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2010.10.14

「湖上の舞」 水の密室に交錯する心

 秀吉の水攻めにより、落城寸前の備中高松城の中で、老臣・北原甚兵衛が殺害された。かつては勇猛さを知られながら、今は半ば痴呆となった甚兵衛。調査に当たる目付の川名佐吉は、甚兵衛の周囲の人物に聞き込みに当たるが、その中から浮かび上がるのは、かつて家中で起きたある事件の真相だった…

 鈴木英治先生といえば、最近では江戸時代を舞台とした市井もの、剣豪もの等の文庫書き下ろし時代小説作家というイメージがありますが、「血の城」「義元謀殺」等、その初期の作品においては戦国時代を舞台としたミステリ色の強い作品を発表していました。

 本作「湖上の舞」は、その鈴木先生のおそらくは久しぶりの戦国ミステリでありますが、これが非常にユニークな設定の作品となっています。

 舞台となるのは、天正十年夏の備中高松城――そう、羽柴秀吉により、この城を落とすための水攻めが行われる最中に、物語は展開します。

 この城内で、斬殺死体となって発見された老武人・北原甚兵衛。
 しかし、合戦中、水攻め中の状況下にあって、敵味方が城に出入りすることは不可能…つまり、巨大な密室と化した高松城での殺人事件というシチュエーションが何とも興味深いではありませんか。

 また、甚兵衛が何かの拍子に不意に呆けてしまう、いわゆるまだら呆けの状態にあったという事実が、事件を複雑にします。
 甚兵衛が呆けた際に口走った謎めいた言葉の意味は。そしてそれがこの事件にどのように関わってくるのか…
 さらに――詳しくは書けませんが――終盤で語られる、この特異な状態が事件に果たした役割の意外さには、「おお!」と唸らされた次第です。

 …しかし、本作の魅力は、単によくできた時代ミステリである点に留まりません。

 事件の捜査の過程で、主人公・佐吉が関係者から甚兵衛の過去を聞くうちに浮かび上がるのは、高松城主・清水宗治を巡る闇。
 家臣のみならず、領民からも慕われていたという宗治ではありますが、一豪族の家臣の身分から彼が城主となるまでには、幾多の血が流されてきたことが示されていきます。

 もちろん、戦国にあっては、人の血が流されるのは世の習い。
 その一つ一つに恨みを抱いていてはきりがない――それが武士の理ということは、作中で幾度となく語られますが、人の心がそれほど割り切れるものではありません。
 水の密室の中で佐吉が探り、知ることになるのは、事件の真相であると同時に、そんな人間と武士の間で苦しむ心の軋みであります。

 そして、甚兵衛が何故この時に死んだのか、殺されなければならなかったのか――その真相が、この人間模様としっかりと結びつくに至り、本作が高松城水攻めという史実を題材とするだけでなく、戦国時代でなければ起こりえない状況から生まれた人の感情が生んだ事件を描く、二重の意味での時代ミステリであると、感じ入った次第です。


 次から次へと新しい人物が登場し、その関係も込み入っているため、読みやすいとは正直なところ言い難い作品ではありますが、しかし、読んでみる価値はある作品ではないでしょうか。

「湖上の舞」(鈴木英治 朝日文庫) Amazon
湖上の舞 (朝日文庫 じ 5-1)

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