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2010.11.04

「シグルイ」第15巻 最後に斬られたもの

 ついにこの日がやってきました。「シグルイ」第15巻に描かれるは、駿河城御前試合第一番、藤木源之助対伊良子清玄の二度目の、最後の真剣勝負であります。

 ようやく第一話の時点に戻ってのこの対決…結論から言えば、原作とその結果は同じでありながら、しかしそこに至るまでの経緯は異なる――それもほとんど正反対ものでした。

 これまで描かれた長い物語の中で、様々なものを喪い、そして互いへの憎しみを育ててきた藤木と伊良子。
 しかし、そんな二人の心にも、それぞれ変化が生じます。

 藤木は、三重の支えにより、己を縛る封建社会の武士という存在の呪縛から、互いへの信頼と愛情を通じてほぼ解き放たれ――
 一方、伊良子は自分と藤木が実は同じ立場にある者であることに気づき、そこから己を縛ってきた封建社会の身分制度の矛盾に対する怒りを自覚します。

 この時点で両者とも、己を縛ってきたもの、己の人生を狂わせ、苦しめてきたものがお互いの存在ではないことに気づいていたと言えるでしょう。
 そして二人は新しい生への希望を抱きます――御前試合で相手を倒すことを区切りとして。

 しかしそれが、あまりに無惨な結末を生むこととなります。
 その内容をここで詳細に述べることは、もちろん控えましょう。

 ここで言えるのは、藤木が最後に斬ったもの、それは彼自身の良心であり、封建社会に己の生を翻弄されてきた三重が希望を見いだした人間性…
 それを武士として、命に従い斬ったことが、全てを打ち砕いたのです。
(そしてその悲劇が、藤木が三重の中の魔を斬らなければ生じなかったであろうという、この皮肉!)

 冒頭に述べたとおり、ここに本作は原作とは異なる過程を経て、しかしある意味原作よりも遙かに痛烈な形でもって、同じ結末を迎えることになります。


 …もちろん本作という物語は、特殊な時代の、その中でも一際特殊な舞台があってこそ成立するもの。
 しかし、たとえそうであったとしても、その影は遠く現代に至るまで揺曳しているのではないか――そして我々はその影の下にあるのではないか。
 そんなうそ寒い思いを抱いた次第です。


 さて、必ずしも首尾一貫した構成だったとは言い難い本作ですが(やはり「がま剣法」のエピソードが浮いているのが惜しい)しかしこの最終巻、最終話を見てみれば、ここに至るまでの長い道のりがあったからこその、この結末であるとすら感じられます。

 しかし藤木の地獄は終わりましたが――いや彼にとっては今始まったのか――まだこれから地獄に赴く者たちが、あと十組いるのです。
 今回で完結したのは「シグルイ 無明逆流れ編」。
 残る残酷無惨も、山口貴由先生の手により、是非描ききっていただきたいものです。

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