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2011.01.31

「猛き黄金の国 柳生宗矩」第2巻 鬼たる政府に向けて

 剣術指南役として、大目付として、いやそれ以上に精神的な柱として徳川将軍を支えた柳生宗矩の生涯を描く「猛き黄金の国 柳生宗矩」の第2巻であります。
 第1巻同様、舞台とする時代を自在に変えつつ描かれる宗矩の姿は…

 第1巻において、家康を自らが仕える主と定めた宗矩ですが、第2巻の前半で描かれるのは、その彼が家康の下で初めて経験することとなる巨大な戦――関ヶ原の戦であります。

 宗矩が、関ヶ原の戦の少し前から家康に仕え始め、そしてこの戦で戦功あったというのは、様々な場で伝えられるところですが、しかし本作の関ヶ原においてむしろ強く印象に残るのは、その前後に描かれる、家康像でありましょう。

 家康にとって、関ヶ原の戦は勝つべくして勝った戦い…いや、それ以前に、起こすべくして起こした戦い。
 天下を簒奪するのではなく、自らの手に収まるようにし向け、そして治める…そのための敵として三成を仕立てあげ、そして周囲の全てを、それと気づかせぬまま、自分のための戦いに突き進ませる――いやはや、貫目が違うとしか言いようがありません。
(ちなみに、本作で死の床についた秀吉が、家康を相手に同様のことを考えていたことが語られるのも面白い)

 本作においては、有名な三成の末期の柿のエピソードは、宗矩が佐和山の領民の名を借りて献じたことになっているのですが、しかしそんな宗矩の善意は、家康にとっては無意味なもの。
 ここで宗矩に対して家康が語った、天下を治めるために作らなければならないのは、一人の英雄ではなく、鬼たる政府、という言葉は、その後の宗矩の人生を決定づけるものであったというべきでしょう。

 そして巻の後半では、壮年から初老の辺りまで、時代を移しながら、オムニバス的に宗矩と彼の周囲の事件が語られていきます。

 宮本武蔵の挑戦、十兵衛と家光の不仲、その家光に過剰な寵愛を受けた友矩…
 どれも、虚実取り混ぜ、既存の柳生もので見たことのあるエピソードではあるのですが、しかしそこに本作ならではの視点が織り交ぜられているのは言うまでもありません。

 特に面白いのは武蔵のエピソードでしょう。宗矩の親友でもある沢庵を通じて、宗矩に挑戦してきた武蔵。
 それに対し、武蔵の指定の場に現れたのは、柳生兵庫と少年柳生十兵衛――柳生にはもう一つの顔があると語る兵庫と武蔵の対決は、一見引き分けに見えて、くっきりと明暗を分けることとなります。

 武蔵が柳生一門と対決して敗れ、その中で己の道を悟るというのは、五味康祐の「柳生武芸帳」でも印象的なエピソードですが、本作ではそれを敷衍しつつも、柳生のもう一つの顔を、実に漫画的に豪快にわかりやすくも、本作のテーマにも沿った形で示しているのが面白いのです。
(ここで顔を見せた十兵衛ですが、その次のエピソードで語られる、彼が隻眼になった理由というのも面白い)


 時代が飛び飛びになる、あるいは前後するというのは、本作の特徴の一つですが、一歩間違えると混乱を招きかねない手法ではあります。 
 しかしエピソードの選択と配列の仕方により、単なる宗矩伝ではなく、一定の方向性を持った作品としているのが面白い。

 結末は最初に示されているようなものではありますが、しかしそこにどのようにしてたどり着き、そしてそれまでに語られたエピソードがどのような意味を持つのか…
 その結末を迎える日は遠くないようにも思いますが、その日が楽しみではあります。

「猛き黄金の国 柳生宗矩」第2巻(本宮ひろ志 集英社ヤングジャンプコミックスBJ) Amazon
猛き黄金の国 柳生宗矩 2 (ヤングジャンプコミックス BJ)


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 「猛き黄金の国 柳生宗矩」第1巻 戦争と対峙する剣士の姿

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2011.01.30

二月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 平成23年、2011年を迎えたと思ったらもう次の月。まだまだ寒い日が続きますが、あともう少しで春になるかと思えば、この寒さもまた大事にしたいものです…
 という前振りとは全く関係なく、2月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 2月の文庫時代小説は、寂しいようなそれなりに作品があるような微妙な印象。

 とりあえず目玉は、オサキシリーズの高橋由太の新作「大江戸もののけ犯科帖 雷獣びりびり」でしょう。
 タイトルからわかるとおり、今回ももののけ大活躍の時代ものということで、おとなしい文庫書き下ろし時代小説界に風穴を開けていただきたいものです。

 そのほか、文庫新作では、今年も快調の上田秀人が「記録に止めず」(作者のサイトによれば「家康の遺策」)と「闕所物奉行 裏帳合」シリーズ第4弾「旗本始末」の二作を引っさげて登場。
 また、発売が延期になっていた大久保智弘の「御庭番宰領」シリーズ第6弾「妖花伝(仮)」(あれっ、それは第4作のタイトル…と思ったらあれは「秘花伝」でした)も発売されるようです。

 また、文庫化では、三ヶ月連続刊行だった宮本昌孝「ふたり道三」が完結。
 また、三雲岳斗の平安アクション「カーマロカ」改め「煉獄の鬼王 新将門伝説」、漫画版も連載中の和田竜「忍びの国」なども発売されます。
 さらに、風野真知雄の「四十郎化け物始末 妖かし斬り」も版元を角川書店に移して再登場。角川では「妻は、くノ一」シリーズが完結間近ですが、もしかすると次のシリーズ化を睨んでいるのでしょうか。


 漫画の方はWebコミックに移籍してしまった河合孝典「石影妖漫画譚」2、この巻で完結か? の猪熊しのぶ「雪月記」3、現在第二シリーズが連載中の「柳生無頼剣 鬼神の太刀」2、最近作品の文庫化が目立つ高田裕三の「幻蔵人形鬼話」上巻と、信長ネタでタイミングもいい(?)碧也ぴんくの「天下一!!」3と、既存のシリーズ作品が占めています。

 と、かまたきみこの「まぼろし恋奇譚」も発売予定。収録作品は不明ですが「妖かし恋奇譚」が非常にユニークな時代短編集だっただけに、こちらも期待してしまうのです。


 映像ソフトでは、おお懐かしやの「幕末機関説いろはにほへと」のDVD-BOXが出ますが、個人的には「龍の忍者」の方が気になるかなあ…(酔狂な)

 また、ゲームの方ではやっぱり出ると思ったPS3版、「戦国無双3Z」が発売されます。ゲーム自体の出来は悪くないと思うので、Wiiを持っていなかった方、宗教上の理由で買えなかった方はどうぞ。私はWii版の「戦国無双3 猛将伝」を買います。


 最後に、私はこれも時代伝奇と言い張りますが、以前双葉社から刊行されていた富士原昌幸のスパロボ外伝漫画「龍虎王伝奇」がアスキー・メディアワークスから再刊されます。
 第二部の続きは…ないんだろうなあ。



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2011.01.29

「ご落胤隠密金五郎 しのび姫」 琉球の美姫、江戸の休日

 水野忠成の妾腹の子・金五郎は、家を飛び出して市井に暮らし、家老の土方縫殿助の依頼で隠密の真似事をしていた。ある日、町で侍たちに取り囲まれた娘・真美由を助けた金五郎だが、彼女は琉球王家の姫だった。大奥入りを嫌って逃げ出した彼女を匿う金五郎だが、二人に薩摩の追っ手が迫る。

 新年も快調に作品が刊行されている早見俊の新シリーズは「ご落胤隠密金五郎」であります。
 将軍家斉の側用人・水野出羽守忠成の妾腹の子で、窮屈な武家暮らしを嫌って家を飛び出し、いまは気ままな市井暮らしの主人公・金五郎が半ば道楽、半ば生計の手段としているのが、なんと隠密稼業。
 実家の家老・土方縫殿助が持ってくる依頼を受けては小遣い銭を稼ぐという、何だか色々な意味ですごい設定の作品であります。

 それにしてもご落胤が隠密とは…という気もしますが、金五郎は実は習い事マニア、武芸十八般はおろか、忍術も修行したことがあるという設定なので心配ご無用(?)
 作中でも金五郎は長屋の隣人の落語家に弟子入りして、落語を習い始めたりするのですが、この辺りから察せられるように、本作はかなり明るいタッチの、肩のこらないエンターテイメントとなっております。

 とはいえ、単にお気楽ヒーローが脳天気に事件を解決するだけではないのが本作の面白いところ。実のところ、彼の挑む事件も、彼を取り巻く環境も、なかなかに重いのです。

 今回、金五郎が巻き込まれるのは、琉球の姫にまつわる事件であります。
 薩摩藩の手により江戸に連れてこられたところを逃げ出し、追っ手に囲まれたところを金五郎に救われた本作のヒロイン・真美由姫が金五郎と共に市井の暮らしを経験し、二人の間には淡い想いが…
 という時代劇版ローマの休日パターンの本作ではありますが、しかし、彼女を取り巻く状況は、ロマンチックなものでは決してありません。

 何しろ、薩摩藩が彼女を江戸に連れてきた理由は、彼女を大奥に入れて、将軍家斉の側室にすること。つまりは彼女を人身御供に、将軍家とのパイプを太くしようという企みであります(それも、家斉の寵が島津家出身の正室から薄れたから、という理由なのもけしからん話)。

 そして、美女には目のない家斉のために彼女を連れ戻そうというのが水野忠成。その意を受けた縫殿助の依頼が、当の姫を匿っている金五郎のところに回ってくるのも皮肉な話ですが、いずれにせよ、女性一人の人格を無視して、自分の利益のために動かそうということは変わりません。
 さらにそこに、将軍愛妾・お美代の方の養父である中野清茂(後の中野石翁)も絡んできて、物語は、狐や狸の化かし合い的な様相すら呈してきます。

 考えてみれば、いくら本人が望んだとはいえ、実の子に、表に出せない陰働きをさせるというのもひどい話ではありますが…
(しかし妾腹の子をこき使う父というのは、時代ものでは定番の設定ですな)。

 そんな重たく綺麗事ではない現実に対して、金五郎は真美由を守って戦うこととなります。果たして何が彼女にとっての幸せなのか、そして現実に取り得る道は…終盤で金五郎の打った手は、苦く切なくも、現実を見据えたものと言えるでしょう。


 …と、必要以上に重い印象を持たせるような書き方をしてしまいましたが、やはり本作の基本はエンターテイメント。
 無邪気で野放図な主人公の言動に、悪人たちが勝手に振り回されていく展開などは、なかなかに愉快なのです。
(特に、金五郎が儒者髷にしていたために薩摩藩が勝手に金五郎像を作り上げていくあたりはうまい)

 眠狂四郎をはじめとして、様々な時代劇に悪役として登場する土方縫殿助が、本作では金五郎に手を焼く爺的役回りなのも、個人的には楽しめました。

 これから先、金五郎は何を挑み、何を学んでいくのか、当然発表されるであろうシリーズ第二弾も楽しみであります。

「ご落胤隠密金五郎 しのび姫」(早見俊 徳間文庫) Amazon
しのび姫―ご落胤隠密金五郎 (徳間文庫)

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2011.01.28

「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘!

