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2010.12.23

「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第1巻 少年は西方を目指す

 九州の小国・播磨家でうつけと呼ばれる当主・晴信には、この世のすべてを記述した万國大百科を完成させたいという夢があった。他家が四人の少年を羅馬に派遣することを知った晴信は、己を暗殺しに来た凄腕の忍び・朧夜叉の桃十郎を供にして、世界を見るために自ら使節団の船に乗り込む。

 天正10年(1582年)、四人の少年――伊東マンショ・千々石ミゲル・原マルチノ・中浦ジュリアンが、大友宗麟らにより、羅馬(ローマ)に派遣されました。
 このいわゆる天正遣欧少年使節については、若桑みどりの「クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国」に取り上げられていますが、今回紹介する「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」は、その天正遣欧少年使節異聞というべきユニークな作品です。

 舞台は本能寺の変で信長が死に、まだ世情混沌とした時代。しかし本作の主人公、九州の小国の当主・播磨晴信は、城を飛び出しては周囲の事物を観察する毎日…
 そんなある日届いたのが天正遣欧少年使節を送るとの知らせ。播磨家も人を――ただし正規の使節ではなく雑役を行う者を――出すことを求められた晴信は、あろうことか晴信は自分がローマに向かうと言い出します。

 しかしそんな動きとは無関係に、彼を亡き者とし、より優秀な弟を当主とせんとする者たちに雇われた忍びに襲われる晴信。
 が、自分を襲った凄腕の忍び・朧夜叉の桃十郎を、逆に雇い入た晴信は、彼をローマ行きの供に加えてしまうのでありました。
 かくて家を捨て、桃十郎と二人、遣欧使節の船に乗り込んだ晴信の冒険が始まることとなります。


 そんな本作の第一話を読んだときには、あからさまに有馬晴信(の名前)をモデルにしたキャラクターが、自ら欧州に向かうという設定に驚いたものですが、しかし、読み進めてみると、これが意外と悪くない。

 当時の世界情勢や、旅の途中に立ち寄る土地や晴信たちが乗る船の描写など、本作を時代ものとして成り立たせている背景設定のディテールが描き込まれているため、突飛なはずの物語が、無理なく受け止められるのです。

 そして何よりも、晴信の人物造形がユニークであります。
 武士の家に生まれながら戦いを好まず、夢はこの世のすべてを記述した万國大百科を完成させること――そんな学者肌のキャラクターでありながら、しかし内に籠もることなく、どこまでも明るく外向きに、夢と理想を求めていく晴信。

 明るさ前向きさを全面的にアピールしていくそのキャラクターは、師匠の藤田和日郎とは似て非なる熱血描写であって、(僕を認めてアピールが強すぎる気がして)個人的にはちょっと苦手なのですが、そこに、実は晴信が戦で親兄弟を失っているという、戦国ならではの背景を絡めてくる辺りのドラマ性に、素直に感心させられました。

 バトル面でも、力はからっきしでも、様々なものを観察しているうちに、完璧な計測術を身につけ、それが間合いの見切りに繋がるというのも面白い。
 なりゆきから(?)彼に仕えることとなった桃十郎が、彼と触れ合ううちに人間性を得ていくという辺りも、お約束ではありますがやはり良い展開です。


 この第1巻では澳門までの旅が描かれましたが、まだまだ羅馬への道は遠いですし、少年使節たちとの距離もまだ離れています。
 しかしそれは、これからのお楽しみ。使節の晩年は不遇でしたが、さて、晴信の将来は…楽しみにしましょう。

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