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2010.10.31

11月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 いきなりガタンと気温も下がり、秋を通り越して冬になった気分ですが、寒いはずですもう11月。考えてみれば今年もあと二月…色々と考えさせられますが、それは置いておいて時代伝奇に浸りましょう。11月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります(敬称略)。

 文庫新刊については、目につくのはほとんどシリーズものの新刊。いよいよクライマックスも近いと思われる風野真知雄「若さま同心徳川竜之助 12 双竜伝説(仮)」、シリーズの方向性が気になる大久保智弘の御庭番宰領シリーズ第6巻、今回も伝奇的アイディアに期待の早見俊「浪花の江戸っ子与力事件簿 3 抜け荷の宴」、今回は読本も一緒に文庫化の畠中恵の「しゃばけ」シリーズ「いっちばん」などなど、なかなかのラインナップであります。

 しかし個人的に最も気になるのは、謎の覆面作家・片倉出雲の「勝負鷹 金座破り」。前作「強奪三千両」が大好評で迎えられただけに、今回も大いに期待してしまいます。

 また、ライトノベルでは渡航「あやかしがたり 4」が登場。シリーズ最終巻とのことですが、大丈夫、この後は「あやかしがたりベストウィッシュ」が始まりますから(って作者ご自身が言ってたんだもん)。
 そしてもう一つ見逃せないのは、三田村信行「風の陰陽師」がポプラ文庫ピュアフルから刊行開始されることでしょう。児童文学の枠に収まらない、安倍晴明ものの佳品であります。

 そして、快調刊行中の角川文庫山田風太郎ベストコレクションからは、岡本喜八が映画化を望んでいたことでも知られる「幻燈辻馬車」、そしてエッセイ集「風眼抄」が登場。「風眼抄」に収録されている「伝奇小説の曲芸」は、伝奇ファン必読!

 も一つこちらは単行本、先月発売予定になっていたのが延期となった荒山徹「友を選ばば」(旧題「友を選ばば柳生十兵衛」)も本当に本当に楽しみです。


 さて、漫画の方。新登場で注目なのは、最近の「コミック乱ツインズ」誌では珍しいバリバリの伝奇ものである岡村賢二「柳生無頼剣 鬼神の太刀」くらいでしょうか。

 しかし続刊の方はかなりのラインナップ。先日「惑星のさみだれ」も完結したばかりの水上悟志「戦国妖狐」5、ある意味ドラマ化の最大の成果はこれではないかという気もする黒乃奈々絵「PEACE MAKER鐡」6、なんだかんだ言って期待してます横島一のクトゥルー時代劇「伴天連XX」2などは注目でしょう。

 そしてシリーズ完結の作品としては、忍者青春活劇の佳品となったかねた丸「裏宗家四代目服部半蔵花録」7、雑誌休刊により無念の完結「蝶獣戯譚」2、これでようやく明治十九年編も…?の高田裕三「九十九眠るしずめ」文庫版4に期待しましょう。


 最後にゲームについては、ブームギリギリといった感がありますが、コーエーテクモゲームスのニンテンドーDS用ソフト「維新の嵐 疾風龍馬伝」が発売されます。
 スペースキー連打で説得の前作(ずいぶん前ですが…)とはうって変わったキャラクターもののADVという印象がありますが、さてどうでしょうか?


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2010.10.30

「女子読み「水滸伝」」 男子マニアも納得の水滸伝本!

 最近、「乙女」や「女子」がついた本が、結構な数出ていることに気づきます。個人的には縁のない世界だと思っていたのですが、その中に「水滸伝」本が登場したとあれば話は別。
 というわけで、当方男子ですが、「女子読み「水滸伝」」を読みました。

 そもそも、女性が「水滸伝」を読むのか…? という(ある意味失礼な)疑問を持たれる方がいるかもしれませんが、「水滸伝」ファン…と言わないまでも、「水滸伝」に興味を持つ方は決して少なくないのではないか…と思っております。

 というのも、北方水滸伝には女性ファンが結構な数存在している印象がありますし、「幻想水滸伝」などは女性ファンが中心(幻水は「水滸伝」じゃない! とおっしゃる方もいるかと思いますが、少なくともこれをプレイすれば原典になにがしかの興味を抱くでしょう)。
 そう、「水滸伝」は別に男性だけのものではないのです。

 しかし、興味を持ったからといって、原典が取っつきやすいものかといえば、それは微妙なわけで――原典は結構な分量ですし、研究書は専門的なものが主体。折角興味を持っても、およそアクセスしにくい作品であることは間違いありません。
 と、前説が長くなりましたが、このような状況下において、本書が登場する必然性と意義があるのでしょう。

 本書は、そんな女性層をターゲットにしたと思われる「水滸伝」概説本。
 林冲の妻・張氏と「金瓶梅」でもお馴染みの潘金蓮の二人の女性によるガールズトーク(!)を中心に、原典のあらすじ、人物紹介、その他雑学的知識の大きく分けて三部構成となっています。

 原典では貞淑と淫奔という、両極端に描写された二人ですが、どちらも妙齢の女性。この二人による「水滸伝」トークは、内容的には紹介半分ツッコミ半分といったところですが、しかしいい意味で肩に力の入っていないスタイルは、入門者には接しやすいものだと思いますし、既にそれなりの知識を持ったファンにとっても、色々な意味で刺激的であります。

 特に面白いのは、本書の大半を占める人物紹介でしょう。
 梁山泊の百八星+α、原典に登場する主だったキャラクターの紹介というのは別に珍しくない企画――というより最近の水滸伝本はこれがメイン――ですが、紹介に当たっての分類が実にユニークなのです。

 その分類とは、「イケメン」「軍人」「ワイルド」「やんちゃ」「ハイスペック」「職人」「中間管理職」「空気」「ジョーカー」――
 いやはや、私もここしばらく日本で商業出版された水滸伝本は大抵読んでいるつもりですが、これほど独創的な分類は見たことがありません(まあ、各人がどの分類に属するかには異論はありますが、それはまあ主観的なものということで…)

 しかし、梁山泊での職位職種や出自等で分類するのに比べ、本書のいわば「属性」でキャラクターを分類するという試みは、「水滸伝」のような非常に多くのキャラクターが、それも一つ所に集結する物語には存外似合っているように思えます。
 そして個人的に感心させられたのは「やんちゃ」という分類。これは男性目線では絶対に出てこないものであり――そして言われてみればなるほど納得の着眼点であります。


 さて、本書が「女子読み」、入門者向けを標榜しながらも、私のようなおっさんファンが読んでも非常に面白いのは、実にこのような視点の妙であります。

 女性向けだから女性に語らせるというのは、安易に感じられるかも知れませんが、しかし男性原理で動く「水滸伝」を女性目線で語るというのは、作品世界を俯瞰的に眺めるという試みに他なりません。
 しかもその視点は、全く対照的な性格の――それでいて共に作中の男性原理の犠牲者である――二人のトークという形式で、より鮮明になっていると感じられます。

 いわば原典に対するオルタナティブな視点を提供している…というのは大袈裟すぎるかもしれませんが、個人的にはこの点に、大いに感心した次第です。


 ツッコミ満載のガールズトークで、入門者にも「水滸伝」を楽しみ、親しんでもらう――その目的を十分以上に果たしていると同時に、原典への新たな視点(の可能性)も感じさせてくれる本書。
 タイトルとは裏腹に、水滸伝ファンであれば、老若男女を問わず読んでみて損はない一冊です。


 まあ、それはそれとして、あやまれ! 董平と杜興にあやまれ! …とは思うわけですがっ

「女子読み「水滸伝」」(秋山久生 三五館) Amazon
女子読み「水滸伝」


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2010.10.29

「佐和山物語 桜色の時はめぐり」 そして二人同じ時間を

 鳥居元忠の孫娘・あこと、井伊直継の時を越えた純愛を描く「佐和山物語」の最終巻が刊行されました。
 時を渡って佐和山に現れたあこを巡る物語は前の巻で完結し、本書は短編集ということでしたので、軽い番外編を予想してきましたが…いやいや、それは考え違いでした。

 確かに本書には、これまで雑誌等で発表されてきた主人公二人以外に光りを当てた短編も収録されていますが、しかし本書の中心となるのは、あとは婚礼のみと思われた主人公カップルを襲った一大波乱を描く中編であります。

 この中編「空蝉の君」のあらすじを、角川書店のサイト等で見てみると――

 戦国の世が終わり間もない時代。時を超えた恋を成就させた大名家の姫あこと、許婚の井伊直継。平和が訪れたのもつかの間、あこは自分のひと言が原因で、実家に戻されてしまう。さらに、幼なじみの小一郎の許嫁にされてしまい!?

 と、いかにも少女小説的なノリで書かれていますが、実際の作品は相当に重い。
 それというのも、あこのひと言というのが、これから豊臣家を攻めようと圧力を強める徳川家康への指弾の言葉だったこと――
 彼女が、時代の流れによるものとはいえ、豊臣方と縁ある者であったことが、彼女の孤独な生い立ちと繋がり、彼女の人格形成に影響を与えてきたことは、これまでのシリーズで繰り返し描かれてきましたが、それがここに来て爆発するとは…

 さらに悪いことに、その当時、井伊家はお家騒動の真っ最中(ちなみにその背後で糸を引いていたのが今回出番少な目の三成・吉継の亡霊コンビ)。
 それに不信感を抱いたあこの父によりあこは実家に連れ帰られ、婚約解消。しかも新しい嫁入り先として定められたのは、幼なじみであり、密かに彼女を慕ってきた小一郎で…

 と、ここに来てシリーズ最大の危機が! いやもう時渡りとか三成の亡霊とか(いや、上記の通りきっかけは作っているのですが)関係なしに、あまりにも現実的な…しかしそれだけに深刻な危機であります。
 武家の面子などというものまで絡んできますし…

 ここでグッとクローズアップされるのは、小一郎の存在。幼なじみとしてあこを見守り、密かに愛してきながらも、しかし今は鳥居家の家老として、お家のために彼女の嫁入りを喜ばなくてはならない――
 そんな悲恋が一転、あこが自分のもとにやってくることになったら…喜びと困惑と、その他様々な想いが入り交じった彼の切ない心は、本書の見所の一つであります。


 しかし――言いにくいことながら、今回も構成・内容に難あり、という印象が強くあります。
 それはこのエピソードの重要な背景であるあこの発言、そして井伊家のお家騒動双方の描写が、読み飛ばしたかと思うくらいサラッとしか触れられていないことが最大の理由であります。

 特にあこの発言――徳川家の、豊臣家からの政権簒奪の指弾――は、これまでの物語でほとんど触れられていなかったと感じられるものだけに、違和感が強くあります。

 もちろんこの辺りを題材として物語を構築していこうという試みは、時代ものとしてまことに正しい目線であり、また作者の律儀さも強く感じさせられるものですが…


 が、そんな印象の一方で、今回もまた私は、本作を、本シリーズの完結編として美しいと感じてしまうのです。
 これまで文字通り違う時間を生きてきた二人が、これから先、同じ時間を歩んでいく…
 それも、単に様々な困難を乗り越えただけでなく、それに伴う痛みや哀しみ――本作の小一郎の想いはその最たるものでしょう――の存在を知り、受け入れた上で。

 単なる甘々の恋愛ものではなく、生きていく上でやむなく背負ってしまうもの――しかもその時代背景に立脚したもの――から逃げることなく向き合った上で成立する物語を、私は大いに是と評価したいと思います。


 作者の次回作については全くわかりませんが、なろうことなら時代ものを書いていただきたい、本シリーズで垣間見せてくれたものをさらに先鋭化させたものを見たい…
 想定読者層から大きく外れた人間が言うのもなんですが、これが今の正直な気持ちであります。

「佐和山物語 桜色の時はめぐり」(九月文 角川ビーンズ文庫) Amazon
佐和山物語  桜色の時はめぐり (角川ビーンズ文庫)


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 「佐和山物語 あやかし屋敷で婚礼を」 因縁の地に挑むカップル
 「佐和山物語 あやしの文と恋嵐」 彼女の因縁、心の傷
 「佐和山物語 結びの水と誓いの儀式」 想う心が呼ぶ悲劇
 「佐和山物語 君と別れのくちづけを」 希望に繋がる別れという道
 「佐和山物語 時の花嫁とはじまりの歌」 美しき時渡りの結末

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2010.10.28

「軒猿」第5巻 ひとまずの別れの時

 長尾景虎(上杉謙信)に仕える忍び衆・軒猿の活躍を描く「軒猿」――惜しくも掲載誌「月刊ヤングジャンプ」の休刊のため第一部完となった本作の、その第一部ラストまでが収録された第5巻であります。

 この巻の前半で描かれるのは、佐野昌綱が籠もる唐沢山城救出戦。
 第3巻から描かれ始めた景虎の関東侵攻――その際に、景虎方についたために北条氏政率いる大軍に包囲された唐沢山城を救うため、主人公・旭をはじめとする軒猿は、活動を開始します。

 その軒猿に同行するのは、景虎の秘蔵っ子たる河田長親ですが…物語の冒頭から登場しながらも、一貫して旭には厳しい態度をとり続けてきた彼の心中が、ここで描かれることとなります。

 貧乏武士の子として生まれ、誇りをすり減らしながら少年時代を送りながら、自分のあるべき場所に迷いと悩みを抱き続けていた長親が出会ったのが、己の命を託すに足る武士たる景虎。
 その誇りと思い入れが旭への反感であったことがわかりますが、しかし同時に、景虎に希望を与えられ、救われたという点で、長親も旭と同じ存在であることがわかります。

 戦国漫画、忍者漫画数ある中で、本作の特色・独自性を挙げるとすれば、それは一種の成長物語として構成されていることでしょう。
 生まれた時から己の意志を持つことを許されず、ただ周囲に流されるしかなかった少年が、信じるに足る主君と仲間に出会い、自己というものを確立していく。
 それが、イメージ的には――いや、作中で描かれる「現実」においても――非人間的に感じられる戦国時代の、それも忍びの世界を舞台にして描かれるのは、一見矛盾しているように思えるかもしれません。

 しかし、そんな極限の世界だから見いだせる絆も誇りもある。そんな本作の魅力は、最後までぶれなかったと感じます。


 さて、そんな旭と長親の絆が生んだ奇策により唐沢山城を救出した景虎(ちなみに史実では、この直後に佐野昌綱は離反して城に立てこもり、十度にわたって景虎の攻撃を退けるのですが…)
 そして本書の後半――というより本書の最終話では、その後の彼らの姿が、駆け足で描かれます。

