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2010.09.30

「屍舞図」 恐るべき二つの地獄絵図

 京の貴族の屋敷に厄介になっていた一休は、貴族の息子から、恋の仲立ちを頼まれる。その息子が見初めたのは、明国渡りの道士の美しい娘だったが、とんとん拍子に話はまとまり、二人は婚礼を挙げることとなる。しかし、一休は娘にまつわる奇怪な噂を耳にすのだった…

 お馴染み「異形コレクション」の朝松室町伝奇の最新作、今回のお題は「Fの肖像」――Fとはすなわち、フランケンシュタインであります。

 とある出来事から名僧との評判が一気に高まった43歳の一休。
 しかし彼にとってはその評判はむしろありがた迷惑、平穏を求めてとある貴族の館に厄介になります。

 そんなある日、その貴族の内気な息子から恋の仲立ちを頼まれた一休は、居候という身分もあって、それを引き受ける羽目に。
(この辺り、義理でつきあわされる一休のぼやきぶりが実に愉快。年をとって少しだけ落ち着きが出てきた…かな?)。

 貴族の息子が一目惚れしたのは、六代将軍足利義教が「ある目的」のために明国から招いたという道士の二人の娘の、姉の方。
 幸い、娘の方も一目で息子の方を気に入り、親の側の思惑も相まって、あっという間にめでたく二人は婚約を交わすこととなります。

 しかし、そんな最中に一休が耳にしたのは、娘たちにまつわる奇怪な噂。
 実は娘のどちらかが、以前暴れ馬に踏まれて命を落とし、しかしその父の術で甦ったと――

 明の道士が義教により招かれ、我が国で研究を続けるその内容は何か。
 道士の家で祀られる華陀とホウ都大帝、菅原道真の意味するものは。
 その謎を探るために堺に向かった一休は、おぞましい真実を掴んで帰ってくるのですが…


 と、お話的にはかなりシンプルな本作。
 一休が耳にした奇怪な噂の内容が描かれる時点で、ほぼ結末は見えてしまうのですが、その結末の地獄絵図に、もう一つ、姉妹――屍舞!――の間の想いが絡み、いわば魂の地獄絵図が重なって見えてくるのが面白い。

 ただ、もう少しこの辺りはねっちりと掘り下げても良かったようにも思われることもあり、全体的にあっさり目の味わいに感じられる点は否めません。

 とはいえ、結末のショッカーには、朝松室町伝奇の隠れた特徴の一つである舞台劇、伝統芸能めいた味わいが横溢していて、その残酷美はやはり印象に残るものであります。


 それにしても…この道士の研究が他所で用いられていたら? などと想像するのは実に楽しいことではないでしょうか?

「屍舞図」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち」所収) Amazon
Fの肖像―フランケンシュタインの幻想たち 異形コレクション (光文社文庫)

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2010.09.29

八犬伝特集その十二の四 「THE 八犬伝 新章」 第四話「浜路再臨」

 浜路の幻影に出会い、悔恨あるいは恋慕の念に狂乱する道節と荘助。信乃も浜路の姿を追ううちに誤って深手を負うが、木工作老人に助けられる。そこで名前も姿も同じ浜路と出会う信乃だが、浜路に懸想する泡雪奈四郎は木工作を殺し、彼に濡れ衣を着せる。逃げる二人の前に現れた道節は浜路に、荘助は信乃に刃を向けるが、すんでのところで思いとどまる。その前に現れた網干は浜路をさらい、安房で待つと言い残して消えるのだった。

 さて、「THE八犬伝 新章」第四話は、一部で伝説として知られるエピソード。放浪を続ける信乃・道節・荘助の前に、彼らそれぞれと因縁を持つ浜路が現れます。

 原作でも恋人同士だった信乃と浜路。そして道節は浜路の兄であり、荘助は浜路の養父母に仕える身でした。しかしこの「THE八犬伝」では、それに加えて、荘助と道節に、浜路と新たな関係性を用意しています。

 荘助にとってそれは、浜路への恋情。
 彼にとって浜路は主の娘、そして彼女には信乃という許嫁が…決して許されぬ彼の恋情ですが、それだけにその想いは深く、静かに隠れていたのでしょう。
 物語の冒頭でさりげなく描かれていたこの感情が、浜路(の顔をしたモノ)の幻影の出現により、一気にバランスを欠いて狂気とも言える想いに転じていきます。

 そして道節の方は、激しい悔恨と罪の意識として発露します。
 生き別れの妹と偶然であったかと思えば、その直後に――網干の術中に陥ったとはいえ――妹を自らの手にかけてしまった道節。
 この、一種浄瑠璃もの的悲劇が、やはり浜路の幻影の出現により彼の心中に蘇り、彼は幾度となく浜路の姿に刃を振るうことに…

 原作では基本的に品行方正極まりない者たちであった八犬士…その彼らに、より人間的側面を与えることによりドラマを構築してきた「THE八犬伝」ですが、ここにきて浜路の死をこのように活かしてくるとは…

 そして信乃の前にも現れるもう一人の浜路。こちらは悪意ある幻影などではなく、彼女と同じ姿と同じ名前を持つ、しかし彼女とは異なる人物であります。
 それ故か――あるいは、彼の元々の浜路への接し方であったか――他の二人に比べれば平静を保ったままの信乃ではありますが、しかし運命はかつてと同じような試練を二人に下します。

 浜路に懸想した土地の権力者・泡雪奈四郎が、浜路の養父を惨殺。その罪を信乃に着せたことにより、信乃と浜路は泡雪たちに追われることとなります。
 道節の助けにより、泡雪たちを返り討ちにした二人ですが、しかし、今度は狂気に囚われた道節の、荘助の刃が二人に襲いかかることに…

 いやはや、原作の浜路再臨のエピソードにはいささか釈然としない想いを味合わされましたが、ここでこのエピソードをこのように料理して、信乃・荘助・道節がそれぞれの過去に直面し、乗り越える(折り合いをつける)物語にしてみせるとは、大いに感心しました。

 特に物語開始時点からあまりいいところのなかった荘助にとって、今回ラストの振り絞るような告白は、一世一代の名場面であり、そして八犬士を――ある側面においては――生きた一個の人間として描いてきた本作の面目躍如たるものがあるでしょう。


 しかしこの第四話が伝説となっているのは、むしろその内容ではなく、大胆なビジュアルのためでしょう。

 これまでのキャラクターデザインをばっさりとデフォルメ――というよりほとんどリライト――してみせた絵は、確かに他の話と同一人物とは思えない描き方で、当時の視聴者が大いに混乱したというのもよくわかります(正直なところ、私も声を聞くまで誰だかわからないキャラがいました)。

 しかしその一方で、そのビジュアルが、アニメとして――その色彩や動き、画面構成として――非常によくできているのもまた事実。
 ほとんど最初から最後まで動きっぱなしの画面構成の巧みさ、時に写実的に時に極めてデフォルメして描かれる、メリハリの利いた情景描写の美しさ…

 上述のキャラ作画も含めて、一つの計算の上で画面が成り立っていることを納得させられる、そんな魅力的なアニメーションであります。
(さらに言ってしまえば、今回の物語の大半が幻影と悪夢の中にあったことを思えば、デフォルメされた絵柄もそれを示すためのものではないか…というのは牽強付会に過ぎるでしょうか)

 何はともあれ、この新章もいよいよ折り返し地点。次回、ついに八犬士が集結するようですが…


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2010.09.28

「天空の陣風」 平助、女人に陣借りす

 戦国一の痛快男児、陣借り平助こと魔羅賀平助が帰ってきました。
 足利義輝より「百万石に値する」と評されたという豪傑ながら、仕官を望まず、戦場では必ず弱き側の陣のために働く平助の活躍を描く連作短編集であります。

 今回収録されているのは、「城を喰う紙魚」「咲くや、甲越の花」「鶺鴒の尾」「五月雨の時鳥」「月下氷人剣」の全五編。
 物語に登場し、ある者は平助に助けられ、またある者は平助と対決する武将たちは、竹中半兵衛、宇佐美定満、山中鹿介、毛利元就など多士済々で、前作同様、歴史の影に平助あり、と言いたくなるような実に豪華キャストであります。

 前作は全七編収録だったところ、話数自体は減っているのですが、その分一話ごとの分量は増えているわけで、物語的には起伏に富んだものとなっており、前半で描かれた事件が意外な形で後半の物語に影響を…ということもしばしば。
 一種ミステリ的興趣のエピソードや、二段オチ的作品もあり、収録された物語の基本スタイルは共通しているものの、飽きるということは全くありません。

 しかし、前作に比べて本書の大きな特徴となっているのは、ほとんど全てのエピソードで、平助が陣借りする相手が、実は女人であるという点でしょう。
 戦国時代、実際に刀槍を手にして戦うのは(基本的には)あくまでも男。
 しかしながらそれは、その戦いに女性が参加していなかったということでは、もちろんありません。

 城にあって男を支える者、家中の実力者として国を動かす者、家と家族を喪い落ち延びる者…妻として子として母として、戦国の世で彼女たちは彼女たちの戦いを繰り広げてきたのです。

 今回平助が出会い――望むと望まざるとに関わらず――助力するのは、そんな女性たち。
 なるほど、(少なくとも表向きは)確かに弱き者である彼女たちの味方をするのは、平助の流儀にも適ったことであり、そして何よりも、ヒーローとして実に正しい姿勢であります。

 しかしながら、本書のその趣向は、女性を単純に弱き者として貶めているものでは、決してありません。
 むしろその逆…形こそ違え、戦国時代の中で命を賭けて戦う者として――その目指すところが正しいか否かは別として――敬意を表しているのであります。

 本シリーズは、平助の痛快な活躍を描く冒険譚であると同時に、彼を一種の狂言回しとして、戦国時代における男と女の在り方を切り取ってみせる人間ドラマ…そんな印象も受けるのです。

 もっとも、基本的には純情な平助がしたたかな女性陣に振り回されるという形になってしまうのは、これはこれで男目線の作劇だなァとは感じるのですが…


 さて、これは蛇足かもしれませんが、宮本ファン的に嬉しいのは、作中で、宮本先生の代表作たる「剣豪将軍義輝」との関わりが描かれるところ。
 冷静に考えれば、設定上、平助と義輝には接点があるのですからおかしくはないのですが、やはりこちらとしてはテンションがあがるところです。

 本書の後半では、あの宿敵の影も幾度か見えることもあり、これはもしかして「剣豪将軍義輝」と「海王」のミッシング・リンク的展開もあるのでは…と期待している次第です。

「天空の陣風」(宮本昌孝 祥伝社) Amazon
天空の陣風(はやて)


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2010.09.27

「仮面の忍者赤影」アニメ版 放映リスト&キャラクター紹介

 物語がちょうど第一部完、さらに偶然にもこの九月からネット配信開始ということで、アニメ版「仮面の忍者赤影」の放映リストとキャラクター紹介をここで掲載。
 放映リストから、各話レビューに飛べます。

<放映リスト>

話数 

放映日

サブタイトル

脚本

絵コンテ

演出

作画監督

 01 87/10/13 赤影と山ザル小太郎 菅良幸 石崎すすむ 石崎すすむ 金山明博
 02 87/10/20 怪奇! ガマ法師 井上敏樹 勝間田具治 杉島邦久 進藤満尾
 03 87/10/27 狙われた黄金五十万両 菅良幸 小鹿英吉 小鹿英吉 渡辺浩
 04 87/11/03 守れ!! 霧の南蛮船 照井啓司 新田義方 新田義方 進藤満尾
 05 87/11/10 危機一髪! 忍法花ふぶき 渡辺麻実 栗屋義之 福留政彦 金山明博
 06 87/11/17 恐るべし!! 必殺胡蝶の剣 井上敏樹 杉島邦久 杉島邦久 谷口守泰
 07 87/11/24 危うし山吹! 謎の大グモ 照井啓司 小鹿英吉 小鹿英吉 進藤満尾
 08 87/12/01 激突!! 赤影VS赤影 照井啓司 新田義方 新田義方 岡迫亘弘
 09 87/12/08 恐怖のおろち丸!! 菅良幸 栗屋義之 福留政彦 進藤満尾
 10 87/12/15 はしれ赤影!! 信長との賭け 菅良幸 米谷良和 杉島邦久 金山明博
 11 87/12/22 せまる!! 忍法阿修羅地獄 渡辺麻実 小鹿英吉 小鹿英吉 谷口守泰
 12 88/01/12 でた~っ!! 鋼鉄の忍者 菅良幸 栗屋義之 福留政彦 安部正己
 13 88/01/19 決戦!! 魔境の大ワシ 照井啓司 米谷良和 米谷良和 進藤満尾
 14 88/01/26 怒りの大魔神像・やまぶき死す!! 井上敏樹 杉島邦久 杉島邦久 岡迫亘弘
 15 88/02/02 幻魔城からの使者・魔童子 菅良幸 新田義方 新田義方 金山明博
 16 88/02/09 闇におどるガイコツのワナ!! 井上敏樹 小鹿英吉 小鹿英吉 進藤満尾
 17 88/02/16 死を呼ぶ異次元の怪奇!! 照井啓司 栗屋義之 福留政彦 谷口守泰
 18 TV未放映 恐怖のチェスゲーム!! 菅良幸 進藤満尾 米谷良知 米谷良知
 19 88/02/23 霞丸と妖刀龍幻!! 井上敏樹 杉島邦久 杉島邦久 岡迫亘弘
 20 88/03/01 秘宝発見!! 赤影VS夜叉王 菅良幸 新田義方 新田義方 金山明博
 21 88/03/08 雷神砲炸裂!! 幻魔城へ 菅良幸 小鹿英吉 小鹿英吉 進藤満尾
 22 88/03/15 対決!! 赤影VS魔童子 井上敏樹 竹之内和久 福留政彦 谷口守泰
 23 88/03/22 さらば赤影!! 炎の大幻魔城 井上敏樹 石崎すすむ 石崎すすむ 金山明博


<登場キャラクター>(カッコ内はキャスト)

赤影(古川登志夫)
 影一族きっての忍術の使い手。赤い仮面に素顔を隠し、「赤影参上!」の台詞とともにどこからともなく現れる。
 「乱れ髪」をはじめとする飛騨忍法に加え、刀術・体術の達人でもある。