 「無限の住人」第27巻、今回は表紙の色合いがちょっと地味ですが(しかし中身は派手な逸刀流勢ぞろい)、物語の方はまだまだ盛り上がります。
 今回は(今回も)万次と凛はお休みして、逃げる逸刀流と、追う無骸流&六鬼団の激突であります。

 六鬼団の目を眩ますために街道を行く、副統主・阿葉山率いる逸刀流の一団。
 そこに追いついた六鬼団から阿葉山を逃がすため、逸刀流見習い(?)たちは六鬼団の三人に挑むのですが…
 無理矢理逃がされた阿葉山の前には、江戸から追ってきた無骸流の偽一と百淋が立ちふさがり、ここに二つの場所で逸刀流と幕府側の戦いが繰り広げられることになります。

 ここで何といっても盛り上がるのは、阿葉山対偽一の対決であります。
 片や、副統主として天津不在を束ねる隻腕の老剣士・阿葉山。片や、統領の吐を除けば無骸流剣士最強の偽一。
 言ってみれば両陣営の副将戦ではありますが、しかし実力だけで見れば、本作でも屈指の二人(たぶん万次よりも強い)であり、この二人が激突して盛り上がらないわけがありません。

 特に、阿葉山の方は、恐らくは強いだろうと思いつつも、今まで刀を抜いたことはほとんどなく――無骸流の密偵を斬った時くらい?――その技も謎だったのですが、今回明らかになったそれは、実にこの漫画らしいもので素晴らしい。
 阿葉山の失われた腕、その代わりに肩から取り付けられていたのは、何と二条の鎖分銅。彼の武術は、この鎖分銅と剣術を組み合わせた外連の技ではありますが…しかしこれが実に強い。

 近づこうとすれば堅固な楯となり、離れていても自在の軌道を描く矛となる――しかも、二条がバラバラに動くことにより、防ぐことも難しく、さらにそちらに気を取られれば、今度は刀が襲いかかる…
 無茶と言えば無茶な技ではありますが、しかし外連の技を描かせれば、屈指の腕前を持つ作者の筆にかかれば、それが超現実的な存在感を持って、浮かび上がります。

 古今、鎖分銅を武器とするキャラクターは時代劇に無数に登場しますが、その中でも阿葉山は屈指の迫力とリアリティ…というのは言い過ぎかもしれませんが、同じく鎖付きの得物を操る偽一との対決は、実に本作らしい変態剣術対決で、大いに堪能させていただきました。

 その副将対決の間、六鬼団に挑むのは逸刀流見習いの剣士たちですが、しかしこれはかませ犬以外の何ものでもなかったのは、これは残念というか仕方ないといいましょうか。
 外国人対決を始めたり、突然鬼畜な本性(この辺の悪趣味さは実に作者らしい)をむき出しにしたりするキャラこそいたものの、突然という印象は否めず…

 とはいえ、ある意味誰もが納得の扱いであり、最後に挙げた戦果を考えれば、以て瞑すべし…ではありましょう。


 そして副将対決の決着をもって終結した今回の戦い。
 こと本作においては、兵の多寡はさまで戦況に影響しないとはいえ、あまりに逸刀流に不利な状況となってきた中、逆転の目はあるのか。
 いや、その大きな戦いの輪の中から現在リタイア状態の主役カップルはどうするのか、という点も含めて、盛り上がりっぱなしの最終章はまだ続きます。

「無限の住人」第27巻(沙村広明 講談社アフタヌーンKC) Amazon
無限の住人(27) (アフタヌーンKC)


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2011.01.27

「東海道四谷怪談 日本の妖異」 三重構造の怪談

 松の廊下の刃傷で改易となった浅野家。赤穂家の浪士たちが仇討ちに逸る中、伊右衛門が田宮お岩に夢中になっていた。しかし求婚をお岩の父に断られた伊右衛門に、田宮家の中間・直助権兵衛がある誘いを持ちかける。直助の悪魔の囁きの背後には、人知を超えた妖異の世界の戦いがあった。

 「ゲゲゲの女房」効果か、何度目かのブームのただ中にある感もある水木しげる作品。今回「東海道四谷怪談」が何度目かの復活を遂げたのも、そのブームのおかげもあるでしょう。ありがたい話です。

 さて、この「東海道四谷怪談」、あまりにも有名な怪談ではありますが、しかしそれが水木しげるの手にかかれば、四世鶴屋南北の原作から、驚くべき飛躍を遂げることとなります。

 何しろ、最初の場からして、地の底深く、八百万の妖怪たちが妖怪城に集う祭りの場面なのですから凄まじい。
 妖怪たちの王の御前で催されるこの祭りを司るのは、竜一族と天邪鬼一族。しかし、天邪鬼側の奸計により恥をかかされた竜が暴れたことから、竜一族は誅戮されることになります。

 どこかで聞いたような展開ですが、滅びたはずの竜一族の生き残りが人間界に逃れたことから、それを追って天邪鬼一族の使者も、人間界に向かうことになります。
 その天邪鬼こそは、原作でも伊右衛門と組んで悪事を働いた直助権兵衛。
 直助は、お岩こそは竜の魂を宿す者と睨み、伊右衛門を操ってお岩を殺そうとするのですが…

 というわけで、ここで妖怪たちの世界の物語は、お馴染みの四谷怪談の世界と、見事に融合することとなります。
 この後も、伊右衛門とお岩が原作に近い運命を辿る一方で、、不動明王の呪法を用いる怪僧・浄念や妖怪谷の妖怪たちが登場したり、かと思えば原作でも重要な役割を持つ赤穂浪人・佐藤与茂七が、彼らと関わりを持ったり…
 野放図に展開していく物語が、実に楽しいのであります。

 考えてみれば、原作の「東海道四谷怪談」は、「仮名手本忠臣蔵」外伝として、忠臣蔵の世界と対比される二重構造となっていたわけですが、本作ではさらにその上に妖怪の世界を設定することにより、三重構造を形作っているのが面白い。

 忠義に凝り固まった忠臣蔵に対し、人間の生々しい欲望を描き出した原作。そこに、それを超越した――しかし、やっていることは人間の世界と大差ない――妖怪の世界からの視点を持つことにより、本作はさらに俯瞰的な、人間のせせこましい感情を笑い飛ばす視点を持ったと言えるかもしれません。

 結末での伊右衛門の扱いはいかがなものかと思わないでもありませんが、作者が赤穂浪士側に共感するとも思えないことを考えれば、むしろ人間の欲に忠実な伊右衛門は――後半の所業はともかく――好ましいものなのかもしれませんね。

「東海道四谷怪談 日本の妖異」(水木しげる&鶴屋南北 ホーム社漫画文庫) Amazon
東海道四谷怪談 日本の妖異 (HMB M 6-9)

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2011.01.26

「武蔵三十六番勝負 2 水之巻 孤闘!吉岡一門」 その剣は何のために

 三年の潜伏の後、京に入った武蔵。破落戸から娘を救ったことがきっかけで、武蔵は本阿弥光悦から巨大な太刀を授かる。一方、家康の武蔵抹殺命令を受けて、京都所司代は、日本一と名高い吉岡一門に武蔵との対決を命じる。刺客が次々と武蔵に敗れ、ついに総力戦を挑んできた吉岡一門に対し、武蔵は…

 楠木誠一郎版宮本武蔵伝「武蔵三十六番勝負」、第一巻と同時発売された第二巻は「孤闘! 吉岡一門」。
 吉岡一門とは、言うまでもなく吉岡清十郎、伝七郎らのあの吉岡一門、宮本武蔵物語であれば、彼らとの対決は定番中の定番エピソードですが…本シリーズらしいアレンジが施されていることは言うまでもありません。

 家康、幸村双方を敵に回し、命を狙われる身となった武蔵。本作では、傷を負った彼が山中に迷い込み、親切な父娘に救われるところから始まります。
 そこで土に親しみ、三年もの間平和に暮らした武蔵ですが、野盗の襲撃により束の間の
平穏を破られた彼は、山を出て京に向かうことになります。

 そこで本阿弥光悦と出会い、巨大な太刀「無」を与えられたのも束の間、天下のお尋ね者である武蔵は捕り手に追われ、逃げ込んだ先で出会ったのがあの沢庵宗彭。

 これまた武蔵物語ではお馴染みの沢庵ですが、本作では物静かな言動でありながら、既に歴戦の強者である武蔵をも圧倒する人物なのが面白い(特に、武蔵が全力で走っても沢庵の歩くのに追いつけない、という描写が良い)。
 そこで又七、おりょうの二人の幼なじみに出会う武蔵ですが、再会を喜ぶ間もなく、吉岡一門からの挑戦状が――


 と、本作の最大の特徴は、吉川武蔵では挑戦する立場だった武蔵が、逆に吉岡一門から挑戦状を叩きつけられる立場になったことでしょう。
 もちろんこれには、京に武蔵が出現したことを知った京都所司代の依頼を吉岡一門が受けた、という裏はあります。
(この辺り、相変わらず家康が武蔵にそこまで執着することに今一つ得心がいかないのが気になるところではありますが…)

 つまりこの決闘は、武蔵抹殺のための一手段でしかないと言えるのですが、しかしそれが、本作の――吉川武蔵と比較しての――特異性を示しているのです。
 すなわち、剣は悟道のための手段ではなく、あくまでも殺人のための手段、それも権力者の命により振るわれるものなのだと…

 もちろん、本シリーズの武蔵からして、悟道とはほど遠い人物であります。
 実父を殺した罪の意識から死を望み、「死にたいのだ、殺してみよ」と底光りする目で対峙した相手に告げる武蔵は、しかし望ましい死を求めるあまり、それに相応しくない者に対して容赦ない死を当たる矛盾した存在なのですから…

 その矛盾に満ちた武蔵の生き様は、しかし、彼の逃げであるとも言えます。
 彼がそれと向き合い、己の剣を己自身のため、己が生きるため、人を生かすための手段として使うことができるのか…それは、武蔵一人の生き様だけでなく、権力と対峙した個人の在り方を示すものになるのでしょう。

 その道のりは、今はまだ遙かに遠く険しいものとしか思えませんが――

「武蔵三十六番勝負 2 水之巻 孤闘!吉岡一門」(楠木誠一郎 角川文庫) Amazon
武蔵三十六番勝負(二)  水之巻 --孤闘!吉岡一門 (角川文庫)


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 「武蔵三十六番勝負 1 地の巻 激闘! 関が原」 新たなる武蔵伝始動

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2011.01.25

「快傑ライオン丸」 第13話「怪人ウミカブロと人食い怪魚」

 ウミカブロは、死んだ魚からフナシドキを生みだし、海辺の人々を次々と食い殺していく。ウミカブロに父を殺され、仇討ちのために海に向かう小太郎・小次郎を追う獅子丸だが、二人と共に砂の下の洞穴に落ち、太刀を手放してしまう。窮地に陥る獅子丸だが、小太郎たちの勇気に力を振り絞り、太刀を取り戻して変身。洞穴を脱出してウミカブロを倒し、フナシドキも滅びるのだった。

 今回も怪人が二体(二種類)登場、タコ怪人ウミカブロと、その術で生み出される人食い怪魚フナシドキが暴れ回るのですが――とにかく、ウミカブロとフナシドキが怖い、気持ち悪い!

