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2010.10.01

「猛き黄金の国 柳生宗矩」第1巻 戦争と対峙する剣士の姿

 柳生石舟斎を父に持ちながらも自らの生きる道に迷い、放浪していた柳生又右衛門は、父に伴われて出会った徳川家康の在りように感銘を受け、家康の下に仕えることとなる。柳生新陰流の奥義、人に希望を与える満月の姿を実現するために、又右衛門――宗矩は己の生涯を賭ける。

 一部の時代ものファンの間で話題になっていた「猛き黄金の国 柳生宗矩」の単行本第一巻が発売されました。
 これまで岩崎弥太郎、斉藤道三を主人公に描かれてきた「猛き黄金の国」ですが、意外、第三の主人公は、徳川幕府創生期の三人の将軍に仕えてきた柳生宗矩であります。

 宗矩という人物は、一剣士から大目付へと、相当に触れ幅の広い――そして、その活動内容がさして世に知られていない――生涯を送っていますが、この第一巻では、24,5歳の又右衛門と75歳の宗矩と、二つの時代を行き来することにより、それを浮き彫りにする試みがなされています。

 若き日の又右衛門は、己の修得した剣を如何に用いるべきか悩んだ末に、家康の下に身を置くことによって、それを生かす道を模索する姿が――
 一方、晩年の宗矩は、一度得られた太平の世を守るため、必要とあらば三代将軍家光を斬ることすら辞さない姿が、それぞれ描かれることになります。


 さて、個人的に強く印象に残ったは、この晩年の宗矩の姿であります。
 権謀術数に長けた、いわゆる黒い宗矩は、たとえば「柳生一族の陰謀」などで世に知られた感があります。

 本作における宗矩は、やはり、同じく謀臣で知られる土井利勝からその汚れ仕事を揶揄されるほどであり――いやそれどころか利勝本人を――その点では従来のイメージに則りつつも、しかし、その目指す点は大きく異なります。

 この宗矩の物語の時代背景となるのは、満州族に攻められた明国による、日本への援兵要請であります。
 この辺りは、「国性爺合戦」などでも描かれるところですが、この要請に応えるか否か
――すなわち海外に出兵するか否か――が、本作においては、宗矩と家光の対立軸。

 海外での戦いにおいて己の力を示さんとする家光と、それが天下を乱すものとしていかなる手段を用いても阻まんとする宗矩と…そこに描かれる宗矩の姿は、白でも黒でもない平和の鬼とも言うべきものであります。

 そして、この海外での戦い、天下太平のためではない更なる戦いに抗する姿勢は、実は、又右衛門の物語でも描かれることとなります。
 又右衛門が家康に仕えた頃に行われていた海外での戦いとは、秀吉の朝鮮出兵。家康は、この秀吉の姿勢を愚かと断じ、この戦いを終わらせるために、一見非情とも臆病とも見える手段で、当たるのです。

 いわば本作は、又右衛門と宗矩の、二つの物語を、戦争との対峙という軸でもって、まとめあげたものと言えるでしょう。

 これまでの「猛き黄金の国」の主人公たちは、激動の時代の中で、己の才能一つで頭角を現してきた人物。
 それに比べると宗矩はいささか毛色が異なるように思いますが――己のためではなく天下のためとはいえ――己の力でもって激動の時代に対峙した人物という点では共通なのでしょう。

 本作で語られる「天下無敵」のあり方…単に力が最強ということではなく、敵を無くす、すなわち戦いをなくす、そのために生涯を賭けた宗矩像。
 何とも意外で、しかし魅力的な姿ではありませんか。

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コメント

本宮先生はどちらかというと秀吉びいき的な作者の方ですが、ここで描かれる家康像はなかなか。特に今週号のBJで描かれた家康のポリシーは、流石に戦国時代の最後の勝者としての威厳がありました(次の巻で収録?)。そして同号では沢庵和尚と宮本武蔵も登場して、どうなるのか先が楽しみです。

投稿: ジャラル | 2010.10.06 21:57

ジャラル様:
単行本派なので先の展開が楽しみですね…
家康を平和主義者として描くのは、色々な作品で行われていますが、本宮先生の本作はまた違った観点が感じられて気に入っています。

投稿: 三田主水 | 2010.10.07 23:58

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