 これは言うまでもなく、冒頭に述べた掲載誌休刊によるものですが、やはり実にもったいない。
 この後、景虎と北条氏康の小田原城を舞台とした対決、そして宿敵・武田信玄との川中島の戦が描かれたはずなのですから…

 特に(最終話で断片的に描かれた)川中島の戦では、幾度となく軒猿の前に立ち塞がってきた山本勘助との決戦、そしておそらくは――旭の背負った因縁である――武田側の耳疾しとの対決が描かれたと思われるだけに、残念でなりません。

 自分の居場所を見つけ、自分の頭で考え、自分の足で歩き始めた旭――その矢先に連載終了というのは、いささか残酷な結末と言うほかありませんが…いつかまた復活し、必ず完結させるという作者の言をここは信じるとしましょう。
 痛みも哀しみも、全てを受け入れ、軒猿を背負って立つ旭の姿を見届けるために――

「軒猿」第5巻(藪口黒子 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon


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 「軒猿」第1巻 道具を超えて…?
 「軒猿」第2巻 痛みの先にあるものは
 「軒猿」第3巻 三つ巴の戦いの中で
 「軒猿」第4巻 封印された過去を超えて

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2010.10.27

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第18話「恐怖のチェスゲーム!!」

 紅秘帖を取り戻すため、犬の源太を使って幻妖斎の後を追う青影と繭姫。その前に現れた夜叉王との戦いに駆けつけた赤影だが、そこに現れた魔童子は幻妖斎の命として赤影を幻魔城に招く。既に秘帖の謎を解いた幻妖斎は赤影を仲間に誘うが、赤影はこれを拒絶。落とし穴に落とされ、巨大なチェス盤の上で駒と戦った赤影は、かろうじて城を脱出する。しかし、彼らが一瞬目を離した間に、幻魔城は忽然と消え去っていたのだった。

 私は今まで本放送時の録画を元にアニメ版赤影の記事を書いてきたわけですが、ハタと困ってしまったのがこの第18話の存在。
 いかなる理由か(放送スケジュールが理由ではと想像しますが)この回はTV未放映だったため、手元に録画がなかったのです。

 しかし伝奇の神様のお導きか、しばらく中止となっていたアニメ赤影のネット配信が、直前になって復活。おかげで今回、無事見ることができたのでした。

 さて、そんな今回、未放映ですから埋め草的なお話かと思えばさにあらず。
 紅秘帖の謎解きに幻妖斎と赤影の対面、さらに幻魔城に秘められた謎の一端が描かれる、なかなかに重要なお話であります。

 前回、奮闘空しく半分に裂けた紅秘帖の一方を奪われてしまった赤影たち。幻妖斎の手にあった半分と合わせて、これで秘帖は全て幻妖斎の手に渡ったことになります。

 その秘帖に記されていたのは、「紅しずむとき 龍より出し 黄金の剣もて 天下に戦ふべし」という文言と、謎の絵図面。
 紅とは平家の旗印、つまり平家が滅亡した時にこの財宝を使って平家を再興しようとしたのだろうと推理する幻妖斎ですが、しかし秘帖には更なる秘密が隠されていました。

 ここで謎解きに出てきたのは、幻魔城で幻妖斎に仕える怪しげな南蛮人科学者ペドロ。
 「紅しずむとき」に注目した彼が、絵図面を赤いフィルター越しで見てみると…余計な赤い描線が消えて、そこに現れたのは黄金の剣に巻き付いた龍の絵。
 財宝が眠るのは、かねてより埋蔵金伝説が囁かれる剣山、そして龍とは瀧の意。つまり剣山の瀧の中に財宝が…

 一方、青影は犬の源太に、前回死んだ闇天竺のメトロノームの臭いを嗅がせ、幻魔城の在処を探ろうとします。
 意外と単純な作戦ですが見事に狙いは当たり、青影たちを阻むために夜叉王が出現。
 夜叉王の「乱れ手裏剣風車の舞」(ルックスは中国武将なのに使う技は日本風)で樹に縫いつけられてしまった青影を助けに現れた赤影ですが…しかしそこで意外にも赤影は幻魔城に招かれるのでした

 真っ正面からその誘いに乗った赤影を待っていたのは、既に財宝を手に入れた気になっている幻妖斎。
 手に入れた財宝で南蛮から武器を買いつけ、天下取りを目論む幻妖斎は、赤影を片腕として迎えようとするのですが――もちろん赤影はこれを断ります。

 ではお前は何のため戦うのだと聞かれ、赤影がためらいなく「正義のため」と答えてしまうのにはちょっと驚きましたが、これはこれでヒーローらしい。

 しかし足下がお留守だったか、落とし穴に落とされた赤影は、巨大なチェス盤の上で、人間より巨大なチェスの駒に襲われます。
 しかしこの駒、別にチェスのルールに準じた動きをするわけではないので、別にチェスでなくてもいいような気がするのですが…

 というのはさておき、体を高速回転させる飛騨忍法「真空つむじ風」で一気に駒を吹き飛ばす赤影ですが、駒に爆薬が仕掛けてあったため、辺り一面大爆発。

 必死に外に向かって走った赤影は、折良く凧で駆けつけた白影に助けられるのでした。
 そして、まだ源太で追跡していた青影と繭姫も幻魔城に到着。
 これでは赤影をわざわざ招いた幻妖斎が馬鹿みたいでは…と思いきや、いきなり消えていた幻魔城!

 どうやら、何かのからくりで城ごと移動しているようですが…赤影が城の中で目撃した巨大な大筒も含め、幻魔城にはまだまだ秘密が隠されているようであります。


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 「仮面の忍者赤影」アニメ版 放映リスト&キャラクター紹介

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2010.10.26

「ご存じ遠山桜 ふたり金四郎大暴れ!」 開幕、鳴海講談!

 桜吹雪の彫り物を背負った遊び人の金次と、北町奉行・遠山金四郎。生まれも育ちも身分も違う二人は、しかし瓜二つの顔だった。ひょんなことから意気投合し、兄弟盃を交わした二人は、一晩だけの約束で入れ替わる。が、それぞれ入れ替わった先で事件に遭遇した二人は、力を合わせ鳥居耀蔵に挑むことに。

 鳴海丈先生の新刊「ご存じ遠山桜 二人金四郎」であります。
 仮題の段階では「艶色講談」の角書がついていたように記憶していますが、「艶色」はまあいつものこととして、今回は「講談」。 どうやらこれから講談のヒーローたちを鳴海先生流の解釈で描いていく、その第一弾が本作のようです。

 さて、その本作は、タイトルにあるとおり、二人の金さんの物語。
 遠山の金さんといえば、時代劇や講談に興味のない方でもまずご存じだと思いますが、実像に比べ、虚像が一人歩きしている印象も強い人物であります。

 その最たるものが、あの、金さんのトレードマークと言うべき桜吹雪の彫り物でしょう。この点については、その有無から大きさ、柄に至るまで諸説紛々ですが、本作の解釈は実に明快――
 遠山金四郎は彫り物をしていなかった! しかし彫り物をしたもう一人の金さんがいた! …これであります。

 一人目の金さん、遠山金四郎は北町奉行。庶民の暮らしを慈しみ、天保の改革の行き過ぎに心を痛めつつも、幕府の官吏として孤独に戦う好漢であります。
 もう一人の金さん、遊び人の金次は、三度の飯より喧嘩好きという暴れん坊。しかし決して人の道は外さず、困った者を見過ごしにできない、これまた好漢です。

 この二人が出会って意気投合、瓜二つとくれば…というわけで(?)入れ替わることになるのですが(その理由がまた、男としては別の意味でグッとくるのです)、もちろんただで済むわけがない。
 たった一晩のはずが、金四郎は、金次の長屋の娘・お咲をさらった一味を追う途中、反撃を受けて川落ち、行方不明に。一方、戻れなくなった金次の方は、本物に代わって将軍の御前でお裁きをする羽目に…

 と、これはまだまだ二人の冒険の序の口。この後二人は、それぞれの立場から、金四郎の宿敵である天保の妖怪――そう、鳥居耀蔵の悪事に挑むことになります。
 最近は時代ものでの扱いは悪役一辺倒というわけでもないように感じられる鳥居様ですが、本作では徹頭徹尾の腐れ外道。

 色欲財欲権勢欲、とにかく人間の悪いところを集めたような悪人として描かれており、この辺り個人的にはちょっと不満ではあるのですが、まあ良しとしましょう。
 そう、本作はあくまでも正義が勝ち、悪が滅びる勧善懲悪、講談の世界。
 話の深みやリアリティといった点では食い足りない部分があるやもしれませんが、しかしそれよりもエンターテイメントを優先する立場は、大いに正しいと感じます。

 そしてまた――そんな世界だからこそ、描けるものもあります。
 必ず正義が勝つとはとても言い切れない世の中。それどころか、拠り所にするべき法の権威すら信じられない現実…そんな中で、法の正義を体現し、悪を滅ぼす、そんなヒーローが小説の中くらいいても良いではありませんか。
(それにしても、作中で金四郎が挙げる、冤罪があってはならない理由三箇条はタイミングが良すぎます)
 そしてそこに、鳴海先生が現代に講談を甦らせようという意図もあるのでしょう。


 …などと小理屈を述べましたが、実のところ本作は、まさに理屈抜きの痛快作。
 何よりも、金四郎と金次の、身分や立場の違いを超えた熱い熱い男の友情と、それが結実して炸裂する、まさに「ご存じ遠山桜」を逆手に取ったクライマックスは、痛快の一言であります。

 今後も予定されているという鳴海講談も、期待して良さそうであります。


 そういえば細谷正充氏の解説で、二人金四郎ネタである高木彬光先生の「素浪人奉行」シリーズが挙げられていなかったのは…マイナーだからでしょうね、やっぱり。


「ご存じ遠山桜 ふたり金四郎大暴れ!」(鳴海丈 光文社文庫) Amazon
ご存じ遠山桜―ふたり金四郎大暴れ! (光文社時代小説家文庫)

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2010.10.25

「いかさま博覧亭」 帰ってきたあいつら!

 先日惜しくも全五巻で完結した「怪異いかさま博覧亭」が帰ってきました!
 現在プレ創刊号が配信されているwebコミック誌「電撃コミックジャパン」に、「いかさま博覧亭」と題名を変えての復活であります。

 「怪異」の字を落として「いかさま博覧亭」となった本作ですが、内容や登場人物の方は全く変わらず、以前のまま。
 江戸は両国の見世物小屋・博覧亭を舞台に、小屋の若き主人で妖怪馬鹿の榊、しっかり者の番頭格の算盤小僧・柏、天真爛漫なろくろ首の蓬、へたれの巨乳くノ一・八手、そして榊の幼なじみで酒好きの貧乳絵師・蓮花といった面々がドタバタ騒動を繰り広げるコメディであります。

 前作の連載終了久しぶりの登場となった今回のエピソードですが、上で述べたとおり、内容的…というかノリ的には全く以前と変わりません。
 「怪異」の二文字は落ちたものの――冒頭でそれをネタにしたメタな…ちょっとブラックなギャグが入っているのもおかしい――しっかり怪異ありちょっぴり人情(?)ありの面白イイ話は健在であります。

 今回は、かつて博覧亭の出し物だった生き人形にまつわるお話。
 生き人形と言っても稲川淳二の怪談ではなく、生きた人間に似せた張り子人形のことですが――作中ではサラッと流されましたが、この生き人形というのは、江戸後期ではメジャーな見世物の一つでした――博その人形が見つかるのと同時に、両国界隈で幽霊が目撃されてある怪談が…というストーリーであります。

 登場するのは、榊・柏・蓬・八手・蓮花の初期メンバーのみ。
 物語を騒々しくする付喪神たちや四目屋の杉忠がいなかったせいか(?)、ちょっと地味な内容ではあったかもしれませんが、しかしいかにも「らしい」展開で、久々の面子との再会を楽しませていただきました。

 元々、内容的にもっと評価されてもいい作品だと思ってきましたが、この新連載(実質的には移籍?)を機に、榊と博覧亭の愉快な面々の活躍を、もっともっと多くの人が知ってくれれば…
 と、期待している次第です。


 ちなみに欄外の人物紹介、榊のところは「楽しいヤツらとかわいい妖怪たちに囲まれて生きている」と、実にわかりやすくもうらやましいことが書かれているのですが、蓮花の内容が(全く誤りが含まれていないだけに)本当に笑っちゃうくらいヒドい。
 果たして兄さんがヒロインに返り咲くことができるのか!? こちらも期待…かなあ。

 あと、地味に蛇姐さんがサービスサービス


「いかさま博覧亭」(小竹田貴弘 「電撃コミックジャパン」プレ創刊号掲載)


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2010.10.24

「みみらく遊撃隊 幕末幻島海戦記」 道楽四人組、秘境での冒険へ

 時は幕末、札差の隠居・久兵衛、旗本の次男坊・美津左衛門、岡っ引きの金三、欠けら屋の巳之吉の道楽四人組は、琉球の双子の巫女・ユーリとユーマと出会う。なりゆきから彼女たちを助けて幻の島・みみらくを目指すことになった四人組は、薩摩藩、幕府と三つ巴の死闘を繰り広げる羽目になるのだった。

 タイトルとあらすじを見たときから、これは! と大いに気になっていた祐光正の「みみらく遊撃隊」をようやく読むことができました。
 死んだ者と出会えるという伝説の島・みみらくを巡り、琉球・薩摩・幕府の三つ巴の争いを描く、一大伝奇活劇であります。

 時は江戸時代後期、薩摩では島津斉興と斉彬父子の間の暗闘が繰り広げられていた頃、幼い琉球王が突然マブイ魂を落としてしまったことから物語は始まります。
 幼いとはいえ、国の中心たる王を失っては一大事。琉球の玉川王子は、双子の巫女・ユーリとユーマとともに、江戸城中から、みみらくへの道しるべとなる秘宝を奪還し、伝説の島へ向かおうとするのですが…

 しかしその前に立ちふさがるのは、薩摩の兵道家(武士修験者)、反魂入道こと丹野源十郎(「南国太平記」で暗躍した牧仲太郎の背後にいたという設定!)。
 奇怪な蠱や死人たちを自在に操る魔人は、斉興と斉彬の間で暗躍しつつも、己自身の目的を秘めて、みみらくを目指します。
 さらに、その両者の争いからみみらくの存在を知った将軍家慶も、その力を得て真の将軍として君臨しようと、超実践派の大番組の強者たちを送り込むことに。