 ウミカブロはタコと言いつつ、その体色や体のディテールはイソメやゴカイ系の気持ち悪さで、しかも目が真っ赤という悪夢のようなデザイン。
 フナシドキの方は、四つん這いで現れ、声もなく(呼吸音らしきものはあり)ぺたぺたと近づいてきて食い殺そうとする知性のなさが恐ろしい。体液は黄色ですし。
(ちなみにウミカブロ=海禿はともかく、フナシドキってなんじゃい…と思えば、長崎は壱岐に伝わる人食い魚なんですね)

 ウミカブロは死んだ魚を見つけては術でフナシドキに変え、人間を口から吐き出す毒液で殺しては、フナシドキに食わせるという猟奇風味で、しかも戦闘員がミイラ忍者。
 こんなのに襲われれたら、村人もたまったものではありません。作中では一斉に山に逃げ込んだり(しかし山にもいるフナシドキ)、恐怖のあまり発狂したりと、ホラー風味横溢の回であります。

 撮影の関係(たぶん)でフナシドキが一度に一匹しか画面に現れないことや、ちょっと間延びした殺陣のおかげでずいぶん救われて(?)いますが、シチュエーション的には今見ても怖いものがあります。

 さて、お話的にはこの怪物たちに父親を殺された二人の少年・小太郎と小次郎を中心に展開されます。

 村の娘・しの(沙織に並ぶ腿っぷり)から、仇討ちに逸る二人を止めて欲しいと頼まれた獅子丸は、ヒカリ丸で単身浜辺に急ぐも、二人ともども砂の下の洞穴に落ち、金砂地の太刀も手放してしまいます。。
 しかも洞穴にウミカブロが毒ガス(を噴き出すブツ)を投げ込んできたため、三人は大ピンチに…

 と、ここで上から投げ込まれたということは、上に繋がる場所があるはずだと気付く小太郎は本当に賢い。
 そんな小太郎たちの勇気と知恵に大いに発憤した獅子丸ですが、体は既にボロボロ…
 金砂地の太刀は、落ちてきた穴に繋がる天井近くに引っかかり、手が届きません。

 と、そこに襲いかかってくるミイラ忍者。これを必死で斬り倒した獅子丸は、そこに積み上がった死体を踏み台に太刀をキャッチ。獅子丸も賢い!

 そして変身して子供たちと洞穴を脱出したライオン丸にミイラ忍者たちが襲いかかるのですが――無言でライオン丸に近づいていって目の前で棒立ちになり、杖についた刃を回転させるウミカブロが意味不明です。
(ちなみにこの前に沙織・小助を襲うシーンでは、刃を回して砂を巻き上げ、引っかけるというしょぼい攻撃を披露)

 それに構わず、次々と襲いかかるミイラ忍者を、自分のマントが絡まっちゃうくらいの勢いでバサバサと斬り倒すライオン丸。
 ミイラ忍者たちは逆ハの字に立ったまま動きを止め、次の瞬間一斉に倒れます。格好いい!

 そして取っ組み合いでゴロゴロ砂の斜面を転がり落ちたライオン丸とウミカブロ。
 樹上に飛び乗ったライオン丸に向けて毒液を放ったウミカブロは、誤って自分の顔面に毒液をかけてしまい、苦しむ隙に叩き斬られるのでした。

 創造主が斃れて、フナシドキも皆死んだ魚に戻り、まずはめでたしめでたし。
 勇気ある子供たちの姿に、獅子丸もゴースンとの戦いの決意を新たにするのでした。


 ちなみに今回、ヒカリ丸が砂の斜面を走って来るシーンは地味に凄いと思います。


今回のゴースン怪人
ウミカブロ
 死んだ魚からフナシドキを生み出すタコ怪人。口からの白い毒液で人を殺し、フナシドキに食わせる。先にX字に交差した刃のついた棒を持つ。
 海辺の戦いでライオン丸を苦しめるが、自分の毒液を浴びて苦しむ隙に斬られた。

フナシドキ
 ウミカブロが生み出した怪魚。水陸を問わず四つんばいで歩き、人間の死体に食いついて瞬く間に白骨にしてしまう。
 一体一体は子供に倒されるくらい弱いものの、何匹も登場。ウミカブロが倒されて死んだ魚に戻った。


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2011.01.24

「異形コレクション 江戸迷宮」(その六) 一八人一八様の迷宮

 長きに渡りました「異形コレクション 江戸迷宮」全作紹介も、いよいよ今回でラストであります。

「ぐるりよーざ いんへるの」(加門七海)

 お千代が見せられたお守りは、小さな南蛮人の手を切って干した物だという。客の他愛のない嘘は、しかしお千代の中で…

 ラスト一つ前を飾るのは、虚実を問わず、江戸東京を舞台とした様々な綺譚を描いてきた作者の一編。
 頭の弱い少女が、客から見せられた手の形のお守り。小さな南蛮人を捕まえてその手を切り落とし、干して飾りにしたものだという客の話は、もちろん他愛もない――それでいてどこか底冷えするような――ホラ話ではありますが、しかしそれが少女の無垢な心に残ったとき、怪異は始まります。

 心に強く焼き付いたその南蛮人の物語が、少女の中では真実となり、そして現実を変容させていく…
 そこまでは、思春期の少女を描いた怪談として、ある意味予想の範囲内ではあります。

 しかし、彼女の前に現れたものの行動と、それがもたらした結果が、虚実のあわいをやすやすと突き抜けていく様には、ただ唖然とさせられるばかり。

 そして、それと平行して描かれてきた、あくまでも現実の中にに生きる彼女の姉の想いが絡み合った時――そこに現れる最後の怪異を何と表すべきか。

 人の救いは、天国と地獄はどこにあるのか…そんなことを考えさせられた次第です。


「宿かせと刀投げ出す雪吹哉――蕪村――」(皆川博子)

 ボロボロになった短刀を剥師に持ち込んだ梵論字。彼の語る短刀の来歴は。

 最後を飾るのは、まさに「綺譚」という言葉が似合うユニークな掌編。

 吹き出物が出たような短刀を持った梵論字が、研師での手入れを断られ、行った先は剥師のもと。
 疱瘡の跡が残った者の顔の皮を剥ぐという剥師に対して梵論字が語るのは、その短刀がぼろぼろとなった理由なのですが…

 いかにも作者らしく、泉鏡花を思わせる、美しく、それでいてきびきびとリズミカルな文章で描かれるのは、どこまでが現でどこまでが幻かわからない世界。
 いや、本を閉じてみればそれが幻でしかないと思っても、読んでいる間に目の前に広がっているのは、あり得ない、しかしそこに間違いなく存在する事物の数々であります。

 最後の一行のあまりに美しくも鮮やかな味わいといい、文字通り切れ味鋭い一編であります。

 …さて、ほぼ一週間にわたり続けて参りました「江戸迷宮」収録作品紹介。短編集一冊の紹介は珍しくありませんが、今回は今までで一番楽しい経験となりました。

 何しろ収録された一八作品全てが、それぞれのスタイルで、それぞれに面白い。
 実は異形コレクションで一冊読み通して、かつ満足するということは今までなかったのですが、今回は初めて、ほぼ一冊丸々楽しませていただきました。

 しかし考えてみればそれも道理、今回の執筆者はは、ほとんど全員が時代小説・歴史小説プロパーではないものの(例外は岡田秀文くらいでしょうか?)、しかし紛れもなく、異形コレクションで江戸を描くには、ベストに近いメンバーだったのですから…

 私の長く拙い紹介を見るまでもなく、既に興味のある方はご覧になっているかとは思いますが、もしまだの方がいらしたら、是非手に取っていただきたいと思います。


 一口に江戸といっても、様々な意味がそこにはあります。土地としての江戸、時代としての江戸、幕府の中心としての江戸、それらを包括した概念としての江戸…
 本書に収められた作品で描かれた江戸は、その多様な江戸の顔、まさに迷宮のように入り組んだ江戸という存在を、それぞれの角度から切り取り、描き出したもの。

 一八人一八様の江戸迷宮に、一人でも多くの方が迷い込んでいただきたいと願う次第です。

 そしてまたいつか、このような素敵な一冊に出会えることも――

「異形コレクション 江戸迷宮」(井上雅彦編 光文社文庫) Amazon
江戸迷宮―異形コレクション (光文社文庫)

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2011.01.23

「異形コレクション 江戸迷宮」(その五) 江戸を遠く離れて

 「異形コレクション 江戸迷宮」もいよいよ終盤。残すところもあとわずかになりました。

「闇に走る」(藤水名子)

 密書を胸に、夜の闇を走る隠密・蔵人。しかし脱出のためには、魔所と言われる菅埜の森を通り抜ける必要が…

 最近ではめっきり主役になることが減ったとはいえ、やはり忍者は時代ものの華。公儀隠密を主人公にした本作は、江戸に向かう忍者と怪異の対決を描いた作品なのですが…

 幼なじみであり、長じては二人一組で活躍してきた公儀隠密・蔵人と十郎左。任務の際には常に蔵人が探索結果を胸に江戸に走り、十郎左は妨害者の足止め役として戦う名コンビであります。

 さる藩の命運を握る密書を江戸に届けるという任務のため、いつもの如く逃走役と足止め役に分かれた二人ですが、しかし蔵人の前に広がるのは、怪死者が相次ぐという呪われた森。任務のために足を踏み入れた蔵人を待つものは…

