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2010.11.08

「早雲の軍配者」 関東三国志前夜の青春群像

 北条早雲に仕える風間一族の少年・小太郎は、その非凡な学問の才を見いだされ、将来を担う軍配者となるため、足利学校に送られる。足利学校で山本勘助、曾我冬之助ら才能ある若者たちと友情を結ぶ小太郎だが、北条家と上杉家の開戦を期に呼び戻される。それは、友との戦場での再会を意味していた…

 いま書店でなかなかの評判となっている富樫倫太郎先生の「早雲の軍配者」をようやく読むことができました。
 軍配者というのは、単なる軍師の役割に留まらず、気象予測、易学や陰陽道、戦場での作法など、戦争全般に関わるブレーン役。
 本作の主人公・風摩小太郎は、この軍配者となるために、修行を積むこととなります。
 それにしても、風摩(風魔)小太郎と言えば、風魔一族の頭領として知られた人物。
 しかし、本作においては、早雲に仕えて忍び働きを行う風間一族は登場する(そして小太郎はその初代頭領の息子ではある)のですが、しかし小太郎は、忍びとは異なる、軍配者として設定されているのが実に面白い。

 本作は伝奇性は薄い(この他、山本勘助の「正体」が目を引く程度?)のですが、しかし、このキャラ設定のひねりは、かつて極めて個性的な伝奇小説を次々とものしてきた富樫先生らしい…と感じます。

 そして、その本作には、そのほかにも、幾つか他の戦国ものにない、ユニークな特徴を持っています。

 その一つは、舞台設定であります。
 本作の背景となるのは北条早雲(伊勢宗瑞)の晩年から、その子・氏綱の時代まで。
 戦国時代の関東は、後に北条・上杉・武田の三家が鎬を削る、いわば関東三国志の状態となりますが、本作はその前夜ともいうべき時代が舞台となるのです。

 早雲を描いた作品や、その孫・氏康の頃を舞台とするものは少なくありませんが、その間、北条家が関東における地位を確立するこの時期――実にこの時期こそ、滅亡前を除けば北条家が最も揺れ動いた時期なのではないかと思うのですが――の関東を描いた作品は少なく、まずその着眼点に感心します。

 そしてそれ以上にユニークな点は、そこで展開される物語が、青春もの――いやそれどころか、一種学園ものであることであります。
 本作の中盤の舞台となる足利学校は、漢籍仏書を講述する学問所というイメージがありますが、しかしこの時代においては、一口にいえば軍配者の養成所の役割を果たしておりました。
 小太郎はこの「学校」で学び、そこで出会った友と友情を育むこととなります。

 我々にとって、学校とはもっと後世の、(早くとも江戸時代といった)平和な時代に存在するものというイメージがあります。
 当然、そこで展開されるドラマもまた…と思っていたのですが、何と戦国時代で学園ものを展開するとは…と、大いに驚きました。
 そして、そこで展開する小太郎たちのドラマが、そのまま、先に述べた関東三国志の行方に繋がっていくのがまた面白い。
 北条家の小太郎、扇谷上杉家の曾我冬之助、やがて武田家に仕える勘助…図らずも、足利学校で出会い、交誼を結んだ三人の若者が、やがて関東を動かす軍配者に成長していくというのは、たまらないロマンがあるではありませんか。


 しかし、本作においては、小太郎の、三人の物語はまだまだ始まったばかりのところで幕となります。
 この辺り、おそらく読者のほとんど全員――もちろん私も含めて――が不満に感じる点ではないかとは思いますが、おそらくこれだけの人気が出ているのであれば、続編を目にする日は、さほど遠くはありますまい。

 不満と言えばもう一点、小太郎があまりにも良い子に過ぎる、さらに言えば早雲をはじめとして北条家がみな仁君過ぎるという点も、気にかからないでもありません。

 もっともこの辺りは、武ではなく智によって戦いを勝利に導く、軍配者という存在を考えれば、相応しい設定かもしれません。
(史実においても、北条家は戦国大名でほとんど初めて分国法の制定や検地を行った、統治の達者という印象があります)

 何よりも、血で血を洗う戦国時代を舞台としつつも、この設定が、本作をして、実に爽やかで気持ちの良い読後感をもたらしていることは間違いありません。

 単なる北条家に仕える軍配者ではなく、早雲の理想を体現する軍配者、真に「早雲の軍配者」として立つ小太郎の姿を、早く見たいものです。

「早雲の軍配者」(富樫倫太郎 中央公論新社) Amazon
早雲の軍配者

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