青影(野沢雅子)
 本名・小太郎。影一族の長老に育てられ、少年ながら大人顔負けの体術の使い手。「だいじょーぶ」はたまにしか言わない。

白影(玄田哲章)
 パワーファイトを得意とする壮漢。凧に乗って空からの活動を得意とする。赤影たちに合流する前は各地で金目教を追っていた。

カラクリ富蔵(山寺宏一)
 堺で影一族の拠点・唐国屋を営む男。発明を得意としており、しばしば青影に新兵器を与える。

幻妖斎(大塚周夫)
 数々の忍者を率いる悪の大忍者。金目教を隠れ蓑に数々の悪事を働き、堺を拠点にしての天下取りを狙う。

霞丸(塩沢兼人)
 幻妖斎の客分的な美青年。霞流の剣の使い手でその腕は赤影と互角以上。実は信長に滅ぼされた大名・香月家の嫡男で、信長に深い恨みを持つ。

やまぶき(土井美加)
 幻妖斎配下のくノ一。父を赤影に殺されたと思いこみ付け狙っていたが、真実を知り、幻妖斎の下から抜ける。霞丸を慕う。

邪鬼(屋良有作)
 幻妖斎配下の忍者。死んでも水分を与えられれば復活する不死身の忍者。やまぶきに惚れているが相手にされていない。

織田信長(戸谷公次)
 天下取りに王手をかけている戦国大名。堺の財力に目を付けているが影一族の力には一目置いている。

赤垣源之介(古川登志夫)
 堺の明世寺で寺子屋を営む青年。人当たりの良い優しい性格で、子供たちには舐められつつ慕われている。



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2010.09.26

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第14話「怒りの大魔神像・やまぶき死す!!」

 大本山に突入した赤影たちの前に現れ、赤影に一騎打ちを挑む霞丸。やまぶきが割って入った一瞬の間に、赤影の刃が霞丸の笛を斬り、霞丸は負けを認めて去る。そして白影たちと合流した赤影の眼前で、幻妖斎が操る金目像が立ち上がり、進撃を開始する。苦戦しながらも、落石に巻き込んで金目像を谷底に落とし破壊に成功する赤影。しかし幻妖斎の短筒から赤影をかばったやまぶきは命を落とし、幻妖斎もいずこかに姿を消すのだった。

 ついに金目教編も最終決戦。前回、大本山に向かった赤影一行、そして堺奉行所の侍・高岡は、大ワシを突破して(ちなみに前回のクレジットで「ワシ使い」だったキャラの名は、「鷲丸」だったことが今回判明。どっちにしろわかりやすいネーミング…)先に進みますが、そこに中ボス的忍者たちが立ち塞がります。

 赤影たちの前に登場したのは、アルマジロみたいな鎧を背負った三人の忍者。よくTVゲームとかに登場するような、身体を丸めて突進してくるキャラですが、手裏剣も弾く鎧は、雑魚ながらなかなかの強敵。
 ここで赤影が突然周囲の木の葉を落とし始めたので、もしかして…と思ったら、繰り出した忍法はやっぱり(?)「木の葉火輪」! いやそれは別の人の忍法じゃ…というツッコミはさておき、炎に巻かれて熱い熱いと鎧を脱いだところを攻撃されてお陀仏であります。

 お次に登場したのは…宿敵・霞丸! 幻妖斎の野望に興味はないが、赤影との決着はつけたい――と、一対一の決闘を挑みます。
 早速、霞流胡蝶剣を繰り出す霞丸に対し、目を閉じることでその攻撃に応じようとした赤影ですが、そこに割って入ったのはやまぶき。

 よけいなことを! と言いたくもなりますが、まあ今回は半ば無理矢理連れてこられたことですし、このくらいの娘心はアリとしましょう。
 もっとも、それに気持ちが乱れた霞丸はお気の毒。一瞬の交錯の末に、帯に差した笛を斬られたことをもって負けを認め、一人姿を消すのでした。

 一方、先行した高岡が洞窟の地底湖まで来たところで現れたのは、謎の半魚人っぽい忍者。ド派手に噴出する竜の形の水柱に乗って登場であります。
 戦闘力は意外に高そうですが、普通の侍の高岡さんにはこの相手は酷というものか、水中に引きずり込まれてしまいますが…調子に乗って首を締めていた半魚人忍者、そこにやってきた白影に、倒されるシーンもなく倒されるのでした。

 そんなこんなでついに金目教の大聖堂ともいうべき大洞窟にたどり着いた赤影たちですが、そこではまさに金目教の総進撃が始まろうとしていたところであります
 幻妖斎が乗り込んだ金目像から出る怪光線を浴びた信者たちは、件のゾンビ状態に。
 そして、石像のような殻が崩れ落ちた下から現れたのは、黄金の金目像! 体型といい、面構えといい、実に横山チックなビジュアルであります。

 その前に颯爽と参上した赤影! 白影! 青影! いよいよ決戦です!
 …が、進撃を始め信者たちと金目像に慌てるあたり、あんまり先のことは考えてなかったみたいです。

 それにしてもどういう動力かはさっぱりですが、とにかくすごい機巧仕掛けで動く金目像はまさに無敵。
 赤影たちの攻撃全てを弾いて、洞窟の外に飛び出します。

 が、ここで実に都合良くオーバーハングした岩を見つけた赤影、自分を囮にしている隙に青影に岩を爆破!
 さしもの金目像も、頭上からそれをくらってはたまりません。赤影を追って崖っぷちにいたことも災いして、谷底に落下、大破するのでありました。

 金目像が破壊された結果か、操られていた人々も正気に戻り、まずはめでたし――と思いきや、生きていた幻妖斎は短筒で赤影を狙撃。それに気づいたやまぶきは、赤影を庇ってその銃弾を受けて谷底へ…

 怒りに燃える赤影たち三人を向こうに回しても全く動じない幻妖斎が九字を切ると、念動力か地底湖の水が激流、周囲の全てを押し流し、幻妖斎も姿を消してしまうのでした。

 そして谷底に倒れたやまぶきのもとに駆け寄った邪鬼。かろうじて意識を取り戻したやまぶきは彼を見て「霞丸様…」って、むごいな、と思ったら本当に邪鬼の背後に立っていた霞丸。
 やまぶきは、慕っていた霞丸の腕の中で息を引き取るのでした。

 やまぶきを抱いて去る霞丸と、毒づきまくる邪鬼――雰囲気ぶち壊しまくる邪鬼ですが、彼の悲しみもよくわかります。
 忍びに生まれたばかりに数奇な運命に翻弄され、命を落としたやまぶき…

 しかし悲しむ間もなく、戦いは続きます。次回より新章・幻魔城編に突入であります。

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2010.09.25

十月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 さて、あからさまに異常気象宣言されてしまった今年の暑さですが、さすがに今月一杯で終わりだろう…などと思っていたら、秋を通り越して冬みたいな気温になってしまった今日この頃。
 ここは大人しく部屋に引き籠もって静かに読書にでも励みたいもの…というわけで、十月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。(敬称略)

 文庫時代小説の方は、今月もまあまあと言ったところ…

 新作で注目は、今年は快調に飛ばしている上田秀人「お髷番承り候 1 潜謀の影」、一作目の好評で早速続編登場の「もののけ本所深川事件帖 オサキ鰻大食い合戦へ」(ってなんて斬新なタイトル…)。
 そして、完結編の後に最終巻というややこしいスタイルですが、九月文「佐和山物語 桜色の時はめぐり」も登場です。

 もう一つ、鳴海丈「ご存知遠山桜 ふたり金四郎痛快譚 艶色講談」も、内容はわかりませんが気になります。「艶」の字がタイトルに入っている辺り、やっぱり鳴海先生ですね…

 さて、復刊・文庫化はかなり充実。
 まずは、先日のトークセッションでも健在ぶりをアッピールした荒山徹「柳生百合剣」が文庫化。個人的には最近の作品の中で一番好きな作品であります。

 また、まさかあの番組の新シリーズ開始に合わせたわけではないでしょうが、五十嵐貴久「相棒」も文庫化します。
 さらに、刊行中の山田風太郎ベストコレクション、十月の時代小説枠(?)は「伊賀忍法帖」。同じ角川文庫からは、京極夏彦「豆腐小僧双六道中ふりだし」が登場です(単行本は判型が変わってて読みにくかったのよね…)

 もう一つ気になるのは、時代伝奇ではありませんが、都築道夫の「なめくじ長屋捕物さわぎ」の復刊でしょう。今回は「ちみどろ砂絵」「くらやみ砂絵」の合本のようですが、今後もこの形で刊行されるのでしょうか。


 さて、漫画の方は、完結作品が意外と固まった印象。
 掲載誌休刊のあおりをモロに受けた感のある薮口黒子「軒猿」5、長きに渡る死闘もついに決着の山口貴由&南條範夫「シグルイ」15、貴重なゾンビ時代劇であった横山仁&柴田一成「戦国ゾンビ 百鬼の乱」、いずれも完結であります。

 一方で新登場の方は小林裕和「戦国八咫烏」くらいというのが寂しいのですが、続刊では、だからそろそろ続きを…の高田裕三「九十九眠るしずめ」文庫版3、雑誌はなくなっても続くようで一安心の「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」、意外に早い登場の神宮寺一&遠藤明範「幕末めだか組」4、第一部完となったばかりのひらりん&大塚英志「三つ目の夢二」2、少女マンガからは山田圭子「戦国美姫伝 花修羅」2など、結構な点数です。

 さらに、ガンガン系としては、柳ゆき助&町田一八の「鴉 KARASU」2、蜷川ヤエコ&山村竜也の「新選組刃義抄 アサギ」4と幕末コンビ(?)が登場。
 また、公式読本も同時販売で人気あるんだなあと感心の七海慎吾「戦國ストレイズ」7が発売されます。

 さらに西洋伝奇の方では、待ちに待った和月伸宏「エンバーミング THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN」4が登場であります。

 最後にナンセンスギャグの方では、三成と家康の魂が入れ替わって大騒動の鮫島真「天下人ソウル」第1巻、そしてコミック乱ツインズの名物艶笑譚の二階堂正宏「竜馬がイク~ッ」が発売されるのですが…
 竜馬の方は巻数表示がされていないのが気になります。刊行元があそこだけに、また抜粋版になるのでは…と心配している次第です(いや、あれ全部収録されてもそれはそれでなんですが)


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2010.09.24

「よわむし同心信長 春の夢」 信長、密室ミステリに挑む!

 文庫書き下ろし時代小説数ある中でも、タイトルと内容の奇想天外さでは群を抜く「よわむし同心信長」。
 天保時代の町奉行所の同心・信道長次郎と、何故か彼の頭の中に精神が宿ってしまった天下人・織田信長というおかしなおかしなコンビが事件に挑む捕物帖であります。

 実力はあるのですが、気弱な性格が祟って信長に叱責されっぱなしだった長次郎も少しずつ成長して、いよいよ美しい許嫁と婚礼間近…
 というところで、今回の背景となるのは大塩平八郎の乱。蜂起に失敗した大塩が何と江戸に潜入したという噂に、奉行所も色めき立ちます。

 そんな本書に収録されているのは、全四編の短編。
 一番最初の「天狗騒動」は、天狗が出没するという江戸の愛宕山の間近で起きた連続浪人殺しの謎に長次郎が挑むことになります。
 事件の背後の複雑な人間関係、そして意外なところで事件が信長に繋がるという面白さはあったのですが、その繋がりがちょっと強引という印象。
 内容的に普通の捕物帖という印象の第二話「美食の果て」ともども、出来的には平凡…といったところなのですが、後半の二話が実に面白かったのです。

 まず、第三話「信長春の夢 山中の猿」は、これまでとは逆に、長次郎の精神が在りし日の信長に宿ってしまうという番外編的エピソード。
 これだけでも、その手があったか! 的な意外性ですが、ここで信長が遭遇する事件というのがまたミステリとして面白い。

 長篠の戦の直後、上洛途中の信長が宿を取った山中の村で起きた怪事件――比叡山の僧兵の亡霊に守られているという男から、その亡霊を祓うと称した修験者が、密室で射殺されたという事件に、天下人探偵信長が挑むことになります。
 現場は完全に密室となった祈祷所内、その祈祷所がある屋敷は、信長が逗留するということで当然周囲は信長軍が取り囲み、下手人が出入りできるはずもない。凶器と思しき火縄銃は、屋敷内で発見されたものの、そこから祈祷所の中を狙撃することはほぼ不可能…
 まさかこの時代に、こんな密室ミステリを用意してくるとは! と嬉しい驚きであります。

 …もっとも、トリック自体はかなり無理があるのですが(いくら科学捜査のない時代でもこれは見抜けるのでは…)、しかし、この意外な舞台設定といい、「信長公記」の中でもかなりマイナーながら面白いエピソードをチョイスしてくるセンスといい、これはこれで大いに評価すべきかと思います。

 そしてラストの「大塩平八郎を追え」は、冒頭に述べた大塩江戸潜伏が前面に出てくるエピソード。
 大坂町奉行・跡部良弼を狙うも果たせなかった大塩が、その兄である水野忠邦を狙って江戸に…というのもなかなか面白い展開ですが、長次郎ら奉行所とは別に大塩を追う存在として、長次郎のライバル(?)である探索マニアの徒歩目付・瓜生が登場して、物語にさらにひねりが加わってきます。
(しかも瓜生に大塩捕縛の指示を下すのが、前大坂町奉行の矢部定謙というのが泣かせます)

 大塩が江戸に潜伏すれば、その弟子である陽明学者たちに接触するのでは、と考えた長次郎と瓜生は、それぞれのやり方でその弟子の一人に接触するのですが、その矢先、大坂の米問屋が吉原で斬られる事件が発生。
 これは大塩自身の手によるものか、彼の名を騙った者によるものか…そして事件は意外な結末を迎えることになるのですが、そこに登場するある人物が、伝奇ファン的には嬉しい(ちゃんと伏線も張ってあるのが良し)。

 冷静に考えてみるとあまり長次郎と信長が活躍していないのですが――とはいえ、信長の大塩評はなかなか面白い――しかし、ラストに示されるある救いが嬉しく、これはこれで良い作品であります。


 以上四編、まだ粗い部分もあるのですが、しかし、長次郎同様、まだまだ伸び代のある作品――例えば第三話のように――であることは間違いありません。
 今後とも、要チェックのシリーズです。

「よわむし同心信長 春の夢」(早見俊 コスミック・時代文庫) Amazon
よわむし同心信長―春の夢 (コスミック・時代文庫)


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2010.09.23

「乱飛乱外」第8巻 届け、心の声!

