« 「快傑ライオン丸」 第09話「死を呼ぶ吸血怪人ゾンビー」 | トップページ | 「もろこし紅游録」(その二) 結末と再びの始まりと »

2010.12.27

「もろこし紅游録」(その一) 銀牌、歴史を撃つ

 武侠+ミステリという非常にユニークな設定で武侠ファンの間で話題となった秋梨惟喬の「もろこし銀侠伝」に続く待望のシリーズ第二弾「もろこし紅游録」が登場であります。
 今回も前作同様、全四篇からなる短編集ですが、舞台となるのは春秋戦国時代から民国時代まで、実に二千年ほどの隔たりのある時代。黄帝が造ったという天下御免の銀牌――この銀牌を持ち、この世の勢(システム)を維持するために戦う銀牌侠も、作品によって様々な姿で登場し、活躍することとなります。
 今回も、各作品毎に紹介していきましょう。

「子不語」

 斉国の都で続発する殺人事件。被害者はいずれも体に無数の傷を付けられ、顔を潰されていた。事件の背後には恐るべき怨念が…

 舞台となるのはシリーズの中で最も古く、春秋戦国時代の斉(田斉)。仕官や栄達を求めて大陸中から秀才が集まるこの国で起きた連続殺人の謎に、思想家・慎到が挑みます。

 本シリーズを貫く勢(システム)の理論――国を、世界を、いや万物の秩序を支配し、理論立てるこの理論は、後に「韓非子」に取り入れられ、その柱の一つとなるものですが、本作においては、冒頭に述べたように、銀牌侠によって守られるべき中華世界の秩序を示したものとして描かれます。

 そしてその勢の理論を生み出したのが、この慎到。
 いわば銀牌侠の生みの親である彼が登場する本作は、時系列的にも内容的にも、(現時点では)シリーズで最初に位置する作品であります。

 そのような性格の作品のためか、内容的には武侠度は薄いのですが、ミステリとしては、一見、単なる辻斬りと思われた連続殺人が、ある共通点から解き明かされていく様がなかなか面白い。
 顔を潰された死体というのは、ミステリにしばしば登場するシチュエーションですが、本作でのその理由には驚かされました。

 もっとも、事件の背後にある動機はある意味アンフェアの極みであり、現代の我々から見ればありえないものと映るのですが、しかしそのギャップこそが、ある意味事件の起きた理由であり、その時代ならではのものという点で、ユニークな歴史ミステリと言うべきでしょう。


「殷帝之宝剣」

 武林を震撼させた達人殺しの犯人を倒し、伝説の殷帝之宝剣を手にしたという破剣道人。しかし今度は道人が密室で殺害される…

 時代はぐっと下って明代、前作に収録された「北斗南斗」と同じ時期の物語です。

 武林で達人が次々と殺され…というのは、武侠小説(特に古龍あたり)の定番パターンの一つ。
 旅の途中、謎めいた主従と出会い、雨宿りのため人里離れた道観に赴いた主人公。そこに集っていたのは武林の超一流の達人たち…
 というシチュエーションだけで嬉しくなりますが、そこで主人公が、中華世界を震撼させた連続暗殺魔を倒したという破剣道人が何者かに殺害される場面を目撃することで、一気に密室ミステリとしての色彩を強めていくことtなります。

 密室殺人のトリックは、連続殺人は終息したのではなかったか、そして道人が手に入れたという伝説の宝剣の正体は…
 短編ながら、様々な要素が盛り込まれて、なかなか豪華な作品です。

 しかし本作の真の見所は、一連のトリックが明かされた先に浮かび上がる、「真犯人」の意図でしょう。
 その意図は、壮大で、そして作中でも言われるように、あまりにも無理があるものではありますが、しかし歴史を振り返れば決してあり得ないものではなく…そして、武侠ものならではのものなのです(更に言えば、シリーズの展開を受けているのも心憎い)。

 武侠ものの定番を踏まえつつ、その背後の歴史を撃つ――くせもの揃いの本シリーズらしい作品です。


 後半二作は次回取り上げます。

「もろこし紅游録」(秋梨惟喬 創元推理文庫) Amazon
もろこし紅游録 (創元推理文庫)


関連記事
 「もろこし銀侠伝」(その一) 武侠世界ならではのミステリ
 「もろこし銀侠伝」(その二) 浪子が挑む謎の暗器

|

« 「快傑ライオン丸」 第09話「死を呼ぶ吸血怪人ゾンビー」 | トップページ | 「もろこし紅游録」(その二) 結末と再びの始まりと »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/50410024

この記事へのトラックバック一覧です: 「もろこし紅游録」(その一) 銀牌、歴史を撃つ:

« 「快傑ライオン丸」 第09話「死を呼ぶ吸血怪人ゾンビー」 | トップページ | 「もろこし紅游録」(その二) 結末と再びの始まりと »