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2010.09.13

「胸の振子 妻は、くノ一」 対決、彦馬対鳥居?

 すれ違いながらもお互いを求め続ける江戸の織姫・彦星カップルを描いた「妻は、くノ一」の第八巻が発売されました。
 いよいよ物語も佳境に近づいてきましたが、まだまだ意外な展開が待ちかまえています。

 抜け忍となった織江に対して御庭番頭が諸国から呼び戻した三人の遣い手との対決もいよいよ三人目、最後の一人。
 その相手とは、かつての織江の母・雅江のライバルであり、織江も子供の頃可愛がられたくノ一・浜路であります。

 織江が彦馬の近くにいると睨んだ浜路は、彦馬の家の近くに飲み屋を開き、彦馬はそこの常連になるのですが…何と、同じくその店の常連となったのが鳥居耀蔵。

 本シリーズの鳥居は町奉行になる前も前の段階ですが、密かに開国を目論む松浦静山の危険性をなかば本能的に察して(…というのは大袈裟ですね、明らかに)、何かとつきまとう役柄。
 静山の、幽霊船を装った船で海外への道を開こうという人を食った、しかしスケールの大きな企てにも唯一気付きかねない人物であります。

 もっとも、その一方でそうとは知らずに雅江を「菩薩」と呼んで一方的に憧れた挙げ句、彼女が死んだ後はほとんど腑抜けのようになったりと、どうにも最近はダメっぷりが際立っていた鳥居様。
 果たして彦馬との出会いがもたらすものは――と思いきや、何とここで始まるのは二人の推理対決! …というか、件の飲み屋で市井で彦馬たちが出会った謎の話をしていると、一方的に鳥居の方が絡んでくるという構図なのですが、これがなかなか面白い。

 まことに失礼ながら、本シリーズでの謎解き要素もそろそろくたびれてきたかな…という印象も正直なところああったのですが(今回はほとんど「甲子夜話」への言及もありませんでしたし…)、それでもこういう変化球を投じて驚かせてくれるのが本シリーズの楽しさの一つでしょう。

 特に、商家に現れる、蛇が変じたと思しき不思議な妖怪・銭ヘビさまの謎を巡るエピソードでは、一度鳥居が解いた謎の奥にあった、もう一段の謎を彦馬が解き明かすという構造が良くできていたと思います。


 さて、男たちがそんな罪のない(?)戦いを繰り広げている一方で、こちらは命がけなのが女たちの戦い。ついに彦馬抹殺の命を受けた浜路から彼を守るため、織江は昔なじみの相手に挑むことになります。
 一方、浜路の側も、忍びとして一歩先んじた上に、自分がなりたかった「母」という存在にもなってしまった雅江に対して抱いてきた負の感情を、ここで織江にぶつけようとするのですが…

 本シリーズに登場する人物はみな、多かれ少なかれ、それぞれに生きることの重みや切なさを背負って生きていることが、作者一流の軽く、しかしツボを押さえた筆致で描かれるのですが、浜路もそんなキャラクターの一人。
 かつて可愛がってきた娘に対し、殺意を向けるという哀しさすら意識できなくなってしまう彼女の姿は、あるいは織江がそうあったかもしれない姿として、心に残るのです。


 そして本作には、珍しく巻末に作者によると思しき言が付されています。これが、本シリーズの各巻のタイトルの解説なのですが、最後の最後に驚くべき内容が――
 さて、いよいよ結末が見えてきた本作の、彦馬と織江の辿り着くところは如何に。

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