 お家再興を目指して悪戦苦闘を繰り広げる少年・雷蔵と、彼を護るくノ一たちの活躍を描く戦国ドタバタアクションラブコメ「乱飛乱外」の最新巻、第八巻が発売されました。
 長きに渡ってきた雷蔵の戦いもいよいよ終盤か、ここに来て事態は一挙に動き出します。

 伊賀のくノ一たちの頭領争いに巻き込まれ、その中で伊賀の姫君・おろちに見込まれてしまった雷蔵。
 頭領争いの最後の試練は秘術・神体合勝負、その相手は雷蔵に仕えるかがり――おろちもかがりも、二人とも8雷蔵を念者(媒介)としての秘術・神体合を会得して、力の上では互角…

 というところまでが前の巻で描かれましたが、最新巻の冒頭で描かれるのは、神体合の術者同士の決着戦であります。
 この神体合、接吻を交わした想い人に見つめられることで、防御力・腕力・回復力etc.で無敵の力を発揮するという術。

 物語冒頭で描かれてきたこの術は、雷蔵とかがりの絆を象徴する術であり、これまで幾度となく雷蔵たちを救ってきたものですが、その術同士がぶつかった時に勝負を分けるのは、想い人への想いの強さであるのは言うまでもない話。

 その意味では、かがりの勝利は当然のものと見えるのですが、ここで思いも寄らぬどんでん返しが…
 こちらもすっかり忘れていたようなある事実が、ここに至ってとんでもない効果を発揮、さらに間の悪いことに、かねてからかがりを狙ってきた宿敵・冠木星眼の配下・百花忍群により、彼女は連れ去られるのでありました。

 そしてそこに駄目押しとばかり、雷蔵に仕掛けられる死の罠――
 相手のトラウマを極限まで拡大し、己を自死に追い込む恐るべき忍法「鏡地獄」の前に、雷蔵は死の一歩手前まで追い込まれます。
(しかし、この悪夢の中で雷蔵にかけられる言葉は、多かれ少なかれ、我々読者が思っていたことなのがおかしいというか何というか)

 …しかし、ここからクライマックスに向けて燃える展開の連続。
 雷蔵のトラウマが、これまで出会ってきた四人の姫君に振られた(と思いこんでいる)ことであれば、そこから彼を解き放つことが出来るのは、姫君たちの心の声のみ!

 かくて、雷蔵の心を救うべく、懐かしの姫君たちが総登場。これまでの雷蔵の旅の意味、彼の存在の意味が、改めて語られることとなります。
 この辺り、お約束と言えばお約束、良いご身分と言えばそれまでかもしれませんが、しかし、無駄だったと思いこんでいた自分の努力が、実は無駄ではなかったというのが証明されていくといのは、実に泣かせる展開ではありませんか。

 そして復活した雷蔵は、己の想いをかがりに直接、自分の口から告げるべく旅立ちます。
 向かう先は星眼の居城――しかし、そこに待ち受けるのは、無数の術者たち。それを打ち破ることができるのは、雷蔵が手にする術を斬る力を持つ、隠切の太刀のみ!
 と、幾つもの意味で、雷蔵が、雷蔵のみが最後の戦いに向かう必要があるというシチュエーション作りの妙も、心憎いばかりであります。

 そして、その一方で、囚われの身となったかがりの側でもドラマが展開。
 実はかつて神体合の念者候補であった星眼が神体合を手にするためにさらわれたかがりですが、その天真爛漫さ、一途さに、いつしか星眼も惹かれていくことになります。

 全ての女性を道具と見なし、意のままに操る力を持つ星眼。そんな彼が、かがり一人に翻弄され、いつしか愛されることの意味を考えるようになるという皮肉さが実に面白く、かがりを挟んだ雷蔵と星眼の対決が、今から楽しみなのです。


 正直なところ、これまでしばらくはワンパターンな展開と雷蔵の不甲斐なさに、残念さを感じていたのですが、それもこの展開のためだったか? と思ってしまうような盛り上がり。
 このテンションで一気にラストまで走り抜けてもらいたいものであります。

「乱飛乱外」第8巻(田中ほさな 講談社シリウスKC) Amazon
乱飛乱外(8) (シリウスコミックス)


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2010.09.22

「塚原卜伝」 卜伝から武蔵への系譜

 佐竹家家臣の塚原土佐守の次男、小太郎は、幼い頃から剣術の際に優れ、やがて上泉伊勢守の門人となって腕を磨く。様々な事件に巻き込まれながら各地で修行を続ける小太郎だが、佐竹家を私せんとする佐竹弾正は、邪魔となる土佐守と長男を謀殺してしまう。復仇の念に燃える小太郎の仇討ちの行方は…

 久々に講談名作文庫から、「塚原卜伝」であります。

 塚原卜伝と言えば、新当流の流祖で秘剣・一の太刀の生みの親、足利義輝や北畠具教の師――少し詳しい人であれば、梶原長門との決闘などが思い浮かぶかと思います。
 …が、この講談で語られる卜伝の物語は、それらとは全く無縁の内容であります。

 何しろ、ものの本では卜伝の弟子とも語られる上泉伊勢守が、ここでは卜伝の老師とも言える設定(史実では卜伝の方が20歳ほど年長)で、卜伝は柳生宗厳や丸目(本作では丸女)蔵人の弟弟子ということになります。
 そもそも、卜伝自身、塚原の生まれではなく、養子で入ったはず…などと、史実に拘るのは、講談においてはまあ野暮というものでしょう。

 本作での卜伝は、剣の道を究めることに燃える若き麒麟児。
 師の病中に道場を荒らしていった羽黒の悪修験者を叩きのめしたり、赤城明神の奉納試合で亀井茲矩と大決闘を演じ、その亀井を破るため、戸沢山城守(=後の白雲斎!)に弟子入りして天狗昇飛び切りの術を学んだり…
 まずは講談の剣豪ヒーローに相応しく、明朗にして豪快な大暴れを繰り広げることとなります。

 そして中盤から物語の中心となるのは、これまた講談の剣豪ヒーローには定番の敵討ち。佐竹義重の死に乗じてお家を乗っ取ろうとする悪人・佐竹弾正一味に父と兄夫婦を殺され、一族郎党も故郷の城も全てを失った小太郎の復仇譚が繰り広げられることとなります。

 ここから先は、今まで以上に波瀾万丈の展開。自らも囚われの身となった小太郎を救わんとする忠臣兄弟の活躍や、小太郎を助ける黒衣の剣客団(彼らの正体は! これは燃える)の登場もあり、お話は上杉家にまで広がっていって、結末はわかっているとはいえ、十分以上に楽しいのは、やはりこれは人を楽しませることに特化されてきた講談の底力というものでしょう。


 しかし個人的に興味深かったのは、この物語の結末であります。
 首尾良く仇を討った後も修行を続け、秀吉の御前での亀井茲矩との再戦でこれを破り、天下人秀吉の随身の勧めをきっぱりと断った小太郎改め卜伝。彼は、天下の自由人として、生涯修行の道を選びます。

 そして結末は、隠棲した老卜伝と、宮本武蔵との鍋蓋試合。
 有名でありながら、「年代的に合わない!」と突っ込まれることでお馴染みのこのエピソードですが、ここで武蔵が卜伝のもとを訪れたのは、小次郎を討つために、卜伝の天狗昇飛び切りの術を学ぼうとしたため、となっております。

 そして鍋蓋試合の結果、卜伝が武蔵の弟子入りを認め、天狗昇飛び切りの術を伝えることになるのですが――
 ここで晩年の卜伝の継承者として武蔵が登場するということは、単に技に留まらず、この講談において物語られてきた卜伝の位置を継承する者として、武蔵が認識されている(いた)ということでしょう。

 つまり、年代の合う合わないなど関係なく、剣豪として卜伝を継ぐ存在は武蔵、という解釈が示されていることになります。
 実際の剣法史上ではほとんど繋がりのない両者ですが、講談世界においては繋がりが存在していた、認識されていたということは、実に意外で、面白く感じられたことです。

「塚原卜伝」(講談社講談名作文庫)

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2010.09.21

「風来坊侍」 快男児、松浦藩の闇を斬る

 密かに入れ墨の技を修行する平戸藩江戸家老の娘・おゆき。彼女を襲った悪漢・赤間大作一味の前に現れたのは、奇妙な身なりの素浪人・風来坊左近だった。赤間一味の用心棒となった左近は、背中に龍の形の痣を持つという平戸藩主・松浦大和守輝高を巡る剣難女難の騒動に巻き込まれるのだった。

 疲れた時には理屈抜きのエンターテイメントを…というわけで私が手に取ったのが、陣出達朗先生のこの「風来坊侍」であります。(この没個性なタイトルが、また春陽文庫の陣出作品らしい…)

 舞台となるのは平戸藩松浦家。
 その当主である大和守輝高に、龍の形の痣があったことから巻き起こる大騒動に、東も西も、南も北もないという謎の素浪人・風来坊左近が立ち向かう(時々率先して事態を混乱させる)ことになります。

 この左近、膝の辺りまでの白い経帷子に無反りの太刀、海老鞘巻きの鎧どおしを差し、印籠の代わりに革袋を下げているという、粋なのだかそうでないのだかよくわからない人物。
 もちろん腕は立つのですが、わざとか素なのか、良く言えば明朗、悪く言えばかなり呑気…というより朴念仁の気があり、周囲を振り回すこと甚だしい一種の快男児…いや怪人物です。

 さて、この左近が巻き込まれたのが、松浦輝高を巡る、ある大秘事――輝高に実は双子の弟がいたという秘密。
 同じ松浦家に生まれながらも、一人は藩主となり、もう一人はどこかに預けられたまま行方不明に…という、時代劇ではお馴染みの展開であります。

 ここで左近こそがその…となれば、これは全くパターンなのですが、そこで外してくるのが本作の面白いところ。
 左近=双子の弟ではないのですが、しかし左近にもその人物との因縁が、というひねりの加え方は、これはさすが陣出先生…と言っては言い過ぎかもしれませんが、それが状況をさらに複雑にするのですから面白い。

 この双子の弟が、本作の悪役である、平戸藩において抜け荷を行う赤間大作一味の手に落ちたことから始まるとんだ鉄仮面(本当に鉄仮面が登場!)、顔は同じでも性格は全く異なる二人――弟の方がどうしようもない女好きというのがまた実におかしい――の間で、ヒロイン・おゆきをはじめとする登場人物たちは翻弄されることになります。

 中盤からは、江戸から平戸までの参勤交代の道中の騒動が延々と描かれるのですが、この辺りの展開は、振り返ってみれば中身がないのだけれども、読んでいる時は実に面白いという、ある意味大衆娯楽の王道展開。

 もちろん最後には悪が滅び、善男善女が救われるのですが…ラスト直前で主人公が大チョンボをやらかすというすっぽ抜けぶりにはひっくり返りました。
 シチュエーションは定番ながら、どこか外してくる陣出作品の楽しさを、今回も味合わせていただいた次第。

 今の目の肥えた読者に勧められるかと言えば、ちょっと首を傾げざるを得ませんが、しかし、時にはこういう肩のこらない作品を素直に楽しんでみることも必要ではないかな、と私は陣出作品に触れる度に思ってしまうのです。

「風来坊侍」(陣出達朗 春陽文庫) Amazon

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2010.09.20

「もののけ草紙」第3巻 戦争という悪夢の中で

 「夢幻紳士 逢魔篇」のスピンオフ、女芸人「手の目」を主人公とした連作シリーズ「もののけ草紙」の第三巻が発売されました。 掲載誌が休刊となった回までが収録されている本書、今回も前巻同様、第二次大戦直後の日本を舞台とした物語が展開されていきます。

 大陸で強引に弟子入りしてきた少女・小兎を弟子に放浪を続ける「手の目」。第二巻後半で日本に帰ってきた彼女たちを待っていたのは、敗戦し、焼け野原になった日本で――
 という基本設定こそあるものの、お話的には短編連作ということで自由に展開していきます。

 もちろん手の目は芸人でありますからして、お座敷がかかればそこに顔を出すのですが、一部の戦争成金を除けば、今の(その当時の)日本にお座敷がそうそうあるわけがない。
 …と思えば、思いもかけない、そしていかにも本作らしいお座敷に顔を出すことになったりもするのですが、いずれにせよ、手の目と小兎は、焼け野原となった日本をあてどもなく放浪し、様々な怪異と出会うことになります。

 そんなバラエティに富んだ短編たちを収めた本書ではありますが、しかし一つだけ共通することは、それらの物語が――直接的にせよ間接的にせよ――戦争という存在を、その背景に置いて展開されることであります。

 戦地で、いや本土においても無数の人々が命を落とし、生き残った者も心身に傷を負った世界…
 そこで彼女たちが出会う怪異は、あるものは戦争で死んだ者の亡霊であり、焼け野原を彷徨う妖魔であり、平和だった時代の記憶であり――それに対して手の目が担う役割は、ある意味必然的に、単なるゴーストハンターのそれではなく、むしろ巫女的なそれに近づくことになります。

 一歩間違えると女性版夢幻紳士にもなりかねない彼女の存在が、明確に差別化されているのは、その怪異に対する立ち位置の点において、と言えるでしょう。


 冒頭に述べたとおり、掲載誌は休刊となりましたが、今後は媒体をWebコミックに移して、本作は継続されるとのこと。
(ちなみにこの巻のラストエピソードは、その辺りの事情を反映してか、これまでのシリーズのレギュラーが次々と顔を出す総決算的な内容。そしてここでの手の目の役割はやはり…であります)

 そうであるならば、作中で小兎が語ったように、「まァ~だこの国は悪い夢の続きを見てる」中で、手の目の役割もまだ終わらないのでしょう。

 怪異や悪人に啖呵を切りつつも、しかしどこか哀しげな目をした手の目の旅の続きを、これからも追っていくこととしましょう。

「もののけ草紙」第3巻(高橋葉介 ぶんか社コミックスホラーMシリーズ) Amazon
もののけ草紙(3)(ぶんか社コミックス)