 剣と妖術入り乱れるこの三つ巴の争い、しかし台風の目となるのが、江戸の道楽四人組というのが、本作の最大の特色であり、痛快な点であります。
 札差の隠居で博覧強記の知恵者・久兵衛、旗本の次男坊で竹光剣法の達人、竹光左衛門こと美津左衛門、元凶状持ちで今はコワモテの岡っ引き・金三、科学捜査の名人で好奇心旺盛な青年・巳之吉――
 四人でつるんでは飲む・打つ・買う三昧のお気楽な連中が、偶然ユーリとユーマと出会ったことから、この壮大な争いに巻き込まれていくことになるのです。

 秘宝争奪戦に妖術・怪物の跳梁、およそ現実離れした内容に見える時代伝奇ものにおいて、そのリアリティを担保するのは、そんな非日常的な状況に巻き込まれ、常人感覚で事件に立ち向かう、地に足の着いたキャラの存在。
 それは角田喜久雄先生の諸作などで見られる、まさに時代伝奇の王道とも言うべき構造ですが、本作はまさにそれに則ったものと言うことができるでしょう。

 江戸から薩摩、琉球そしてみみらくへ…忍者に陰陽師、生ける死人、さらには禁断の恐るべき怪物たちが入り乱れる大活劇にして、時代(伝奇)小説でも珍しい秘境冒険ものである本作が、単なる絵空事に終わらないのは、この、暢気で頼もしい四人組の存在あってこそでしょう。


 しかし――そんな本作が、諸手を挙げて傑作と呼べる作品かと言えば、実はそうでないのが何とも残念なところであります。

 簡単にいえば、本作を構成する、実に様々な要素――みみらくを巡る伝説に奇怪な忍術妖術、虚実入り乱れる登場人物と、物語と絡み合う史実などなど――物語を彩るそれらが、実に盛りだくさんに盛り込まれすぎているが故に、一つ一つの印象が薄くなってしまっているのです。
 そのため、起伏に富んだ物語であるはずが――文体が比較的淡々としたものであることもあって――イベントを次々と消化しているという印象があります。

 キャラクターの方も、これだけ個性的な面子の中で、四人組の存在感が埋没していないのは立派ですが、しかし、ラストで竹光左衛門がある人物に対して語る彼らの行動原理が、他の勢力との対比であまりはっきりと見えてこなかったのは何とも勿体ない。

 あともう少し出来事や登場人物を整理して、余裕のある物語運びにしていれば…というのが正直なところであります。


 いささか辛口になってしまいましたが、今日では貴重な真っ正面からの時代伝奇小説であっただけに、十分に楽しませていただきつつも、何とももったいないというのが正直な気持ちであります。
 この先、小うるさいマニアの口を封じてくれるような、更なる快作をものしてくれることに期待します。

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2010.10.23

八犬伝特集その十二の七の二 「THE 八犬伝 新章」 第七話「厭離穢土」(その二)

 前回の続き、「THE八犬伝 新章」最終話「厭離穢土」であります。
 犬士たちの叫びが玉の光を呼んだのでしょうか。光の中に集った七犬士。そして信乃の腕の中にいるのは浜路…ではなく、玉梓!?

 彼女は問いかけます。「そなたたちは人として生まれたのか」と。
 それに応えるように映し出されるのは、七人がこれまで辿ってきた過去、過去に味わった苦しみの姿…
 それが何よりの答えだったのでしょう、玉梓は犬士たちを許したように「行くがよい、そなたたちの望むところへ」と告げます。

 そして親兵衛を加えて八つの光の玉は、網干=山下定包の未だ収まらぬ怨念が形となったように現れた巨大な犬の魔物を次々と引き裂き、打ち倒すのでありました。

 …が、それでもなお、争いは続きます。
 地上に帰還してなお、浜路を狙う親兵衛の前に立ち塞がったのは、両腕を失いながらも生きていた素藤。

 義実の偽善を笑い、義実も自分と変わらないと哄笑する素藤を斬った親兵衛の前に、七犬士が、丶大が立ちます。

 …そしてここで初めて親兵衛は、年相応の子供じみた泣き顔を見せます。
 何故みんな自分に従ってくれないのか。自分は正しいことをしているはずなのに、何故自分のすることを妨げるのか――
 年に似合わぬ冷静さから一転、だだをこねる子供そのものの声に変わる日高のり子氏の名演もあって、ここで否応なしに親兵衛というキャラの根本にあったものが浮き彫りになります。

 赤子から純粋培養(というより促成栽培)され、人としてではなく犬士として育った親兵衛。
 彼にとって、里見家を守ることが唯一の存在意義であり――そして他の犬士たちもそれと同じものと思いこんでいた。

 実は親兵衛と他の犬士たちを分かったものは、網干が犬士たちを苦しめるために味合わせた苦しみ多き運命だった、というのは何とも皮肉ですが…
 そして、それを理解できなかったのが、ある意味原作に最も忠実な存在であった親兵衛であったというのもまた、大いなる皮肉でしょう。

 そして、その親兵衛の嘆きを包み込むのは浜路…いや伏姫。親兵衛は、その腕の中で、彼の真の姿に――赤子に返っていくのでした。

 しかし、美しく終わったかに見えた物語には、さらなる残酷な結末が待ち受けます。
 その浜路に斬りかかったのは、なんと義実。そしてそれを止めるために飛び出し、その刃に斬られたのは、彼の子・義成――
 それは未だ残る定包の怨念の仕業でしょうか。いや、それこそが全ての争いを引き起こした義実の、人の業というものなのでしょう…


 それでも人は生きていきます。
 城は再建され、浜路は赤子の親兵衛(そして完全に耄碌した義実)とともに里見家再興に努めるのでしょう。

 しかし、彼女を置いて信乃は、七犬士は旅立ちます。
 信乃にとって、もはや己の手に帰ってきた村雨も、己を縛っていた枷にすぎないのでしょう。実質村雨を捨てた彼の顔に浮かぶ泣き笑いは、悲しみのそれではありません。


 …と、ここで終わっても良かったと思うのですが、そこに、赤子に返ったはずの親兵衛が再登場(ここで皆が一斉に臨戦態勢を取るのが仕方ないとはいえ可笑しい)。
 しかし親兵衛は、己の玉を投げ捨てます。それを追うように、七犬士の玉も空の彼方に…

 今こそ初めて、犬士たちは、いや八人は、定めから解き放たれて歩き出したのでしょう。それが彼らにとって幸せなのかはわかりません。しかし…

 何はともあれ「THE八犬伝」もこれにて完結。
 また別途、全体を通しての感想を書くかもしれませんが、今はとりあえず、「南総里見八犬伝」の大胆な、そして真摯な解釈に挑んだ方々に敬意を表しつつ終わりたいと思います。


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2010.10.22

八犬伝特集その十二の七の一 「THE 八犬伝 新章」 第七話「厭離穢土」(その一)

 浜路を追って滝田城に突入した信乃と道節。城に火薬を仕掛けていた親兵衛は、素藤を滅ぼすため信乃たちもろとも城を爆破せんとする。親兵衛を止め、城に潜入する犬士たち。しかし義実が火矢を放ち、犬士たちもろとも城は崩壊を始める。その中で玉の光りに包まれた犬士たちは、巨大な魔物と化した網干を討ち、生還する。数々の犠牲を払い、戦いは終わった。玉を天に返し、定めを変えるために犬士たちは旅に出るのだった。(完)

 いよいよ「THE八犬伝」もこれで完結。最終話は全編これ見せ場、上記のあらすじはほんの上澄みでしかありません。

 赤い橋を渡り、里見義実の滝田城に入った網干と浜路、素藤を追い、城に潜入した信乃と道節。
 道節は信乃を先に行かせて敵をくい止め、信乃は素藤と対峙します。
 その直前、正気に返った浜路に再び玉梓を憑かせようとする(浜路の変貌はそういうことだったのですね)網干を斬った素藤。彼はある意味、本作で最も自分の意志で生きる存在かも知れません。

 しかしこの時あるを予想していたのか、城中に火薬を仕掛けていた親兵衛(とんでもない奴だな…)。
 素藤を城もろとも爆破しようとする親兵衛の頭にあるのは、「里見に仇なす者を滅ぼす」その一事のみ…

 八犬士は里見のために生き、里見のために死ぬと語る親兵衛。
 それは彼らの出生を考えればそうなのかもしれませんが、しかし実のところ、彼らのこれまでの人生においては、里見は縁なき地、今ここで戦っているのも、なりゆきに過ぎません。

 信乃に対し、その点を突く素藤の言葉も、一定の説得力を持っていると言えます。
 しかし、それに対し、浜路のために戦うと答えた信乃――それは里見の犬士ではなく、一個の人間としての叫びであります。

 さて、荘助らの必死の訴えに、暫時の猶予を与えた親兵衛。荘助・現八・大角は抜け道から城に突入しますが、よほどこらえ性がないのか、また親兵衛は火矢を放とうとします。
 それを阻むのは、小文吾、そしてそれまで親兵衛に従っていた毛野…妹・浜路の命を重んじる里見義成も加わり、三人と親兵衛が激突するかに見えたとき…

 城に打ち込まれる火矢。それは、義実が放ったものでした。
 親兵衛が城を爆破すると語った、さすがに驚いていた義実。しかしそれは城を失うことへの衝撃であり、浜路を失うことは、既に彼にとっては考慮の外でありました。
 その彼が、素藤を、自分の敵を滅ぼすためには手段を選ばなくなった――かつて娘と引き替えに犬に敵の死を願ったのと同様に――その果ての火矢なのでしょう。

 そして大爆発を起こし、崩壊していく城に、しかし小文吾、さらに毛野は仲間たちを追って走ります(「お前まで犬死にする気か」と止める親兵衛に「私たちは里見の犬とやらではなかったのですか」と言い放つ毛野さんが素敵)

 そして大混乱の中、ボロボロになった櫓にかろうじて捕まっていた信乃と素藤。しかし、素藤は浜路を信乃に任せ、地下に落ちていきます。
 素藤がここで何故そんな行動を取ったか――それは、言うまでもありますまい。
 本作の中で数少ない、自らの役割を知りつつも、それに明確に逆らって見せた男ならではの想いが、そこにはあります。

 それでもなお、城の崩壊は続きます。城を包む赤い光に七犬士が、丶大が巻き込まれていく中、義実の、網干の哄笑が響き渡るのですが――

 非常に長くなったので次回に続きます。



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2010.10.21

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第9巻 そして新たなる時代へ

 「義風堂々 直江兼続 前田慶次月語り」のひとまずの最終巻、第9巻であります。
 「コミックバンチ」誌休刊に伴い、かなり慌ただしく第一幕・越後統一編(そもそもそんな名前だったのか! と吃驚)が終了した印象でしたが、しかし本書の内容的には、むしろ余裕のある構成となっているのが面白いところです。

 本書は、上杉家が秀吉の膝下に入ったことから京に出てきた兼続が出会った事件の数々を描いた、短編集的な印象。
 そしてそこに登場するのも、千利休、服部半蔵、真田信繁(幸村)と多士済々であります。

 千利休は秀吉の懐刀として、新しい時代の価値観を兼続に語る役所(茶器の値を例に、貨幣経済のなんたるかを語るのが面白い)。
 一方、服部半蔵は、徳川方の刺客として配下に兼続を狙わせます。

 そして信繁は大大名に翻弄されて転々と人質とされる我が身に不満を抱き、ある目的のために兼続の前に現れ…

 ある者は味方、またある者は敵、まことに様々でありますが、彼らと兼続の関わりを通じて、兼続だけでなく、彼らのキャラクターも掘り下げられていくのが興味深いところであります。

 特に、意外に人質時代の物語が描かれることが少ない信繁の心情を、当時の真田家の立ち位置、そして上杉家のそれと絡めて描き、さらにそこから景勝のキャラクターも浮かび上がらせてみせるのには、ちょっと感心させられました。
(ちなみに「花の慶次」の幸村は、登場時点は長渕顔だったのですが、本作では別のデザインになっていて一安心)

 また、半蔵の配下が闘牛の牛を暴走させて兼続を襲った際に、兼続が傷を負った牛を止めて
「さむらいの太刀もおまえの角も同じだ 角をもって生まれたものは戦うために生まれてきたんだ さむらいなら戦いを汚されたら腹を立てる このいくさ加勢いたす!」
などと口上を挙げる場面は、かなり隆慶節が入っていて気に入っております。


 さて、そしてラストに描かれるのは、新発田重家との戦い。
 謙信の臣であり、御館の乱では景勝を支持しながらも、その後、恩賞への不満等から離反し、幾度となく景勝と兵を交えた重家。
 秀吉に臣従したことにより後顧の憂いがなくなった景勝は、ついに重家と決戦に臨むのですが…

 史実では、追い詰められた果てに敵のまっただ中で真一文字に腹を掻き切って死んだという重家。
 本作でもその最期は同じですが、彼が何故そのような死に様を見せたのか…いや、それ以前に彼が何故ここまで戦い続けたのか、その本作ならではの理由がクライマックスで描かれます。

 正直なところを言えば、最後の最後まで兼続の本当の父親ネタか! という印象はあるのですが、しかしそれも活かし方次第。
 ここでの使われ方は、日本中が新しい時代を迎えようとする中、そこに乗り遅れた者の哀しさと誇りを感じさせる、良いものであったと思います。


 しかし、まだまだ時代の動きは止まりません。さらに時代が変わりゆく中、兼続の向かう先は…新雑誌での続編を待つとします。

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第9巻(武村勇治&原哲夫&堀江信彦 新潮社バンチコミックス)
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義風堂々!!直江兼続前田慶次月語り 9 (BUNCH COMICS)


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2010.10.20

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第17話「死を呼ぶ異次元の怪奇!!」

 平賀一族の青年・平四郎は、繭姫の身を案じて飛び出したところを幻魔三人衆・夜叉王に捕らえられてしまう。闇天竺が平四郎にかけた催眠術が伝染した繭姫も捕らわれ、赤影たちは奪還に向かう。しかし青影、白影にも催眠術は伝染し、赤影は仲間たちに包囲されてしまう。幻影に苦しみながらも赤影が投じた手裏剣が闇天竺の眉間を貫き、正気に返る仲間たち。しかし紅秘帖は幻妖斎の手に渡ってしまったのだった。

 幻魔城編も今回で三回目、今回は残る三人衆の一人・夜叉王が登場します。
 中国風の鎧兜に得物は三つ叉矛と青竜刀、左腕にはヨーヨーのように使える楯を装備した夜叉丸は、見た目は三国志から抜け出してきた武将のようなキャラ。
 西洋騎士風の魔童子、印度人風の闇天竺と来て今度は中国武将風とは、幻妖斎の配下もワールドワイドになったものです。