 と、シリアスな展開と裏腹に、待っているのは――本人は至って真面目なのですが――何ともユーモラスな一幕。
 もしかして忍者に向かない男が味わう悲喜劇は、恐怖と笑いは紙一重ということを再確認させてくれます。

 それにしても、作者的にもしかして○○ネタでは…と思ったら、本当にその通りだったのは驚きました。
 もっとも、それも物語の内容と有機的に結びついてくるのにはちょっと感心であります。


「定信公始末」(森真沙子)

 さる古書店主が見つけた幻の蝦夷探検記。その真偽を問われた元奥右筆は、松平定信と蝦夷探検の秘められた関わりを語る。

 こちらは江戸を舞台としつつも、同時に遠く蝦夷地の怪異を描く名編。
 晩年の松平定信が見せたという乱心の姿と、その定信に歴史から抹殺された天明のエゾ探検と――二つの怪異を、「天明ノ蝦夷探検異聞」なる封印された古書が結ぶという趣向からしてたまりません。

 定信の政敵であった田沼意次が蝦夷地開発を目指していたことは良く知られた史実ですが、田沼失脚後、それに関わった者たちが定信に弾圧されたのも事実です。
 その弾圧の陰に消えのは、しかし、その弾圧にも劣らぬ悲劇と、恐怖の記録。

 蝦夷地で越冬を試みた探検隊が出会ったものは何か――我が国では難しいように思えた秘境もの、それも極地もののホラーを、このような形で成立させてみせるか!
 と感心すると同時に、その恐怖が全く予想もしない形で再度浮かび上がるのには驚かされました。

 恐怖の遠近法とでもいいましょうか、遠くにあったと思い込んでいた怪異が、気がつけば目の前にある恐怖――蝦夷地に留まらぬ怪異の猖獗を予感させる結末は、作者の他の時代ホラーを思いだし、ニヤリとさせられた次第です。


「泡影」(岡田秀文)

 橋の下に住み着いたおみよと知り合った文吉。ある日、文吉の友達に大事にしていた人形を取り上げられたおみよは…

 ある意味、本書で一番期待と驚きを感じたのは、作者の参戦でありました。
 作者の、ミステリ色、サスペンス色、そして伝奇色の強い時代小説は私の大好物ですが、しかし異形に登場するとは…

 と、実際に作品を見てまだ驚きました。そこに描かれたのは、それらの作品と全く異なる、切ない幻の世界だったのですから…

 誰でもどこかしら共感するであろう、子供時代の思い出。
 仲間たちとの悪巧みの数々、初めての異性(という言葉を使うには強すぎるのですが)との触れあい、そして拭えない小さな罪の記憶――

 本作は、そんな思い出をささやかで、そして鮮やかな怪異でもって飾ります。
 そしてそれが、いつしか自分自身の記憶であったようにすら感じられるのは――やはり作者の非凡な筆の冴えなのでしょう。


 次回ラストです。


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江戸迷宮―異形コレクション (光文社文庫)

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2011.01.22

「異形コレクション 江戸迷宮」(その四) 異色の中の異色たち

 「異形コレクション 江戸迷宮」の全作紹介の四回目であります。異色作揃いの中でも、今回は特に異色作が集まっているかもしれません。

「風神」(タタツシンイチ)

 仲間の企みで無理矢理背中に刺青を入れられた気弱な大工・市助。それ以来、人が変わったように気っ風が良くなった市助だが、思わぬ惨劇が…

 市助は真面目で腕は良いが、気弱な大工。その大工仲間たちは、彼に「氣」を入れようと不思議な彫師に連れて行き、彼は、半ば無理矢理、頼光の土蜘蛛退治を背に入れられてしまいます。
 しかしそれをきっかけに、人が変わったように気っ風が良くなった市。しかしその変身が思わぬ惨劇をもたらすことになります。

 刺青をテーマとした作品は様々にありますが、本作は刺青が身体を、いや精神までも変身させていくという怪奇を、第三者の口から語らせることにより、効果的に浮き彫りにしています。
 果たして人の心が外見を変えるのか、外見が人の心を変えるのか…そこにあるのは奇怪な仮面の世界であります。

 …と、ここで結末近くのある表現に違和感を抱いてもう一度最初から読み返してみると、本作はがらりとその様相を変えることになります。
 いやはや、初めて作者の作品を拝見しましたが、どうやら一筋縄では行かない方のようであります。


「笹色紅」(井上雅彦)

 年に一度、裏長屋に戻ってくる「先生」。裏長屋の人々の証言で浮き彫りとなる「先生」の姿とは。

 編者でもある作者による本作は、本書の中でも異色中の異色とも言うべき物語であります。
 夏になるたびに江戸に戻ってくる「先生」の言葉と、彼の周囲の裏長屋の証言から、ある事件の存在が浮き彫りとなるのですが…

 「先生」を含め、様々な人々が語ることにより、少しずつ浮かび上がる事件の姿。しかし、その中で同時にその中の違和感も徐々に大きくなり――驚くべき結末を迎えることとなります。

 反則と言えば反則ではありますが、しかしここで描かれるのも、紛うことなき江戸の姿。
 「江戸迷宮」に囚われた者の姿を描くことでは、本作も他の作品と異なることはないのです。


「鉢頭摩」(佐々木ゆう)

 父に替わり納戸番となった彦四郎。しかし彼の本当の任は、座敷牢の中の者の世話だった。囚われ人の妖しい魅力の前に彼は…

 タイトルは梵語のパドマ、漢訳では紅蓮華の意。しかし物語全体を包む色は、むしろ澄んだ蒼、もしくは昏い白を思わせる、耽美的な一編であります。

 急死した父の弔いを出す間もなく、納戸番を命じられた青年・彦四郎が、主家である作事奉行・伊川家で見たもの。
 それは、屋敷の座敷牢に囚われた伯公なる美青年であり、そして彦四郎に与えられた真の任とは、伯公の世話役だったのですが…

 関ヶ原では西軍に連なっていた伊川家が、徳川家に重用されているのはなぜか。伯公がもたらす白い石の正体は何なのか。いや、伯公自身が何者なのか――

 彦四郎が心奪われるのは、しかし、そうした謎の数々よりも、伯公自身の蠱惑的な美しさ。
 青年らしい気概も婚約者の存在も、全て心の外に追い出す伯公の魅力に、どろどろに身も心もとろけさせた彼を、愚かと笑う気になれないのは、伯公の、そして物語の持つ魔力ゆえでしょう。

 全てが蒼と紅に沈む結末が、強く心に刺さった次第です。


 まだまだ続きます。

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2011.01.21

「異形コレクション 江戸迷宮」(その三) 狂から笑までの奇譚

 「異形コレクション 江戸迷宮」の全話紹介の三回目であります。そろそろバラエティに富みすぎる本書の姿が浮かび上がってきます。


「彫物師甚三郎首生娘」(薄井ゆうじ)

 見世物小屋で生きているかのような生首を見つけた甚三郎。彫り物に生命を与えるのが夢の彼はその首に理想を見るのだが。

 こちらも恥ずかしながら初めて拝見する作家の作品。
 自らの作品に生命を与えるというのは、おそらく芸術家であれば誰もが夢見る境地であり、その営為を描いた作品も様々存在していますが、本作もその系譜に位置するものです。

 彫り物に命を与えるということに取り憑かれた主人公・甚三郎が見世物小屋で出会った美しい女の生首。
 見世物としては面白くもないそれは、しかし彼にとっては理想の産物であったのですが…

 奇怪な過去を持つ小屋主から聞いた、これまた奇怪な生首の来歴。
 それを信じ、畢生の大作を仕上げた甚三郎が取った行動は、ある意味予想の範囲内ではありますが、しかしその果てに待っていたのは、恐ろしくも哀しく、そして妖しい境地。

 京極夏彦の、いや江戸川乱歩のある作品を思い出させられました。


「異聞胸算用 其ノ弐」(平山夢明)

 おくずが出会った親子巡礼。自分よりも惨めな暮らしを送る彼らの、さらに惨めな姿を見たくなった彼女は…(地獄草鞋)

 ほとんど単行本化されていないため、ご存じない方も多いかもしれませんが、実はコンスタントに時代ものを著している作者。本書のある意味先駆と言える時代伝奇アンソロジー「伝奇城」に掲載された「異聞胸算用」の名を冠した、三編の時代怪奇譚であります。

 作品のうち、「めんない豆腐」「木違い障子」とも、なかなかに個性的で、それでいて江戸怪談らしい味わいの作品なのですが、残る「地獄草鞋」は、平山作品としか言いようのない狂気の一品。

 醜い容貌を抱え、江戸の片隅で生きるおくず(という名前も強烈ですが)が、ある日出会った巡礼とは名ばかりの親子の乞食。
 自分よりも惨めな存在に優越感を感じる彼女は、親が語る彼らの悲惨な来歴に胸を躍らせるうち、さらに彼らを苦しめたくなり…

 単純にグロテスクという以上に、思わず目を覆いたくなるような、人の世の醜いもの、狂ったものをむき出しにする作者の筆の冴えには、勘弁して下さいと謝りたくなってしまうほど。
 それでいて「世間の者は醜い心根の人間の奥底には、きれいな珠が宿っていると信じたいのだ。」という一文がサラッと登場するあたりにも唸らされます。

 結末で描かれる怪異にホッとしてしまう逆転現象も含めて、まさに平山怪談というべき一編です。


「江戸珍鬼草子」(菊地秀行)

 元禄の冬の夕暮れ、日本橋に現れた奇妙な獣。それを迎えに来た者は?