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2010.09.19

八犬伝特集その十二の三 「THE 八犬伝 新章」 第三話「妖猫譚」

 庚申山で夜を明かす現八は、そこで猫の顔の怪人に襲われ、相手の片目を潰して逃げる。麓の村で犬村角太郎と出会い、彼も犬士であることを知る現八。角太郎の父・赤岩一角の言動に不審を持ち、道場に殴り込んだ現八は、一角が片目であることを知り、その場から逃げ出す。角太郎と雛衣を呼び出した一角は、片目の薬として雛衣の腹の子と彼女の心臓を要求、雛衣は己の潔白を証明するため腹を切るが、そこから犬士の玉が現れる。角太郎が掲げる玉の光に怯む一角=妖猫を現八が倒し、二人は雛衣を弔って旅に出るのだった。

 「THE 八犬伝 新章」第三話のサブタイトルは「妖猫譚」。原作読者であれば言うまでもなく気付く通り、今回のエピソードは庚申山の妖猫退治、最後の犬士・犬村角太郎(大角)登場編であります。

 前回の小文吾同様、仲間とはぐれて放浪する現八が訪れた下野国庚申山。そこで鼠を食い散らかす猫顔の怪人と遭遇した現八は、不思議な声と人魂に導かれ、かろうじて逃げ延びます。
 そして麓の村にやってきた彼が目撃したのは、美しい女性が、草庵に籠もる誰かに必死に言葉をかける姿。これこそ夫・犬村角太郎に妻・雛衣が己の潔白を訴えかける姿であります。

 角太郎の父・赤岩一角は、庚申山の妖猫退治に出かけて以来、人が変わったようになり角太郎を勘当。一方、角太郎の幼なじみであり妻となった雛衣は、彼が接しないのに腹が膨れたことから姦通の噂を立てられ、離縁されたのでした。

 雛衣の言葉にも庵から出ようとしない角太郎に怒った現八は、強引に門を蹴倒して中に乱入(この辺り、本作の現八さんらしくて最高)、対面した角太郎の目に光るのは…涙!?
 一方、角太郎の方は現八の持っている玉と頬の痣を見て驚いた表情を見せます。彼もまた、玉と痣を持っていたのですから――

 そして現八の道場殴り込みを経て、クライマックスは一角の家での悲劇であります。
 一角に招かれた先で角太郎を待っていたのは、一角と後妻の船虫(!)、そして雛衣。
 勘当を許し、雛衣と娶すことを許すという一角と船虫は、一つの条件を出します。それは、一角の目の薬となる赤子の生き肝と母の心の臓…

 あまりの残酷な言葉に思考停止状態の角太郎ですが、しかし雛衣は気丈に己の腹に刃を突き立てます。
 そこから転がり落ちたのは、角太郎の玉…今改めてこの世に生まれ落ちた玉の輝きは、妖猫一角を怯ませ、庚申山で現八を導いた謎の声――いや、真の一角の魂に励まされ、角太郎と現八は、妖猫を討つのでした。
(一方、船虫は前回同様、花びらに変化してその場から去り――やはり尋常の存在ではありません)

 腹を切ろうとした角太郎は、雛衣の末期の言葉に思いとどまり、現八は彼に、全ては宿命の糸に操られているのかもしれないと語るのでありました。


 と、今回はかなりストレートに原作を映像化した印象。
 原作から省略された部分もありますが、妖猫との対決という派手な内容を生かしつつ、ほぼ忠実に再現していたように思います。

 …が、そうなると目立つのが角太郎の不甲斐なさ。原作よりも人間味があるキャラクターには描かれていましたが、それだけにクライマックスで雛衣に腹を切らせてしまうシーンは、ただオロオロしていただけに見えたのが残念です。

 この「罪」を、角太郎が如何に背負い、昇華していくのか――ここは今後のドラマの見せ所、と言いたいところですが、監督も脚本家も変わった後となっては、どこまで期待できるか…と、いささか悲観的になります。


 そんなドラマで一人活き活きと活躍していたのはやはり現八さん。
 前シリーズ第一話でも作画監督を担当した橋本晋治氏の画は、どこかユーモラスなのですが、それがこの現八にはよく似合います。
(特に角太郎が悪夢に悩まされる横でモリモリ飯を食っているシーンが異様におかしい)

 そんな彼の口から宿命という言葉が出るのは少々意外ですが、それだからこそ…と言うべきなのでしょうか?


 ちなみに一角と角太郎を演じたのは実の父子というのもちょっと面白いですね(信乃を演じていたら大塚と犬塚でちょっとややこしくなっていたかも…)


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2010.09.18

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第13話「決戦!! 魔境の大ワシ」

 幻妖斎は、催眠術で金目教の信者を操り、堺に総攻撃をかけようとしていた。その日が明日と知った赤影たちは、やまぶきを説得して道案内を頼み、金目教の大本山に向かう。一方、堺の奉行所の侍・高岡も、討伐体を率いて大本山に向かうが、待ち受ける忍者たちと大ワシに襲われて壊滅状態となる。赤影たちにも襲いかかる大ワシだが、赤影は大ワシの上のワシ使いを倒して大ワシを撃退する。そして赤影たちの目の前には大本山の姿が…

 いよいよクライマックス目前のアニメ版赤影、幻妖斎の堺総攻撃を阻止するため、赤影たちは先手を打って大本山を襲撃することになるのですが…

 その幻妖斎の襲撃手段というのが、信者を催眠術で操って兵隊に…というものですが、この操られた状態の信者たちがどうみてもゾンビ! 
 さすがに伝染したりはしませんが、変な顔色で(何で催眠術で顔色が変わるのかしら…)あーうー唸りながら集団で襲いかかる姿はもう…

 先発隊らしき一団が堺の門番を襲った際、反撃で腹を刺された男は、傷を意に介さず、兵士に襲いかかるほど。
 確かに、こんな集団に襲われたら堺もひとたまりもありません。
 しかも厭らしいのは、信者の中には堺の住民もいること。いやはや、おぞましくもよく考えられた手段です。

 さて、術が解けて死んだ件の信者の末期の言葉から、襲撃が明日にも行われると知った赤影たち(前回、松千代が同じような情報を伝えているのですけどね)。
 攻撃が始まってはさすがに勝ち目はない、先手を打つべく、敵の本拠への道案内をやまぶきに頼む赤影たち三人ですが、さすがに抜け忍がかつての本拠に戻るのは自殺行為…とやまぶきは渋ります。
 いやこれは仕方ない――と言いたいところですが、前回、大本山に一人忍び込んで霞丸に会っていたのは何だったのか…!

 それはまあいいとして、ようやくやまぶきを説得した三人は、ついに大本山へと出発します(ここで毎回恒例、富蔵が青影に新兵器をプレゼントするのですが…なぜ毎回青影だけなのか)。
 しかし面白いのは、ここで大本山に向かうのが彼らだけでなく、堺の奉行所の侍も、別口で軍勢を率いて攻め込もうとするところでしょう。

 会合衆から赤影の向かう先の情報を得たこの高岡という侍、忍者なぞ頼りにするまでもない、と自信満々で真っ正面から大本山に向かうのですが…
 しかし、この手のキャラがかませ犬として散々な目に遭うのはお約束。あちこちに潜んだ下忍の攻撃、そして謎の巨大な影に襲われ、散々に蹴散らされてしまいます。

 さらに巨大な影は、別ルートを行く赤影たちにも襲いかかります。
 その正体は、サブタイトルにも出てしまっていますが大ワシ! それもただのワシというサイズではなく、ラドン…とは言わないまでも大コンドルなみの怪獣サイズ。背中に顔色が悪い(黄緑色)の忍者、クレジットによればキャラ名「ワシ使い」(…)に操られて、縦横無尽に飛び回りながら四人を襲います。

 この攻撃に崖から落ちた青影を救ったのは、富蔵の秘密兵器、折り畳み式ハングライダー。おお、これで大ワシと空中戦を!? と思いきや、あっさり破壊されてしまうのですが、その隙に大ワシの足に飛びついた赤影は、颯爽と背中の上で「赤影参上!」を決め、ワシ使いと対決します。

 飛んでいく大ワシの背中という無茶なステージで戦う赤影とワシ使いですが、ワシ使いは得物の鞭を赤影の腕に絡めるも、ピンと張ったところで鞭を斬られて勢い余って転落、乗り手を失った大ワシも、どこかへ去っていくのでした。

 さて、いよいよ大本山を目前とした四人。さらに、しぶとく生き延びた高岡も、残りの兵士たちを率いて、なおも大本山に向かいます。
 いよいよ次回決戦であります…


 ちなみに今回ちょっと面白かったのは、最近源之介が不在なことを子供たちに突っ込まれて、和尚とかえでが必死にフォローする場面。
 和尚はともかく、かえでも源之介の正体を知っている様子なのは、ちょっと意外でありました。


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2010.09.17

「雪逢の狼 陰陽ノ京月風譚」 孤高の狼妖と人を繋ぐもの

 摂津に赴いた安倍晴明の目前で封印から解かれた狼の妖・白山。陰陽寮と因縁を持つらしい白山は、京に出現し、陰陽寮の道士を襲い始める。賀茂光榮と住吉兼良は、白山を迎え撃つべく京の警戒に当たるが、白山の跳梁の陰で、謎の外法師・水魚が暗躍する。白山の秘めた想いを知った光榮の選択は…

 「月風譚」として帰ってきた「陰陽ノ京」の新シリーズ第二弾が、嬉しいことに間を空けることなく刊行されました。

 新たなる主人公・無頼道士の賀茂光榮が今回挑むのは、二十数年前の封印から解かれた氷を操る狼の妖・白山。
 かつて承平・天慶の乱に呼応して都を騒がせた外法師の式神として、若き日の晴明、そしてメインキャラにして彼とは犬猿の仲の住吉兼良の父と対決した、強敵であります。

 しかしこの白山、狼らしく(?)誇り高く、何よりも己の戦いに対するポリシーを重んじる高潔な、孤高の妖。
 己より弱い者、戦う意志を持たぬ者は文字通り歯牙にもかけず、ただ正々堂々と戦うことのできる強敵を求める――そんな妖なのです。

 そんな相手になると誰よりも燃えるのは、予想通り光榮であります。
 へそ曲がり同士ウマがあったというのもあるでしょう。しかし、それ以上に白山との真っ向勝負に彼を駆り立てたのは、白山が何故陰陽寮に戦いを挑むか、その理由を知ってしまったからに他なりません。

 かつて都を騒がした外法師と白山の繋がり――単なる術者と式神の関係を超えたそれを知った光榮にとってできることは、白山にその想いを貫かせ、悔いなきようにさせること。

 白山を、単に一方的に術で封じることはできます。しかし、それで白山の想いはどこに行くのか?
 それを無視できない光榮の好漢ぶりに感心するとともに、主人公が変わっても「陰陽ノ京」を貫くもの――人と人以外のものをも繋ぐ調和の道としての陰陽道の存在は健在であることに、シリーズファンとして改めて嬉しく思うのです。


 シリーズといえば、旧シリーズのレギュラーで、前作唯一直接登場しなかった伯家時継が本作では登場。
 保胤との関係の進展しなさも相変わらずの微笑ましさで、ちょい役とはいえ、ファンには嬉しいプレゼントであります。

 そして新シリーズとしては、おそらくこれから光榮たちの宿敵となるであろう存在がついに登場。
 単独ではなく、周囲に志を同じくする者たちの存在が仄めかされているのも、またワクワクさせられます。

 心優しき陰陽道の世界と、胸躍る陰陽師同士の戦いと――こちらが「陰陽ノ京」に期待する要素は健在となれば、続巻がこれまで以上に楽しみになるというものです。


 ちなみに、本作の描写で、本シリーズが、時間軸的に旧シリーズの直後から続くものであることが明確になりました。
 こういう部分もちょっと嬉しい配慮ですね。

「雪逢の狼 陰陽ノ京月風譚」(渡瀬草一郎 メディアワークス文庫) Amazon
雪逢の狼―陰陽ノ京月風譚〈2〉 (メディアワークス文庫)


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2010.09.16

「紅蓮の狼」 三人の天下人の陰で

 つい先日も最新作「家康、死す」が刊行され、乗りに乗っている宮本昌孝先生の、色と動物を題名に冠した三つの作品を収録した短編集が本書「紅蓮の狼」です。
 以前「青嵐の馬」として刊行されたものを、文庫化に当たって題を改めたものであります。

 最初の作品「白日の鹿」は、信長の弟・信行の奥向に仕えていた女丈夫・勝子の復仇譚。自分に横恋慕した男に夫を殺され、逐電した仇を追って復讐の旅に出た彼女の姿が描かれることとなります。

 内容的には、本書の収録作の中では一番並の印象ですが、ただひたすらに己の復仇のために――裏返せば己の愛のために――生きた彼女が、思わぬところで史実に影響を与える様には、三作に共通する個人と歴史の関係性がうかがえると言えるでしょう。


 一方、表題作「紅蓮の狼」は、最近話題の忍城攻防戦の主役・甲斐姫を主人公とした爽快な一編。
 父の定めた縁談を嫌って出奔、上泉伊勢守の下で卓越した剣法者として成長した彼女(この辺り、「剣豪将軍義輝」の女性版といった趣)が、父母の危機に颯爽と帰還、そして秀吉の小田原征伐の中で忍城を守り抜き、秀吉の心を射止めるというお話ではありますが――

 そんな甲斐姫は、しかし本作において、単なる男勝りの女武者として描かれるわけではありません。

 物語の冒頭において、彼女は、父母の不仲から己を無用のものと思い詰め、誰にも心を開こうとせず、周囲を、そして自分自身を傷つける孤独な存在として描かれます。
 そんな彼女が情愛豊かな人間として再生することができたのは、育ての母たちと、妹たちの無私の、強い愛情があってこそでした。

 つまり本作で描かれる彼女の強さは、武芸の強さのみに限らず、人間としての愛情の強さから来るもの。
 その心の強さが、長年対立してきた父の心を開くシーンは、まさに本作のハイライト。なるほど、秀吉も首ったけになるわけであります。
(そして結末で、時代小説ファンにお馴染みのあの事件と、甲斐姫たちの繋がりが語られるのがまた泣かせるのです)


 そして最後に収録された「青嵐の馬」は、本書で唯一の男性を主人公とした作品。家康の異父妹の子・保科久太郎、後の北条氏重が辿る数奇な運命を描きます。

 徳川と豊臣の決戦が迫る頃、家康の血を引くことを誇りに、武士として一廉の働きを見せることを夢見る久太郎。
 しかし、家康の跡を継いだ秀忠は何故か彼に冷たく、久太郎の想いは次々と裏切られて、名家とはいえ北条家の養子とされ、戦国最後の戦い・大坂の陣においても、出番を奪われることになります。