 さて、この夜叉王の忍法影縫いの術(って和風!)に捕らえられたのは、幼い頃から繭姫に仕えて世話をしていたという平四郎。
 気は強そうですが、顔のデザインはわりかしどうでもいい感じのキャラです(しかし、声が魔童子と同じなので見ているが話はちょっと混乱…)

 さて、その平四郎に、催眠術をかけるのが、前回とは異なりマントを脱ぎ捨てて――前回ラストで逃走時に脱いだマントはそのままなのですね――もろにインド人風の外見を見せる闇天竺。
 しかしこの催眠術が相当に恐ろしいのです。

 この術、簡単に言えば伝染性催眠術といえましょうか――
 術をかけられた者の瞳を見た者も、また同様に術にかかり、またその瞳を見た者も…というこの術、忍者ものに登場する催眠術数あれど、その中でもかなり強力な部類に入るでしょう。

 ちなみにこの催眠術、かける際には、針の先に遮光器土偶がついたメトロノームという奇怪なアイテムを使うのですが、この遮光器土偶、目が開いて口からキバが生えてくるというイヤすぎるデザインなのも恐ろしい…

 さて、本当に役立たずの平四郎からこの催眠術を伝染された繭姫が連れ去られ、奪還に立ち上がる赤影たち。
 向かう先は前回も登場した闇天竺の南蛮魔術団のテント(ってちゃんと潰しておこうよ影一族)ですが、しかし、青影、そして白影に催眠術は伝染し、赤影はあっという間に仲間たちに包囲されてしまいます。
(このシーンだけやけに絵が綺麗だったのは、作監の谷口氏が画を描いたのかしら)

 さすがに簡単に催眠術をかけられることはないものの、幻覚の中で様々な気持ち悪い怪物に襲われる赤影。
 しかし、その中でも冷静に敵の位置を見抜いた彼の投じた手裏剣は、闇天竺の眉間を直撃! それと同時に仲間たちの術も解けるのでした。

 しかし時既に遅く、紅秘帖の片割れは夜叉王の手に渡り、助っ人に現れた魔童子の雷の太刀から発せられる雷光線(仮称)に、テントは焼き払われてしまいます。
(そしててっきり生きていると思ったら、本当に死んだらしくその炎の中に消える闇天竺。山ちゃん…)

 辛うじてテントから脱出したものの、紅秘帖はついに幻妖斎の手に…さて、平清盛の財宝は、幻妖斎に渡ってしまうのでしょうか!?

 まだ始まったばかりかと思いきや、一気に急展開の幻魔城編であります。


 ちなみに今回冒頭に登場した繭姫、寺の子供たちに自作の紙芝居を作って聞かせているのですが、その中で悪人に襲われるのが源之介、それを助けに現れる正義のくノ一が自分、という設定が妙におかしくも可愛らしかったですね。


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2010.10.19

「死なない兵士」 アナザーテイル オブ…

 ボーア戦争の戦場で記憶を失っていた「俺」は、サミュエル青年に連れられ、イギリスの彼の屋敷を訪れる。そこで聞かされたのは、サミュエルの父・ダニエルがかつてクリミア戦争で出会った「死なない兵士」の物語だった…

 「異形コレクション」のテーマが「Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち」と聞いた時、まず期待したのは、編者である井上雅彦氏の序文でした。
 毎回のテーマに関連して、小説に留まらない広範でマニアックかつまことに正鵠を射た言及が行われているあの序文で、「エンバーミング THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN」について触れられるのではないか…その期待であります。

 しかし序文で私の期待は満たされることなく――しかし、それ以上の形で実現することとなりました。
 「エンバーミング」のストーリー協力、設定解説を行っている黒崎薫先生による短編「死なない兵士」が収録されていたのですから…!
(まず参加作家を確認しない私が悪いというのは、まあその通り)


 前置きが長くなりましたが、井上氏による作品解説において「アナザーテイル オブ エンバーミング」と評された本作は、しかし同時に「あの作品」のアナザーテイルでもあります。

 本作はボーア戦争の戦場から拾われた記憶喪失の「俺」を中心に展開される物語ですが、それと同時に重要な意味を持つのが、作中に挿入される形で語られる、クリミア戦争における死なない兵士の物語であります。

 スクタリの野戦病院に入院していた青年・ダニエルが、かのナイチンゲールから受けた特命――それは、病院の死亡率を上げ、さらにそこで生まれた死体を奪おうとする何者かから、病院を守るというものでした。

 名も知れぬ一人の兵士――無愛想なようでいて、不思議な知性の高さを感じさせる巨人――と共に警備を行うこととなったダニエルの前に現れたのは、死んだはずの戦友たち。
 人間離れした力と生命力を持つ死なない兵士との戦いを余儀なくされるダニエルを助ける巨人。しかし彼もまた…

 そして物語は今――1881年に戻り、再びダニエルたちの前に現れた死なない兵士たちとの戦いと、「俺」の正体が描かれるわけですが…


 正直なところ、その正体はすぐに予想はつきます。しかし、「彼」があの後に何を思ってそのような生き方をしていたのか…それを考えてみれば、何とも味わい深いものが感じられる点が実によろしい。

 そしてまた、もちろん「エンバーミング」との関連性が謳われているわけではありませんが、作中の死なない兵士たちの描写を見るに、やはりエンバーミング」と地続きの世界を感じてしまうのも事実であります。
 そうであるとすれば「彼」も…などと考えてしまうのは妄想ではありますが、やはりファンとしては期待してしまうのが、正直なところでしょう。


 個人的には、ダニエルが幾度か言及する「悪」について、作中で掘り下げて欲しかった感もありますが、物語の構成的にそれは難しかったかもしれません。
 何はともあれ、二つの作品のアナザーテイルとも言うべき本作をこうして読むことができたのは、ファンとして実に嬉しいこととではありませんか。

「死なない兵士」(黒崎薫  光文社文庫「異形コレクション Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち」所収)
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Fの肖像―フランケンシュタインの幻想たち 異形コレクション (光文社文庫)


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2010.10.18

「週刊新日本史」第01号 「ヤマトタケル」 新たなる偉人伝の始まり

 一年間かけて完結した朝日新聞出版の「週刊マンガ日本史」ですが、好評だったのでしょう、間髪入れず続編である「週刊新マンガ日本史」の刊行がスタートしました。
 その第一弾は、「るろうに剣心」「武装錬金」「エンバーミング」の和月伸宏先生が描く「ヤマトタケル」。これは取り上げざるを得ないでしょう。

 さて、新シリーズの口火を切ったヤマトタケルですが、歴史上というよりむしろ神話・伝説上の人物、半ば非実在英雄であります。それを取り上げるというのはまた思い切ったことを…と思わないでもありませんが、しかしこれがなかなか面白い。

 この和月版ヤマトタケルの物語は、ヤマトヲグナが九州のクマソタケル兄弟を討ち、彼らからタケルの名を継ぐ場面から始まります。
 やむにやまれぬ事情から兄を殺し、父・景行天皇から疎まれることとなったタケルは、大和に帰還して休む間もなく、今度は東征を命じられます。
 孤立無援のタケルに、唯一の味方である叔母・ヤマトヒメは神剣・草薙剣を与え、さらに一人の年若い巫女を伴わせます。

 タケルに真の名前を教えることを拒み、クシナダと名乗った彼女を伴い、タケルは東へ…
 血を好まずも、血で血を洗う戦いを余儀なくされるタケルは、クシナダとの語らいの中につかの間の安らぎを見出すのですが…

 と、より悲劇的でドラマチックな古事記ベースに展開される本作は、わずか28ページではありますが、記紀の描写を諸処に取り入れつつ、巧みにダイジェストして物語を展開していきます。

 そしてここで描かれるヤマトタケルは、単なる武に長けた勇猛果敢な英雄ではなく、優しさと知性――クシナダから、政治的な配慮ができると感心される場面が面白い――を持ち、それ故に苦しむ人物であります。
 父からは疎まれ、安住の地もなく放浪と戦いを定められた人物――この辺り、タケルをいかにもヒーロー然としたデザインにしつつも、疲れを背負った昏い瞳(和月読者であればお馴染みの)で、彼の二面性を浮かび上がらせる作者の腕が冴えます。

 もちろん、先に述べたようにヤマトタケルは半ば神話・伝説上の人物。それを歴史を冠したシリーズにおいて、このようにドラマチックに描くことには賛否があるかもしれません。
 しかしここでは、ヤマトタケルが戦う理由、そして彼の人間性を踏まえたドラマを展開することで、ヤマトタケルという英雄説話が形作られる背景に存在したであろう、朝廷のために戦い続けることを余儀なくされた者たちの姿を浮かび上がらせたのだと、私は受け止めました。

 そしてそれは同時に、彼らが生きた時代を描き出すことにも繋がることも、言うまでもありません。


 ちなみに本シリーズでは、漫画だけでなく、解説ページの充実ぶりも魅力なのですが、本書ではどうするのかしら…と思えば、ヤマトタケルに絡めて、記紀の成立や日本神話の紹介を行っているのが面白い。

 なるほど、記紀の内容には少なからずのフィクションが含まれてるといえど、記紀が編纂されたことは間違いなく史実。このようにアプローチしてきたかと感心した次第。
 そして、和月先生による神話の神々のカットがまた格好良くて…この辺りも漫画にしていただきたいほどであります。


 さて、元々「週刊マンガ日本史」は、ベテランから新鋭まで、実にバラエティに富んだ顔ぶれの漫画家が、一人ずつ、全五十人の歴史上の偉人を描くという企画でしたが、その続編企画である「週刊新マンガ日本史」は、新たに読者投票によるチョイスで、さらに五十人の偉人が登場することとなります。
 これがまた、偉人の顔ぶれ、そして漫画家の顔ぶれといい、俺得としかいいようのないチョイス(柳生宗矩なんて…ねえ)。これからも、折りに触れて取りあげていきたいと思います。


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新マンガ日本史 2010年 10/0号 [雑誌]


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2010.10.17

「麗島夢譚」第2巻 武蔵と伊織の間に

 江戸時代前期の台湾(麗島)を舞台に繰り広げられる時代活劇漫画「麗島夢譚」の第2巻が登場であります。
 海賊松浦党の青年・伊織を主人公に、生きていた天草四郎、紅毛忍び・ミカにに宮本武蔵、オランダ軍にスペイン軍が島原の乱終結直後の麗島で入り乱れて展開する本作、襲撃したオランダ船の中で四郎とミカに出会ったのをきっかけに、思わぬ争いの渦中に放り込まれた伊織は、流れ流れた末、オランダと敵対するスペイン軍に身を寄せることとなります。

 この第二巻は、彼が当時の麗島におけるスペインの拠点・鶏籠にたどり着くところから始まりますが、その司令官ミゲル・デ・レオンがまた怪人物。
 愛国心と軍人・戦闘者としての能力には素晴らしいものがあるようでいて、そのキャラクターはといえば、部下の提督が「エキセントリックで激しやすい」と評するのも納得の、猛烈に浮き沈みの激しい人物であります。
(こういう表現はいかがかと思いますが「ナポレオン 獅子の時代」に登場しても違和感がないというか…)

 一つ一つの言動(特に後者)が実にマンガチック…というか舞台チックで、見ていて飽きない御仁であります。
 本作は、良い意味で作者の肩の力が抜けていると言いましょうか…登場人物のバイタリティとそのマンガチックな表現がなかなか楽しいのですが、その意味では実に本作のキャラらしいキャラであります。

 ちなみに本書の帯に謳われている「東洋vs西洋 二刀流対決!!」とは、作中で行われるこのミゲルと武蔵との対決を指したもの。
 果たして帯に描くほどであるかは疑問ですが、しかし、本書のキモの一つであるのは間違いありません。

 さて、ここで触れた武蔵ですが、実はこの巻で物語からは退場。
 このミゲルとの対決を経て、「既に大いに得るものを得た」と、日本に――もう一人の「伊織」のもとへと帰っていくこととなります。

 正直に言って実に残念なことではありますが、しかしここで気付かされたのは、武蔵と伊織の違い。
 呉越同舟とはいえ、一時はともに異国で行動を共にしながらも、武蔵と伊織で決定的に異なるものは、目的と帰るべき場所の有無でありましょう。

 剣の道を究めるという目的の為に気儘に放浪しながらも、しかし最終的に腰を落ち着ける場所を持つ武蔵。
 一方、己の仲間たちを失い、流されるままに一人異国に取り残された伊織…

 さらに、島原の乱で自分の身以外全てを――己の信仰心すらその大半を――失い、もちろん帰れば死が待つのみの四郎も含め、両者の間には、大きすぎる違いがあることに今更ながらに気付いた次第です。
(「四郎殿もまた凡夫 生き神に非ず! 迷える一求道者」という武蔵の評が重い)

 この第2巻の後半で、伊織はあくまでも麗島に残り、スペイン軍に味方してオランダ軍と戦うことを決意します。
 それはこれまで同様、流れ流された結果のことではありますが、しかし、彼が自分自身で選んだ道に違いはありません。

 その決意が果たしてこの先どのように実を結ぶのか――
 それが楽しみであると同時に、未だ心の闇から抜け出せない四郎、そして彼を支えつつも、ある陰謀(これがまた時代伝奇ファンであれば、おおと膝を叩くもの)を胸に行動するミカ、彼らとの運命の交錯も、また気になるところであります。

 問題は、第3巻がいつ刊行されるかですが…

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2010.10.16

八犬伝特集その十二の六 「THE 八犬伝 新章」 第六話「欣求浄土」

 素藤討伐に向かう義実の軍に加わることになった八犬士。しかし素藤の築いた堰により、里見軍の大半は川の水に押し流されてしまう。親兵衛は逆に堰を爆破することにより、素藤の砦を潰す計を案じる。しかし浜路救出のため信乃と道節は砦に潜入し、堰の爆破を巡り、八犬士同士が対立する。争いの末、親兵衛が火薬に火を付けた時、網干の嘲笑が響く。空には、砦から滝田城に掛かる赤黒い橋の姿が浮かんでいた…

 いよいよ揃った八犬士。挑むは、山下定包の怨霊である網干を後ろ盾にした蟇田素藤であります。
 彼らにとっては霊的な祖父と言うべき里見義実とも目通りを済ませ、里見軍の一員として戦場に向かう八犬士ですが…

 しかし彼らの胸中は様々。親兵衛が無邪気に素藤討伐を口にする一方で、信乃と荘助にとっては、素藤にさらわれた浜路――実は義実の娘、浜路姫――が気にかかる。
 現八は浪人でなくなることを喜んでいますが、既に家を滅ぼされた経験を持つ故が道節はそれに冷笑的で…

