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2011.01.26

「武蔵三十六番勝負 2 水之巻 孤闘!吉岡一門」 その剣は何のために

 三年の潜伏の後、京に入った武蔵。破落戸から娘を救ったことがきっかけで、武蔵は本阿弥光悦から巨大な太刀を授かる。一方、家康の武蔵抹殺命令を受けて、京都所司代は、日本一と名高い吉岡一門に武蔵との対決を命じる。刺客が次々と武蔵に敗れ、ついに総力戦を挑んできた吉岡一門に対し、武蔵は…

 楠木誠一郎版宮本武蔵伝「武蔵三十六番勝負」、第一巻と同時発売された第二巻は「孤闘! 吉岡一門」。
 吉岡一門とは、言うまでもなく吉岡清十郎、伝七郎らのあの吉岡一門、宮本武蔵物語であれば、彼らとの対決は定番中の定番エピソードですが…本シリーズらしいアレンジが施されていることは言うまでもありません。

 家康、幸村双方を敵に回し、命を狙われる身となった武蔵。本作では、傷を負った彼が山中に迷い込み、親切な父娘に救われるところから始まります。
 そこで土に親しみ、三年もの間平和に暮らした武蔵ですが、野盗の襲撃により束の間の
平穏を破られた彼は、山を出て京に向かうことになります。

 そこで本阿弥光悦と出会い、巨大な太刀「無」を与えられたのも束の間、天下のお尋ね者である武蔵は捕り手に追われ、逃げ込んだ先で出会ったのがあの沢庵宗彭。

 これまた武蔵物語ではお馴染みの沢庵ですが、本作では物静かな言動でありながら、既に歴戦の強者である武蔵をも圧倒する人物なのが面白い(特に、武蔵が全力で走っても沢庵の歩くのに追いつけない、という描写が良い)。
 そこで又七、おりょうの二人の幼なじみに出会う武蔵ですが、再会を喜ぶ間もなく、吉岡一門からの挑戦状が――


 と、本作の最大の特徴は、吉川武蔵では挑戦する立場だった武蔵が、逆に吉岡一門から挑戦状を叩きつけられる立場になったことでしょう。
 もちろんこれには、京に武蔵が出現したことを知った京都所司代の依頼を吉岡一門が受けた、という裏はあります。
(この辺り、相変わらず家康が武蔵にそこまで執着することに今一つ得心がいかないのが気になるところではありますが…)

 つまりこの決闘は、武蔵抹殺のための一手段でしかないと言えるのですが、しかしそれが、本作の――吉川武蔵と比較しての――特異性を示しているのです。
 すなわち、剣は悟道のための手段ではなく、あくまでも殺人のための手段、それも権力者の命により振るわれるものなのだと…

 もちろん、本シリーズの武蔵からして、悟道とはほど遠い人物であります。
 実父を殺した罪の意識から死を望み、「死にたいのだ、殺してみよ」と底光りする目で対峙した相手に告げる武蔵は、しかし望ましい死を求めるあまり、それに相応しくない者に対して容赦ない死を当たる矛盾した存在なのですから…

 その矛盾に満ちた武蔵の生き様は、しかし、彼の逃げであるとも言えます。
 彼がそれと向き合い、己の剣を己自身のため、己が生きるため、人を生かすための手段として使うことができるのか…それは、武蔵一人の生き様だけでなく、権力と対峙した個人の在り方を示すものになるのでしょう。

 その道のりは、今はまだ遙かに遠く険しいものとしか思えませんが――

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