 彼の誇るものが、しかし、彼を縛るものとなる皮肉な物語は、久太郎がいかにも宮本主人公らしい快男児として描かれているだけに、何とも言えぬもの悲しさを感じさせるのです。


 ――さて、この三つの短編は、上に述べたとおり、一冊に収められているとはいえ、内容に直接の繋がりは存在しません。

 しかし、その背景に目を向ければ、三つの作品で少しずつその舞台とする時代が移っていること、そして、時に直接的に、時に間接的に物語に影響を与える存在として、信長・秀吉・家康という三人の天下人が登場することをもって、一連の物語として構成されていると見ることができるでしょう。

 歴史が天下人たちの戦いの末に大きく動く陰で、己の想いを貫こうと懸命に生きた主人公たち――
 歴史の巨大な流れの前に、必ずしも、その抱いた想いが実ったわけではありません。しかし、それでもなお、いやそれだからこそ、主人公たちの生き様の尊さが、胸に残る、そんな作品ばかりであります。

「紅蓮の狼」(宮本昌孝 祥伝社文庫) Amazon
紅蓮の狼 (祥伝社文庫 み 14-5)

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2010.09.15

「赤猫始末 闕所物奉行裏帳合」 権力との対峙、反権力との対峙

 江戸で頻発する武家を狙った火付け。その結果、旗本たちの改易が相次ぎ、闕所物奉行・榊扇太郎は闕所の手続きに追われるが、その隠し財産の大きさに驚かされる。が、その処分には何故か大目付が介入、さらに扇太郎に次々と刺客が襲いかかる。一連の事件の陰には、大御所亡き後の権力争いがあった…

 権力と己の信念の板挟みになりながらも、したたかに生き抜いていく闕所物奉行の活躍を描いた上田秀人先生の「闕所物奉行 裏帳合」シリーズの第三弾は「赤猫始末」。
 「赤猫」とは火付けの隠語ですが、そのタイトルの通り、今回扇太郎が挑むのは、江戸で頻発する武家屋敷相手の火付けであります。

 もちろん扇太郎は闕所を扱う闕所物奉行、火付けの捜査は当然受け持ち外ではあるのですが、火付けとはいえ失火の咎で改易となった旗本の財産を処分するのは闕所物奉行の務め。
 そして扇太郎の上にいるのは、己の出世のために鵜の目鷹の目の鳥居耀蔵…というわけで、今回も扇太郎が事件に巻き込まれるという構図が面白いのです。

 実のところ今回の物語自体は、大御所家斉亡き後を見据えての権力争いを描いたもので、伝奇性は薄いのですが、しかしドラマ性とキャラクター描写はいつものことながら巧みで、大いに楽しませていただきました。


 ほとんど毎回述べておりますが、権力と接した際に、一個人が如何に己の身を処するべきか、如何に己としてあるべきかという個人との権力との関係性を描くのが上田作品。
 それは、主人公が幕府の奉行である本シリーズにおいても、いや既に末端とはいえ権力構造の一部である本シリーズだからこそ、一層ビビッドに見えてきます。

 特に本作においては、幕府への忠義のために周囲を犠牲にして顧みない鳥居、そしてそれと反対に、忠義を嘲笑い我欲のために周囲を犠牲にして憚らない悪党・一太郎の両極端を描くことにより、その構造がより一層はっきりと見えてきた感があります。
(ちなみにこの一太郎、何とあの天一坊の孫という設定なのが、彼のキャラクターと結びついていて実にうまい)

 権力とともに生きる者、権力を否定して新たな権力を求める者――
 その間にあって、己の暮らしと、己の愛する者を守るために戦う扇太郎は、それなりに世塵にまみれながらも、それでもなお、いやそれだからこそ、人間としてのあり得べき姿、好ましき姿を体現してくれていると、そう感じさせられます。

 そして、その扇太郎が愛する者・朱鷺との関係が、また今回も実によろしい。
 旗本の娘に生まれながら家の困窮のために岡場所に生まれ、その岡場所も潰された果てに、一種の賄賂兼間者として扇太郎にあてがわれた朱鷺。
 次第に扇太郎を慕うようになりながらも、同時に絶望的な生からの解放を求める彼女を生き続けさせるため、扇太郎が取った手段とは…

 一歩間違えると男性原理に基づいた暴力的なものになってしまうそれが、しかし、極めて暖かい愛情の発露となるのは、本作ならではの構図でありましょう。
 この二人の愛の行方も、大いに気になるところであります。


 さて、今回の事件で水野忠邦の前で活躍を演じ、その存在をアピールする結果となった扇太郎。
 普通であれば、これは喜ぶべきことではありますが、本シリーズ、いや上田作品においては、権力者への接近は必ずしも幸せに繋がるとは限らないのは言うまでもありません。

 鳥居との関係含めて、扇太郎の明日に待つものは…今から次が楽しみなシリーズであります。

「赤猫始末 闕所物奉行裏帳合」(上田秀人 中公文庫) Amazon
赤猫始末―闕所物奉行裏帳合〈3〉 (中公文庫)


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2010.09.14

「蝶獣戯譚」第1巻 狩人とはぐれ忍びの間で

 時は1635年、忍びが無用となった時代の流れについていけず、己の技を悪事に用いる者たちがいた。「はぐれ忍び」と呼ばれた彼らを討つのは、吉原の胡蝶太夫こと、忍びを狩る忍び・於蝶だった。江戸の裏の世界で、はぐれ忍びと狩人の哀しい戦いが繰り広げられる。

 先日惜しくも休刊となりました「コミックバンチ」誌は、休刊直前まで、実に五本の時代もの・歴史ものコミックが掲載されておりました。
 その一本が本作「蝶獣戯譚」。江戸時代初めの吉原を舞台に、時代の流れに取り残され、悪事を働く「はぐれ忍び」を狩る忍びの姿を描く作品です。

 戦国時代ではなく、太平の御代を舞台に、忍びと忍びが激突する…というのは本作が初めてではありませんが、本作では外道に堕ちた忍びを狩るのが、吉原の太夫に身をやつしたくノ一、というのが特徴でしょう。

 吉原が、実は忍びたちの砦という設定自体は、「吉原御免状」――というより庄司甚右衛門=風魔の庄司甚内説の昔から――などで描かれたもので、新味はありません。

 しかし本作では、主人公・胡蝶の表の顔が遊女という儚い身の上であることと、自分が狩る相手がかつて自分と同じ存在だった、そして自分もいつ彼らと同じ存在になるかわからない、境界線上にあることが相まって、何とも言えぬ薄暗さが漂うのが印象に残ります。
(舞台設定が、戦国の生き残りが残っているかいないか、ギリギリの時代を舞台としているのもまたうまい)

 構成的には、この第一巻に収録されているのは、短編エピソード二本と中編エピソード一本といったところ。
 設定紹介編とも言うべき短編二本はさほどでもないのですが、中編エピソードはなかなか面白い内容でした。

 胡蝶の見世に新しくやって来た禿。激しい虐待を受けた痕の残る彼女は、実は吉原乗っ取りをもくろむはぐれ忍びの父親により送り込まれたスパイで…
 というこのエピソードは、話の細かいところで粗は目立つのですが、しかし情愛など存在しないかのように見えた父娘に、最後の最後に情愛の繋がりが浮かび――そしてその繋がりを断ち切るのが於蝶という苦さが、実に本作らしいのです。
(しかも、そのきっかけとなったのが、禿が父と於蝶、双方を大事に想っていたがゆえ、という皮肉さがよろしい)


 狩人は最後まで狩人であり続けられるのか。はたまた、狩人として心をすり減らすうちに、はぐれ忍びと同じ存在になってしまうのか。
 エピソードが積み重ねられ、その辺りが描かれていけば、なかなか面白い作品になるのではないでしょうか。


 …と思いきや、残念ながらバンチの休刊とともに本作も終了。
 作者も色々と思うところあるようですが、それでもひとまずの結末まで、本作を見届けたいと思います。

「蝶獣戯譚」第1巻(ながてゆか 新潮社バンチコミックス) Amazon
蝶獣戯譚 1 (BUNCH COMICS)

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2010.09.13

「胸の振子 妻は、くノ一」 対決、彦馬対鳥居?

 すれ違いながらもお互いを求め続ける江戸の織姫・彦星カップルを描いた「妻は、くノ一」の第八巻が発売されました。
 いよいよ物語も佳境に近づいてきましたが、まだまだ意外な展開が待ちかまえています。

 抜け忍となった織江に対して御庭番頭が諸国から呼び戻した三人の遣い手との対決もいよいよ三人目、最後の一人。
 その相手とは、かつての織江の母・雅江のライバルであり、織江も子供の頃可愛がられたくノ一・浜路であります。

 織江が彦馬の近くにいると睨んだ浜路は、彦馬の家の近くに飲み屋を開き、彦馬はそこの常連になるのですが…何と、同じくその店の常連となったのが鳥居耀蔵。

 本シリーズの鳥居は町奉行になる前も前の段階ですが、密かに開国を目論む松浦静山の危険性をなかば本能的に察して(…というのは大袈裟ですね、明らかに)、何かとつきまとう役柄。
 静山の、幽霊船を装った船で海外への道を開こうという人を食った、しかしスケールの大きな企てにも唯一気付きかねない人物であります。

 もっとも、その一方でそうとは知らずに雅江を「菩薩」と呼んで一方的に憧れた挙げ句、彼女が死んだ後はほとんど腑抜けのようになったりと、どうにも最近はダメっぷりが際立っていた鳥居様。
 果たして彦馬との出会いがもたらすものは――と思いきや、何とここで始まるのは二人の推理対決! …というか、件の飲み屋で市井で彦馬たちが出会った謎の話をしていると、一方的に鳥居の方が絡んでくるという構図なのですが、これがなかなか面白い。

 まことに失礼ながら、本シリーズでの謎解き要素もそろそろくたびれてきたかな…という印象も正直なところああったのですが(今回はほとんど「甲子夜話」への言及もありませんでしたし…)、それでもこういう変化球を投じて驚かせてくれるのが本シリーズの楽しさの一つでしょう。

 特に、商家に現れる、蛇が変じたと思しき不思議な妖怪・銭ヘビさまの謎を巡るエピソードでは、一度鳥居が解いた謎の奥にあった、もう一段の謎を彦馬が解き明かすという構造が良くできていたと思います。


 さて、男たちがそんな罪のない(?)戦いを繰り広げている一方で、こちらは命がけなのが女たちの戦い。ついに彦馬抹殺の命を受けた浜路から彼を守るため、織江は昔なじみの相手に挑むことになります。
 一方、浜路の側も、忍びとして一歩先んじた上に、自分がなりたかった「母」という存在にもなってしまった雅江に対して抱いてきた負の感情を、ここで織江にぶつけようとするのですが…

 本シリーズに登場する人物はみな、多かれ少なかれ、それぞれに生きることの重みや切なさを背負って生きていることが、作者一流の軽く、しかしツボを押さえた筆致で描かれるのですが、浜路もそんなキャラクターの一人。
 かつて可愛がってきた娘に対し、殺意を向けるという哀しさすら意識できなくなってしまう彼女の姿は、あるいは織江がそうあったかもしれない姿として、心に残るのです。


 そして本作には、珍しく巻末に作者によると思しき言が付されています。これが、本シリーズの各巻のタイトルの解説なのですが、最後の最後に驚くべき内容が――
 さて、いよいよ結末が見えてきた本作の、彦馬と織江の辿り着くところは如何に。

「胸の振子 妻は、くノ一」(風野真知雄 角川文庫) Amazon
胸の振子  妻は、くノ一 8 (角川文庫)


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2010.09.12

「信長の忍び」第3巻 千鳥と二人の戦国大名

 信長の天下統一を助けるべく活躍する伊賀の少女忍者・千鳥の目から信長とその時代を描くユニークな四コマ漫画「信長の忍び」待望の第三巻が刊行されました。
 今回はある意味信長以上に個性的な戦国大名が、それも二人登場いたします。

 その一人は、松永久秀。
 松永久秀と言えば、余人には出来ないような悪逆を幾つも行いながらも、優れた教養人にして独特の美学を持っていたことで知られる人物ですが――
 本作ではデンジャラス爺さん…というよりはゴージャス爺さんと言うべきビジュアルになっていますが、これはこれで結構似合っているのが面白い。

 そして、単なる悪役ではなく――本作なりのデコレーションは施されているものの――それなりの見識を持った人物として描かれているのが、なかなか嬉しいところ。
 信長の天下統一の理想を、ある意味単純に信じる千鳥に対して、綺麗事のみではすまされない戦国乱世の、そして戦国大名の在りようを語ってみせる姿は、まさにこの人物ならではの説得力が感じられるのです。

 さらにその後、足利義昭の危険性を、その人物を踏まえた上でサラッと指摘してみせるのも実に良い。この辺り、本作における久秀の役割というものも何となく見えてきます。
(も一つ、本作では半ば意図的にスルーされている、女としての千鳥に踏み込んでくるのも、この人ならではだなあ…)

 そしてもう一人、一種のダークホース的に本書の後半で暴れ回ったのが、剣豪大名・北畠具教であります。
 塚原卜伝に剣を学び、秘剣・一の太刀を伝授されたという、殿様芸の域を遙かに超えた剣豪として知られる具教ですが、本作においては自ら戦場に出て刀を振るい、「鬼」と恐れられる人物。

 この辺り、当時の合戦事情や剣法というものの存在感を考えると、さすがにどうかと思わないでもありませんが、しかし、四コマギャグのそれとは思えないほどキレのいい剣戟描写と具教の迫力の前には雲散霧消いたします。

 さて、籠城して抵抗を続ける北畠軍に対し、千鳥は一人、具教に果たし状を叩きつけて決闘を挑むのですが――これもまた無茶な展開ではありますが、それでも何となくいいかと思わされるのは四コマ漫画の得なところかもしれません――その死闘の中で描かれる具教の生き様と、信長観がまた面白い。

 彼にとっては、あくまでも信長は侵略者。たとえ勝ち目がない戦であっても、その信長に膝を屈することは、大名である以前に剣士、戦士である彼にとって死に等しい…

 確かに、アナクロではあります。上に立つ者の言葉でもないでしょう。
 しかし、それでも彼の言葉は、戦国を己の誇りを持って生きる者のそれであり、それを否定せんとする信長の天下統一へのカウンターとして、意味を持つものでしょう。