 考えてみれば、玉と痣という共通点こそあれ、ほとんど流されるままに集められた彼ら。しかも、その半数以上は互いに初対面という状況であります。
 これで仲良く、しかもほとんど他人同然の里見家のために頑張れと言われても土台無理な話でしょう。

 しかしそんな彼らの中でもひときわ異彩を放つのが、親兵衛であるのは言うまでもありません。
 原作でもそうでしたが、知力体力ともに親兵衛の能力は反則級です(村雨を賭けた信乃との腕相撲勝負であっさり逆転勝ちしてしまういやらしさ!)。

 しかも性格は超生意気の上に、里見家のためという目的のためには手段を選ばないといいう有様。
 浜路が砦に囚われているにもかかわらず、河をせき止めた堰を爆破して、砦を押し流そうというのですから…

 しかし、後に小文吾が指摘するように、親兵衛のこの信念は、どこから生じたものなのか…伏姫に誘われて異界に消えた親兵衛ですが、そこで何があったか――そして伏姫は本当に里見の味方なのか、ということすら頭に浮かびます。

 そして、この砦を巡る八犬士それぞれの行動こそが、今回のハイライトとも言うべき部分であります。
 浜路を救うため、単身砦に乗り込む信乃。
 信乃を助ける…というより浜路のために彼に同行する道節。
 彼らが戻るまで堰の爆破を伸ばそうとする荘助。
 荘助とともに親兵衛を止めるため刃を向ける現八。
 両者の間に割って入るも、親兵衛に斬られて激高する小文吾。
 親兵衛の指示に冷静に従おうとする毛野。
 どちらにつくべきか迷い、その場で座禅を始める大角。
 里見に仇なす者を成敗するという大義に取り憑かれた親兵衛。

 この場面は本作オリジナルではありますが、なるほど、八人の個性が良く出ていると――彼らであれば、こういう行動もあるいはあり得ると感じますし、短い中でこれを凝縮して見せた今回の構成には感心いたします。


 しかし、親兵衛の手によりついに堰は爆破され、駆けつけた信乃と道節の前で、網干・素藤・浜路は赤い橋の向こうに姿を消してしまいます
 そして砦から義実の滝田城にかかるのは、巨大な赤黒い橋…

 網干たちの真の狙いは、そして八犬士たちの存在の意味は――いよいよ次回完結であります。


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2010.10.15

「もののけ本所深川事件帖 オサキ鰻大食い合戦へ」 店の命運背負った大勝負!

 深川を騒がす放火魔。その現場では、紅色の火の玉が目撃されていた。朱引き稲荷のベニ様と事件の関わりを追う周吉とオサキ。だがその最中に周吉の店の蔵が放火され、預かりものの掛け軸が燃えてしまう。店の危機を救うため、周吉とオサキは、賞金百両目当てで鰻の大食い合戦に出場することに…

 本所深川の献残屋・鵙屋で手代を勤めるオサキモチの青年・周吉と、彼に憑いた妖・オサキの、凸凹コンビの活躍を描く「もののけ本所深川事件帖」が、期待通りシリーズ化されました。
 第一弾の「オサキ江戸へ」に続くシリーズ第二弾のタイトルは「オサキ鰻大食い合戦へ」…と、これはまたずいぶんと個性的というかインパクトあるタイトルですが、しかし内容的には全くもってこの通りなのであります。

 自分の奉公する鵙屋のため、そして思わぬことから受ける羽目になった王子稲荷の狐の依頼のため、深川を騒がす放火魔を追うことになった周吉とオサキ。

 放火現場で常に目撃されるのは、紅色の火の玉と、紅色の獣の毛――この条件に当てはまるのは、かつて家康から江戸の防火を祈願されたという朱引き稲荷のベニ様狐のみなのですが、放火はベニ様の仕業なのか…

 これだけでも難題なところに、さらに周吉を襲う面倒事。番頭の油断で、当の鵙屋の蔵が放火され、武家から預かっていた値百両の掛け軸が燃えてしまったのでした。
 ことが公になれば、鵙屋はおしまい。そんな周吉が店の命運を背負って挑むことになったのは、深川で開催される鰻大食い合戦で…

 と、タイトルに偽りなく、大食い合戦へ挑む周吉とオサキ。実はオサキモチは、オサキと共にいる間はそこの抜けたような大食いとなるため、この勝負は周吉の楽勝…と言いたいところですが、それではもちろんおはなしになりません。
 挫折して再起を賭ける元力士、前作も登場した柳生流の怪老人・蜘蛛之介、そして店の苦境を救うため、あのベニ様の助けを借りて出場した鰻屋の娘――

 彼らをはじめとする個性的な出場者相手に、奮闘する羽目となる周吉ですが、しかしその間も放火魔の跳梁は…と、放火魔騒動と大食い合戦、一見無関係な二つの流れが終盤で綺麗に重なり、大団円を迎えることとなります。


 このように、ストーリー的には至って真面目とはいえ、シチュエーションや展開はかなりコミカルな方向に舵を切った感のある本作。
 オサキをはじめとするのキャラの面白さはあったものの、実は結構重いストーリー展開だった前作とは、その点でだいぶ異なる印象があります。

 が、それが失敗したかといえば、全くそんなことはなく、むしろ成功したと言っても良いでしょう。

 適度にシリアス、適度に抜けたストーリーに、個性的でよそではお目にかかれないような連中――その筆頭が主役の一人と一匹であることは言うまでもありません――を投入し、騒動を描き出すという本作のスタイルは、むしろ違和感なく受け入れることができました。


 もちろん本シリーズも、作者自身もこれが第二作目。これで必ずしもスタイルが固まるとも思えませんし、それが良いとも思いません。
 シリアスもコメディも、同じ舞台とキャラクターで展開させることができる…それを証明してみせたのが、本作の最大の収穫かもしれません。
 シリーズ第三弾も、楽しみに待っていてよさそうであります。

「もののけ本所深川事件帖 オサキ鰻大食い合戦へ」(高橋由太 宝島社文庫) Amazon
もののけ本所深川事件帖 オサキ鰻大食い合戦へ (宝島社文庫) (宝島社文庫 C た 5-2)


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2010.10.14

「湖上の舞」 水の密室に交錯する心

 秀吉の水攻めにより、落城寸前の備中高松城の中で、老臣・北原甚兵衛が殺害された。かつては勇猛さを知られながら、今は半ば痴呆となった甚兵衛。調査に当たる目付の川名佐吉は、甚兵衛の周囲の人物に聞き込みに当たるが、その中から浮かび上がるのは、かつて家中で起きたある事件の真相だった…

 鈴木英治先生といえば、最近では江戸時代を舞台とした市井もの、剣豪もの等の文庫書き下ろし時代小説作家というイメージがありますが、「血の城」「義元謀殺」等、その初期の作品においては戦国時代を舞台としたミステリ色の強い作品を発表していました。

 本作「湖上の舞」は、その鈴木先生のおそらくは久しぶりの戦国ミステリでありますが、これが非常にユニークな設定の作品となっています。

 舞台となるのは、天正十年夏の備中高松城――そう、羽柴秀吉により、この城を落とすための水攻めが行われる最中に、物語は展開します。

 この城内で、斬殺死体となって発見された老武人・北原甚兵衛。
 しかし、合戦中、水攻め中の状況下にあって、敵味方が城に出入りすることは不可能…つまり、巨大な密室と化した高松城での殺人事件というシチュエーションが何とも興味深いではありませんか。

 また、甚兵衛が何かの拍子に不意に呆けてしまう、いわゆるまだら呆けの状態にあったという事実が、事件を複雑にします。
 甚兵衛が呆けた際に口走った謎めいた言葉の意味は。そしてそれがこの事件にどのように関わってくるのか…
 さらに――詳しくは書けませんが――終盤で語られる、この特異な状態が事件に果たした役割の意外さには、「おお!」と唸らされた次第です。

 …しかし、本作の魅力は、単によくできた時代ミステリである点に留まりません。

 事件の捜査の過程で、主人公・佐吉が関係者から甚兵衛の過去を聞くうちに浮かび上がるのは、高松城主・清水宗治を巡る闇。
 家臣のみならず、領民からも慕われていたという宗治ではありますが、一豪族の家臣の身分から彼が城主となるまでには、幾多の血が流されてきたことが示されていきます。

 もちろん、戦国にあっては、人の血が流されるのは世の習い。
 その一つ一つに恨みを抱いていてはきりがない――それが武士の理ということは、作中で幾度となく語られますが、人の心がそれほど割り切れるものではありません。
 水の密室の中で佐吉が探り、知ることになるのは、事件の真相であると同時に、そんな人間と武士の間で苦しむ心の軋みであります。

 そして、甚兵衛が何故この時に死んだのか、殺されなければならなかったのか――その真相が、この人間模様としっかりと結びつくに至り、本作が高松城水攻めという史実を題材とするだけでなく、戦国時代でなければ起こりえない状況から生まれた人の感情が生んだ事件を描く、二重の意味での時代ミステリであると、感じ入った次第です。


 次から次へと新しい人物が登場し、その関係も込み入っているため、読みやすいとは正直なところ言い難い作品ではありますが、しかし、読んでみる価値はある作品ではないでしょうか。

「湖上の舞」(鈴木英治 朝日文庫) Amazon
湖上の舞 (朝日文庫 じ 5-1)

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2010.10.13

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第16話「闇におどるガイコツのワナ!!」

 明正寺にやってきた繭姫は、青影たちと堺見物に出る。そこで南蛮魔術一座の舞台に上げられた繭姫は、幻魔三人衆の一人・闇天竺の術で姿を消されてしまう。繭姫と紅秘帖の引き替え場所に赴いた青影は、闇天竺の不死身のガイコツ兵に苦しめられる。そこに駆けつけた赤影は、術のカラクリを見破り闇天竺を追いつめるが、そこに幻妖斎が現れたため、取り逃がしてしまう。赤影たちは戦いの決意を新たにするのだった。

 幻魔城編第二回は、新たな幻妖斎の配下・幻魔三人衆第二の刺客・闇天竺との対決であります。
 魔童子が西洋の騎士モチーフだとすれば、こちらは魔道士・幻術士といったところでしょうか、短躯をマントに包み、奇怪なエフェクトともに出現する様は雰囲気十分であります。

 前回ラストで奪われた紅秘帖の半分を追って赤影たちと行動を共にすることになった繭姫ですが、これがまたいきなり個性爆発。
 青影と堺に向かう途中の茶店で山のようにご飯をお代わりしたり、いつもの寺で子供たちがチャンバラごっこやっているところに突然乱入して子供相手に腕前を披露(ここで刀代わりに菊の花を使うのが実に良い…んですが和尚さんが大事にしていた花というオチ)、さらに子供たちにほめられて調子にのって竹竿を振り回し、和尚さんの盆栽をひっくり返してしまうとか、はた迷惑ながらちょっぴり可愛いじゃじゃ馬ぶりであります。
(しかしこのキャラ描写、どこかで見たような気が…と思ったらやっぱり脚本が井上敏樹氏でした)

 そんなこんなで寺で働くことになった繭姫、さっそくうち解けた子供たちや青影と堺の町にやってきたのはいいのですが、南蛮魔術なる怪しげな見世物に入って、そこで舞台に上がることに…
 箱の中に人が入って、あら不思議、開けてみたら箱の中は空っぽ…というお馴染みの人体消失マジックの手伝いということですが、この展開はどう考えても箱に入ったきり行方不明になるパターン…と思ったらやっぱりその通り!
 まんまと繭姫は闇天竺にさらわれてしまうのでありました。

 さて、ここで一旦舞台は移って、どこかの森の中。このご時世に呑気に野点を楽しむ姫君がいたと思えば、そこに現れたのは柄の悪そうな野武士たち。あわや落花狼藉か、というところに一本の小柄が投じられるのですが――
 その主は、近くの草むらで笑っちゃうくらいわざとらしく昼寝をしていた霞丸。柴錬ヒーローチックに野武士を退治した霞丸は、名前を問う姫君の声を背に、いずこかへ去っていくのでありました。そしてまた悔しがる邪鬼さん…

 と、今後に絡んできそうなエピソードを挟んで、クライマックスは繭姫を救うための青影と闇天竺の対決からスタート。
 繭姫と交換に秘帖を渡す青影ですが、もちろん敵がそのままで済ますわけがありません。闇天竺の「こんきさつ(魂鬼殺?)」の術で地中から現れた無数のガイコツが、青影に襲いかかります。
 これを一蹴する青影ですが、ガイコツは次々と復活。倒してもきりがない相手に青影が窮地に陥った時を見計らったように赤影が参上、忍法「もうかふうじん(猛火風陣?)」で敵を一蹴、繭姫も助け出すのですが、またもやガイコツが復活するのでした。

 が、ここで赤影が闇天竺の術のタネを発見。このガイコツたちは、空中に蜘蛛の巣の如く張り巡らした糸によって、操り人形のように動かされていたのでした(ある意味、南蛮魔術よりもすごい技だと思います)。
 これで形勢逆転と思いきや、今度は巨大な三頭の蛇が出現。これも闇天竺の術かと思いきや、術者はどうやら別人らしく…

 と、そこに現れた鬼の面を被った能装束の男の面を赤影が斬るや、大蛇も消失。果たしてその仮面の下の顔は…幻妖斎!
 一体何でカツラまで着けて能装束で現れたのかはわかりませんが、久々に対面する宿敵への礼儀のつもりでしょうか。その割に結構危ない場面があったような気もしますが、闇天竺と共に、幻妖斎は何処かへ消えるのでした。


 お話的にはかなりシンプルではありますが、お約束的な展開と派手なアクションの組み合わせが面白く、それなりに楽しめるエピソードでした。


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2010.10.12

「お髷番承り候 潜謀の影」 主従の孤独な戦い始まる

 兄に疎まれて他家に婿養子に出された深室賢治郎は、四代将軍家綱から、髷番として召し出される。孤立無援の家綱は、賢治郎を自らの直属の配下として、ある密命を下す。それは、慶安の変の謹慎が解けて帰藩する紀州大納言徳川頼宣の、「我らも源氏でございます」という言葉の真意を探ることだった。

 昨年以来、まさに波に乗った感のある上田秀人先生が、また一つ、新たなシリーズを開始しました。
 それが本作「お髷番承り候 潜謀の影」――将軍の髷を結うお髷番に抜擢された青年が、徳川将軍家に潜む闇に迫る伝奇色の強い時代小説であります。