 「幽剣抄」で数々の時代ホラーの佳品を描いてきた作者によるショートショートは、雪の江戸を舞台とした怪作。
 勘の良い人であれば最初のページで、そうでなくても数ページ後でオチに気づくかと思いますが、ぬけぬけとすっとぼけた物語を繰り出してくるのは、貫禄というものでしょうか。


「大江戸百物語」(石川英輔)

 本堂で百物語の会をやれば、必ず化け物が出るという寺で百物語をすることになった物好きな連中。最後に出てきたモノは…

 ある意味江戸を語らせるのに一番相応しい作者の異形コレクション初参加作品は、怪談会を舞台としたコミカルな一品。

 百物語も終盤、話も尽きてきてメタメタな雰囲気になってきた中で語られる怪談は、登場人物たちからも突っ込みを受けるような可笑しさで、これは○○でやったら面白そう…と思っていたら、そのものズバリのオチにひっくり返りました。


 まだまだ続きます。

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 「異聞胸算用」 恐ろしき江戸伝説

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2011.01.20

「異形コレクション 江戸迷宮」(その二) 苦界の中の怪

 「異形コレクション 江戸迷宮」の全話紹介の二回目であります。想像以上に一話当たりの語りに時間(分量)がかかって驚いております。今回紹介する三話は、奇しくもその身を売る女性たちの奇譚であります。

「萩供養」(平谷美樹)

 吉原の花魁・七瀧の周りにいつの間にか現れる萩の花。相次ぐ怪事に心を痛めた彼女に招かれた修法師・ゴミソの鐵次の見立ては。

 岩手出身・岩手在住の作者による本作は、江戸を舞台としつつも、東北の香りを遠く漂わせる作品。
 主人公・ゴミソの鐵次の「ゴミソ」とは、津軽などで祈祷・卜占・神降ろしを呼ぶ者のことを指します。

 その鐵次――まとった着物に、それまでに祓った魂の名残として端布を縫い付けた異装が面白い――のデビュー作である本作は、吉原の花魁を襲う怪異に挑みます。

 どこからともなく現れる萩の花、虚空を歩む若者、どこからか持ち込まれる小動物の死体…人の欲が詰まった吉原という場だけに、思い当たる節は多すぎる。
 心を痛めた花魁のために鐵次は原因と思われるものを一つ一つ当たっていくのですが…
 お話的にはよくある退魔ものかと思いきや、終盤で示されるどんでん返しが実にフェアかつユニークで嬉しい本作、だめ押しとばかりに(?)ラスト数行で交わされる会話には、思わず顔がほころびます。

 ちなみに本作、地の文で考証をかなり細かく書いてるのが、気になるといえば気になります。作者の真面目さの現れでしょうが――


「雛妓」(長島槇子)

 刀匠の子で今は深川の雛妓・菊弥は、水揚げを目前に控えながら、恋しい彦三郎を求めていた。彼女の一念の窮まるところ…

 「遊郭のはなし」で我々読者を震え上がらせた作者が、これも躰を売るしか生きる術のない女性を描いた、哀しくも恐ろしすぎる短編であります。

 刀匠である父が亡くなり、その借金のために深川で芸者となった菊弥。まだ雛妓(半玉)の彼女は、ある座敷で出会い、一度情を交わした若者・彦三郎を一心に慕うも、再び会えぬまま時間は流れます。
 そして、芸者として水揚げ(=客に初めて抱かれる)こととなったその日、彦三郎の正体を知った彼女が引き起こしたのは…

 苦界に生き、死ぬ女性たちを見事に描くと同時に、思わずのけぞるほどの無残絵を描き出す作者らしく、本作のクライマックスで描かれるのも、唖然とするような地獄絵図。
 実のところ、展開はある程度途中で読めてしまうのですが、しかし自らの想いを貫いた主人公の姿には、恐怖だけでない何ものかを感じてしまうのです。


「常世舟」(倉阪鬼一郎)

 築地で船饅頭のおゆうと二人身を寄せ合って暮らす船頭の常吉。そのおゆうの躰にはある秘密が…

 最近は時代小説にも進出している作者ですが、個人的には普通の作品が多く不満に思っていたところでした。
 しかし本作は紛うことなき時代ホラー、それももしかするとあの世界の…であります。
 築地の明石橋、通称寒さ橋で船饅頭(小舟の上で躰を売る私娼)のおゆうと共に暮らす常吉。舟の上で安い金で躰を売るおゆうと、その間、船を沖に出すという常吉という、何とも物悲しい二人の姿を描く本作ですが、しかしそこに異次元の色彩が混じることとなります。

 生まれつき異形の足を持ち、それがために虐げられ、孤独に生きてきたおゆう。彼女と寄り添うように生きる常吉もまた、死病に冒された身。
 明日をも知れぬ身の二人の想いは、やがて彼らだけの常世を求めるように流れていくのですが――そこで!

 これも展開はある程度予想できるのですが、しかし、あの存在が、「人の情」にすがることもできなかった者たちの救いとなる皮肉な結末の味わいは、見事としか言いようがありません。


 再び続きます。

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江戸迷宮―異形コレクション (光文社文庫)


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 「遊郭のはなし」 人を鬼にする場の物語

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2011.01.19

「異形コレクション 江戸迷宮」(その一) 江戸という異形の場で

 毎回様々な趣向で読者を楽しませてくれるホラーアンソロジー「異形コレクション」ですが、最新巻のテーマはなんと「江戸迷宮」。収録された作品ほとんど全てが、江戸時代、そして江戸という場を舞台としたものであり、当然当方としても見逃すわけにはいきません。これから数回にわたり、全作品を紹介いたします。

「かくれ鬼」(中島要)

 別れ話のもつれからおこうを殺してしまった伊之助。しかしおこうの死体はどこからも見つからず、伊之助は疑心暗鬼に陥って…

 恥ずかしながら初めて読む作者の作品。火遊びの末に別れ話がもつれ、執拗に自分につきまとう女を思わず殺してしまった若旦那の破滅を描く短編ですが、これが実に良くできた時代ホラーという印象です。

 口論の末に柳原の堤で思わずおこうを絞め殺してしまった伊之助は、近づいてくるかに見えた提灯の灯に怯え、その場を逃げ出してしまうのですが、すぐに見つかるものと思われたおこうの死体はいつまで経っても見つからない。
 自分の犯罪の結果が露見するのではないか、いや、実はおこうは死んでいないのではないか…恐怖に取り憑かれた伊之助は、ついに犯行現場である柳原に舞い戻って…

 犯罪者特有の心理を克明に描き出す過程も良いのですが、初めてタイトルの意味に気付かされる終盤の展開が実にうまい。
 さらに、ラストシーンに漂うなんとも言えぬもの悲しさと、それと表裏一体のしたたかな強さが実に良いのです。
 本作の舞台が柳原という特殊な場であることの意味を見事に活かした、時代ホラーの佳品です。


「シイ」(朝松健)

 救いを求めて本所お化け坂の月白伊織のもとを訪ねた本草学者・南志野盤岳。彼に取り憑いた奇怪なあやかしの正体とは。

 表記が困難のためカタカナとしましたが、実際はタイトルは漢字であります(シは黒、イは生の下に目)。

 さて、異形コレクションでは毎回室町伝奇で楽しませてくれる作者ですが、今回は紛うことなき江戸伝奇。しかしその主人公は、以前「本所お化け坂 月白伊織」でデビューを飾ったゴーストハンターであります。

 本所お化け坂の第六天社に住み、奇怪なあやかしに苦しめられる人々を救う謎めいたヒーロー・伊織のもとを今回訪ねるのは、実在の本草学者・稲生若水の弟子である南志野盤岳という男。

 師と共に出かけた高尾山で、奇怪な黒い石の存在を知ることとなった盤岳は、そこで出会った男に強烈な嫉妬を抱くのですが…
 その晩、男を襲う奇怪な黒い獣。その獣があたかも自分自身のように思えた盤岳は、悩んだ末に伊織を訪ねたのでした。

 と、今回伊織が対決するのは、朝松ファンであればお馴染みのあの怪物。ある意味ドリームマッチの実現だけでも興奮しますが、そこに一ひねり加えてくるのは作者ならではでしょう。

 ただ残念なのは、依頼者側の物語がきっちりと描かれるほど、伊織の活躍があっさり目になってしまうこと。以前から感じていたのですが、このシリーズには長編が似合うのかもしれません。


「振り向いた女」(竹河聖)

 馴染みの御隠居を送る夜道で、妖しげな女を見かけた幇間の藤八。振り向いたその顔はあたかも鬼女のようで…

 作者は、「あやかし草紙」シリーズをはじめとして、様々な場で幕末を舞台とした時代ホラーを描いていますが、その主人公が、元御庭番の幇間・藤八。そう、本作もこのシリーズの一作であり、藤八の他にも旗本の御隠居(実は作者の…)とその息子など、ファンにはお馴染みのキャラクターが顔を見せます。

 お話的にはかなりシンプル、夜道で出会った鬼女のような女の正体を、藤八が追うというもので、文字通り鬼面人を驚かす態の作品ではあります。

 しかし本作においては、そのシンプルさが、物語全体を――決して明示的ではないにもかかわらず――包む江戸の「雰囲気」「情緒」を引き立ててくれるのです。
(地の文で時代考証を語りつつ、そこに巧みに突っ込みを入れるのも楽しい)

 「月白伊織」とは逆に、本シリーズは短編が似合うと再確認した次第です。


 次回に続きます。

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2011.01.18

「快傑ライオン丸」 第12話「怪人ギロジー 海の落し穴」

 獅子丸と共に戦うために来た忍者三人を襲うギロジーとオニワラシ、テングワラシ。その一人・彦丸は深手を負いながらも獅子丸に助けられるが、小助がギロジーに捕らえられ、樽に詰められ海に投げ込まれてしまう。樽が「海の落とし穴」に呑まれる前に救うべく走る獅子丸と沙織は、幾度となく危機に瀕しながらもギロジーを倒し、小助を救う。だが彦丸はその間に亡くなっていたのだった。

 今回は久々に怪人三人登場の豪華回。今回もメイン怪人とその手下二人という構成ですが、手下のオニワラシとテングワラシは、チープながらも全身が作られて良い感じです。
 そしてその怪人三人に開幕早々襲われるのは、伊賀忍者三人組。ギロジーの毒手裏剣に二人殺され、オニとテングに斬られた最後の一人が辛うじて生き延びて、獅子丸たちに助けられることになります。
(しかしここで獅子丸が二人の死体を発見すると死体の目が動くので、怪人が化けているのか、と思いきや、ただ者ではない奴が殺したからだと謎の理論が出てくるのにびっくり)

 この忍者たち、実はゴースンと戦う獅子丸の噂を聞き、助太刀しようと追ってきたというのですが…
 なるほど、獅子丸たちは決して孤独な戦いをしているわけではないのだな、と物語の背景を感じさせる面白い展開であります。
 しかし彦丸、いきなり「忍法獅子変化、一度手合わせしたかった…」と死亡フラグを立て、前半でリタイアしてしまうのですが…

 さて、水を汲みにいった小助がギロジーに捕らえられ、その奪還のために獅子丸と沙織が奮闘するというのが後半の展開。
 しかしギロジーがこともあろうに小助を樽に閉じこめ、海に放り込むというハードコアな行動に出たため、事態は複雑化します。

 すぐさま海に飛び込んで樽を回収しようとする獅子丸ですが、そこに(タイミング良く)飛び出してきた村人が言うには、この辺りは海流が強く、飛び込めば命がないと。
 一度だけ、潮の加減で岸に近づく時が救出のチャンスですが、それを逃すと恐ろしい「海の落とし穴」に落ち込んでしまうと…