 これまでの巻で描かれてきたということもあってか、信長の出番もこの巻では少し減ったように感じられますが、しかし、それでも今回の二人のように、信長を外側から描く者を置くことで、本作ならではの信長像を描き続けていると感じます。


 本作はもちろんあくまでも基本は四コマギャグではありますが、決してそれだけではない作品であることは、間違いないのであります。

「信長の忍び」第3巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び 3 (ジェッツコミックス)


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2010.09.11

八犬伝特集その十二の二 「THE 八犬伝 新章」 第二話「対牛楼」

 一人放浪する小文吾は、名笛・芳野の袋が荷物に入っていたことから、千葉家の家老・馬加大記に捕らえられる。疑いが晴れて放免され、対牛楼で催される宴に出た小文吾。そこに侍っていた旅芸人の旦開野の正体は、かつて父を大記に殺された犬坂毛野だった。大記の幼い子にも向けられた毛野の復讐の刃を止めようとする小文吾。大記は対牛楼の崩壊に巻き込まれ、毛野は止めに入った丶大、そして小文吾とともに旅立つのだった。

 ここから脚本家も変わり、ある意味ここからが新章という印象の「THE八犬伝 新章」、今回のサブタイトルは「対牛楼」…ということで、ようやく七人目の犬士・犬坂毛野の登場編であります。

 前回道節がやらかしたおかげでバラバラになった犬士たちの一人・小文吾が一夜の宿を借りた家。その家で小文吾を待っていたのは原作ファンはお馴染みの毒婦・船虫であります。
 そこで枕探しをする男を斬ってみればそれは何と網干左母次郎。原作では並四郎という悪人でしたが、さてこれはただではすみそうにありません。

 翌朝、口止めのつもりか、家宝の笛だという芳野を差し出そうとする船虫を押しやって出発する小文吾ですが…
 気づけば笛の袋は小文吾の荷物の中に。それを目にして声をかけるのは、美しい旅芸人・旦開野。しかし彼女と言葉を交わす間もなく、小文吾は船虫の讒訴で馬加大記に捕らえられてしまいます。

 が、笛の包みに入っていたのはただの木の棒…おかげで放免された小文吾ですが、船虫はそのことを詰問しに来た大記と配下の籠山逸東太に対し、栗飯原胤度の遺児が命を狙っていることを吹き込むと、桜の花と化して消えるのでありました。やはりこちらもただの人間ではありませんでしたか…

 大記の子供に気にいられたことから屋敷に留められた小文吾は、その晩、大記の屋敷の離れ・対牛楼で催される宴に顔を出しますが、そこに侍っていたのが旦開野。
 そこで舞う前に旦開野が取り出したのは消えたはずの芳野。彼女が吹く笛に呼応するように、対牛楼が震え出します。

 そもそも、この笛は一対のうちの一本。かつて、千葉家の主席家老・栗飯原胤度により古河に献上されようとしたこの笛を奪おうとした大記は、胤度を殺してその一本を奪ったのでありました。

 そして言うまでもなく、旦開野こそは胤度が遺児。彼女、いやさ彼こそは犬坂毛野! というわけで、まずは逸東太を血祭りに上げ、無茶苦茶な強さで当たるを幸いなぎ倒し…

 と、この辺りまではほぼ原作通りではありますが、今回のキモはある意味ここから。
 対牛楼に居合わせた大記の子供。毛野にとっては言うまでもなく、彼も仇の一族であり、殺すべき相手――しかしもちろん、それを見過ごしにできる小文吾ではありません。

 己の刃で毛野の刃を受け止める小文吾。刃越しににらみ合う二人の犬士の激突の背後に浮かび上がるのは、あの赤い橋。そしてそれを面白げに見物するのは、網干と船虫。

 いつしか毛野と小文吾の戦いは、その赤い橋の上に移り――やはりこの橋は、人間(性)とそれ以外を分かつものなのでしょう――さあ、果たしてこの戦いはどうすれば止められるのか!?

 と思っていたところに割って入ったのは丶大法師。丶大法師の振るう錫杖は、二人の刃を叩き折り、その様を目にした網干は、珍しく狼狽えた様子を見せます。
 原作に比して、これまでほとんど全く出番のなかった丶大がここで活躍したのには失礼ながら驚きましたが、ここでの描写を見るに、彼もまたただの人間ではなく、網干らと同様の、しかし反対側に属する存在なのかもしれません。

 さて、網干は笛を手にして消え、大記は崩壊する対牛楼の中に滅び…一人残って廃墟の中で泣く大記の子に対し、毛野は言葉をかけます。早く大きくなって私を討ちに来いと…

 ある意味(どちら側にとっても)甘々な結末ではありますが、これはこれで一つの結末でしょう。
 本懐を果たした毛野は、丶大や小文吾とともに去ってこの回は終わります。


 しかし、本作ではありませんでしたが、今だったら絶対毛野に迫られて小文吾ドキドキ展開があるでしょうに…いや、原作にもある展開ですし。


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2010.09.10

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第12話「でた~っ!! 鋼鉄の忍者」

 明世寺に紛れ込んでいた少年・松千代。身分ありげな言動を見せる彼は、信長に追放された足利将軍家の血筋だった。彼を利用せんと幻妖斎は岩鉄に命じて彼を金目教総本山に連れてこさせる。しかしそこで金目教が堺総攻撃を企んでいることを知った松千代は総本山を脱出。彼を保護するために駆けつけた青影・白影は、無敵の鎧を着た岩鉄に苦戦するが、赤影はその重みを利用して岩鉄を滝壺に叩き落として松千代を保護するのだった。

 いよいよ折り返し地点を過ぎて佳境に入ってきたアニメ版「仮面の忍者赤影」。今回は、足利将軍家の血を引く少年を巡る争奪戦が描かれます。

 ある日、青影たちが世話になっている寺に現れた少年・松千代。鷹揚な態度といい身なりといい、いかにも身分ありげな彼に憧れたり反発を感じたり、賑やかな明世寺の子供たちですが…

 ここでこの少年を捜していたのが幻妖斎。実は松千代は信長に追放された将軍家の血筋(年齢的に足利義昭の子・義尋というわけではなさそうですね。細かいことを気にしても仕方ないですが…)であり、自分の天下獲りの大義名分のために利用しようとしていたのでありました。

 そこで幻妖斎の命を受けた巨漢の忍者・岩鉄は、堺中を捜しまわった末に、ついに明世寺までやってくるのですが…そこで岩鉄の前に立つ羽目になってしまったのが源之介さん。
 毎度毎度のことながらへっぽこな源之介さんが岩鉄に敵うわけもなく、散々ボコられてしまうのですが…おや、意外とダメージを受けてないのは不思議ですね。

 それはさておき、恭しく迎え入れたとはいえ、いかにも怪しい岩鉄について行ってしまうのは松千代の子供らしさ。
 辿り着いた金目教の総本山で、幻妖斎にもてなされる松千代ですが、偶然、金目教の神殿に紛れ込んだ際に、何かに取り憑かれたような人々が、堺の人々を皆殺しにせんとしていることを知ってしまいます。

 そんな松千代を静かに見つめるのは霞丸――そう、彼も松千代同様、信長のために家をなくした存在。しかし、自分が松千代同様利用されているとわかっていても、信長への復讐のため、幻妖斎への恩義を返すために戦うという霞丸の言葉は彼の真意なのでしょうか…

 そこで松千代は、邪鬼に周囲を案内させるフリをして山から抜け出すのですが…
 しかし相変わらずいい味を出している邪鬼、松千代に褒美をやろうと言われて、やまぶきにプレゼントするための銀の簪とかいいなあ、とボンヤリしている間に松千代に逃げられてしまうあたりは憎めません(しかし幻妖斎の前では自分が失敗したことはしらばっくれている狡さもまたらしい)。

 一方、松千代が持っていた短刀の紋から、彼が足利家の縁者とようやく知った赤影たち。崖から落ちて気を失った松千代を首尾良く助け出す白影と青影ですが、しかしそこに現れたのは岩鉄。
 二人の得物を軽々とへし折り、赤影の投じた火炎玉で体に火を付けられても平然としている岩鉄の無敵の秘密は、全身を覆った強固な鎧でありました(いや、それでも火は熱いと思うのですが…)。

 岩をも砕く怪力と、両手に持ったサイで襲いかかる岩鉄に対して、珍しく鎖分銅で戦う赤影。戦場は滝のそばに移ったかと思いきや、一瞬の交錯の隙に赤影は岩鉄の足に鎖を絡め、反対側の鎖は岩に…
 そして赤影がその岩を滝壺に放り込んだからたまりません。岩鉄は岩もろとも滝壺へ…

 実は原作にも登場していた岩鉄、やはり水中に誘い込まれて倒されたのですが、本作では溺死することなく、鎧を捨てて助かったらしいのですが、しかし、非情にも一度敗れた忍びに待つのは死と、金目像の腕にに叩き潰されてしまうのでありました(それだったら何回も負けてる邪鬼は…)。

 さて、家来たちのところに帰ることになった松千代は、赤影の手に、源之介と同じ箇所にあざがあったことを思い出し、彼に扇子でうち掛かるのですが――
 ここで松千代だけ赤影の正体を知るという展開でも面白かったと思いますが、あくまでも最後まですっとぼけたまま、扇子を真っ正面から受けてしまう源之介なのでした。これはこれで、らしくていい終わり方かもしれませんね。


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2010.09.09

「もろこし銀侠伝」(その二) 浪子が挑む謎の暗器

 前回の続き、「もろこし銀侠伝」残すところは「水滸伝」外伝「悪銭滅身」であります。

「悪銭滅身」

 浪子燕青の弟分・韓六郎が、何者かに惨殺された。犯人を捜す燕青は、大名府で謎めいた死を遂げた者が続出していることを知る。果たして犯人は、彼らを殺した凶器は何か…?

 実は相当の「水滸伝」ファンである作者は、この後も「巫蠱記」「斬首録」と、水滸伝の豪傑たちを主人公にした水滸伝外伝と言うべき短編を発表していますが、本作はその第一弾。
 梁山泊第三十六位の好漢・浪子燕青が、まだ梁山泊に加わる前、同じく第二位の玉麒麟盧俊義の使用人として働いていた時分のお話であります。

 ある日、無惨に拷問の末に殺された姿で発見された燕青の弟分・韓六郎。盗癖があったほかはごくつまらない男だった六郎が、何故そのような目に遭わされたのか? 探索を始めた燕青は、六郎と同様に殺された者がまだいることを知ります。
 さらに、町の顔役の一人が、体中が一瞬で茶色に変わる奇怪な毒で殺されたことを知った燕青は、一連の殺人が、同一人によるものと睨みますが、さて、その動機と凶器とは…

 と、フーダニット以上に、ハウダニット、ホワイダニットが中心となる本作もまた、紛れもない武侠ミステリ。
 まさに武侠世界にしか登場しないような伝説の暗器の正体を巡る謎は、正直なところ、中盤で気づいてしまいましたが、その意外な正体が、状況を次々と混乱させていく様が実に面白く、最後まで楽しむことができました。

 そして、水滸伝ファン的になによりも嬉しいのは、言うまでもなく、活き活きと活躍する燕青の姿であります。
 眉目秀麗で頭の回転が速く、武術の達人で、歌舞音曲にも優れ、主人にはどこまでも忠義を尽くす青年…
 原典での燕青はまさに完璧超人でしたが、それだけにいささか堅い印象のあった彼を、本作では一人の人間として、喜怒哀楽豊かに描き出しているのが、何とも嬉しいのです。

 実は原典との関わりは、燕青と廬俊義の存在程度で、ほとんどないのですが――終盤で廬俊義が、実においしい活躍を見せるのはちょっと嬉しいのですが――それでも水滸伝ファンには、きっと満足できることでしょう。
(盧俊義が、自分の弟の娘と燕青を娶せようとしていた、という何気ない一文にもニヤリ)


 以上四作品、伝説の銀牌というアイテムの存在で緩く結びついているものの、どの作品から読んでも、ミステリとして、武侠ものとして面白い作品ばかり。

 もちろん、いかにも武侠小説らしい突飛な技や武器も登場するため、その点では荒唐無稽な作品に見えるかもしれません。
 しかし――これは本書に限ったことではありませんが――たとえその世界でしか成立しない理論・法則を前提とした物語であっても、それを行う人の心の動きが自然なものであれば、それは間違いなく「リアルな」作品だと、私は考えます。

 本書に収められた作品は、その意味で実にリアルで、そしてロジカルな興趣溢れるミステリの快作なのです。


 ちなみに東京創元社のサイトに、作者の言葉が掲載されていますが、これが実に作者の人となりが現れていて面白い。
 こちらを読んで、自分の趣味と重なるものがあると思った方は、まず間違いなく本書を楽しむことができるかと思います。
(個人的には、「悪銭滅身」で燕青を助ける謎の隠者が、原典のあの人物のようだ…と思っていたら、やはり初期構想ではその通りだった、というのにニンマリ)

「もろこし銀侠伝」(秋梨惟喬 東京創元社ミステリフロンティア) Amazon
もろこし銀侠伝 (ミステリ・フロンティア)


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2010.09.08

「もろこし銀侠伝」(その一) 武侠世界ならではのミステリ

 今月文庫化が予定されている秋梨惟喬先生の「もろこし銀侠伝」は、日本では実に珍しい武侠ミステリの作品集であります。
 遙かな昔、黄帝が悪を滅するために下したという銀牌を持つ者たちが、江湖で起きた奇怪な事件の謎に挑む本書には、短編三作・中編一作が収録されていますが、順番に紹介していきましょう。


「殺三狼」

 かつて秘技「殺三狼」で三人の遣い手を同時に倒した李小遊が毒殺された。状況から、彼の薬を処方してた薬屋が疑われるが…

 武侠小説では、様々な遣い手たちが操る秘技・奥義が物語を彩りますが、巻頭に収められた本作は、その秘技を中心においた物語。
 彼には、かつて襲いかかってきた三人の遣い手を同時に倒したという「殺三狼」なる秘技を持つ男が、何者かに毒殺された謎を、本作では解き明かしていくことになります。

 波乱の半生から暗殺を恐れて、毒味を欠かさなかった男に毒を盛る機会があるのは、彼の飲む薬を処方していた薬屋のみ。
 父の命がもはや風前の灯火となったことを悲しむ薬屋の娘の前に現れた不思議な老人が、探偵役として、その無実を解き明かすこととなります。

