にもフェアな展開で、これには感心いたしました。

 しかし、事件が解決してもすっきりしないのは、斎藤と佐伯に、一同がいいように振り回されるように見えることで…
 佐伯はともかく、斎藤にこの辺りの落とし前をどうつけさせるのか、というのが今後の展開の肝かもしれません。


 なお、今回すっかり存在が霞んでしまった以蔵は、巻末に収録された外伝の主役として、勝海舟や龍馬とのふれ合いが描かれます。
 こちらも、イイ話のようでいて、結末に苦いものを残す内容となっており、本編同様、一筋縄ではいかない味わいであります。

「新選組刃義抄 アサギ」第3巻(蜷川ヤエコ&山村達也 スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス) Amazon
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2010.08.03

八犬伝特集その十一の三 「THE 八犬伝」 第三話「婆娑羅舞」

 「THE八犬伝」第三話は「婆裟羅舞」。舞うは第三の犬士・犬山道節――
 原作でも序盤の名場面である、道節・浜路・網干左母次郎の三人の物語が描かれることになりますが…ここでも本作は、原作を忠実になぞりつつも、思いも寄らぬところでアレンジを加えた変化球を投じてきます。

 前回のラスト、小舟の上でぶつかり合った拍子に、共に玉を持つ身であることを知った信乃と荘助(額蔵)。
 さすがに一時休戦し、荘助は己の身の上を信乃に語るのですが、実は、この辺りの二人の会話シーンが個人的にはお気に入り。
 原作ではかなり真面目な印象のある信乃ですが、本作ではいかにも年相応の少年らしく荘助と語り、荘助もほとんどタメ口で返している様が、実に自然で生き生きとして見えて良いのです。

 そして、意外にさばけた(?)信乃に対し、荘助はあくまでも律儀なのも彼らしい。
 過去話を終えた後、「(刀を)抜いて下さい!」と、あくまでも戦おうとするのはギャグ寸止めですが、ああ、荘助さんらしいや…と、八犬伝ファンであれば思わず納得してしまいそうです。

 結局思いとどまった荘助は、しかし共に行こうという信乃の誘いは断り、大塚に帰って行くのですが…
 しかし大塚では、信乃の居ぬ間に、陣代との婚礼を強いられた浜路は、一人家を抜け出し、首を吊ろうといたします(ここで裾をきちんと縛る浜路のたしなみに感心)。
 しかしその瞬間、いずこからか現れ、彼女をさらったのは網干左母次郎!

 …さて、それらの出来事と平行して描かれるのは円塚山での出来事。
 そこで火定の儀式を行う寂寞道人なる人物――歌舞伎の連獅子めいた姿で舞う、あまりに傾いた姿の修験者は、冒頭で述べたとおり、犬山道節その人であります。

 そこで太田資朝と騒動を起こし、巨大に燃え上がった炎の中に身を投じて道節が姿を消したその後…静けさを取り戻したその場に現れたのは、浜路を駕籠に乗せて拉致してきた左母次郎。
 彼女を「目的の地」に連れてきたと語る彼は、逃げようとする浜路をなぶるように追いかけますが、「浜路」の名を聞いて、土中から飛び出してきたのは道節であります。

 実は浜路は道節の生き別れの妹、その彼女が目の前で危難に遭っていることを知り飛び出してきたのですが…しかし、道節を翻弄した左母次郎(ここでの殺陣の流れるような動きは印象的!)は忽然と姿を消し、追っていった道節が見たものは、赤い橋の上に立つ左母次郎――そう、第一話で伏姫が見たあの橋であります。
 人とそれ以外の境界を否応なしに連想させるこの橋の上に立つということは、左母次郎はやはりこの世の者ではないということでしょうか?