 貴重な情報を伝えて、哀れ村人はギロジーの毒手裏剣に殺されてしまうのですが、ここで獅子丸が早めにライオン丸に変身して以降は、ひたすら樽を追って海辺を走る走る!
 海の青に、ライオン丸の手足の赤が映えて、なかなか美しいコントラストとなっています。

 まあ、その乱戦の途中で沙織がギロジーに捕まり、磔にされてしまう(またか!)のですが…
 そしてライオン丸はなんと砂浜に首だけ出して埋められるという有り様。
 正直なところ、ピープロ猫科ヒーローは黙っていると結構可愛い顔なのですが、それが首だけ砂浜にあると、ほとんどギャグのようなビジュアルであります。

 と、失礼な感想を書いてしまいましたがこれは大ピンチ。ギロジーは毒手裏剣をサソリに変え、ライオン丸が動けば沙織を刺すと脅してきます。
 そのうちに満ちてきた潮に沈んでしまうライオン丸ヘッド…

 ここでサソリを手裏剣に戻した隙に、もちろん生きていたライオン丸は脱出、戦いの中で何故か逆立ちした(本当に何故!?)オニワラシを斬り、ジャンプしたテングワラシを追撃ジャンプで叩き斬ります。

 そして波打ち際で腰から腹まで浸かって一騎打ちのライオン丸とギロジー。
 激しい戦いは、水中に潜ったギロジーに、大ジャンプしたライオン丸が刀を突き刺し、自ら出てきた時には片手にギロジーの生首が、という強烈なフィニッシュで幕を閉じます。

 そして海の落とし穴の目の前で樽を回収、小助を助け出すのですが、彦丸は既に死んでいたという寂しい展開で終わるのでした。

 結局三人の怪人と三人の忍者が物語中で大して機能していなかったのが残念な今回。
 ライオン丸たちの危機を彦丸が身を挺して救うというのが常道のような気もしますが…(まあ、彦丸はライオン丸の中に入っていたんですけどね、ってスーアクネタ)

 しかし、戻ってきた時に彦丸が木の肌に残していた「きっとゴースンを」というメッセージは泣かせるのです…

今回のゴースン怪人
ギロジー
 ゴースンから獅子丸たち三人の殺害を命じられた殺し屋怪人。髭面に巨大な牙が二本突きだしており、巨大な包丁とも箆とも見える刃と、毒手裏剣を使う。毒手裏剣はサソリにも変ずる。
 小助を樽に詰めて海に流すが、海辺の決闘でライオン丸に敗れ、首を断たれた。

オニワラシ
 ギロジーの手下の怪人。赤い顔の鬼。何故か逆立ちしたところをライオン丸に斬られる。

テングワラシ
 ギロジーの手下の怪人。黄色い顔の天狗。大ジャンプしたところをライオン丸の追い打ちで斬られる。


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2011.01.17

「夕ばえ作戦」第4巻 そして夕ばえに彼女は…

 光瀬龍の名作ジュヴナイルを現代に甦らせた漫画版「夕ばえ作戦」の最終巻であります。
 タイムスリップした現代の高校生が、風魔忍者と対決するという骨格は同じだったものの、この第四巻に来て、物語は完全にその向かうところを違えることになります。

 伊賀と風魔の決戦の最中、再び現代にタイムスリップした茂と明夫。
 囚われの身だった高尾先生もようやく奪還することができたかと思いきや、現代には、伊賀や風魔の面々もやってきてしまい…

 茂たちと行動を共にしてきた地虫兵衛ら伊賀衆、そして偶然一緒に現代に飛び出した風魔小太郎はともかく、他の忍びたちにとってみれば、現代は異世界以外の何ものでもありません。
 そこで、彼らを救い出すべく、茂たちは奔走することになるのですが…

 原作が――風祭陽子との交流は大きな要素としてあるとはいえ――基本的には風魔忍者との対決話であったのに対し、本作は舞台のみならず、大きく方向性を変えていると言えます。

 個人的には、超人的な忍者の技に、現代っ子の知恵と運動能力で立ち向かう原作のシチュエーションが大好きではあったのですが、しかしこれはこれで納得できる展開。
 やっぱり無邪気に風魔忍者を倒しておしまい、というのは色々な意味でマズい気もする…というのは野暮な考え方かもしれませんが、しかし、現代でかつての敵を助けるために奔走する主人公たちというのも、ジュヴナイル的で気持ちの良いものではあります。

 それは、戦い、殺し合いのない平和な現代に生まれたが故の人の良さなのかもしれませんが、しかしそれが争いを避ける道となるのであれば、それはそれで大いに誇るべきものでしょう。
 原作でも、茂と陽子の触れあいが見せた可能性は、それに近いものであったはずですから…


 さてこの漫画版は、しかしある意味それ以上に踏み込んだ世界を描くことになります。
 本作の冒頭から匂わされていた謎――明夫と風魔小太郎の、明夫の祖母と風祭陽子の容貌が似通っている理由。それが最終話にて描かれることとなります。

 その内容はもちろんここで書くわけにはいきませんが、なるほど、本作では陽子をこのように描いたか――と一面納得。
 陽子の魅力を生かしつつ、彼女自身も…とくれば、この結末もアリでしょう。

 とはいえ、個人的にはもう少し別の結末を期待していた…というのが正直なところ(最終話一話前の展開ともちょっと食い合わないような…)
 はて、自分が好きだった「夕ばえ作戦」はこういう話だったのかな、というのは言い過ぎかもしれませんが、やっぱり(原作とはまた別の意味で)切ないなあ…とは感じた次第です。

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 「夕ばえ作戦」第2巻 原作精神健在なり
 「夕ばえ作戦」第3巻 そして物語は異なる地平へ

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2011.01.16

「隠密飛竜剣」 隠密十兵衛、西へ

 将軍家光から西国探索の密命を受け、狂気を装って旅立った柳生十兵衛光厳。西へ西へ…遠く薩摩へと足を進める十兵衛の前に、次々と起きる奇怪な事件。隠密独眼竜の秘剣がうなる。

 高木彬光の時代伝奇小説紹介シリーズ、前回紹介した「隠密独眼竜」に続き、同じ柳生十兵衛光厳(誤記にあらず)を主人公とした連作短編集「隠密飛竜剣」であります。

 柳生十兵衛が、武者修行、あるいは狂気に陥って出奔したのを隠れ蓑に、各地を隠密として回ったというのは、これは講談や小説・映画などで古くから見られるシチュエーションですが、本作もそれに則った作品。
 将軍家光、そして松平伊豆守から密命を受けた十兵衛が、各地で出会った数々の事件を描いた、高木版柳生旅日記といった趣向の作品集です。
(ちなみに設定時期が、同じ趣向のほとんどの作品で見られる青年期ではなく、島原の乱後の晩年記となっているのが少々面白い)

 収録されているのは全七話――
 香取神宮の神託と称して百人斬りを目指す凶剣士との対決を描く第一話。能の紅葉狩の如く山中に潜む妖女に挑む第二話。京を騒がす大盗と風魔小太郎との三つ巴の争いの第三話。十兵衛配下の隠密が情と任務の狭間で苦しむ第四話。十兵衛暗殺計画と仇討ち騒動が交錯する第五話。山賊退治を背景とした十兵衛のつかの間のロマンスを描く第六話。そして薩摩を舞台とした十兵衛最後の戦いである第七話。

 尾張を皮切りに、諏訪、京、岡山、熊本、そして薩摩と、西へ西へ、十兵衛の旅も続いていくこととなります。


 さて、本書を再読して改めて感心したのは、本書が、短編連作というスタイルをなかなかにうまく利用しているということであります。

 当然の事ながら、長編に比べればページ数が少なく、展開できる物語にも限りがある短編。
 しかし、それは逆に、ユニークではあるものの長編一本を保たせるには足りないアイディアを中心に据えた、バラエティに富んだ物語を描くことを可能とします。

 さらに、隠密十兵衛、という一定の枠があるということは、、その枠さえ守れば、逆に十兵衛を遠景においても自由に物語を展開させることができるということでもあります。


 そのスタイルを最大限に活かしたのが、第三話「百万両呪縛」と第四話「隠密くずれ」であります。
 前者は、関白秀次が遺したという百万両を巡り、十兵衛と大盗と風魔小太郎の三者が相争う物語。後者は、池田家のお家騒動(熊沢蕃山も登場)を探る隠密が、十兵衛を仇と狙う女と愛し合ってしまいという内容ですが、面白いのは、二作とも十兵衛は脇役に近い立ち位置であることでしょう。

 つまりどちらの作品も十兵衛以外の人物が中心となっているのですが、絶対的正義の味方である十兵衛からあえて軸を外すことにより、物語がどちらに転がっていくのか、登場人物の運命がどうなるのか読めず、意外性ある物語となっているのが実に面白いのです。

 主人公であるはずの十兵衛の存在を、むしろ一種のトリック的に使う――
 全部の作品がそうであるわけではもちろんなく、むしろそうでない作品が大半なのですが、しかしそれでも、それだけでも、本作は連作短編集としてなかなかに魅力的なのであります。

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2011.01.15

「無限の住人」 第十三幕「風」

 さて、アニメ版「無限の住人」もこれにて最終回。
 原作はこの先まだまだ続いているわけで、中途で終わることは明らかなわけですが、さてそれではどのような終わりを見せてくれるのか、と思っていたのですが、これがなかなか面白いひねりがありました。

 いわば「転章」といった趣の今回、描かれるのは、凛・逸刀流・無骸流など、登場人物それぞれが新しい一歩を踏み出す姿であります。

 前回、仇である天津に半ば同類と呼ばれたことに落ち込む凛。
 加賀の同志とも言うべき、心形唐流からの手紙に旅立ちを決意する天津。
 逸刀流を抜けながらも、妹のように思っていた遊女を尸良に殺された凶。
 江戸を離れ、三味線を道連れにいずこかを彷徨う槇絵。
 逸刀流壊滅の謀計を巡らせる吐と、その下命で天津を狙い始動する無骸流(ちなみにこのシーンの吐の口上が時代劇らしくて格好良い)。
 そして万次は――

 逸刀流という存在がもたらしたさざ波が、徐々に大きくなって周囲を飲み込み、さらに巨大に広がっていく、その直前の一瞬を、今回は切り取ってみせたという印象があります。

 しかしそんな中にあって、本作の中心にあるのは凛と万次――いや凛の存在。
 彼女が前回、いやこれまでに逸刀流の剣士たちと戦う中で明示的に、あるいは暗黙のうちに投げかけられた問いにどのように答えるのか…
 それが描かれなければ、一応とはいえ、本作は終われません。

