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2010.08.26

「風の忍び六代目小太郎 風の掟」 ぶつかりあう二人の想い

 十兵衛に再修行を命じた柳生宗矩。宗矩の狙いは、自らが天下の権を握る障害となる風魔の打倒だった。江戸に帰り、裏柳生総帥として風魔を討つことを命じられた十兵衛は、親友である風間伊織こそが六代目小太郎であることを知る。裏柳生の罠により、対決を余儀なくされる伊織と十兵衛の運命や如何に。

 ついに第五巻目に突入した「風の忍び 六代目小太郎」シリーズ。前作「太夫の夢」からかなり短い間隔で刊行されたもの嬉しい本作ですが、しかしここでシリーズは大きな転換点を迎えることになります。

 五代目風魔小太郎が神君家康と交わした約定により、江戸を闇の世界の住人から守る使命を帯びた風魔一族。
 その上忍として一族を束ねる六代目小太郎こと風間伊織の活躍を描いてきた本シリーズですが、しかし、今回の敵は、これまでとは大いに趣を異にします。
 その敵こそは裏柳生。将軍家指南役・柳生宗矩が、己の野望のために組織した、剣法と忍法を修めた裏の戦闘集団であります。

 そもそも本作の宗矩は、父から柳生新陰流正統を継げなかった怨念を胸に秘め、同じく父にコンプレックスを持っていた二代将軍秀忠に接近。こともあろうに大御所家康暗殺を吹き込むほどの黒い人物。
 しかし、その刺客団を五代目小太郎ら風魔に殲滅され、宗矩の野望は挫かれることに。それでも、権力への渇望を胸に秘め、宗矩は着々と幕府で地位を固めていくこととなります。

 そして、自分が手を全く汚すことなく裏柳生を指揮する者として、十兵衛が十分に育ったと見るや、有無を言わせず裏柳生総帥の座に十兵衛をつけ、風魔一族との対決を命じる宗矩。
 ――十兵衛のほとんど唯一の友人である、風間伊織が、六代目小太郎その人であることを明かした上で。

 なおも裏柳生の奸策は尽きません。
 十兵衛にとってかけがえのない人間を術中に陥れ、風魔の名を騙って惨殺する――そこまでやるか、とこちらが暗澹たる気持ちになる策をとってまでして、十兵衛を裏柳生総帥に据えようとする、その執念をなんと表すべきでしょうか。
 隆慶一郎作品の宗矩像に近いようでいて、しかし全く異なる、おぞましいまでに黒い宗矩の姿がここにあります。

 しかし、これを救いと喜ぶべきか、悲しむべきか――やむを得ず総帥として伊織と対峙する十兵衛の心中にあるのは、悲しみでも、諦めでもありません。
 そこにあるのは、己が全力でもって当たれる相手を得た喜び…それが親友であっても、いや、それだからこそ、彼の抱えた鬱屈を正面からぶつけられる相手を得たことは、彼にとってこの上ない喜びなのです。

 もちろん、それを受け止めることができるのは、風魔の上忍として桁外れの器を持つ伊織ならではです。
 いつものことながら春風駘蕩にして秋霜烈日な伊織(今回、登場するなりとんでもない理由で半死半生の状態となっているのが実におかしい)は、闇の世界の住人でありながらも、しかし、誰よりも強い光を放つ存在。

 その器でもって、これまでも戦国時代から取り残されてしまった哀しき忍びと戦い、ある種の救いを与えてきた伊織だからこそ、十兵衛の巨大な悲しみと渇きを癒すことができるのです。

 もちろん、そんな二人のぶつかりあいは、しかし、命のやりとり以外の何物でもありません。
 一切の小細工なし、お互いが死力を尽くして正面からぶつかり合う死闘は、本シリーズのクライマックスともいうべき迫力。
 十兵衛の「血が沸き立つとはこれだ。これなんだよ、風間っ」という叫びは、読者である我々のそれでもあります。


 そして…二人にとっては悲しむべきことに、我々にとっては喜ぶべきことに、この対決はあくまでも始まりに過ぎません。
 伊織と十兵衛の戦い、風魔と裏柳生の戦い…その行方を――それは、もちろん、本シリーズの行方でもあります――これからも、少しでも長く見つめていられたらと願う次第です。

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