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2010.12.07

「鬼の作左」第1巻 情と覚悟の鬼見参

 小田原出陣にあたり、駿府城に豊臣秀吉を迎え入れた徳川家康。だが、秀吉の前に膝を屈した家康を怒鳴りつける隻眼片足の男がいた。それは本多作左衛門重次、「鬼作左」その人だった。天下人をも恐れぬ絶対の忠義心を持つ豪傑の物語。

 あの料理漫画史上に残る怪作「鉄鍋のジャン」で知られる西条真二が、本多重次を描いた「鬼の作左」が面白い…との評判を聞き、遅ればせながら手に取りました。
 なるほど、これは紛れもなく西条漫画…であって、同時に痛快な豪傑の姿を描いた快作。作中に頻出する「ハハハハハ」という笑い声をこちらも上げたくなるような痛快な作品です。

 本多作左衛門重次は、松平清康・広忠・家康の三代に仕えた、まさに生粋の三河武士。 この物語は、秀吉の小田原攻めの場面から始まりますが、その時点で片目片足、手の指もほとんど失われ、見るからに恐ろしい「鬼」の異名も頷けるビジュアルであります。

 しかし作左をはじめとする三河武士団の恐ろしさは、単に見かけの恐ろしさだけではありません。
 作中で大久保彦左衛門が大谷吉継が語ったところによれば、「血まみれになって笑っている家来どもこそが徳川武士の基本」、主君たる家康のためであればどのような地獄にも笑って突撃する強者揃い。

 戦の後、家康を中心に、血まみれの三河武士団が「ハハハハハ」と呵々大笑しながら凱旋するシーンの見開きは、本作のある側面を象徴する名場面でありましょう。
 いやはや、狂っているといえば(「死ぬことと見つけたり」の影響で)鍋島武士が一番と思っていましたが、さすがに天下を取った男の配下は違います。

 この辺りの、悪人狂人スレスレのキャラ描写は、まさに西条真二にとってはお手の物。読む前から間違いなく似合うだろうと思っていましたが、期待通りの描写でした。
(ちなみに本作の信長はスレスレじゃなくて完全に向こう側)


 しかし、本作の魅力は、単にそうした常人離れしたキャラクター描写のみにあるのでは、決してありません。
 その容姿と言動から鬼と恐れられる作左ではありますが、しかし本作で描かれるその姿は、決して単なる戦闘狂でも暴力バカでもなく、むしろ冷静で理知的ですらある一廉の人物であります。

 この巻でも後半に描かれますが、作左は三河では奉行――すなわち行政のトップとして手腕を見せた人物。
 武官と文官の区別がこの時代どれほどあったのかはわかりませんが、しかしいずれにせよ非凡な才能の持ち主ではあります。

 そして何よりも魅力的なのは、その「情」の部分でしょう。
 若き日の家康が、松平家の長としての使命・生き様と、有能な家臣たちを死なせることの苦しみとの間で板挟みとなっていた時に、あえて悪役を買って出ながら、進むべき道を指し示し、そしてその道を不惜身命の覚悟をもって、先陣切って突き進む姿が、実に良いのです。

 「情」と「覚悟」を持った「鬼」――題材のユニークさとエキセントリックな描写が目立ちますが、決して色物ではない、味のある時代コミックであります。


 ちなみに冒頭では成長した姿が登場していますが、この巻のラストでは少年時代の大久保彦左衛門が登場。
 これが意外なことに(?)才子といった佇まいのキャラクターで、彼がこれからどのように作左と絡んでいくのか、こちらも気になるところであります。

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コメント

本多作左というと、NHKの大河ドラマですら描写を避けた、家康の秀吉への初謁見時に、(人質になっていた)母親の大政所を焼き殺そうとした有名なエピソードがありますが、それがどう処理されるか・・・たぶん完全に家康サイドのこの漫画では、大政所がクソ婆になるのでしょうが(笑)。

投稿: ジャラル | 2010.12.11 16:23

ジャラル様:
まったく楽しみですねえ(笑)
しかし、無茶苦茶なヤツをもっと無茶苦茶なヤツが叩きのめすというフォーマットが、ここまで戦国ものに似合うとは…

投稿: 三田主水 | 2010.12.13 00:08

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