 江戸城中にあって厳重にその身を守られた将軍に対して、唯一刃物を当てることが許される存在…それがお髷番。
 要するに、髷を結うために毎朝将軍の月代を剃るという、ただそれだけのお役目ではありますが、しかし、医者すら直接触れられぬ将軍の体に、しかも刃物でもって触れることができるのというのは、貴重極まりない存在と言っても良いかも知れません。

 さて、そのお髷番に抜擢された主人公・賢治郎は、元々幼い頃から徳川家綱に仕え、寵愛された青年。
 しかしながらそれを疎んだ腹違いの兄に追い出されるように他家に婿養子に出され、燻っていたところを、家綱直々の命で召し出されることになります。

 その家綱の狙いは、ほとんど唯一と言って良い信頼できる相手である賢治郎を自分直属の配下として動かすこと――
 慶安の変に関係した疑いで参勤交代を許されず、江戸に留め置かれていた徳川頼宣が、人払いをしてまで家綱に語った謎の言葉「我らも源氏でございます」の意味を探るよう、家綱は賢治郎に命を下します。

 その中で賢治郎が出会うのは、頼宣をはじめとして、徳川将軍家の周囲にあって権を誇る者たち。
 そして彼の探索を阻むため、家綱の手足を奪うため、お髷番の地位を奪うため――唯一将軍に刃を当てられる=将軍暗殺の可能性があるお髷番という設定がここでも活きてきます――賢治郎は文字通りの真剣勝負を強いられることとなります。

 そしてその探索行の果てに賢治郎と家綱が知った、徳川将軍家を揺るがす秘密とは…
 いやはや、最後の最後まで油断できない作品であります。


 正直なところ、突然密命を背負わされる青年、権力者たちの暗闘、刺客との死闘と人を斬る意味の問いかけ、そして徳川将軍家にまつわる伝奇的大秘事といった本作を構成する要素は、上田作品の多くに共通するものであります。
 その意味では、上田作品ファンにとってはある意味お馴染みの内容にも見えるのですが、しかしもちろん、本作がワンパターンとはほど遠いことは言うまでもありません。

 まだまだ本シリーズは始まったばかりですが、しかしこの時点で目を引くのは、賢治郎とその主である家綱が、共に他に寄る辺のない、孤独の中にあることでしょう。
 己が己であるためには、たとえどれほど苦しくとも、己の今あるところに居続けるしかない…そんな逃げ場のない主従の孤独な戦いが、本作の、本シリーズの注目すべき点ではないかと感じます。

 もっとも、孤独と感じているのは賢治郎の思い込みもあるのかもしれませんが…
 最近、上田作品のヒロインは魅力的な女性が多いのですが、本作のヒロイン、賢治郎の婿入り先の娘(すなわち未来の妻)のキャラクターもまた、厳しさと幼さの中に、武家の女性としての優しさが感じられて良いのです。

 こちらの方の進展も含めて、またまた先が楽しみなシリーズの誕生であります。

「お髷番承り候 潜謀の影」(上田秀人 徳間文庫) Amazon
お髷番承り候 一潜謀の影 (徳間文庫)

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2010.10.11

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」(漫画版)第3巻 ヒヲウたち自身の物語を

 もう一つのヒヲウ戦記、「機巧奇傳ヒヲウ戦記」漫画版の第3巻であります。
 前の巻に引き続き、ヒヲウたちが誘き寄せられた機巧だらけの村での死闘を描いた瀬渡村編のクライマックスから、この第3巻は始まり、オリジナルエピソードを経て、アニメとは少し異なる結末へと向かっていくこととなります。

 アラシたちの手により村中の人々が人質となった中、自分たちの危険も省みず、ヒヲウたちが村人の解放のために奔走するヒヲウ。一方、山形・伊藤ら長州志士は、自分たちの目的のため、華と雪を自分たちの手中に収めんと行動します。

 いわば三つ巴の状況の中、死闘の果てに谷底に転落しかかった炎。その炎を救ったのは、村人たちと…
 と、クライマックスでは、ヒヲウの子供らしい誠意が人々の心を動かすという、アニメでも幾度か見られた構図が、より感動的な形で描き出されることとなります。
 甘いと言わば言え、その甘さを美しい形で描けるのも、ヒヲウというキャラクターの強みであります。


 そして二つほどオリジナルエピソードが入るのですが、このエピソードの完成度も高い。
 一つ目のエピソードは、戦いの中でそれぞれの仲間とはぐれたヒヲウ・華・アラシが、生き延びるために力を合わせるうちに…というもので、ある意味定番の遭難ネタではありますが、そこに滅びゆくニホンオオカミを絡めることで、アニメで取り入れられてもおかしくないエピソードでありました。

 もう一つは、アニメにも登場した女風陣・ヌエと彼女の三段変形機巧との山中での対決。
 アニメよりも、形を変えて襲い来る機巧という存在うまく使って見せた感のあるこのエピソード、しかし何よりも印象に残ったのは、戦いの中で途方に暮れた子供たちが言い争いを始め、なすすべをなくしたサイが流した涙でありまりました。
(そして涙が伝染するなか、そこで一人泣かないのが…というのも「泣かせる」展開です)

 ちなみにこのヌエは、アニメでは京都編と最終回に登場しましたが(漫画では京都編がオミットされていることもあり)、こちらではこのエピソードと次の高山編に登場。
 NHKアニメではできないような技も繰り出し、才谷を捕らえた上にすり替わるという活躍を見せるのですが…


 さて、その高山編で描かれるのは、アニメ同様、アラシたちの操る暴走屋台との対決。
 が、そこで屋台のベースとなるのが、この漫画版の第一巻で、マスラヲや才谷、吉田松陰らが作り上げた火車という展開にはやられました。
(ここで過去編との繋がり――才谷とマスラヲ、風陣の繋がり――が浮かびあがることもさることながら、ヒヲウたちが初めて、マスラヲと風陣の繋がりを感じるという構成がうまい!)

 そしてそのマスラヲ製の機巧を倒すのが、同じくマスラヲが残したエレキテルというのもまた見事。
 炎のエレキテルが屋台を焼き尽くすシーンはアニメでも印象的でしたが、漫画版ではこの繋がり故に、より強く印象に残るのです。


 この漫画版、アニメ版に比べると歴史上の事件・人物への関与はかなり少ない――むしろ第一巻に描かれた物語に関連するものに集約されていると言うべきか――のですが、しかしその分、ヒヲウたち自身の物語をより掘り下げて描いているという印象があります。

 この辺り、アニメと漫画、週一放送と月刊誌連載という扱える情報量の違いに起因する部分が大かとは思いますが、しかし媒体が異なれば、描き方も異なることは当然のこと。漫画版ヒヲウ戦記としては、ベストのチョイスであったと思います。

 さて、この巻の終盤からは、アニメ版の京都編は飛ばして一気に三剣藩でのクライマックスに突入。アニメとはまた大きく異なるラストの展開に注目であります。


「機巧奇傳ヒヲウ戦記」第3巻(神宮寺一&会川昇&BONES 講談社マガジンZKC) Amazon
機巧(からくり)奇伝ヒヲウ戦記 (3) (マガジンZKC (0053))


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2010.10.10

「SENGOKU」 バカが動かす戦国史!?

 山科けいすけ先生の戦国ナンセンス四コマ漫画「SENGOKU」が新潮文庫から復刊されました。
 名だたる戦国武将たちは、実は全員「バカ」だった!? という実にドラスティックな視点から描かれる、ユニークにもほどがある作品です。

 山科先生の歴史ものの四コマ漫画としては、本作に先立って文庫化された(作品の発表順は後)「サカモト」がありますが、そちらが坂本竜馬を主人公とした幕末ものであるのに対し、本作は特定の主人公を設けずに描かれる一種の群像劇(?)であります。

 しかしその群像がクセ者…というよりバカ者ぞろい。
 信長は鉄砲フェチでドSの暴君(実はヘタレ)、信玄は影武者任せで自分は好き勝手に振る舞うのオカマ、謙信は無茶苦茶に強いがそれ以外は幼児なみの戦闘狂、義昭は実力が全く伴わないヒステリックな陰謀家、家康は小心翼々の成り行き任せ、そして秀吉は脳味噌までただの猿…

 よくぞまあここまでカリカチュアしてみせたものだと感心するくらいのバカ揃い。
 もちろん基本はギャグではありますが、何せ時は戦国、そのノリで塵芥の如く人が死んでいくという有様で、バカがバカをやりながら血なまぐさいバカ話が展開されていくという、本当にヒドい(ホメ言葉)作品であります。

 しかし、時々血生臭さや不謹慎さに引いたりしながらも、それでも最後まで面白がって読んでしまうのは、個々のギャグとしての面白さもさることながら、このキャラクターたちのデフォルメぶりが、実にツボを押さえたものであると同時に、全体の物語が史実に沿って展開しているためであり――
 要するに、無茶苦茶をやっているようで、意外と踏み外していないゆえであります。

 先に述べた「サカモト」は、竜馬を中心とした幕末の有名人たちを出しながらも、物語は史実とほとんど無関係に描かれる、というよりストーリーらしいストーリーは存在しないまま展開していきます。
 その一方で本作は、特定の主人公はいないものの、発生する事件や人物の生き死には史実通りに押さえて、物語が展開していきます。

 それゆえ、どれだけキャラクターが無茶をやろうとも、意外と違和感なく受け入れられる…というより、たとえば当時の関東の情勢――北条・上杉・武田の勢力争い――とそれが信長包囲網に与えた影響など、実にわかりやすく描かれており、その史実とキャラのデフォルメぶりが相まって、妙な説得力を持って読めてしまうのです。


 四コマは四コマとしてギャグを成立させつつも、このような戦国史を描き出してしまう辺り、作者の筆力には感心してしまうのですが、考えてみれば一見なんの変哲もない現実の諸相から、その裏側にあるものを汲み取って、ギャグとして描き出すのは作者の得意とするところ。
 その力が、史実を相手にフルに発揮されていると思えば、本作の面白さも頷けるというものであります。

 生真面目な方はさておき、冗談のわかる方には「サカモト」と合わせてオススメの作品であります。

「SENGOKU」(山科けいすけ 新潮文庫 全2巻) 上巻 Amazon /下巻 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4101303932/youyounihonsh-22/ref=nosim/
SENGOKU 上巻 (新潮文庫 や 64-2)SENGOKU 下巻 (新潮文庫 や 64-3)

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2010.10.09

八犬伝特集その十二の五 「THE 八犬伝 新章」 第五話「犬士冥合」

 上総で勢力を伸ばす蟇田素藤の軍勢に苦しめられる里見義実。そんな中、安房に集結した七犬士と丶大の前に網干が現れる。しかし丶大の知るその顔は、かつての安房の領主・神余光弘を謀殺し、自分も里見義実らに討たれた山下定包のそれだった。そこに浜路と素藤が現れるが、浜路の身から現れる魔物が犬士たちを苦しめる。しかしそこに現れた少年が魔物を蹴散らし、さらに素藤をも一蹴する。彼こそは八番目の犬士・親兵衛だった。

 さて、「THE八犬伝 新章」も残すところあと三話。いよいよ今回で八犬士が集結しますが、同時にあまりにも意外な過去の因縁と敵の正体が語られることとなります。

 急速に勢力を伸ばす蟇田素藤――あの、新章第一話に登場した少年の後身であります――に攻められ、苦戦する里見義実。
 素藤軍には、かつての安西軍を思わせる魔物が味方に付き、里見義成をはじめとする多くの者が犠牲となります。
(ちなみに冒頭で素藤が行者めいた姿をしているのは、原作で、素藤が疫病で苦しむ人々に神水を配って信頼を得たことを示しているのでしょう)

 ここで敗戦に悩んだ果てに、こんな時に八房がいれば…などと呟いてしまう義実には度し難いものを感じますが、それに応えるように、彼の前に現れた影は犬――いや少年?

 一方、ようやく集結した七犬士(集結シーンはすっ飛ばされているのが何とも残念!)と丶大法師の前に現れたのは宿敵・網干。しかし丶大は彼の顔に、ある男を思い出します。

 ここから展開されるのは、意外、南総里見八犬伝の冒頭――伏姫と八房の物語よりもさらに以前の物語。
 かつて安房を支配した神余光弘は、佞臣・山下定包に惑わされた末に丶大の父・金碗八郎を追放、自らも定包に暗殺されます。
 しかしその定包も、結城合戦から落ち延びて安房に現れた里見義実を迎えた八郎らに討たれることになるのでした。

 そして、網干の顔は、定包のそれ――そう、幾度となく八犬士に仇なしてきた妖人・網干左母次郎の正体こそは、かつて里見義実に敗れた山下定包の怨霊!
 …いやはや、こればかりは予想ができませんでした。

 しかし、考えてみれば定包の傍らにあり、定包が討たれた後に処刑された玉梓の怨霊――その場面も今回描かれますが原作とほぼ同様の内容――が八犬伝の因縁を形作ったとすれば、定包の方も怨霊となって里見に祟っても何の不思議もないお話。
 特に本作においては、義実を仁君などではなく、むしろ権力の魔に取り憑かれた者として描いていることを考えれば、その義実に討たれ、「武士の面目と称して己の野心を満たそうというさもしい下郎」と義実に対して呪いの言葉を残した定包が、物語において重要な位置を占めるのもそれなりに肯くことができます。

 そして、その玉梓と網干に見込まれて、安房を攻める素藤は、一見、八房に討たれた安西景連のようでいて、しかしむしろ、義実に重なる存在であることは、既に新章第一話でも暗示されていましたが、今回のエピソードを見れば、さらに明確になっていると言えるでしょう(その辺り、原作でも素藤が自分を義実になぞらえている部分はあるのですが…)。
 この素藤というキャラクター、リライト版の八犬伝では後半のキャラクター・エピソードがほとんどオミットされる中で、親兵衛の実質デビュー戦の相手となったことや浜路姫を狙ったこと、八百比丘尼との関係などから、生き残る(?)ことが多い数少ないキャラクターですが、本作でも実に面白い位置を占めることとなったものです。

 さて、その素藤、さらった浜路姫を媒介としたものか、無印第一話を思わせる奇怪な犬頭の兵士や犬の魔物を味方につけて八犬士をも圧倒するのですが…そこに現れたのは義実の前に姿を見せたあの少年、言うまでもなく最後の八犬士・犬江親兵衛であります。
 魔物たちを一蹴した親兵衛は、村雨を借りて素藤に肉迫、無邪気に笑いながら素藤を圧倒し、その片手を奪ってしまうのでありました。

