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2010.10.26

「ご存じ遠山桜 ふたり金四郎大暴れ!」 開幕、鳴海講談!

 桜吹雪の彫り物を背負った遊び人の金次と、北町奉行・遠山金四郎。生まれも育ちも身分も違う二人は、しかし瓜二つの顔だった。ひょんなことから意気投合し、兄弟盃を交わした二人は、一晩だけの約束で入れ替わる。が、それぞれ入れ替わった先で事件に遭遇した二人は、力を合わせ鳥居耀蔵に挑むことに。

 鳴海丈先生の新刊「ご存じ遠山桜 二人金四郎」であります。
 仮題の段階では「艶色講談」の角書がついていたように記憶していますが、「艶色」はまあいつものこととして、今回は「講談」。 どうやらこれから講談のヒーローたちを鳴海先生流の解釈で描いていく、その第一弾が本作のようです。

 さて、その本作は、タイトルにあるとおり、二人の金さんの物語。
 遠山の金さんといえば、時代劇や講談に興味のない方でもまずご存じだと思いますが、実像に比べ、虚像が一人歩きしている印象も強い人物であります。

 その最たるものが、あの、金さんのトレードマークと言うべき桜吹雪の彫り物でしょう。この点については、その有無から大きさ、柄に至るまで諸説紛々ですが、本作の解釈は実に明快――
 遠山金四郎は彫り物をしていなかった! しかし彫り物をしたもう一人の金さんがいた! …これであります。

 一人目の金さん、遠山金四郎は北町奉行。庶民の暮らしを慈しみ、天保の改革の行き過ぎに心を痛めつつも、幕府の官吏として孤独に戦う好漢であります。
 もう一人の金さん、遊び人の金次は、三度の飯より喧嘩好きという暴れん坊。しかし決して人の道は外さず、困った者を見過ごしにできない、これまた好漢です。

 この二人が出会って意気投合、瓜二つとくれば…というわけで(?)入れ替わることになるのですが(その理由がまた、男としては別の意味でグッとくるのです)、もちろんただで済むわけがない。
 たった一晩のはずが、金四郎は、金次の長屋の娘・お咲をさらった一味を追う途中、反撃を受けて川落ち、行方不明に。一方、戻れなくなった金次の方は、本物に代わって将軍の御前でお裁きをする羽目に…

 と、これはまだまだ二人の冒険の序の口。この後二人は、それぞれの立場から、金四郎の宿敵である天保の妖怪――そう、鳥居耀蔵の悪事に挑むことになります。
 最近は時代ものでの扱いは悪役一辺倒というわけでもないように感じられる鳥居様ですが、本作では徹頭徹尾の腐れ外道。

 色欲財欲権勢欲、とにかく人間の悪いところを集めたような悪人として描かれており、この辺り個人的にはちょっと不満ではあるのですが、まあ良しとしましょう。
 そう、本作はあくまでも正義が勝ち、悪が滅びる勧善懲悪、講談の世界。
 話の深みやリアリティといった点では食い足りない部分があるやもしれませんが、しかしそれよりもエンターテイメントを優先する立場は、大いに正しいと感じます。

 そしてまた――そんな世界だからこそ、描けるものもあります。
 必ず正義が勝つとはとても言い切れない世の中。それどころか、拠り所にするべき法の権威すら信じられない現実…そんな中で、法の正義を体現し、悪を滅ぼす、そんなヒーローが小説の中くらいいても良いではありませんか。
(それにしても、作中で金四郎が挙げる、冤罪があってはならない理由三箇条はタイミングが良すぎます)
 そしてそこに、鳴海先生が現代に講談を甦らせようという意図もあるのでしょう。


 …などと小理屈を述べましたが、実のところ本作は、まさに理屈抜きの痛快作。
 何よりも、金四郎と金次の、身分や立場の違いを超えた熱い熱い男の友情と、それが結実して炸裂する、まさに「ご存じ遠山桜」を逆手に取ったクライマックスは、痛快の一言であります。

 今後も予定されているという鳴海講談も、期待して良さそうであります。


 そういえば細谷正充氏の解説で、二人金四郎ネタである高木彬光先生の「素浪人奉行」シリーズが挙げられていなかったのは…マイナーだからでしょうね、やっぱり。


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コメント

どうもおひさしぶりです。

鳴海作品は常々愛読しておりますが、この作品はひさびさの大当たりでした。読み始めたら途中でやめられず、一気に読んでしまいましたもの。
鳴海作品は男装少女萌えにはたまらないのです。鳴海氏は「『萌え』の起源」(PHP研究所)でも時代劇ヒロインに多くページを割いて、なかなか興味深いですよ。

ところでこの手の作品で気に入ったのが越後屋の「蔭丸忍法帳 奥義無刀取り」(幻冬舎) です。官能描写メインの作品でありながら幼い日の十兵衛が出てきたりして剣豪小説として読んでもかなり面白かったです。

投稿: 鱧 | 2011.04.27 14:54

鱧様:
こちらこそお久しぶりです。この作品、遠山の金さんのお約束を逆手に取ったような展開が面白かったですね。
そして鳴海作品といえば、もう男装少女は切っても切れないものと申せましょう…

それにしても、最近は官能時代小説にも伝奇ものとして面白そうな作品がありそうですね。いずれ読んでみようと思っている次第です。

投稿: 三田主水 | 2011.05.03 00:54

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