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2010.12.17

「女陰陽師」 混乱の幕末に立つ少女?

 井伊直弼の懐刀・長野主膳の正体は陰陽師だった。後ろ盾の直弼を失った主膳は、自らが仕込んだ弟子の女陰陽師・八瀬を、和宮のもとに送り込む。自分と瓜二つの和宮のため、江戸降嫁の影武者となって中山道を行く八瀬に、次々と死の罠が襲いかかる。師・主膳のおぞましい真の狙いを知った八瀬は…

 幕末ものを得意とする加野厚志が、十年前に発表した異色作であります。
 十年前といえば、安倍晴明を中心とした陰陽師ブームの時期ですが、幕末を舞台とするのが作者らしい…というに留まらないインパクトのある作品であります。

 何しろ、井伊直弼のブレーンだった国学者・長野主膳が、実は陰陽師だったという設定。
 しかもこの主膳、両性具有めいた怪人物であり、奇怪な霊力をもって幕末の闇に暗躍するからすさまじい。

 この主膳に仕込まれた本作の主人公たる女陰陽師・八瀬もまた、ただの美少女ではありません。
 その名が示すように帝に仕える八瀬童子の出身である八瀬は、幼い頃より主膳に色々と(本当に色々と)仕込まれ、呪殺など物騒な術を操るヒロイン。

 美少女陰陽師というとキャッチーに聞こえますが、むしろそのキャラクターや活躍ぶりは、小池書院やリイド社的というか――何しろ主膳曰く、「女陰陽師」は、「おんな・おんみょうじ」ではなく「にょいん・ようじ」と読むのだそうですから…

 さて、その八瀬が巻き込まれることになるのが、かの和宮降嫁であります。
 直弼の死後、八瀬を和宮の影武者に送り込んだ主膳。実は八瀬は和宮と瓜二つ、この時あるを予知して主膳は八瀬を弟子にしていたというのですが…

 危険が予想される道中の人身御供として八瀬を差し出すことにより、降嫁を仕組んだ岩倉具視に接近することを目論んだかに見えた主膳の真の狙いは、しかし実はあまりにおぞましいもの。
 八瀬の胎に己の胤を仕込み、そのまま大奥に送り込んで、己の血を徳川将軍家に送り込もうというのです。

 幼い頃から師に仕込まれ、その命に忠実に従うばかりであった八瀬も、このおぞましい企みを知り、そして何よりも和宮の清澄な気に触れたことにより、己の意志でもって師に背き、対決することとなります。
 対決の場は、降嫁の行列が京から江戸に道中する中山道――次から次へと襲いかかる刺客、怪異に、必死に八瀬は挑むことになる…というのが本作の中盤以降の展開であります。

 しかし、その展開の内容も、いかにも加野節。
 誰が敵で誰が味方か全くわからず、その両者が瞬時に入れ替わるような状況下で、主人公が孤立しつつも謎に挑むのが加野作品の定番パターンですが、本作もその流れのまま――いや、それ以上の苦闘を、八瀬は強いられることとなります。

 己が女性であるばかりに巻き込まれた戦いと、女性であるばかりに追い込まれた苦境。
 しかしその戦いの中で、八瀬は己自身というものを見つめ、自分自身の信念のために命をかけて戦うことを決意します。
 すなわち、真の「女陰陽師(おんな・おんみょうじ)」の道へ――本作は、混乱の幕末を舞台とした伝奇小説であると同時に、少女の自立を描いた作品なのです。

 …と言いたいところですが、主人公像が、あくまでも「男性から見た強い女性」に留まっているため、それが実感できないのを何と評すべきか。
 いずれにせよ、ユニークな作品であることは間違いないのですが…

「女陰陽師」(加野厚志 祥伝社文庫) Amazon

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