 無敵の技を持つ遣い手が、不可解な状況下で何者かに殺されて…というのは、武侠小説ではしばしば登場する趣向であり、本作もその流れに属する作品ですが、その謎解きがきちんとロジカルなものであり、なおかつ、武侠小説でなければ成立し得ないものとなっている構成には唸らされました。

 まさに武侠小説の世界でなければ成立しないミステリ、武侠ミステリとは本作を指す言葉でしょう。


「北斗南斗」

 旅の途中の宿で、女の死体が忽然と現れた場に出くわした顔賢。犯人扱いを恐れる彼を、山中で烏鷺を戦わせる不思議な二人組が救う。

 死を司る北斗星君と生を司る南斗星君に酒食を振る舞ったことで、寿命を延ばしてもらったという伝説は、本作の冒頭でも引用されていますが、中国の伝説に興味のある方であればよくご存じかと思います。

 本作は、その伝説をなぞったかのような探偵が登場する作品であります。
 旅の途中で泊まった宿で、夜中に外に出たときに何故か意識を失い、目覚めてみれば目の前に女の死体が…という怪事件に巻き込まれた青年が、老僕の指示で頼った相手が、北斗南斗の伝説の如く山中で碁に興じる二人組。この二人の対話によって、一種の安楽椅子探偵もの的に事件の真相が暴かれていくという趣向であります

 死体出現のトリック自体は文字通りの力業ですが(ただし、武侠映画など似たようなシーンを見たことが)、そこに○○トリックを組み合わせ、さらに顔賢と老僕の情愛を絡めることで、読ませる物語として成立させています。


「雷公撃」

 銃の達人として知られた引退した武人が、落雷のような音とともに密室内で撲殺された。凶器は彼の銃だと思われたが、その真相は…

 三編目の本作は、「銃」の存在を中心に描いたユニークな作品であります。ここでいう銃とは、後世の鉄砲とは異なり、極めて短距離で銃弾をばらまくもの。
 その遣い手として知られた老武人が、閉ざされた室内で、彼の銃でもって撲殺されたという、密室殺人の謎が、本作では描かれます。

 この事件に挑むのは、その土地で暮らしていた謎めいた老女冠と、土地の名主の食客の青年。二人は、捜査を進めるうちに、事件の裏に隠されたある事情を知ることになるのですが…

 実は、個人的には、短編三作の中では一番気に入っているのが本作であります。
 銃という特殊な武器を用いた密室殺人のトリックの面白さ――これも豪快ではあるのですが、銃という武器を逆手に取ったひねり方に納得――これはもちろんあるのですが、しかし、それ以上に感心させられたのは、ホワイダニットの部分。

 何故老武人は殺されたのか、何故この事件が起きなければいけなかったか…
 明代というこの時代背景ならではの、この時代背景でなければ起きなかった事件を描いた、本作はまさに時代ミステリであります。

 そして、また、全てが明かされた後に老女冠が見せる、裁きも印象的です。
 事件に隠された人々の想いを読み取ると同時に、その想いを殺さぬために彼女が下した裁きは、さらにその後もう一段待ち受けているどんでん返しと相まって、実に鮮やか。ドラマ面でも非常に良くできた作品であります。


 長くなりましたので、残りは稿を改めます。

「もろこし銀侠伝」(秋梨惟喬 東京創元社ミステリフロンティア) Amazon
もろこし銀侠伝 (ミステリ・フロンティア)


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2010.09.07

「ムシブギョー」第2巻 自分だけの武士道、自分だけの熱血

 時は江戸時代、人々を襲う巨大な蟲たちの群れに挑む新中町奉行所、通称蟲奉行所の猛者たちの活躍を描くアクション漫画の第二巻であります。
 主人公の熱血少年剣士・月島仁兵衛が、この蟲奉行所にスカウトされてやってくるところから始まった本作。
 第一巻では、仁兵衛の先輩である奉行所の市中見廻り組のメンバーのうち、爆弾くノ一の火鉢、元人斬りの春菊をクローズアップして、仁兵衛との絡みで物語を展開していきましたが、この巻では残る二人がクローズアップされることになります。

 その一人は少年陰陽師の一乃谷天間。お役目大事で凝り固まった生真面目なキャラが、熱血バカの勢いに押されて…というのは定番パターンではありますが、天間が背負うとんでもない弱点の存在が面白く、これはこれで楽しめます。
(ただ、肌をはだけた天間に抱きつかれるというのは誰得展開なのだ)

 そして最後の一人は、蟲奉行所の同心たちのリーダー格にして蟲狩りのプロ・無涯。本作では初の前後編で描かれるこのエピソードは、屋敷内に巨大蟲が出現した大名家に請われて、無涯と仁兵衛が出向するという内容で、なかなか面白い。

 それには、登場する巨大蚤の実に不気味なキャラクターと、生態系に沿った設定付けが面白いということもあります。
 しかし、何よりも、無涯と仁兵衛の間に、実力的にも精神的にも、絶対超えることのできない壁・溝が存在することをはっきりと描いた上で、それを乗り越えるために仁兵衛が取ったラストの行動が、実に熱血ものとして良いのです。

 正直なところ、第一巻の時点では、仁兵衛の熱血ぶり…というよりも猪突猛進な勢いにノることができなかったのですが、その辺りはやはり計算の上の描写だったのでしょう。
 この無涯との回と、幕間的エピソードを挟んでの仁兵衛単独回での、彼の言動を見れば、作者が、良い形で師・藤田和日郎の熱血ぶりを継ごうとしていることがうかがえます。

 もちろん、仁兵衛自身がそうであるように、本作自体がまだまだその途上にあるのも間違いのないところではあります。
 仁兵衛が自分自身にとっての、自分だけの武士道を掴み取っていくための道のりは、同時に、作者自身にとっての、作者だけの熱血漫画を描いていく道のりにほかならないのでしょう。


 この巻では、いかにも謎めいた存在の蟲奉行も登場、さらに、仁兵衛たち市中見廻り組とは別の、さらに上位とおぼしきものとして武家見廻り組、寺社見廻り組の存在も描かれます。

 熱血少年漫画として、異形の蟲と江戸時代人の戦いを描く時代漫画として――仁兵衛と本作がどこまで伸びていくのか、見せていただきましょう。


 しかし、「町奉行所」に武家掛と寺社掛がいるのはやっぱり違和感が…いや、あくまでも超イレギュラーであろう蟲奉行の設置に伴う特例的措置ということで、あれこれ言うだけ野暮だと思うのですが。
(無涯回で、武家廻りがいるのに市中廻りに蟲退治を依頼したのは…大事にしたくなかったのだな、と脳内補完します)

「ムシブギョー」第2巻(福田宏 小学館少年サンデーコミックス) Amazon
ムシブギョー 2 (少年サンデーコミックス)


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2010.09.06

「あやかしがたり 3」 捨て切れぬもの、守るべきもの

 自分の前から去ったふくろうを追うため、公儀隠密妖異改の言葉に乗り、あやかし絡みの抜け荷事件を追うことになった新之助。一人さまよう新之助は、行き倒れたところを廻船問屋の娘・加絵に拾われ、彼女の船に乗ることとなる。数々の奇怪な噂が流れるトカラ列島に向かった新之助をそこで待つ者は…

 見鬼の才を持つことから数奇な運命に巻き込まれた少年剣士・大久保新之助の成長を描く等時代ライトノベル「あやかしがたり」シリーズ第三弾であります。

 シリーズ冒頭から共に旅を続けてきた拝み屋・ふくろうと前作ラストで決別した新之助。
 ふくろうの、捨てることから得る強さとは別の強さを得ることを誓って旅に出た新之助ですが…

 本作の冒頭ではあっさりとやさぐれて、家族をはじめとする自分以外の全てを――いや自分自身をも――捨てる決意を固めてしまいます。
 いやいや、前作の流れでこの展開はないだろう…と驚いたり落胆したり焦ったり(?)するこちらを尻目に、ふくろうと同じステージに立つため、彼と同じ公儀隠密妖異改の陰働きにつくことになります。

 しかし、熱しやすく冷めやすく、一方から一方へと極端に走りやすいのは、ある意味青春の特権。
 気のいい廻船問屋の娘・加絵に拾われた新之助は、任務遂行のために南に向かう足として乗ったはずの船上で、人間らしさを取り戻していくこととなります。

 それぞれに過去を背負いながら、水夫として明るく働く男たち、女ながらに船頭を目指し、壁にぶつかりながらも夢を叶えようとする加絵…
 これまで物語にはあまり登場しなかったごく普通の、しかし懸命に生きる人々との生活は、新之助の心を癒し、彼にとって本当に大事なものがなんであったかを、思い出させていきます。

 上に述べたとおり、冒頭でこれまで守ってきたもの、守ろうとしたものをあっさりと捨ててしまった新之助ですが、捨てなければわからないものも、確かにある。
 いや、一度捨てようとしてもなお捨て切れぬもの、それこそが本当に大事なもの――そう考えれば、彼の迷走も意味あるものでありましょう。
(そして、彼の復活を祝福するがごとく、颯爽と助っ人に現れるましろとくろえが実によろしい)

 そして復活した新之助の前に立つのは、彼が悩み、迷いながら追い続ける男――ふくろうその人。
 初めは旅の拝み屋、実は公儀隠密妖異改…と、物語が進むにつれて異なる顔を見せてきたふくろうの正体が、今回ついに明かされることとなります。

 このふくろうの正体については、ある意味本作のキモですのでここで詳しくは触れませんが、なるほど、このような出自であれば――○○がそのような一族であったか、ちと疑問が残るのを除けば――彼があれほどの力を持ち、そしてそれゆえに苦しんできたこともうなづくことができます。

 そして彼が最期に為そうとしたことも、一見無茶苦茶な理屈でありながら、伝奇的には実に面白いアイディア。
 いやはや、ここまでふくろうが面白いキャラクターになるとは、嬉しい驚きであります。


 …しかし、ふくろうが目指したものは、しかし、新之助にとっては到底受け入れられるものではありません。
 己が捨てないと誓ったものを守り抜くため、そしてかけがえのない友であり、目指すべき目標である男を救うため――ついにふくろうに挑む新之助。

 救うため、止めるために刃を向ける…一見矛盾した行動を、全く違和感なく、いやこれしかないと思わせるのは、これまでの物語の積み重ねあってこそ。
 間違いなく本作は、シリーズの一つの到達点であります。


 お話的にはかなりシンプルではあります。また、相変わらず地の文が語りすぎるきらいはあります。特に後者は、ダメな方は本当にダメかもしれません(しかしこの語りこそが、新之助の、そして作者自身の、悩みながらも前に進もうとする姿勢の現れではあるのですが)。

 それでもなお、理想とする自分に向けて足をひたすらに前に進める新之助の姿には大きく頷けるものがありますし、その成長は、物語そのものの質にも大きく影響しているやに感じます。
 第一作より第二作、第二作より本作…着実に面白くなっているシリーズの着地点がどこなのか、期待しています。

「あやかしがたり 3」(渡航 小学館ガガガ文庫) Amazon
あやかしがたり 3 (ガガガ文庫)


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2010.09.05

「真田十勇士」第4巻 十勇士、戦場に消ゆ

 全四巻の漫画版「真田十勇士」もついにこれで完結。豊臣と徳川の決戦・大坂の陣を舞台に、真田幸村と十勇士の最後の大暴れが展開されます。

 全面対決の運命は避けられず、ついに大坂城に激突することとなった豊臣方と徳川方。当然豊臣方として大坂城に入った幸村たちではありますが、しかし城内は秀頼以下暗愚の将ばかり。
 この戦いに勝利するには、家康の首を取るほかないと密かに決意する幸村ですが…

 その一番手として向かった三好清海は、第三巻のラストで家康の影武者の首と引き替えに壮絶な討ち死に。
 それでも臆することなく、執拗に家康の首を狙う十勇士ですが、これが天命というものか、家康を討つことはかなわず、戦端は開いてしまいます。

 戦場でも常人以上の働きを見せる勇士たちですが、しかしそれでも巨大な戦の流れに挑むには限界というものがあります。
 諸所で活躍を見せながらも、戦の中で埋没していくかに見えた彼らにとって、見せ場となったのはやはり戦以外の場、冬の陣と夏の陣の戦間期でありました。

 既に天下に王手をかけた家康に取って、唯一の気がかりは、孫娘である千姫の安否。彼女を無事に取り戻すことを、家康は腹心の柳生宗矩に命じるのですが…
(ちなみに本作の宗矩、敵役ではあるのですが、家康から結構専門外のことを命じられても不満一つ言わない苦労人であります)

 ここで兄・宗章をも動員した宗矩の策を見抜いたのは、もちろん真田幸村。彼はそれを逆手にとって、なんと千姫に化けた我が子・大助を家康の元に送り込みます。
 家康まであと一歩のところまで迫ったかと思いきや、宗矩の知略の前に正体を見破られた大助の最期の大暴れが、ある意味、この巻の最大の見せ場。

 ただ一人、味方もなく周囲は全て敵――その中で、実に12ページにわたって文字通り孤軍奮闘を繰り広げる大助の姿は、まさに圧巻というほかありません。

 しかし考えてみれば、家康の首を目指すものの、味方は己のみ、家康との間に立ち塞がるのは無数…という状況は、ある意味、大助に限らず、幸村と勇士たちが置かれた状況の縮図というべきものかもしれません。
 そして、皮肉にもその大助の策がきっかけとなったように、豊臣と徳川が最後の決戦に突入していく中に、彼らもまた飲み込まれていきます。


 これ以降の展開がかなり急で、十勇士全ての去就が描かれるわけではないのが残念ではありますが、戦いに次ぐ戦いの果てに辿り着く結末の豪快さは、これはこれで本作らしいと言えるかもしれません。

 滅び行く者の荒ぶる心意気を描いた本宮ひろ志&柴田錬三郎の「真田十勇士」、これにて完結であります。

「真田十勇士」第4巻(本宮ひろ志&柴田錬三郎 集英社文庫コミック版) Amazon
真田十勇士 4 (集英社文庫―コミック版)


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2010.09.04

「無頼無頼ッ!」 秘境に輝く無頼の魂

 九州の山中に巨大な鉄の門があるという噂を聞きつけた商人・蜘蛛助。この世のすべてを目に焼き付けるのが夢の蜘蛛助と、ある目的から彼と旅を続ける用心棒・兵庫は、門を目指して旅に出る。しかし二人の前に現れるのは、奇妙な人々と奇妙な試練…奇怪な掟が支配する世界で、二人の冒険行は続く。