 この辺り、原作でもチートキャラクターだった親兵衛の面目躍如たるものがありますが、しかし本作の親兵衛は、そう無邪気に受け止められる存在ではありません。
 呪われた子らとして描かれる八犬士の中でも、ある意味最も純粋な存在であり――あの、おそらくは人と魔を分かつであろう赤い橋の上に立つ者なのですから…


 それはさておき、ついに揃った八犬士。本作ならではの落としどころも見えてきたところではありますが、それはおそらくは原作とは異なる地平にあるもの。
 それがどのように描かれるのか…これは大いに気になるところではありませんか。


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2010.10.08

「尼首二十万石」 自由人になれなかった男

 表題作「尼首二十万石」をはじめとして、室町時代から戦国時代、江戸時代を舞台とした短編全六篇を収めた宮本昌孝先生の短編集であります。

 「尼首二十万石」は、後の「影十手活殺帖」シリーズのパイロット版とも言える作品。 鎌倉東慶寺門前の餅菓子屋にして御用宿の息子・和三郎を主人公に、東慶寺を狙う陰謀の顛末を描く快作であります。

 東慶寺が江戸時代に縁切り寺であったことは非常に有名ですが、その寺を密かに守護してきた忍びがいた…とくれば、これはもうバリバリの伝奇ものです。
 その末裔である和三郎が出会った、江戸から東慶寺に駆け込んできた女。一見、ごく普通の不幸な女性に見えた彼女に不審を抱いた和三郎が探索の果てに知ったのは…

 と、あれよあれよと物語は幕閣、いや将軍家をも巻き込んだ巨大な陰謀に展開し、和三郎の剣戟をもって締めるという、盛りだくさんの内容の作品であります。
(ちなみに本作のタイトル、解説等では触れられていませんでしたが、やはり「尼寺五十万石」のもじりなのでしょう)

 その他、信長の子に生まれながら武田家の人質として育った源三郎勝長の数奇な運命を描く「最後の赤備え」、宮本作品には密かに登場率の高い女武者の恋を描く「袖簾」、いずれも意外な人物が絡む仇討譚「雨の大炊殿橋」「黒い川」など――
 時代も内容もバラエティに富んだ作品を収録する本書ですが、個人的に最も印象に残ったのは、室町後期の阿波と京をまたにかけて活躍し、後の元長・長慶と続く三好家繁栄の基礎を築いた三好之長の一代記、「はては嵐の」であります。


 一人の荒武者として阿波から上京し、初陣となる応仁の乱では、単身敵側の主将である山名宗全の元に乗り込む豪傑ぶりを発揮した之長。
 その後も、ある時は将軍家継嗣争いに加わり、ある時は足軽たちを引き連れ京を荒らし回り、縦横無尽に暴れ回る彼の胸中にあったのは、少年時代以来、数奇な運命の糸で結ばれた美女への恋情だった…というロマンチシズムを持ち込むのが宮本先生らしいところでしょう。

 飯綱の巫女であり――そこで妖管領・細川政元が絡んでくるのがまたうまい!――決して之長とは結ばれぬ、まさしく高嶺の花を想いつつ、しかし自らは権力闘争の中で政治の泥に塗れていく之長の生き様が、何とも切ない。

 そして物語の序盤で描かれた之長と宗全の対峙で、初対面の宗全が見せた不思議な反応と、之長にかけた「木っ端武者のままでいよ」という言葉の意味が、実感をもって胸に迫ってくるラストが実に泣かせるのです。

 思えば、宮本作品の主人公は、常に自由人であろうとする者がほとんどのように感じられます。
 そんな中で、木っ端武者(=自由人)であることをやめ、政治の世界で己の心身をすり減らしていく之長は、そうした宮本ヒーローのネガとも言える存在なのではないでしょうか。


 かなり初期の短編集ということもあって、内容的・描写的に少々食い足りないものを感じさせる部分は確かにあるのですが、しかし、後の宮本作品に通じる部分を様々に感じさせる…そんな作品集です。

「尼首二十万石」(宮本昌孝 講談社文庫) Amazon
尼首二十万石 (講談社文庫)

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2010.10.07

「幕末秘剣慈恩」 帰ってきた森田剣劇!

 幕末の江戸で暮らす花売りの青年・慈恩は、実は無双の技を振るう剣の達人だった。その剣技で市井に巣くう悪党を退治していく慈恩だが、その前に慈恩と同じ技を操る怪人・昴弾蔵が現れる。謎の朧剣流、弾蔵との因縁、師の残した秘伝…数々の謎を追う慈恩は、やがて幕府をも揺るがす陰謀に巻き込まれる。

 時代漫画ファンにとって、今やコンビニ売りコミックは見逃せない存在。絶版作品や、単行本未収録作品が突然収録されることがあるのですから…
 この「幕末秘剣慈恩」も、コンビニコミックで復活した幻の名作。幕末を舞台とした剣術アクションでは右に出る者のない森田信吾先生の快作です。

 安政の大地震から一年後を舞台に、花売りで生計を立てる謎のイケメン・慈恩が、卓越した剣技で活躍する本作――
 物語の序盤こそ、悪事を働く外道剣士を、それ以上のバイオレンスでもって叩きのめすという森田漫画の定番展開なのですが、慈恩の宿命のライバルたる昴弾蔵が登場してからの物語がなんと言っても面白い。

 幕末の剣聖・男谷精一郎すらその正体を知らぬ慈恩の流派・影念流と同じ技を遣い、さらに催眠術にも等しい巧みな話術を操る怪人・弾蔵…
 尾張徳川家、いや海外とも結び何事かを企む弾蔵の陰謀を縦糸に、そしてその弾蔵が執拗に探し求める影念流の秘伝書争奪戦を横糸に、慈恩と弾蔵のまさしく宿命の対決が描かれることになるのです。

 昔から剣戟描写には定評のある森田先生ですが、上記の通り、本作では剣術の秘伝・奥義が中心となるだけに、これまで以上に力の入った印象。
 登場する実戦派の剣士たちをさらに上回る慈恩の、弾蔵の、超人的かつロジカルな剣術描写こそが、本作のキモと言っても過言ではないでしょう。

 特にラストに飛び出す最後の奥義のとんでもなさたるや…
 剣術というものは、極めて物質的・身体的なものであると同時に、多分に精神的な側面を持つものですが、この奥義の描写は、その側面をアクションの中で描き出してしまった、奇跡的な名シーンであります(というのは褒め過ぎかもしれませんが…)。

 また、慈恩ら主役級に比べるといささか分は悪いかもしれませんが、しかし男谷精一郎や伊庭八郎といった実在の剣豪たちも、それぞれに実に「らしい」存在感を発揮してくれるのも嬉しいところであります。
(ちなみに伊庭八郎は、本作に続く連載作品である「伊庭征西日記」で主役を務めることになります)


 冒頭に述べたとおり、本作は長らく幻となっていた作品。おそらく全三巻の単行本になるはずの、最終巻のみが何故か刊行されずにいたところが、こうしてここに復活したというのは、森田ファン、剣豪ファンにとって、まことに喜ぶべきことであります。

 もっとも、こうしてまとめて読み返してみると、終盤の展開は結構破綻を来している部分もありますし、何よりも森田漫画の特徴の一つであるコピー画が相当目立つのも事実ではありますが…

 しかし、それもこうして復活したからこそわかること。
 同様に森田作品で最終巻が刊行されていない――そしておそらくは昴弾蔵のリメイクであるキャラが登場する――「御庭番明楽伊織」も、復刊されることを心から願っている次第です。

「幕末秘剣慈恩」(森田信吾 小池書院キングシリーズ漫画スーパーワイド 全2巻) 上巻 Amazon/ 下巻 Amazon
幕末秘剣慈恩 上 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)幕末秘剣慈恩 下 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)

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2010.10.06

「西郷盗撮 剣豪写真師志村悠之介 明治秘帳」 写真の中の叫びと希望

 北辰一刀流を修めながら、明治維新後は写真師として暮らす元幕臣・志村悠之介が勤める写真館に川路と名乗る男が現れた。その男の、西郷隆盛の顔写真撮影の依頼を引き受けることとなった悠之介は西南戦争直前の鹿児島に潜入。しかしそこでは怪しげな男女が蠢き、西郷を巡る思惑が入り乱れていた…

 文庫書き下ろし時代小説界で今をときめく風野真知雄先生の最初期の作品「西郷盗撮」が再刊されました。
 時は明治十年、剣を捨てて写真師の道を選んだ主人公・悠之介が、西郷盗撮の命を受けて鹿児島で繰り広げる冒険を描いた本作、「鹿鳴館盗撮」「ニコライ盗撮」と続くシリーズの第一弾でありますが、もちろん本作のみでしっかり独立した作品であります。

 西郷隆盛といえば、上野公園の銅像やキヨソネの肖像画のイメージが非常に強く残っていますが、それらが現実の西郷を忠実に写したものではないということは、知っている人は知っているお話。
 それは、西郷の写真が一枚も現存していないという、ある意味奇妙な現実に依ることが大きいように感じられますが、では、何故西郷の写真が残っていないのか、そしてもし西郷の写真が残っていたら、という着想から描かれたのが本作であります。

 舞台となる明治十年といえば、西南戦争の起きた年。悠之介は、その直前の鹿児島に潜入することになります。
 彼が受けた依頼は、一朝事あった際に西郷を保護するため、西郷の顔写真を撮ること。そして依頼者は川路大警視…

 西郷を写真に撮った最初の写真師になること、そして青年らしい冒険心から鹿児島に向かった悠之介ですが、しかしそこで彼を待っていたのは、いずれも曰くありげな男女の写真家に人斬り半次郎こと桐野利秋、さらには姿無き暗殺者。
 西郷の写真を撮らせようとする者と、撮らせまいとする者――その間にあって、悠之介の、真実を巡る戦いが繰り広げられることとなります。


 本作は作家活動の最初期の作品ということで、物語のスタイルも、文体も現在のものとはだいぶ異なりますが、しかしストーリー構成とキャラクター造形の妙は、この時点から健在(特に、一見好男子の外見の中に異常性を秘めた桐野利秋のキャラクターが秀逸!)。
 しかしながら、風野ファンとして何よりも嬉しいのが、デビュー時から現在に至るまで風野作品に通底する、敗者や弱者の視点からの物語が、本作においても描かれていることであります。

 悠之介をはじめ、本作の登場人物は、いずれも大なり小なり、時代の流れから取り残され、その喪失感を埋めるためにあがく者たちとして描かれます。
 悠之介は、幕臣の家に生まれ、北辰一刀流千葉道場で腕を磨きながらも、しかし、少しだけ遅く生まれたことから、その腕を振るい損ねた青年。今は写真師という最先端の職業に就きながらも、しかしその身に眠っていた満たされぬ想いが、彼をこの冒険に駆り立てたと言えます。

 そしてその彼のターゲットとなる西郷も、時代の流れから取り残された存在です。
 かつての維新の殊勲者でありながらも、中央の政争に敗れて下野し、今は故郷で隠棲の身である西郷。その姿を写真に留めようという悠之介、そして彼のライバルとなる写真家たちや、西郷を守ろうとするもの…相争う者たち全てが、実は取り残された者なのです。

 本作は、優れた時代エンターテイメントであるとともに、そんな取り残された者たちの最後の意地を込めた、異議申し立ての叫びでもあるのです。


 そして注目すべきは、その手段として写真を――メディアの力を取り上げていることでしょう。

 もちろんそれは、写真が、明治という時代に歩調を合わせるように進歩してきたことによることが大きいでしょう。
 しかしそれ以上に、写真が持つ、現実を切り取ってみせる力、そしてそれを保存する力に、作者が一つの希望を見いだしていたからではないかと感じるのです。

 そしてそれは、写真だけでなく――その程度は異なるものの――文章もまた持つ力であります。
 本作で悠之介が写真に抱いた想いは、作者が文章に抱くのと同じであり――そして本作はその希望を追い求めることの、作者なりの宣言であるように感じられます。

 時代小説家・風野真知雄の原点を示すものとして…風野ファン、いや時代小説ファンの方は手に取っていただきたい作品です。

「西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介明治秘帳」(風野真知雄 新人物ノベルス) Amazon
西郷盗撮 (剣豪写真師・志村悠之介 明治秘帳①)

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2010.10.05

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第15話「幻魔城からの使者・魔童子」

 平家の末裔・平賀一族が何者かに次々と襲撃を受け、久々に故郷に帰っていた青影は、頭領から事件探索の命を受ける。平賀一族の里に向かった青影は、一族のおてんば姫・繭姫に囚われてしまう。そこに一族の持つ平清盛の財宝の在処を記した紅秘帖を狙い、魔童子が襲いかかる。駆けつけた赤影により魔童子は撃退されたが、秘帖は二つに裂け、魔童子と赤影それぞれの手に渡る。赤影たちと繭姫は、秘帖を追うことを決意するのだった。

 アニメ版赤影も第二部「幻魔城編」に突入。その冒頭を飾るのは、謎の幻魔三人衆の一人・魔童子による平賀一族の村の襲撃であります。

 魔童子と言いつつもその姿は鉄仮面に巨大な甲冑をまとった騎士といったところ。ご丁寧に馬にまで鎧を着せた完全武装の怪人であります。
(でもそれ以上にスゴいインパクトなのは、バズーカ砲を乱射する配下の下忍)

 この襲撃事件の探索に乗り出したのは青影。
 本作は青影こと小太郎が、じっちゃんこと影一族の頭領の命で旅立つ場面から始まりましたが、今回も同様に、頭領の命で青影は再び旅立つことになります。
(そして思い出したように猿たちとだいじょーぶのポーズをとってみせる青影)

 が、ここで思わぬシーン。川で水浴びしようとした青影の前には、一糸まとわぬ姿で水浴びする少女の姿が…
 この少女こそは平賀一族の姫・繭姫、こんな行動を取っているくらいですから当然(?)じゃじゃ馬娘であります。

 さて、度重なる襲撃で気が立っている村人と繭姫に囚われてしまった青影。変なところで黙秘権を行使してややこしいことになってしまった青影ですが、そこに魔童子一味の襲撃が!

 実は魔童子の狙いは一族が守る紅秘帖――平清盛の隠し財宝の在処を示した巻物。
 繭姫を襲い、その命と引き替えに秘帖を要求する魔童子に、もちろん立ち向かう青影。
 しかし、けた外れのパワーの前に、青影たちが窮地に陥った時…「飛騨の忍者、赤影参上!」

 空から白影も参戦、下忍たちを蹴散らしていく赤影たちですが、魔童子はやはり強敵。
 妖刀・雷の太刀(どうみても西洋刀)に雷を集め斬りかかる魔童子のパワーは赤影の太刀をも砕き、その戦いの間に秘帖も魔童子側に奪われてしまいます。

 …が、そこで黙っている赤影ではありません。すんでのところで投じた手裏剣は秘帖を切り裂き――おお、これは秘宝争奪戦の超定番「二つに分かれて敵味方の手に収まる巻物」ではありませんか。
 いやはや、実に由緒正しき時代伝奇展開、こうでなくては!

