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2010.10.24

「みみらく遊撃隊 幕末幻島海戦記」 道楽四人組、秘境での冒険へ

 時は幕末、札差の隠居・久兵衛、旗本の次男坊・美津左衛門、岡っ引きの金三、欠けら屋の巳之吉の道楽四人組は、琉球の双子の巫女・ユーリとユーマと出会う。なりゆきから彼女たちを助けて幻の島・みみらくを目指すことになった四人組は、薩摩藩、幕府と三つ巴の死闘を繰り広げる羽目になるのだった。

 タイトルとあらすじを見たときから、これは! と大いに気になっていた祐光正の「みみらく遊撃隊」をようやく読むことができました。
 死んだ者と出会えるという伝説の島・みみらくを巡り、琉球・薩摩・幕府の三つ巴の争いを描く、一大伝奇活劇であります。

 時は江戸時代後期、薩摩では島津斉興と斉彬父子の間の暗闘が繰り広げられていた頃、幼い琉球王が突然マブイ魂を落としてしまったことから物語は始まります。
 幼いとはいえ、国の中心たる王を失っては一大事。琉球の玉川王子は、双子の巫女・ユーリとユーマとともに、江戸城中から、みみらくへの道しるべとなる秘宝を奪還し、伝説の島へ向かおうとするのですが…

 しかしその前に立ちふさがるのは、薩摩の兵道家(武士修験者)、反魂入道こと丹野源十郎(「南国太平記」で暗躍した牧仲太郎の背後にいたという設定!)。
 奇怪な蠱や死人たちを自在に操る魔人は、斉興と斉彬の間で暗躍しつつも、己自身の目的を秘めて、みみらくを目指します。
 さらに、その両者の争いからみみらくの存在を知った将軍家慶も、その力を得て真の将軍として君臨しようと、超実践派の大番組の強者たちを送り込むことに。

 剣と妖術入り乱れるこの三つ巴の争い、しかし台風の目となるのが、江戸の道楽四人組というのが、本作の最大の特色であり、痛快な点であります。
 札差の隠居で博覧強記の知恵者・久兵衛、旗本の次男坊で竹光剣法の達人、竹光左衛門こと美津左衛門、元凶状持ちで今はコワモテの岡っ引き・金三、科学捜査の名人で好奇心旺盛な青年・巳之吉――
 四人でつるんでは飲む・打つ・買う三昧のお気楽な連中が、偶然ユーリとユーマと出会ったことから、この壮大な争いに巻き込まれていくことになるのです。

 秘宝争奪戦に妖術・怪物の跳梁、およそ現実離れした内容に見える時代伝奇ものにおいて、そのリアリティを担保するのは、そんな非日常的な状況に巻き込まれ、常人感覚で事件に立ち向かう、地に足の着いたキャラの存在。
 それは角田喜久雄先生の諸作などで見られる、まさに時代伝奇の王道とも言うべき構造ですが、本作はまさにそれに則ったものと言うことができるでしょう。

 江戸から薩摩、琉球そしてみみらくへ…忍者に陰陽師、生ける死人、さらには禁断の恐るべき怪物たちが入り乱れる大活劇にして、時代(伝奇)小説でも珍しい秘境冒険ものである本作が、単なる絵空事に終わらないのは、この、暢気で頼もしい四人組の存在あってこそでしょう。


 しかし――そんな本作が、諸手を挙げて傑作と呼べる作品かと言えば、実はそうでないのが何とも残念なところであります。

 簡単にいえば、本作を構成する、実に様々な要素――みみらくを巡る伝説に奇怪な忍術妖術、虚実入り乱れる登場人物と、物語と絡み合う史実などなど――物語を彩るそれらが、実に盛りだくさんに盛り込まれすぎているが故に、一つ一つの印象が薄くなってしまっているのです。
 そのため、起伏に富んだ物語であるはずが――文体が比較的淡々としたものであることもあって――イベントを次々と消化しているという印象があります。

 キャラクターの方も、これだけ個性的な面子の中で、四人組の存在感が埋没していないのは立派ですが、しかし、ラストで竹光左衛門がある人物に対して語る彼らの行動原理が、他の勢力との対比であまりはっきりと見えてこなかったのは何とも勿体ない。

 あともう少し出来事や登場人物を整理して、余裕のある物語運びにしていれば…というのが正直なところであります。


 いささか辛口になってしまいましたが、今日では貴重な真っ正面からの時代伝奇小説であっただけに、十分に楽しませていただきつつも、何とももったいないというのが正直な気持ちであります。
 この先、小うるさいマニアの口を封じてくれるような、更なる快作をものしてくれることに期待します。

「みみらく遊撃隊 幕末幻島海戦記」(祐光正 文藝春秋) Amazon
みみらく遊撃隊―幕末幻島海戦記

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