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2010.09.21

「風来坊侍」 快男児、松浦藩の闇を斬る

 密かに入れ墨の技を修行する平戸藩江戸家老の娘・おゆき。彼女を襲った悪漢・赤間大作一味の前に現れたのは、奇妙な身なりの素浪人・風来坊左近だった。赤間一味の用心棒となった左近は、背中に龍の形の痣を持つという平戸藩主・松浦大和守輝高を巡る剣難女難の騒動に巻き込まれるのだった。

 疲れた時には理屈抜きのエンターテイメントを…というわけで私が手に取ったのが、陣出達朗先生のこの「風来坊侍」であります。(この没個性なタイトルが、また春陽文庫の陣出作品らしい…)

 舞台となるのは平戸藩松浦家。
 その当主である大和守輝高に、龍の形の痣があったことから巻き起こる大騒動に、東も西も、南も北もないという謎の素浪人・風来坊左近が立ち向かう(時々率先して事態を混乱させる)ことになります。

 この左近、膝の辺りまでの白い経帷子に無反りの太刀、海老鞘巻きの鎧どおしを差し、印籠の代わりに革袋を下げているという、粋なのだかそうでないのだかよくわからない人物。
 もちろん腕は立つのですが、わざとか素なのか、良く言えば明朗、悪く言えばかなり呑気…というより朴念仁の気があり、周囲を振り回すこと甚だしい一種の快男児…いや怪人物です。

 さて、この左近が巻き込まれたのが、松浦輝高を巡る、ある大秘事――輝高に実は双子の弟がいたという秘密。
 同じ松浦家に生まれながらも、一人は藩主となり、もう一人はどこかに預けられたまま行方不明に…という、時代劇ではお馴染みの展開であります。

 ここで左近こそがその…となれば、これは全くパターンなのですが、そこで外してくるのが本作の面白いところ。
 左近=双子の弟ではないのですが、しかし左近にもその人物との因縁が、というひねりの加え方は、これはさすが陣出先生…と言っては言い過ぎかもしれませんが、それが状況をさらに複雑にするのですから面白い。

 この双子の弟が、本作の悪役である、平戸藩において抜け荷を行う赤間大作一味の手に落ちたことから始まるとんだ鉄仮面(本当に鉄仮面が登場!)、顔は同じでも性格は全く異なる二人――弟の方がどうしようもない女好きというのがまた実におかしい――の間で、ヒロイン・おゆきをはじめとする登場人物たちは翻弄されることになります。

 中盤からは、江戸から平戸までの参勤交代の道中の騒動が延々と描かれるのですが、この辺りの展開は、振り返ってみれば中身がないのだけれども、読んでいる時は実に面白いという、ある意味大衆娯楽の王道展開。

 もちろん最後には悪が滅び、善男善女が救われるのですが…ラスト直前で主人公が大チョンボをやらかすというすっぽ抜けぶりにはひっくり返りました。
 シチュエーションは定番ながら、どこか外してくる陣出作品の楽しさを、今回も味合わせていただいた次第。

 今の目の肥えた読者に勧められるかと言えば、ちょっと首を傾げざるを得ませんが、しかし、時にはこういう肩のこらない作品を素直に楽しんでみることも必要ではないかな、と私は陣出作品に触れる度に思ってしまうのです。

「風来坊侍」(陣出達朗 春陽文庫) Amazon

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