 そして、その左母次郎を薙いだかに見えた道節の村雨が斬っていたのは、しかし左母次郎にあらず浜路…さらに、折悪しくそこに現れた荘助は、浜路の亡骸に激高して道節に切りかかり、ここで奇しくも、二人がそれぞれ持っていた玉が入れ替わったところで、次回に続くこととなります。


 さて、前二回同様、アレンジは交えつつも可能な限り丹念に原作序盤の展開を再現している今回。そんな中で、一人原作とはみ出して動くのは網干左母次郎であります。
 原作ではここで退場の彼ですが、きっちり生き残った…どころか、浜路を道節に斬らせるという役目まで果たしてしまいました。この辺りは「新八犬伝」の影響も見て取れますが、しかしトリックスターというにはあまりに凶悪な存在ではありませんか。

 これは考えすぎかもしれませんが、今回の彼の役目は、道節に浜路を斬らせることにこそあったのではとすら感じてしまいます。
 実は八犬士は、自らの手で己の大事な者を斬ってしまう者が多いのですが、道節にもその業を背負わせるために左母次郎は動いたのでは…と。

 道節だけでなく、他の登場人物も彼に舞わされている感のある本作。絢爛にして怪奇な舞の行方は…

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2010.08.02

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第07話「危うしヤマブキ! 謎の大グモ」

 抜け忍となったやまぶきは、父が行方不明となったという少年・玄太と出会う。折しも、堺周辺で働き盛りの男たちが行方不明になる事件が頻発。囮となった白影は金目教にさらわれ、隠し金山に連行される。玄太の父も連行されたと考えたやまぶきは金山に潜入し、鬼念坊と対決する白影を助ける。さらに赤影・青影も駆けつけ、鬼念坊を打ち倒して囚われの人々を解放した。父と再会した玄太と別れ、やまぶきはいずこかへ去るのだった。

 タイトルにあるとおり、今回はやまぶきを中心としたエピソード。前々回、信じていた幻妖斎に裏切られ、失意のままさまよっていた彼女が、一人の少年のために、金目教と対決することになります。

 抜け忍扱いとなり、かつての仲間たちに追われるやまぶき。その戦いの中に巻き込まれた少年・玄太に、彼女は命を救われます。早くに母をなくし、父と二人で暮らしてきた玄太ですが、その父が突然行方不明となり、失意に沈む玄太に、やまぶきは自分の姿を重ね合わせるのですが…
 元・金目教であるやまぶきには、玄太の父がどこに消えたのか、見当がついている様子。しかし、いかに玄太を哀れと思えど、金目教に戦いを挑むなど死にに行くようなもの――やまぶきは、玄太を置いて一人立ち去ります。

 一方、玄太の父ら働き盛りの男たちの連続行方不明事件の陰に、金目教の臭いを感じ取った赤影たちは、囮作戦で敵の本拠を確かめようとします。
 …となれば、三人の影の中で最も労務者的風貌の白影の出番。首尾良く(?)鬼念坊に捕らわれた白影が連行されたのは、金目教の隠し金山であります。

 鬼念坊が囚われ人の一人(予想通り、玄太の父なのですが)を痛めつけているのを見かねた白影は、それを止めるために鬼念坊に戦いを挑むものの、周囲はすべて敵の状況――

 と、そこで白影を救ったのはやまぶきの手裏剣。一度は玄太の元を去ったやまぶきですが、葛藤の末「しょせん、一度は捨てた命!」と戻り、玄太を連れて金山へ潜入したのです。

 しかし父に駆け寄ろうとした玄太は敵忍者に捕らわれ…と、そこを新兵器の七節棍(横山ファン的には嬉しいアイテム!)で青影が蹴散らし、そしてさらに――何だかすっかりこの瞬間が楽しみになってきました――「赤影、参上!」

 三人の影+やまぶきが揃っては敵はありません(金山で持たされていたハンマーを振り回す白影さんの違和感がないこと)。見かけの割りに肉弾戦は弱い鬼念坊も追いつめられますが、彼には最後の切り札が…
 突如、目から謎の光線を放つ鬼念坊。その光線を浴びた者は金縛りとなり、そして次の瞬間そこに現れたのは、謎の巨大蜘蛛! これぞタイトルの巨大蜘蛛であります。

