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2010.12.16

「闇御庭番 江戸城御駕籠台」 権力に挑む七人と一匹

 公儀御庭番・菅沼外記は、将軍家慶の下命で佞臣・中野石翁追い落としの裏工作を行い、見事成功させる。が、その腕を危険視した水野忠邦と鳥居耀蔵は外記を暗殺せんとする。死を装って身を隠した外記は、配下たちとともに闇御庭番を結成、改革の名の下に庶民を苦しめる水野・鳥居に敢然と立ち向かう。

 早見俊が、以前だいわ文庫で第五作まで発表したシリーズの第一弾、将軍直属の隠密として活躍する闇御庭番チームの誕生編であります。

 主人公・菅沼外記は、五十歳を目前としたベテランの御庭番。若き日から御庭番にその人ありと知られた腕利きであります。
(ちなみに、現在、若き日の外記を主人公にしたシリーズが静山社文庫で展開されています)

 舞台となるのは、十一代将軍家斉が亡くなった直後――それまで大御所として実権を握ってきた家斉が亡くなり、ようやく自らの手で政を行えることとなった家慶ではありますが、その障害となる家斉の寵臣・中野石翁追い落としを、外記は命じられることとなります。

 偽手紙を使って見事この任務に成功する外記ですが、この部分はまだ本作のプロローグに過ぎません。
 この成功により、かえってその存在を危険視され、暗殺されかけた外記は、己を含めた七人と一匹――外記、外記の腹心で俳諧師の庵斎、血を見るのが嫌いな居合の達人・正助、記憶力抜群の絵師・春風、錠前破りの名人の魚屋・義助、幇間の一八、外記の娘で催眠術の使い手・お勢、そして外記の愛犬・ばつで、生き延びるための戦いに臨むことになります。

 折しも天保の改革が始まったばかりの江戸は、その厳しすぎる取り締まりのため、庶民が苦しめられる毎日。
 その改革を推進するのが、外記を除こうとした水野忠邦と鳥居耀蔵…というわけで、外記たちは自らのため、天下万民のため、水野と鳥居に対し、御庭番ならではの裏の手段で暗闘を仕掛ける――というのが本作の物語であります。

 何しろ敵は幕府の実質的最高権力者、それに挑むのですから、真っ当な手段で正面から戦えるわけもない。
 周辺を探る鳥居の配下を闇に紛れて消し、水野派の大名屋敷から大金を盗み出して庶民にバラ撒く…

 と、これが主人公の側でなければ絶対悪役の所業になりそうなことをやっていくのがなかなかに面白い。
 途中で水野の暴走を知った家慶から、将軍直属として、庶民を守り水野・鳥居を懲らしめる「闇御庭番」の命を受け、大義名分を得てからはまさに天下御免。

 もちろん、ほとんど独断の暴走とはいえ、水野も鳥居もあくまでも幕府の臣であり、政を担うもの。
 思い切って討ってしまう方が簡単かもしれない相手をいかに懲らしめるか…その一種不可能ミッションが本作のクライマックスとなっています。

 まだまだ導入編ということで、外記以外のキャラクターの個性はまだ薄目(その意味ではチームの人数がちょっと多いかと)。
 しかも結構ポロポロとミスをするのが気になってしまうのですが、こちらは、それがラストの展開への伏線になっているので、そう思ってしまう自体、作者の術中にはまっているのかもしれません。

 何はともあれ、天保の改革を動かす幕府の権力そのものに刃を突きつけた闇御庭番の七人と一匹。
 大きすぎる相手にどう挑むのか、先が気になるシリーズではあります。

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