 ここで平賀一族の援軍がきたことで魔童子は一端退却、赤影たちは秘帖の奪還を誓うのでした。
 そして、秘帖を、財宝を守ることを一族の使命としてきた繭姫も、赤影たちに同行を申し出るのでした。

 一方、魔童子が向かった先は、いずことも知れぬ地にある奇怪な西洋風の城。
 これこそは異国の天才科学者・ペドロ(って大泉滉!?)の手になる幻魔城、そしてその玉座に座るのは、幻妖斎その人であります。

 そう、ここに赤影と幻妖斎の戦いの、新たな幕が開くのでありました!


 というわけで始まった第二部。西洋風の騎士に西洋風の城とくると「まぼろし城」を彷彿とさせられますが、上に述べた秘帖真っ二つを含めて、時代錯誤…いやいや古き良き時代伝奇ものの再来という印象で、これからの展開が大いに楽しみになってしまうのです。


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 「仮面の忍者赤影」アニメ版 放映リスト&キャラクター紹介

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2010.10.04

「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて

 さて、昨日の続き、「ころころろ」収録の作品の紹介であります。

 仁吉が思わぬお荷物の前に振り回される「ころころろ」に対して、佐助を主役とする「けじあり」の方は全く趣向の異なる作品です。
 気がつけば小間物屋の主人に収まっていた佐助。妻と仲睦まじく暮らし、店も順調、しかし気に掛かるのは、幾度となく自分の目の前に現れる「けじあり」と書かれた紙――

 はたして「けじあり」の意味とは、妻が異様に恐れる鬼の正体は、見る度ごとに大きさを変える店は現のものなのか、そして何より佐助はなんのためにここにいるのか…?

 佐助を主人公としたエピソードとしては、「ねこのばば」収録の「産土」という好編がありますが、こちらもそれに勝るとも劣らない、謎と不条理さに満ちた物語。
 佐助というお馴染みのキャラクターがいるのに、しかし彼のいる場所は我々の知るものとは全く異なるという、何とも言えぬ居心地の悪さが、佐助の感じているであろうそれとシンクロして伝わってくる本作、その謎を乗り越えた先にある真実の哀しさも印象的で、個人的には本書の中で最も好きな作品です。

 そして最後に収められた「物語の続き」は、一連の事件の発端となった生目神と、若だんなや妖怪たちがついに対面することになります。
 若だんなの目の光りを取り戻すために、神様の出す「物語の続き」を答える羽目になった一同ですが、いつの間にか問題は思わぬ方向に…
 人間・妖・神というメンバーで繰り広げられる実にまとまりのない議論が楽しくも、その果ての結論はほろ苦い、いかにも「しゃばけ」らしい一編です。


 さて、駆け足で見てきた本書ですが、実はほとんどの作品で共通して描かれるものがあります。
 それは、過ぎ去ってもう帰らない者への想い…すれ違い、通り過ぎ、遠く離れてしまった、それでも忘れられない、そんな想いが、本書では様々に描かれます。

 本書を締めくくる「物語の続き」では、神の定義が語られます。それは人間と神とが如何に異なるかを示すものでしたが、しかし、人も神も、相手を想うという点ではなんら変わらないことが、本作では語られます。

 そしてそれはもちろん、妖にとっても同じこと。
 人も妖も神も、それぞれ異なる点は多くとも、その一点では共通であり――そしてそうであれば、互いにわかりあうことができる。 それは必ずしも幸せな結果に繋がるものばかりではありませんが、しかし素晴らしいことではないでしょうか。


 もっとも本書の場合、必ずしも全ての作品でそれが貫かれているとはいえず、その辺りも含めて、連作として成立させるのにかなり苦労したのではないかな、という印象も正直なところあるのですが…。

「ころころろ」(畠中恵 新潮社) Amazon
ころころろ


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 「いっちばん」 変わらぬ世界と変わりゆく世界の間で
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2010.10.03

「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて

 ある朝、突然見えなくなっていた若だんなの目。その原因が、思わぬことからある神様のとばっちりを受けたらしいと知った妖怪たちは、若だんなのために東奔西走することに。しかし仁吉も佐助も、行く先々で事件に巻き込まれ…果たして若だんなの目に光りは戻るのか!?

 刊行からずいぶん遅れての紹介で恐縮ですが、「しゃばけ」シリーズ第八弾「ころころろ」であります。
 これまで同様、長崎屋の若だんなと、手代の仁吉と佐助をはじめとする妖怪たちが巻き込まれた事件が描かれる短編集ですが、今回は少しばかり趣向が異なります。

 それは、本書に収録された短編が、それぞれ独立しつつも、内容的には繋がりを持つこと。
 本書では、突然若だんなの目から光りが奪われた謎と、若だんなを救うために奔走する妖たちの騒動が描かれているのです。

 これまで散々その病弱ぶりが描かれてきた若だんなですが、しかし失明は初めて。
 しかもそれが、何者かの祟りによるものとくれば…と、いうわけで妖怪たちの犯人と治療法探しが始まるわけですが、それがもちろんこちらの期待(?)を裏切らず、更なるドタバタ騒動に繋がっていくという寸法です。


 本書に収録された作品は全五編。まず最初の「はじめての」は、少し時間を遡って、若だんながまだ十二歳の時分の話であります。
 目の神様・生目神の社再建のために奔走する少女を助けるため、若だんなが一肌脱ぐお話ですが、実はこれが若だんなの初恋物語。
 社再建に関する詐欺事件を解決する若だんなですが、しかし初恋は実らないもの、という言葉通り…な結末が切ないお話です。

 そして次の「ほねぬすびと」では現在に戻り、ここで若だんな失明事件が起きることになります。
 折しも、長崎屋ではさる大名家から輸送を依頼された贈答用の干物が、店の倉から消え失せたという大事件が発生。
 このままでは店の先行きが危ういという中、若だんなはこの一件の始末と、己の目から光りを奪った者探しという二つの難題に挑むのですが…
 一見全く関係ないこの二つが意外なところで繋がるのがなかなか面白いのですが、しかし若だんなの目は治らずに物語は続くことになります。

 さて、続く二編では、仁吉と佐助、若だんなを守る二人の兄やが、若だんなの目を治すため、仕事そっちのけで江戸中を駆けめぐる中で巻き込まれた事件が描かれることになります。

 まず表題作の「ころころろ」で描かれるのは、一連の件に関係のある河童を求めて江戸の町をゆく仁吉が巻き込まれるどたばた騒動であります。
 河童を追っていたはずが、少女の霊が宿った生き人形に妖を見る目を持つ少年、おまけにろくろっ首に骨傘と、おかしな面子の守り役を勤める羽目になってしまう仁吉。
 普段はクールな印象の強い仁吉が、勝手の違う相手に振り回される姿が実におかしく、物語展開も先の読めない賑やかな一編です。

 思ったより長くなってしまったので、明日に続きます。

「ころころろ」(畠中恵 新潮社) Amazon
ころころろ


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2010.10.02

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」(漫画版)第2巻 もう一つのヒヲウ戦記

 先日まで各話紹介を行ってきた「機巧奇傳ヒヲウ戦記」には、「マガジンZ」誌に連載されていた漫画版が存在します。
 ビフォアストーリーに当たる第一巻については既に紹介しましたが、それ以降、ヒヲウが活躍すアニメ本編に当たるる第二巻から第四巻までも、取りあげないのは勿体ない、というわけで、これから一巻ずつ紹介していきましょう。

 さて、前置き(言い訳)が長くなりましたが、第二巻以降のストーリー「文久篇」は、アニメ本編に当たる部分でありつつも、様々な点で異なる内容となっています。

 この第二巻には、ヒヲウが機の民の村を離れ、長い旅に出ることになる冒頭のエピソードと、旅の最中に立ち寄った山中の村でのエピソードが途中まで収録されています。
 二番目のエピソードは完全に漫画オリジナルですが、冒頭のエピソードは、アニメ版の第一話・第二話をほぼなぞったもの。

 しかし、決定的にアニメ版と異なるのは、この時点で江戸で風陣に狙われていた華と雪の身柄を預かった才谷が、ヒヲウの前に登場することであります。
 そのため、華と雪が逃げ込んだためという原因は加わったものの、ヒヲウたちの村が風陣の攻撃を受け、ヒヲウたちを残して全滅するという展開は同じで、これより「文久篇」が始動することとなります。

 そして続くエピソードは、アラシたちの本格登場篇にして、完全にオリジナルのエピソード。
 マスラヲを訪ねての旅の途中、入江・山県・伊藤ら長州の志士三人と合流したヒヲウたちが誘われた山中の瀬渡村には、風陣の罠が…

 というストーリーは、村そのものが風陣の機巧に改造されているというド派手な仕掛け、そしてアニメ版ではほんのチョイ役だった伊藤をはじめとする吉田松陰門下生たちの登場――これも、この前に才谷と松陰の冒険が描かれたという理由があるかと思いますが――と、実に豪華な内容。

 そしてそれを背景に、村人全てを人質にして戦うアラシと、村人全てを救おうとするヒヲウの姿が対照的に描かれるのも実に印象的で、アニメに勝るとも劣らない、もう一つの「ヒヲウ戦記」として見事に成立していると感じた次第です。
(この瀬渡村のエピソード、ラストがまた泣かせるのですが、それを収録しているのは第三巻なのでまた後ほど)


 さて、このもう一つの「ヒヲウ戦記」には、アニメと比べて、描写の面で特徴・相違があるようにも感じます。
 それは、人の生き死にがより明確に描かれていることであります。

 瀬渡村のエピソードでは、アラシが村人を人質に取った際の、赤ん坊型機巧の描写がなかなか強烈――意に反する行動を取った時には、背中に背負わされた機巧が首の骨をへし折り、さらに止めようとした周囲には背中から棘を飛ばして攻撃する――で、兵器というより、「人を殺すための機巧」の存在をこれ以上ないほど明確に示して強く印象に残ります。

 そしてもう一つ、この第二巻で印象に残るのは、才谷が風陣の忍びを射殺する場面。
 もちろん、嫌悪感と悲しみを示しつつではあるのですが、アニメでは最終回になるまで人を殺めなかった才谷が、ここで人を殺めるとは!? と大いに驚かされました。


 こうした点も含めて、もう一つの「ヒヲウ戦記」をじっくりと楽しみたいと思います。

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」第2巻(神宮寺一&会川昇&BONES 講談社マガジンZKC) Amazon
機巧(からくり)奇伝ヒヲウ戦記 (2) (マガジンZKC (0032))


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2010.10.01

「猛き黄金の国 柳生宗矩」第1巻 戦争と対峙する剣士の姿

 柳生石舟斎を父に持ちながらも自らの生きる道に迷い、放浪していた柳生又右衛門は、父に伴われて出会った徳川家康の在りように感銘を受け、家康の下に仕えることとなる。柳生新陰流の奥義、人に希望を与える満月の姿を実現するために、又右衛門――宗矩は己の生涯を賭ける。

 一部の時代ものファンの間で話題になっていた「猛き黄金の国 柳生宗矩」の単行本第一巻が発売されました。
 これまで岩崎弥太郎、斉藤道三を主人公に描かれてきた「猛き黄金の国」ですが、意外、第三の主人公は、徳川幕府創生期の三人の将軍に仕えてきた柳生宗矩であります。

 宗矩という人物は、一剣士から大目付へと、相当に触れ幅の広い――そして、その活動内容がさして世に知られていない――生涯を送っていますが、この第一巻では、24,5歳の又右衛門と75歳の宗矩と、二つの時代を行き来することにより、それを浮き彫りにする試みがなされています。

 若き日の又右衛門は、己の修得した剣を如何に用いるべきか悩んだ末に、家康の下に身を置くことによって、それを生かす道を模索する姿が――
 一方、晩年の宗矩は、一度得られた太平の世を守るため、必要とあらば三代将軍家光を斬ることすら辞さない姿が、それぞれ描かれることになります。


 さて、個人的に強く印象に残ったは、この晩年の宗矩の姿であります。
 権謀術数に長けた、いわゆる黒い宗矩は、たとえば「柳生一族の陰謀」などで世に知られた感があります。

 本作における宗矩は、やはり、同じく謀臣で知られる土井利勝からその汚れ仕事を揶揄されるほどであり――いやそれどころか利勝本人を――その点では従来のイメージに則りつつも、しかし、その目指す点は大きく異なります。

 この宗矩の物語の時代背景となるのは、満州族に攻められた明国による、日本への援兵要請であります。
 この辺りは、「国性爺合戦」などでも描かれるところですが、この要請に応えるか否か
――すなわち海外に出兵するか否か――が、本作においては、宗矩と家光の対立軸。

 海外での戦いにおいて己の力を示さんとする家光と、それが天下を乱すものとしていかなる手段を用いても阻まんとする宗矩と…そこに描かれる宗矩の姿は、白でも黒でもない平和の鬼とも言うべきものであります。

 そして、この海外での戦い、天下太平のためではない更なる戦いに抗する姿勢は、実は、又右衛門の物語でも描かれることとなります。
 又右衛門が家康に仕えた頃に行われていた海外での戦いとは、秀吉の朝鮮出兵。家康は、この秀吉の姿勢を愚かと断じ、この戦いを終わらせるために、一見非情とも臆病とも見える手段で、当たるのです。

 いわば本作は、又右衛門と宗矩の、二つの物語を、戦争との対峙という軸でもって、まとめあげたものと言えるでしょう。

 これまでの「猛き黄金の国」の主人公たちは、激動の時代の中で、己の才能一つで頭角を現してきた人物。
 それに比べると宗矩はいささか毛色が異なるように思いますが――己のためではなく天下のためとはいえ――己の力でもって激動の時代に対峙した人物という点では共通なのでしょう。

 本作で語られる「天下無敵」のあり方…単に力が最強ということではなく、敵を無くす、すなわち戦いをなくす、そのために生涯を賭けた宗矩像。
 何とも意外で、しかし魅力的な姿ではありませんか。

「猛き黄金の国 柳生宗矩」第1巻(本宮ひろ志 集英社ヤングジャンプコミックスBJ) Amazon
猛き黄金の国 柳生宗矩 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

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