 そして悩み続ける凛に道を――それを選ぶためのヒントを――示したのは、意外と言えば意外、納得と言えば納得の人物でした。
 悩み続けた翌日、どこかへ消えた万次と入れ違いに凛の前に現れたのは、万次に不死の体を与えた八百比丘尼その人であります。

 旅に出るため、万次をその道連れにしようかと現れたという比丘尼(しかし万次が頭を丸めて刀を捨てることはないでしょう…)
 比丘尼は、万次の妹の墓の前に凛を案内した上で、万次と凛、それぞれの心の中にあるものを指し示します。

 万次の心の中にあるものは迷い、そして凛の心の中にあるものは惑い――
 まるで言葉遊びのようですが、比丘尼の言葉には続きがあります。

 万次にあって凛にないもの、それは「強さ」。
 強さがあるからこそ、万次はどの道を行くか、迷うことができる。それに対して強さを持たぬ凛は、進むべき道を見失っていると――

 万次が迷っているように描写されていたかは別として、しかし、ここで比丘尼にこの言葉を言わせるのは、実に適材適所と感じます。 原作であれば、ここまではっきりと語らせなかったであろうとは思いますが、しかし、このアニメ版で一端物語をまとめるためには、良いアレンジではないでしょうか。

 そして吹っ切れた凛は、たとえそのために他人を踏みつけにすることはあっても、何よりも大事な父母の命(を贖うこと)のため、立ち上がります。
 その選択の是非を問うことは、無意味でしょう。大事なのは、彼女が覚悟し、それを貫くために強さを求めたこと――


 そして最後に、もう一つアニメオリジナルのシーンが挿入されます。
 凛を描いた絵を前に考え込んでいた宗理先生が、長考の末に描いた――描き加えた――もの。それは、彼女を支え、支えられるように寄り添い、彼女と同じ方向に目を向ける万次の姿でした。

 そして新しい風は吹き始めます。加賀へ、加賀へ――

 というところで、このアニメ版は完結となります。
 意地悪なことを言えば、良い予告編だった! とも評せますが、しかし原作のシーンを切り貼りしながらも、二つのオリジナルの要素を加えることで、見事にまとめてみせたものだと感心します。

 個人的には、原作の途中までをそのまま切り出して、そのまま終わるというアニメ化はあまり好きではないのですが、しかしそれも決められた枠。
 その中で綺麗に終えてみせただけでも、本作を見た甲斐があったと言えるかもしれません。


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2011.01.14

「伊達人間」第1巻 伊達人間第一号

 さて、昨日紹介した「御指名武将真田幸村 かげろひ KAGEROI」と同時に刊行された宮永龍の「伊達人間」第一巻であります。
 これがまたタイトルの時点で妙なインパクトがありますが、内容の方はさらにインパクト十分。ただひたすらカッコつけることを目的に戦う伊達政宗の姿を描く戦国アクションコメディなのですから…

 史実でも色々とケッタイなエピソードの多い政宗ですが、本作の政宗も、その史実に恥じない(?)怪男児。
 とにかく自分をカッコよく見せるためであれば、単騎駆けを行うなんてのは当たり前、自分を粋に見せるアイテムが隣国にあると聞けば、それを奪取するためだけに戦を仕掛けるわ、その戦の最中にもまたカッコ良い(と自分が信じている)ポーズを連発するわと、もう無茶苦茶であります。

 と、無茶苦茶なのは実は登場人物の設定で、この政宗が上杉謙信とチャンバラを演じたり、実は片目を奪ったのが信長だったり、その信長の配下に真田幸村がいたり…と、真面目な歴史ファンであれば怒り出すこと請け合いの内容なのですが――


 しかし、私はこの作品、結構好きなのです。

 確かに史実との兼ね合いでいえば無茶苦茶なのですが、この辺りは(こういうことを言うのは反則ですが)「戦国BASARA」みたいなもので、戦国武将をキャラクター化して描いた一種のファンタジーと思えばよろしい。
 そしてそのキャラクター化という点では、この無邪気でええかっこしいではた迷惑な政宗像が、いい感じでデフォルメが効いていると感じられるのです。

 さらに何よりも、絵柄が実に良い。
 作者の「童の草」(実は本作とリンクしているとのことですが)の感想の際にも書きましたが、過剰に装飾的でいて、しかし漫画としてきっちりと動いている絵柄は本作でも健在で、それが政宗の伊達者っぷりとよく似合っています。

 特に第二話、戦場で政宗と片倉小十郎、そして伊達軍が見せる一糸乱れぬダンスシーン(!)は、ただただ圧巻、いやもうこれだけやられたら、認めるほかないではありませんか。
(そしてそれが一見バラバラな伊達軍の絆の強さを浮かび上がらせるという、お約束ながら美しい描写に繋がるわけで…)

 お話の方は、これから天下の名品・利休銘柄(RIKYUブランド)を巡っての争奪戦になるらしく、いよいよますます奇っ怪なキャラクターたちが顔を出す様子。
 この第1巻のラストに文字通り顔見せしたキャラクターたちがまた、実に面白すぎるデザインの連中ばかりで、これは否応なしに期待させられます。

 伊達人間の前に立ち塞がる次なる奇っ怪人間は誰なのか、理屈抜きで楽しませていただきたいと思います。

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2011.01.13

「御指名武将真田幸村 かげろひ KAGEROI」第2巻 勿体ない至らなさ…

 コンスタントに刊行されているガンガンIXA系の時代・歴史漫画。
 その一作、浅岡しゅくの「御指名武将真田幸村 かげろひ KAGEROI」の第2巻、豊臣家で人質時代の真田幸村と、秀吉ラヴの少女忍者・猿飛佐助の凸凹コンビが難事件を解決するコミカルな作品であります。

 本作の真田幸村は頭脳明晰で推理力抜群、しかし超虚弱体質で引き籠もりという、戦国武将にあるまじき草食ぶり。
 しかしそこは脳金ながら忍者としての腕前は抜群という佐助と二人で補い合い、秀吉に依頼された事件を解決していくことになります。

 この第2巻に収録されているのは、大胆にも秀吉の愛蔵する茶碗・筒井筒を狙う盗賊「石川五右衛門」に挑む前後編と、豊臣秀次が作らせたという隠田にまつわるエピソードの途中まで、そして少年時代の宇喜多秀家とともに柳生宗矩に挑む外伝。
 外伝はちょっと外れますが、いずれも秀吉回りの史実・事績を使って、お話を作っているのが楽しい。

 さらに、各エピソードで黒幕的に何やら暗躍しているのが、幸村の兄・信之というのも、信之ファン的には嬉しいのです。
(後の十勇士に当たるであろうキャラクターたちも、佐助はともかく、信之側についているようなのも面白いところあります)

 が、いかんせん画力が残念すぎるというのが正直な印象。人物の表情描写にも違和感を感じるのですが、それ以前にデッサン自体が時々マズいというのは何とも…

 さらに言えば、悪人や性格の歪んだ人間の描写が通り一遍に過ぎるのも困ったところ。
 一種の探偵物語という性質上、人間のネガティブな側面も毎回のように登場する作品なのですから、この辺りは頑張って欲しいものです。

 厳しいことばかり挙げてしまいましたが、題材自体はかなりユニークなものだけに、この辺りの至らなさが実に勿体ない。
 上記の通り、この巻に途中まで収録された秀次の隠田のエピソードがどう転んでいくのか、そこに期待したいところなのですが…

 設定的になかなか派手なストーリーにしにくい苦しさはあるかとは思いますが、それだからこそ描ける物語に、期待したいと思います。

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2011.01.12

「武蔵三十六番勝負 1 地の巻 激闘! 関が原」 新たなる武蔵伝始動

 自分を虐待した実父を殺し、養父にも見捨てられた武蔵。罪の意識に取り憑かれ、死ぬために剣を振るう彼は、関ヶ原で家康の首を狙い、一人血刀を振るう。しかし力及ばず捕らわれた武蔵に、家康は真田昌幸・幸村親子を斬るよう命じる。それが武蔵の死闘旅の新たなる始まりだった…

 まだまだブームが収まる気配のない文庫書き下ろし時代小説ですが、ここに来て角川文庫も、今まで以上に力を入れてきた感があります。
 第2巻と同時発売された「武蔵三十六番勝負 1 地の巻 激闘! 関が原」は、そのラインナップの一つ。
 一般向けの小説に留まらず、児童向け小説や、歴史読み物でも活躍する楠木誠一郎の新作であります。

 タイトルを見ればわかる通り、本シリーズの主人公はかの剣豪・宮本武蔵。
 しかし本作の武蔵は、吉川英治の描いた求道者的武蔵像とは大きく異なる、いやこれまで描かれた武蔵の中でもかなりユニークな存在として描かれているのです。

 物語の始まりは、関ヶ原の戦。そこに幼なじみの又七とともに足軽として参加していた武蔵…とくれば、七と八の違いこそあれ、吉川武蔵と同じように見えますが、ここでの武蔵の行動がまたけた外れ。
 自らの死を――それも人に殺されることを――求める武蔵は、己に確実な死を与えるため、単身、東軍対象たる徳川家康の許に歩を進めるのですから

 まだ子供の頃、母を殺し、自分も虐待しつつけた実父を殺した武蔵。
 それを目撃した養父からも疎んじられた彼は、家を飛び出し、自らの背負った父殺しの罪を、自らの死をもって清算しようと、有馬某、秋山某と無謀な決闘を繰り返し、しかしそれに打ち勝って生き延びてきたのでした。

 そして関ヶ原の戦場で、本多忠勝との一騎打ちに打ち勝ち(!)、家康まであと一歩のところまで迫りながら捕らえられた武蔵ですが、しかし、家康は彼を許し、真田父子への刺客の命を与えるのでした。

 しかし早くもそれを知った真田側は、十勇士の霧隠才蔵、三好清海・伊佐兄弟を送り込み、武蔵は三対一の死闘を強いられることに。
 そしてその果てに彼がとった行動が、その後の彼の運命をも定めることになるのですが…


 と、冒頭からとにかく波瀾万丈、としか言いようのない展開ですが、それ以上に圧倒されるのは、武蔵の背負った救いようのない業ともいうべきものでしょう。
 虐待され、命の危険があったとはいえ父を殺し、その清算のために死を求めながらも、それがまた武蔵の中の怪物を突き動かし、次の暴力と死を生む――

 どちらかといえば明るめの作風の印象のある作者ですが、しかし冒頭から連続する、暗く、そして重い物語の連続は、本作が既存の武蔵物語とはっきり異なることを教えてくれます。


 もっとも、読んでいて粗いな、という部分は確かにあります。
 武蔵の行動があまりにも刹那的で、行動理由に疑問符が付くのは、まあ彼の内なる衝動ゆえ、と言えるかもしれませんが、周囲の人間――特に徳川家康――の行動も同様に見えるというのは、ちと困ったところ。

 また、武蔵の敵として立ちはだかるのが、本多忠勝や真田十勇士など、あまりにキャッッチーな顔ぶれであるのも、話の重さと少々ギャップを感じます。

 しかしそれでもなお、本作は十分以上に面白いのです。
 ユニークな武蔵像に、彼が巻き込まれる歴史の動き、そして強敵の数々。新たなる武蔵伝として、粗を補ってあまりある魅力が、本作にはあります。

 果たして武蔵はこれからいかなる成長を遂げるのか、はたまた遂げないのか?
 決闘に臨んで彼の口から迸る「死にたいのだ。殺してみよ」という暗く、重い彼の魂からの叫びから、彼が解放されることがあるのか?

