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2010.10.18

「週刊新日本史」第01号 「ヤマトタケル」 新たなる偉人伝の始まり

 一年間かけて完結した朝日新聞出版の「週刊マンガ日本史」ですが、好評だったのでしょう、間髪入れず続編である「週刊新マンガ日本史」の刊行がスタートしました。
 その第一弾は、「るろうに剣心」「武装錬金」「エンバーミング」の和月伸宏先生が描く「ヤマトタケル」。これは取り上げざるを得ないでしょう。

 さて、新シリーズの口火を切ったヤマトタケルですが、歴史上というよりむしろ神話・伝説上の人物、半ば非実在英雄であります。それを取り上げるというのはまた思い切ったことを…と思わないでもありませんが、しかしこれがなかなか面白い。

 この和月版ヤマトタケルの物語は、ヤマトヲグナが九州のクマソタケル兄弟を討ち、彼らからタケルの名を継ぐ場面から始まります。
 やむにやまれぬ事情から兄を殺し、父・景行天皇から疎まれることとなったタケルは、大和に帰還して休む間もなく、今度は東征を命じられます。
 孤立無援のタケルに、唯一の味方である叔母・ヤマトヒメは神剣・草薙剣を与え、さらに一人の年若い巫女を伴わせます。

 タケルに真の名前を教えることを拒み、クシナダと名乗った彼女を伴い、タケルは東へ…
 血を好まずも、血で血を洗う戦いを余儀なくされるタケルは、クシナダとの語らいの中につかの間の安らぎを見出すのですが…

 と、より悲劇的でドラマチックな古事記ベースに展開される本作は、わずか28ページではありますが、記紀の描写を諸処に取り入れつつ、巧みにダイジェストして物語を展開していきます。

 そしてここで描かれるヤマトタケルは、単なる武に長けた勇猛果敢な英雄ではなく、優しさと知性――クシナダから、政治的な配慮ができると感心される場面が面白い――を持ち、それ故に苦しむ人物であります。
 父からは疎まれ、安住の地もなく放浪と戦いを定められた人物――この辺り、タケルをいかにもヒーロー然としたデザインにしつつも、疲れを背負った昏い瞳(和月読者であればお馴染みの)で、彼の二面性を浮かび上がらせる作者の腕が冴えます。

 もちろん、先に述べたようにヤマトタケルは半ば神話・伝説上の人物。それを歴史を冠したシリーズにおいて、このようにドラマチックに描くことには賛否があるかもしれません。
 しかしここでは、ヤマトタケルが戦う理由、そして彼の人間性を踏まえたドラマを展開することで、ヤマトタケルという英雄説話が形作られる背景に存在したであろう、朝廷のために戦い続けることを余儀なくされた者たちの姿を浮かび上がらせたのだと、私は受け止めました。

 そしてそれは同時に、彼らが生きた時代を描き出すことにも繋がることも、言うまでもありません。


 ちなみに本シリーズでは、漫画だけでなく、解説ページの充実ぶりも魅力なのですが、本書ではどうするのかしら…と思えば、ヤマトタケルに絡めて、記紀の成立や日本神話の紹介を行っているのが面白い。

 なるほど、記紀の内容には少なからずのフィクションが含まれてるといえど、記紀が編纂されたことは間違いなく史実。このようにアプローチしてきたかと感心した次第。
 そして、和月先生による神話の神々のカットがまた格好良くて…この辺りも漫画にしていただきたいほどであります。


 さて、元々「週刊マンガ日本史」は、ベテランから新鋭まで、実にバラエティに富んだ顔ぶれの漫画家が、一人ずつ、全五十人の歴史上の偉人を描くという企画でしたが、その続編企画である「週刊新マンガ日本史」は、新たに読者投票によるチョイスで、さらに五十人の偉人が登場することとなります。
 これがまた、偉人の顔ぶれ、そして漫画家の顔ぶれといい、俺得としかいいようのないチョイス(柳生宗矩なんて…ねえ)。これからも、折りに触れて取りあげていきたいと思います。


「週刊新日本史」第01号 「ヤマトタケル」(和月伸宏 朝日新聞出版) Amazon
新マンガ日本史 2010年 10/0号 [雑誌]


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コメント

おばんです!
新シリーズ第1号、傑作のようですね。
早速書店に走りたいと思います。

それにしましても、本当に「間髪入れず」なタイミングで驚きました。
新シリーズは読者からの人気投票ということで、
前シリーズのラインナップと比較すると
知名度はやや劣るものの、魅力的な人物が多いような気がします。
三田さまご指摘の通り、宗矩は…楽しみですね!
彼の人気が高かった理由もさることながら、
読者層のコアっぷりが気になるところです。

投稿: まるひげ | 2010.10.19 23:28

まるひげ様:
お返事遅くなってしまい申し訳ありません。

今回のラインナップ、(こんなに俺得で)本当にいいのかな、と思いつつ、本当に楽しみです。
また漫画家の方々の顔ぶれも、前回同様、ベテランと若手が入り交じって実に面白いですね…

誰が誰を描くのかも楽しみにしつつ、今後を待ちたいと思います

投稿: 三田主水 | 2010.11.02 23:41

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