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2010.10.28

「軒猿」第5巻 ひとまずの別れの時

 長尾景虎(上杉謙信)に仕える忍び衆・軒猿の活躍を描く「軒猿」――惜しくも掲載誌「月刊ヤングジャンプ」の休刊のため第一部完となった本作の、その第一部ラストまでが収録された第5巻であります。

 この巻の前半で描かれるのは、佐野昌綱が籠もる唐沢山城救出戦。
 第3巻から描かれ始めた景虎の関東侵攻――その際に、景虎方についたために北条氏政率いる大軍に包囲された唐沢山城を救うため、主人公・旭をはじめとする軒猿は、活動を開始します。

 その軒猿に同行するのは、景虎の秘蔵っ子たる河田長親ですが…物語の冒頭から登場しながらも、一貫して旭には厳しい態度をとり続けてきた彼の心中が、ここで描かれることとなります。

 貧乏武士の子として生まれ、誇りをすり減らしながら少年時代を送りながら、自分のあるべき場所に迷いと悩みを抱き続けていた長親が出会ったのが、己の命を託すに足る武士たる景虎。
 その誇りと思い入れが旭への反感であったことがわかりますが、しかし同時に、景虎に希望を与えられ、救われたという点で、長親も旭と同じ存在であることがわかります。

 戦国漫画、忍者漫画数ある中で、本作の特色・独自性を挙げるとすれば、それは一種の成長物語として構成されていることでしょう。
 生まれた時から己の意志を持つことを許されず、ただ周囲に流されるしかなかった少年が、信じるに足る主君と仲間に出会い、自己というものを確立していく。
 それが、イメージ的には――いや、作中で描かれる「現実」においても――非人間的に感じられる戦国時代の、それも忍びの世界を舞台にして描かれるのは、一見矛盾しているように思えるかもしれません。

 しかし、そんな極限の世界だから見いだせる絆も誇りもある。そんな本作の魅力は、最後までぶれなかったと感じます。


 さて、そんな旭と長親の絆が生んだ奇策により唐沢山城を救出した景虎(ちなみに史実では、この直後に佐野昌綱は離反して城に立てこもり、十度にわたって景虎の攻撃を退けるのですが…)
 そして本書の後半――というより本書の最終話では、その後の彼らの姿が、駆け足で描かれます。

 これは言うまでもなく、冒頭に述べた掲載誌休刊によるものですが、やはり実にもったいない。
 この後、景虎と北条氏康の小田原城を舞台とした対決、そして宿敵・武田信玄との川中島の戦が描かれたはずなのですから…

 特に(最終話で断片的に描かれた)川中島の戦では、幾度となく軒猿の前に立ち塞がってきた山本勘助との決戦、そしておそらくは――旭の背負った因縁である――武田側の耳疾しとの対決が描かれたと思われるだけに、残念でなりません。

 自分の居場所を見つけ、自分の頭で考え、自分の足で歩き始めた旭――その矢先に連載終了というのは、いささか残酷な結末と言うほかありませんが…いつかまた復活し、必ず完結させるという作者の言をここは信じるとしましょう。
 痛みも哀しみも、全てを受け入れ、軒猿を背負って立つ旭の姿を見届けるために――

「軒猿」第5巻(藪口黒子 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon


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