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2010.10.19

「死なない兵士」 アナザーテイル オブ…

 ボーア戦争の戦場で記憶を失っていた「俺」は、サミュエル青年に連れられ、イギリスの彼の屋敷を訪れる。そこで聞かされたのは、サミュエルの父・ダニエルがかつてクリミア戦争で出会った「死なない兵士」の物語だった…

 「異形コレクション」のテーマが「Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち」と聞いた時、まず期待したのは、編者である井上雅彦氏の序文でした。
 毎回のテーマに関連して、小説に留まらない広範でマニアックかつまことに正鵠を射た言及が行われているあの序文で、「エンバーミング THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN」について触れられるのではないか…その期待であります。

 しかし序文で私の期待は満たされることなく――しかし、それ以上の形で実現することとなりました。
 「エンバーミング」のストーリー協力、設定解説を行っている黒崎薫先生による短編「死なない兵士」が収録されていたのですから…!
(まず参加作家を確認しない私が悪いというのは、まあその通り)


 前置きが長くなりましたが、井上氏による作品解説において「アナザーテイル オブ エンバーミング」と評された本作は、しかし同時に「あの作品」のアナザーテイルでもあります。

 本作はボーア戦争の戦場から拾われた記憶喪失の「俺」を中心に展開される物語ですが、それと同時に重要な意味を持つのが、作中に挿入される形で語られる、クリミア戦争における死なない兵士の物語であります。

 スクタリの野戦病院に入院していた青年・ダニエルが、かのナイチンゲールから受けた特命――それは、病院の死亡率を上げ、さらにそこで生まれた死体を奪おうとする何者かから、病院を守るというものでした。

 名も知れぬ一人の兵士――無愛想なようでいて、不思議な知性の高さを感じさせる巨人――と共に警備を行うこととなったダニエルの前に現れたのは、死んだはずの戦友たち。
 人間離れした力と生命力を持つ死なない兵士との戦いを余儀なくされるダニエルを助ける巨人。しかし彼もまた…

 そして物語は今――1881年に戻り、再びダニエルたちの前に現れた死なない兵士たちとの戦いと、「俺」の正体が描かれるわけですが…


 正直なところ、その正体はすぐに予想はつきます。しかし、「彼」があの後に何を思ってそのような生き方をしていたのか…それを考えてみれば、何とも味わい深いものが感じられる点が実によろしい。

 そしてまた、もちろん「エンバーミング」との関連性が謳われているわけではありませんが、作中の死なない兵士たちの描写を見るに、やはりエンバーミング」と地続きの世界を感じてしまうのも事実であります。
 そうであるとすれば「彼」も…などと考えてしまうのは妄想ではありますが、やはりファンとしては期待してしまうのが、正直なところでしょう。


 個人的には、ダニエルが幾度か言及する「悪」について、作中で掘り下げて欲しかった感もありますが、物語の構成的にそれは難しかったかもしれません。
 何はともあれ、二つの作品のアナザーテイルとも言うべき本作をこうして読むことができたのは、ファンとして実に嬉しいこととではありませんか。

「死なない兵士」(黒崎薫  光文社文庫「異形コレクション Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち」所収)
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Fの肖像―フランケンシュタインの幻想たち 異形コレクション (光文社文庫)


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