「あやかしがたり 3」 捨て切れぬもの、守るべきもの
自分の前から去ったふくろうを追うため、公儀隠密妖異改の言葉に乗り、あやかし絡みの抜け荷事件を追うことになった新之助。一人さまよう新之助は、行き倒れたところを廻船問屋の娘・加絵に拾われ、彼女の船に乗ることとなる。数々の奇怪な噂が流れるトカラ列島に向かった新之助をそこで待つ者は…
見鬼の才を持つことから数奇な運命に巻き込まれた少年剣士・大久保新之助の成長を描く等時代ライトノベル「あやかしがたり」シリーズ第三弾であります。
シリーズ冒頭から共に旅を続けてきた拝み屋・ふくろうと前作ラストで決別した新之助。
ふくろうの、捨てることから得る強さとは別の強さを得ることを誓って旅に出た新之助ですが…
本作の冒頭ではあっさりとやさぐれて、家族をはじめとする自分以外の全てを――いや自分自身をも――捨てる決意を固めてしまいます。
いやいや、前作の流れでこの展開はないだろう…と驚いたり落胆したり焦ったり(?)するこちらを尻目に、ふくろうと同じステージに立つため、彼と同じ公儀隠密妖異改の陰働きにつくことになります。
しかし、熱しやすく冷めやすく、一方から一方へと極端に走りやすいのは、ある意味青春の特権。
気のいい廻船問屋の娘・加絵に拾われた新之助は、任務遂行のために南に向かう足として乗ったはずの船上で、人間らしさを取り戻していくこととなります。
それぞれに過去を背負いながら、水夫として明るく働く男たち、女ながらに船頭を目指し、壁にぶつかりながらも夢を叶えようとする加絵…
これまで物語にはあまり登場しなかったごく普通の、しかし懸命に生きる人々との生活は、新之助の心を癒し、彼にとって本当に大事なものがなんであったかを、思い出させていきます。
上に述べたとおり、冒頭でこれまで守ってきたもの、守ろうとしたものをあっさりと捨ててしまった新之助ですが、捨てなければわからないものも、確かにある。
いや、一度捨てようとしてもなお捨て切れぬもの、それこそが本当に大事なもの――そう考えれば、彼の迷走も意味あるものでありましょう。
(そして、彼の復活を祝福するがごとく、颯爽と助っ人に現れるましろとくろえが実によろしい)
そして復活した新之助の前に立つのは、彼が悩み、迷いながら追い続ける男――ふくろうその人。
初めは旅の拝み屋、実は公儀隠密妖異改…と、物語が進むにつれて異なる顔を見せてきたふくろうの正体が、今回ついに明かされることとなります。
このふくろうの正体については、ある意味本作のキモですのでここで詳しくは触れませんが、なるほど、このような出自であれば――○○がそのような一族であったか、ちと疑問が残るのを除けば――彼があれほどの力を持ち、そしてそれゆえに苦しんできたこともうなづくことができます。
そして彼が最期に為そうとしたことも、一見無茶苦茶な理屈でありながら、伝奇的には実に面白いアイディア。
いやはや、ここまでふくろうが面白いキャラクターになるとは、嬉しい驚きであります。
…しかし、ふくろうが目指したものは、しかし、新之助にとっては到底受け入れられるものではありません。
己が捨てないと誓ったものを守り抜くため、そしてかけがえのない友であり、目指すべき目標である男を救うため――ついにふくろうに挑む新之助。
救うため、止めるために刃を向ける…一見矛盾した行動を、全く違和感なく、いやこれしかないと思わせるのは、これまでの物語の積み重ねあってこそ。
間違いなく本作は、シリーズの一つの到達点であります。
お話的にはかなりシンプルではあります。また、相変わらず地の文が語りすぎるきらいはあります。特に後者は、ダメな方は本当にダメかもしれません(しかしこの語りこそが、新之助の、そして作者自身の、悩みながらも前に進もうとする姿勢の現れではあるのですが)。
それでもなお、理想とする自分に向けて足をひたすらに前に進める新之助の姿には大きく頷けるものがありますし、その成長は、物語そのものの質にも大きく影響しているやに感じます。
第一作より第二作、第二作より本作…着実に面白くなっているシリーズの着地点がどこなのか、期待しています。
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