「塚原卜伝」 卜伝から武蔵への系譜
佐竹家家臣の塚原土佐守の次男、小太郎は、幼い頃から剣術の際に優れ、やがて上泉伊勢守の門人となって腕を磨く。様々な事件に巻き込まれながら各地で修行を続ける小太郎だが、佐竹家を私せんとする佐竹弾正は、邪魔となる土佐守と長男を謀殺してしまう。復仇の念に燃える小太郎の仇討ちの行方は…
久々に講談名作文庫から、「塚原卜伝」であります。
塚原卜伝と言えば、新当流の流祖で秘剣・一の太刀の生みの親、足利義輝や北畠具教の師――少し詳しい人であれば、梶原長門との決闘などが思い浮かぶかと思います。
…が、この講談で語られる卜伝の物語は、それらとは全く無縁の内容であります。
何しろ、ものの本では卜伝の弟子とも語られる上泉伊勢守が、ここでは卜伝の老師とも言える設定(史実では卜伝の方が20歳ほど年長)で、卜伝は柳生宗厳や丸目(本作では丸女)蔵人の弟弟子ということになります。
そもそも、卜伝自身、塚原の生まれではなく、養子で入ったはず…などと、史実に拘るのは、講談においてはまあ野暮というものでしょう。
本作での卜伝は、剣の道を究めることに燃える若き麒麟児。
師の病中に道場を荒らしていった羽黒の悪修験者を叩きのめしたり、赤城明神の奉納試合で亀井茲矩と大決闘を演じ、その亀井を破るため、戸沢山城守(=後の白雲斎!)に弟子入りして天狗昇飛び切りの術を学んだり…
まずは講談の剣豪ヒーローに相応しく、明朗にして豪快な大暴れを繰り広げることとなります。
そして中盤から物語の中心となるのは、これまた講談の剣豪ヒーローには定番の敵討ち。佐竹義重の死に乗じてお家を乗っ取ろうとする悪人・佐竹弾正一味に父と兄夫婦を殺され、一族郎党も故郷の城も全てを失った小太郎の復仇譚が繰り広げられることとなります。
ここから先は、今まで以上に波瀾万丈の展開。自らも囚われの身となった小太郎を救わんとする忠臣兄弟の活躍や、小太郎を助ける黒衣の剣客団(彼らの正体は! これは燃える)の登場もあり、お話は上杉家にまで広がっていって、結末はわかっているとはいえ、十分以上に楽しいのは、やはりこれは人を楽しませることに特化されてきた講談の底力というものでしょう。
しかし個人的に興味深かったのは、この物語の結末であります。
首尾良く仇を討った後も修行を続け、秀吉の御前での亀井茲矩との再戦でこれを破り、天下人秀吉の随身の勧めをきっぱりと断った小太郎改め卜伝。彼は、天下の自由人として、生涯修行の道を選びます。
そして結末は、隠棲した老卜伝と、宮本武蔵との鍋蓋試合。
有名でありながら、「年代的に合わない!」と突っ込まれることでお馴染みのこのエピソードですが、ここで武蔵が卜伝のもとを訪れたのは、小次郎を討つために、卜伝の天狗昇飛び切りの術を学ぼうとしたため、となっております。
そして鍋蓋試合の結果、卜伝が武蔵の弟子入りを認め、天狗昇飛び切りの術を伝えることになるのですが――
ここで晩年の卜伝の継承者として武蔵が登場するということは、単に技に留まらず、この講談において物語られてきた卜伝の位置を継承する者として、武蔵が認識されている(いた)ということでしょう。
つまり、年代の合う合わないなど関係なく、剣豪として卜伝を継ぐ存在は武蔵、という解釈が示されていることになります。
実際の剣法史上ではほとんど繋がりのない両者ですが、講談世界においては繋がりが存在していた、認識されていたということは、実に意外で、面白く感じられたことです。
「塚原卜伝」(講談社講談名作文庫)
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