「三ツ目の夢二」第2巻 現実と虚構、ネガとポジ
美しい外見に隠された醜いものを見る力を持つ第三の目を与えられてしまった竹久夢二が出会う奇妙な事件の数々を描く「三ツ目の夢二」の第二巻であります。
最愛の恋人・彦乃を失った末、地獄に赴いて彼女に再会した夢二。
しかし伊弉諾尊の黄泉国訪問よろしく、醜く変貌した彦乃の姿を目撃した夢二は必死に逃げるのですが、彦乃の呪いは彼の右掌に椿の刺青の姿をした第三の目を与えます。かくて、百八の醜いものを見る運命を与えられた夢二は…
というのが本作の基本設定ですが、この第二巻では三つのエピソードが収録されています。
友人の川端康成が寄席芸人の少女に一目惚れしたことから、寄席芸人を追う赤色防止団の騒動に巻き込まれる「チョーク・トーク」。
ラジオで人気の美人アナウンサーの写真を撮ることとなった夢二が、帝都を騒がせる女性ばかりの眠り病と彼女の意外な関わりを知る「重出立証法」。
そして大杉栄が知ったこの帝都の真実を垣間見ることになる「パノラマ」。
今回も、寄席芸アニメと川端康成と赤化防止団、モンタージュ写真と眠り病と田○○泡、そしてパノラマと大杉栄と関東大震災と、伝奇三題噺といった趣の奇想天外な物語を楽しませていただきました。
そんな本書の隠しテーマというべきものは――作者があとがきで述べているのですが一種の仮想まんが史ともいうべきもの。
アニメーションに漫画といった、現代の日本文化において欠くべからざるものの萌芽が、この大正時代に生まれていた…というのは、恥ずかしながら初めて知ったのですが、それをこの物語の枠組みの中で展開してみせたというのが実に面白いのです。
(特に「チョーク・トーク」の、物語の世界観までがアニメーションに浸食されていくシュールさには驚かされます)
なるほど、ジャンルはいささか異なるものの、漫画やアニメーションも、夢二が携わる絵画や写真と同じく、現実を写し、切り取って、もう一つの現実を生み出す技。
その意味で、この出会いはむしろ必然なのかもしれません。
さて、その物語・物語世界も、「パノラマ」において、また異なる様相を――その真実の姿を垣間見せることとなります。
あの無政府主義者・大杉栄が知ってしまった「終わらない大正」の帝都の秘密。
その正体とその仕掛け人を知った時、我々はこの世界を支えるものが、根底から崩れ去る音を聴くことになります。
「終わらない昭和」を題材にした作品を数多く手がけてきた大塚氏ですが、本作の舞台となるのは「終わらない大正」――関東大震災が起こらなかった世界。
この点については、第1巻のあとがきで既に触れられていたのですが、しかし、実感としてよくわからなかったというのが正直なところでした。
それが、このように鮮やかな形で突きつけられることとなるとは思いもよりませんでした。
そして、大杉栄と甘粕正彦を写した夢二の第三の目に映った「醜いもの」の衝撃たるや――
ここにおいて、第三の目が写し出すもの、現実と虚構、美しさと醜さは鮮やかに、そして恐るべき形でその位置を逆転することになります。あたかも写真のネガとポジのように。
作品としては、この巻をもっていわゆる「第一部完」となった本作ですが、しかしこの結末には、満足というほかないのであります。
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