 「蛇衆」でデビューを飾った矢野隆の第二作が本作「無頼無頼ッ!」。
 戦国時代、己の力を頼みに生きる傭兵たちの姿を描いた前作に対し、ガラッと雰囲気を変えた、一種の秘境冒険活劇であります。

 本作の主人公となるのは、不可思議を求めて日本中を放浪する商人・蜘蛛助と、彼の用心棒として旅を共にする侍・兵庫。
 好奇心の固まりで口から先に生まれてきたような蜘蛛助と、武術の達人ながら堅物の兵庫と、この二人が旅を続けてやってきた九州で、蜘蛛助がある噂を聞きつけたことから、物語は始まります。

 阿蘇へと続く山道から分け入った先にあるという、この世のものとは思えぬ巨大な鉄の門…その噂にいたく好奇心を刺激された蜘蛛助は、渋る兵庫を引きずって旅に出るのですが――隠れ里のような異境での奇妙な試練の数々が、二人を待ち受けます。

 迷宮のような人一人存在しない村、強力を誇る森の番人、二人を透明な存在のように扱う人々、裸一貫の力を試される死のゲーム、そしてたどり着いた鉄の門に仕掛けられた最後の罠…
 奇怪な掟に縛られた世界で、数々の代償を払いつつも、二人は己の持つ知恵と力を合わせ、謎に満ちた世界の秘密に近づいていきます。

 そして、近づいていくのは二人と秘密の距離だけではありません。
 最初はほとんど水と油のような蜘蛛助と兵庫――生まれも育ちも、旅する理由も全て異なる二人。金で雇われた用心棒という、ギブアンドテイクの関係にあった二人が、苦難を乗り越えるうちに心を近づけ、真の友情を結んでいく――一種のバディものとしても、本作は描かれているのです。

 前作では定型的に感じられて今一つ乗れなかったキャラクター面ですが、この辺り、本作では(私がバディもの好きということもありますが)かなりの改善があったと感じます。

 いや、キャラクター面のみではありません。
 時代ものとしてはかなり珍しい秘境冒険ものという題材、良い意味で――前作とは全く別の意味で――ゲーム的な内容、結末で明かされる、この時代を舞台とすることのある種の必然性…本作を構成する要素に目を向ければ、本作は前作よりも格段の進歩を遂げていると感じます。


 一連の事件の首謀者(?)との会話の中で、物語の肝、テーマをはっきりと言わせてしまう点や、結末の呆気なさ、ちょっと強引なゲームネタ(最後の最後まで来て…)と、ラストでいささか失速したという印象は、個人的にはあります。

 しかし、たとえそうであっても、本作の持つ瑞々しい勢いと、そこから飛び出してくる主人公たちの心意気は、それを補ってあまりあるものを与えてくれたと…そう感じるのもまた事実です。

 己の中にある最も大事な魂…無頼の心を再確認した蜘蛛助と兵庫が、これから次第に自由を失っていく世界で、どのような冒険をこれから繰り広げていくのか――

 続編を読みたい、いや続編が書かれるべき作品であると感じた次第です。

「無頼無頼ッ!」(矢野隆 集英社) Amazon
無頼無頼ッ!


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2010.09.03

八犬伝特集その十二の一 「THE 八犬伝 新章」 第一話「妖霊」

 村雨を手にした道節は父の仇・上杉定正を襲うが、影武者を討ったのみでかえって追わてしまう。犬士たちを探す信乃たち四人も、仲間と誤解されて追われる身となる。道節の家来筋の世四郎の小屋に身を寄せた五人だが、そこにも追っ手は現れ、道節は火薬を爆発させてその場から逃れる。なおも追いかける敵の前に道節が危機に陥ったとき、既に追っ手をくい止めて死んだはずの力二郎・尺八兄弟の亡霊が現れ、怪物と化した追っ手を討つのだった。

 さて、監督が替わっての第二シリーズに突入ですが、本筋の方は、犬山道節を中心としたエピソードとなります。

 第一シリーズラストからほとんど時間は経っていないようで、物語はそのまま直に繋がっている印象の今回(のわりには信乃たちはいつの間にか丶大から八犬士の話を聞いているし、何よりも腑抜けになっていた道節はしっかり立ち直っているのですが)。
 原作の道節の敵討ち→大失敗して世四郎たちの犠牲で逃れるという展開をほぼ踏襲しつつも、これまで積み上げられてきた本作ならではの人物造形で物語は展開していきます。

 その最たるものは、道節が浜路を斬ったという過去を持つことで――当然、荘助にとって道節は仇、信乃にとっても村雨を奪った男ということで、同じ犬士として痣を持った者であっても、一緒にいて面白いわけがありません。

 しかしそれ以上に一匹狼(?)気取りなのは道節の方。浜路の死をどう考えているか、今回の描写からはわかりませんが、しかしそれ以上に彼の立ち位置を際だたせたのは終盤の展開。
 与平の小屋が追っ手により火に包まれた際、火薬を爆発させて炎を吹き飛ばし、脱出する様は、突然犬士と言われて納得できなかったにしても、情に薄いと言われても仕方がないように思います。

 もっとも、道節のこの行動は、直後に敵の手にひくて・ひとよ(のどちらだったか)が人質にされた時に、彼女たちから「無駄です。義兄弟すら捨てる方が女の命など」ときっぱり言われてしまうのですが…(しかし、それでも動じない道節)

 しかし、彼の行動を一概に責める気にならないのは、本筋と平行して断片的に描かれる物語があるためかもしれません。

 それは犬士たちの生まれる数十年前、おそらくは結城合戦の場から逃走し、わずかな供連れで嵐の海を渡った末に、安房にたどり着いた武士の姿を描いたもの――
 その武士こそは、後の里見義実、伏姫の父であります。

 原作ではやむなく落ち延びた、といった態だった義実ですが、本作では積極的に戦場から逃げ出した…というだけでもひねっていますが、安房の浜を蹌踉と歩むその影の姿は、人に非ず獣人――おそらくは犬顔の――であるのには驚かされました。

 伏姫の、犬士たちの悪因縁の源は、玉梓、そして八房にあったかと思いきや、むしろ義実(の象徴するであろうもの)の方にあったか…と、いかにも本作らしい捻りように驚かされます。

 なるほど、途中で道節が、八人揃ってどうする、里見に仕えろというのかと信乃たちを嘲笑うのも――もちろん本人はそこまで深く考えていないとはいえ――頷ける話ではあります。

 しかしそれは、里見の八犬士という物語の根本構造を壊しかねないもの。
 果たしてこの辺りをどう収めるのか…これはやはり気になるところです。
 個人的には、非常に芝居めいたラストの力二郎・尺八兄弟と怪物の戦いが、ある意味本作を象徴しているように――それがどういうことか、私自身今ははっきりとは表せないのですが――感じた次第です。


 さて、この過去の義実の物語と、現在の犬士たちの物語を目撃したのは、浮浪児のような身なりの少年でした。
 あの赤い架け橋の上から、人々の生と死を目撃した(その橋の上には、玉梓と親兵衛の姿が!)少年、幻に翻弄されるように安房の浜に現れ、その影もまた獣人の姿であったその少年の、その後の名がナレーションで語られるのですが――それこそは蟇田素藤!

 八犬伝ファンには驚きの名が出てきたところで、新章第一話の終了であります。(ナレーションでは「ひきたすどう」と呼ばれていましたが…)


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2010.09.02

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第11話「せまる!! 忍法阿修羅地獄」

 難民たちが堺の町に救いを求めてやってきた。一方、金目教の阿修羅三兄弟は、堺の橘屋が手に入れた南蛮大砲の設計図を奪うべく堺に潜入、橘屋の蔵の厳重な警戒に一度は撃退されたものの、蔵を襲った罪を難民に被せる。難民と町衆の緊張が頂点に達する中、再び蔵を襲う三兄弟。が、そこに参上した赤影は三兄弟を圧倒、三兄弟が付けた火の中に設計図は消え、協力して火を消したことで、難民と町衆のわだかまりも消えるのだった。

 今回は難民問題を中心に据えた、なかなか意欲的エピソード。戦乱の中で家や財産を失い、放浪してきた人々が救いを求めてきた時、どう接するか…これは、堺に限らず普遍的な問題ですが、秘密兵器の争奪戦という一種定番展開に、この問題を絡めてきたのが工夫であります。

 久々登場の南蛮商人カルロスがもたらした南蛮大砲(特撮版を見ていた人はニヤリとできるアイテム)の設計図を奪おうとした阿修羅三兄弟。
 スキンヘッドに額の赤い炎の入れ墨という恐ろしげな外見に似合わず(?)結構微妙な実力の三兄弟は、あっさり蔵の仕掛けに撃退されてしまうのですが、そこで終わらないのが彼らの悪辣なところ、この襲撃事件を、折から堺にやってきた難民の仕業ということにして、町衆と難民、双方を煽るのです。

 さらに三兄弟は難民に同情的な橘屋を襲撃、橘屋は傷を負わされたところをやまぶきに救われたものの(本当に便利なキャラだなあ)、一時的に姿を隠したことで、これも町衆と難民の緊張を高める結果に…

 難民の少年・ロクと仲良くなったこともあり、この緊張を何とか解こうとする青影ですが、赤影は冷静に南蛮大砲を守り、橘屋の蔵襲撃事件を解決しようとする(そうすれば同時に難民の件も解決する)という立場。
 この辺り、理屈でいえば赤影が正しいのですが、感情でいえば青影のこともよくわかるというのもうまい作りでしょう。

 さて、町衆と難民がついに一触即発、町の入り口で双方がにらみ合い、ついに武力衝突か…というところで喜んだのは三兄弟。
 蔵を守る傭兵までそちらに行ってしまったのをよいうことに、ついに蔵の仕掛けを突破して、南蛮大砲の設計図を手に入れてしまいます。

 が、もちろんそこで赤影参上! 一人で三兄弟をほとんど圧倒(やまぶきにも翻弄されたし、明らかに腕前はいまいちな三兄弟がちょっとおかしい)。
 さらにやまぶきに教えられて白影が橘屋を連れてきたことから、最悪の事態は何とか回避することができました。

 そして、ここで三兄弟が蔵に付けた火が火災に発展してしまったことで、事態は大きく動き出します。
 そう、町に燃え広がろうとする火を消すために真っ先に走り出したのはロク。そして、自分の家が燃えるのがどんなに辛いことか、自分たちが一番よく知っているというロクの母の言葉に、難民たちは力を合わせて消火活動を始めるのです。

 そして赤影は、三兄弟の必殺技・忍法「阿修羅地獄」――三人が一人に見えるように重なり、六本の腕で同時攻撃を仕掛けてくる――を、辛くも打ち破って、長兄を倒します。
 それでも設計図をリレーして逃げようとする二人ですが、白影、そして青影の妨害により、三兄弟は全員自らが放った炎の中に消え、南蛮大砲の設計図も燃え尽きるのでした。

 堺を守るための南蛮大砲は消えてしまいました。しかしそれでも、堺はもっと大きな力を得たと諭す赤影。
 その言葉に大きく頷いて、橘屋は焼け跡の復興作業を難民たちに依頼するのでした。


 と、結果的にはご都合主義的に終わった今回ですが、難民たちを陥れた三兄弟が放った炎が、逆に町衆と難民を結びつける――そして三兄弟はその炎の中に消える――というある意味皮肉な展開が面白い。
 そして、それを可能としたのが、故郷から焼け出された難民たちの境遇だったというのも、それなりの説得力があります。

 なかなか難しい題材だったとは思いますが、実にキレイにまとまった佳品であったと思います。


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2010.09.01

九月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 本当に生命の危険を感じるほどの暑さが続きますが、暦の上ではあともう少しで秋。秋と言えば読書の秋、伝奇の秋というわけで、九月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。(敬称略)

 …とは言ってみたものの、九月の文庫小説はほとんど壊滅的。

 個人的に気になるアイテムを挙げれば、米村圭伍の蜜姫シリーズ第二弾「おたから蜜姫」、発売日は上旬としかわかっていませんが早見俊の「よわむし同心信長」4、それに中国武侠ミステリ(水滸伝ネタもあるよ!)の秋梨惟高「もろこし銀侠伝」くらいでしょうか…
(天野純希の「桃山ビート・トライブ」も文庫化されますので、未読の方はどうぞ)

 しかし、個人的に文庫が不作な一方で、これ一冊でお釣りが来る! というべきものが、宮負定雄の「奇談雑史」の文庫化であります。

 平田篤胤の高弟であり、師の異界研究を引き継いだ宮負が蒐集した異界交流譚の集大成――とのことで、実は私も実物は見たことはないのですが、それが文庫で手に入るようになるとは…
 いやはや、大変な時代になったものです。


 さて、漫画の方は、それなりのラインナップ。
 初登場としては、一部で話題沸騰(?)の本宮ひろ志「猛き黄金の国 柳生宗矩」1、ガンガン系では珍しい濃い画風のキム・ビョンジン「ヴァルハラ 本多忠勝伝」があります。

 また、シリーズ続巻としては、そろそろたぶんクライマックスの田中ほさな「乱飛乱外」8、案外早い続巻でちょっと驚きました安彦良和「麗島夢譚」2、やっぱり続編を早く出していただきたい高田裕三「九十九眠るしずめ」文庫版2、などが、気になるところであります。

 その他、個人的に嬉しいのは山科けいすけ「SENGOKU」の復刊。
 先日同様に復刊した「サカモト」が実に面白かった(「龍馬伝」を見ていてもこちらのキャラが浮かんでくるくらいに)だけに、こちらも期待していましたが、見事復活であります。

 そして…復刊と言えば忘れてはいけないのは、最近毎月復刊されている森田信吾先生の時代劇画。九月の復刊は、なんと「幕末秘剣 慈恩」!!
 以前リイド社から発売されていた単行本は、ラストまで刊行されなかったのですが、今回はどうやら全て収録の模様。これはテンションがあがらずにはおれません!


 さて、ゲームの方では、PSPの「戦国絵札遊戯 不如帰 大乱」くらいでしょうか。
 以前発売された「「戦国絵札遊戯 不如帰」の続編ですが、アイディアは良かったものの絞り込みが今ひとつだった前作から、どれだけ進化しているかが気になるところです。

 しかし「戦国BASARA」と「薄桜鬼」はよく稼ぎますのう…


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