 しかし、怪光線を刀で防いだ赤影は、この蜘蛛が幻術であることを見破り、実はごく普通のサイズだった蜘蛛の本体を攻撃。
 切り札までも失った鬼念坊はなおも逃げようとしますが、そこに白・青・黄の即席ながら見事に息のあった攻撃(ほとんどジェットストリームアタック)が炸裂、ついに鬼念坊も倒れるのでした。

 解放を喜ぶ人々。その中にはもちろん、玄太と再会した父の姿がありました。
 そんな中、彼らとも、赤影たちとも別れ、一人去っていくやまぶき…


 幻妖斎ある限り、天下に身の置き所のない彼女。そんな彼女が、あえて他人のために、金目教と積極的に敵対することとなった今回。
 その原動力となったのが、単純な正義の心や義侠心でなく、自分と近しい境遇となってしまった少年への同情心的なものだったのが、何ともうまいと感じました。

 悪の組織が労働力を誘拐して秘密工場で働かせるというのは定番パターンですが、そこにやまぶきのエピソードを加えることで、よいアレンジになったと思います。

 赤影たちだけでなく、前回の霞丸、今回のやまぶきと、主役側以外のキャラの掘り下げも見られるようになってきて、今まで以上に目が離せなくなってきました。

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2010.08.01

八月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 春先がずいぶんと寒かったと思えば、今度は本当に暑い日の連続。この調子では夏真っ盛りになったらどうなってしまうのかしら…と今から恐れおののいていますが、何はともあれ夏本番。夏休みはクーラーの効いた部屋で読書としゃれ込みたいものです。というわけで八月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 八月の文庫新刊は、七月に比べれば結構なラインナップ。

 新刊の方では、前作からかなりのスピードで続巻登場の上田秀人「赤猫始末 闕所物奉行裏帳合」を筆頭に、前作に付された予告の時点で期待度大だった柳蒼次郎「風の忍び六代目小太郎 風の掟」、このタイミングで微妙なタイトルの如月天音「平安ぱいれーつ 東国神起」、そして無事シリーズ化でめでたい渡瀬草一郎「陰陽ノ京 月風譚」其の弐と、楽しみな作品が目白押しであります。

 旧作の文庫化の方では、ちょっと懐かしい時代ホラーの坂岡真「膝丸よ、闇を斬れ」(旧題「艶書屋又十郎 降魔剣膝丸」)、三ヶ月連続刊行ラストの荻原規子「薄紅天女」、そしてベストコレクションとして待望の登場の山田風太郎「警視庁草紙」が気になるところです。


 漫画の方では、何といってもせがわまさきが山風短編に挑んだ第一弾「山風短 くノ一紅騎兵」が一番の注目作品でしょう。その他、発売が一ヶ月延期になった小竹田貴弘「怪異いかさま博覧亭」5、福田宏「ムシブギョー」2、猪熊しのぶ「雪月記」2、そして矢野隆の原作を漫画化した長田悠幸「蛇衆」1あたりが注目でしょうか。

 おっと、四コマ漫画では重野なおき「信長の忍び」3に大羽快「殿といっしょ」5と、楽しみな作品が同月に刊行です。

 また、復刊・文庫化の方では、先月に引き続き森田信吾作品が復活。戦国忍者ものの名作「影風魔ハヤセ」が登場です。この調子で「慈恩 幕末秘剣」と「御庭番明楽伊織」もぜひ…(と思っていたら「慈恩」は九月発売が決定!)
 その他、これで本宮ひろ志「真田十勇士」4で完結、そして続編も早くでないかな、の高田裕三「九十九眠るしずめ」が文庫化です。


 最後に武侠ものは、小説では文庫化が完結の「天龍八部」8、漫画は白井三二朗の「射ちょう英雄伝EAGLET」4、そして最後に映像で「笑傲江湖」のデジタル・リマスター版DVD-BOXの登場と、金庸先生三連発。
 それにしても他の作家の武侠ものも出ませんかねえ…




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