 早速第2巻にも手を伸ばした次第です。

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武蔵三十六番勝負(一)  地之巻 --激闘!関ヶ原 (角川文庫)

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2011.01.11

「快傑ライオン丸」 第11話「地獄の狼カマキリアン!」

 ドクロ忍者に襲われる笛師の母娘を助けた獅子丸たち。だが一度別れた後、カマキリアンに母は殺され、娘の千恵を助けて戦うライオン丸は、カマキリアンの忍法「山崩し」で生き埋めになってしまう。千恵を助けて戦う沙織と小助だが、小助は死を覚悟して笛を千恵に託す。だが千恵が笛を吹いたとき、ライオン丸を乗せたヒカリ丸が駆けつけた。再びの山崩しをものとせず、ライオン丸はカマキリアンを打ち倒すのだった。

 冒頭からいきなり展開されるドクロ忍者による旅人の無差別殺戮――どちらも全力疾走の妙に迫力あるシーン――を逃れた笛師の母娘を助ける獅子丸たちですが、向かう方向が違うと獅子丸が言って別れたばっかりに、母の方はカマキリアンに殺され、娘の千恵も人質とされる始末(今回に限らず、獅子丸の旅の巻き添え死が多い気が…)。

 さて、そのカマキリアンは、数珠をかけて池の前で祈るデボノバに応えて水中から現れた怪人。デボノバが「我が友カマキリアン、良く目覚めてくれた」というからには、そういうこと(?)なのでしょう。
 名前の通りカマキリ顔に、妙にボコボコした体が無駄にリアルな虫っぽさで厭なカマキリアン、カマキリ怪人なのに鎌を持っていないというある意味斬新な怪人です。

 さて、さっそくライオン丸に変身した獅子丸に対して、中途半端にでっかい縄の輪を投げたカマキリアン、と思ったらそれが地に落ちて火の輪に。
 飛び越せばいいのにライオン丸がわざわざ風を起こして消す間に逃げるカマキリアン…などというシチュエーションを経て第二ラウンド。
 カマキリアンが手の直刀を振り上げると爆発とともにいくつもの小刀が落下、さらに地に刀を突き刺すと、ライオン丸を囲んだ小刀が大爆発する忍法「山崩し」の前に、さしものライオン丸も姿を消します。

 それでも油断しないデボノバは、沙織と小助が死なない程度に攻撃し、二人がヒカリ丸(=果心居士の魂)を呼んだらそれを殺してから二人を殺すという、クレバーな作戦を展開。
 よりによって谷底の小屋に立てこもっていた沙織と小助、千恵の上に、カマキリアンたちは豪快に岩を転がしまくる!
 何とかこれを凌いでも、次に待っているのは無数のドクロ忍者。これに対し千恵を守って果敢に戦う沙織と小助ですが、その間に千恵が謝って谷底に転落。そこに「ここが男の見せ所よ」と小助を励まし、助けに行かせる沙織さんが男前であります。

 と、なかなか笛を吹かないことに業を煮やし、先ほどの作戦をさっさと放棄して三人を殺せというデボノバ。
 自ら攻撃してきたカマキリアンに対し、死を覚悟した小助は、千恵に笛を託して戦いを挑みます(でも結構二人の素早い動きに翻弄されるカマキリアン)。

 ここで小助の笛に口を当てる千恵、そして笛から流れるのはヒカリ丸を呼ぶあのメロディー――
 と、それに応えて飛んでくるヒカリ丸というのは、なかなか美しいシーンなのですが、小助以外でも吹けるということは、前回沙織が笛を吹けなかったのは単に下手だったから…などというのは野暮な詮索なのでやめましょう。

 と、ヒカリ丸の上には、ライオン丸の姿が! というわけで始まるカマキリアンとの第三ラウンド(ここでヒカリ丸を見て逃げた次のシーンで、なぜか土の中に埋まっていたカマキリアン。何やってんだ…)

 その前に向かってくるドクロ忍者を太刀で刺しては軽々と放り投げるライオン丸は、しかし、カットが変わるのが丸わかりで、そこで人形に入れ替わってるのがバレバレなのに困ってしまいますが、ここで「千恵ちゃん、ライオン丸は絶対勝つぜ!」という小助の台詞はやはり燃えます。

 しかしカマキリアンもフェンシング的な剣技で互角に渡り合い、さらに剣から出る光線で崖を崩す「山崩し」(さっきと内容が微妙に違うのは、ライオン丸にはよくあること)。
 さらにだめ押しとカマキリアンは地に剣を刺し、再び爆発!
 しかし問答無用で地面から飛び出したライオン丸、空中に逃れたカマキリアンをライオン飛行斬りで突き刺して、豪快に放り投げるフィニッシュで勝利するのでした。

 ラスト、千恵の母が死んだことも忘れたように朗らかに笑う獅子丸はどうかと思いますが、小助の奮闘ぶりが印象的で、シンプルなお話ながらなかなか面白いエピソードでした。


今回のゴースン怪人
カマキリアン

 デボノバの祈りに応え、池の中から現れた怪人。手にした直刀と、刀を地に刺して爆発を起こす忍法「山崩し」が武器。
 笛師の母娘を襲い、山崩しでライオン丸を一度は倒すが、再戦時には通じず飛行斬りに敗れた。


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2011.01.10

「国境の南 妻は、くノ一」 去りゆく彦馬、追われる織江

 「妻は、くノ一」シリーズも、いよいよ残すところ本作を含めてあと二巻。彦馬と織江を巡る物語は、誰かさんの妄想のおかげで大変なプレイヤーまで乱入し、ラスト直前にも関わらずとんでもない混沌ぶりとなってきました。

 いつまでも終わらぬ追っ手との戦いに疲れ、自らのため、そして何よりも危険に巻き込まれかねぬ彦馬のため、彦馬をあきらめることを決意したた織江。彼女は、得意とする心術(催眠術)を自分にかけて、彦馬への思いを断ち切ろうとします。

 そんな矢先、彼女の前に現れたのは、以前よりシリーズに顔を出していた親友のくノ一・お蝶。
 果たして彼女が新たなる刺客なのか…織江の心は乱れるばかりであります。

 さて、彦馬の方にも人生の大きな転機が訪れます。
 かつての主君であり後見役ともいえる松浦静山の悲願である開国――そのための土台作りのため、密かに海外に渡航する船の船長に選ばれた彦馬は、江戸を離れ、平戸に向かうことに…

 さらにその下工作のため、長崎のシーボルトに近づいた雁二郎の身にも大変な異変が!

 と、レギュラー陣の人生に次々とこれまで以上の波風が立つ中、最後の(?)爆弾が投下されます。
 かつて織江の母・雅江に懸想していた鳥居耀蔵。雅江が亡くなったあとふぬけのようになっていた彼は、その娘である織江に執心するようになるのですが――

 織江を手に入れるためにDTっぷり溢れる妄想を実現させるため、彼が巻き込んだのはなんと将軍家斉。
 かくて家斉直属の美女狩り美男隊四天王が、織江の身を狙うことになります。

 この鳥居の暴走に、織江を嫁にという想いを諦められぬ御庭番頭・川村も触発され、いよいよ狭まる織江包囲網。
 いやはや、各巻がパターンにはまっているようでいて、なかなか先が読めなかった本シリーズらしく、ここに来てとんでもない展開の連続であります。

 しかしそんな派手な(?)展開の一方で、しんみりした展開もあるのが本シリーズらしいところ。
 江戸を離れる彦馬の心残りは、彼が教えてきた寺子屋の生徒たちですが、彼らも、疑問を持ったことを自分たち自身の努力で解決し、真実をつかめるまでに成長しました。
 さらに、彦馬が途中まで手助けしたとはいえ、これまで彦馬に助けられてばかりだった町方同心・原田も自力で事件を解決…

 そして去りゆく彦馬が子供たちに残した言葉――これがまた、実に垢抜けなくて、ほかの場で出てきたらちょっと脱力してしまいそうな内容ではありますが、しかしそれがいかにも彦馬らしい。
 これにて江戸での彦馬の裏表の役割も無事終了、心残りは織江のことのみですが…

 お話的にアラはありますが(織江の努力も恋の魔力の前には無意味だった、という身も蓋もない結論には驚きました)、そうした点があってもなお、やっぱり面白い本シリーズ。
 最後の最後まで希望と元気は捨てずに、ハッピーエンドで完結していただきたいものです。


 それにしても雁二郎は今回もものすごい活躍ぶりで…

「国境の南 妻は、くノ一」(風野真知雄 角川文庫) Amazon
国境の南  妻は、くノ一 9 (角川文庫)


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2011.01.09

「隠密八百八町」 第一回「その男、又十郎」

 正月時代劇「隠密秘帖」の続編と言うべきか本編と言うべきか、「隠密秘帖」の主人公の息子を主人公に、舞台を34年後に移した連続時代劇「隠密八百八町」がスタートしました。

 「隠密秘帖」についてはどうにも地味な印象のありましたが、この「隠密八百八町」は一気に派手な時代活劇になる様子。一言でいえば、正月時代劇からこのノリでいってくれれば…という印象であります。

 寛政の改革も遠く過ぎた文化年間、巷では夜の闇に出没する、青白く輝く狩衣姿の男の噂が持ちきりに。
 そんな中、「隠密秘帖」の物語で両親と兄を失い、家僕に育てられた神谷又十郎は、今は気楽な浪人暮らし、馬庭念流道場の師範代として口を糊する毎日。
 そんな中、ライバル道場とのもめ事を見事治めた又十郎は、その手腕に目を付けた楽翁なる人物に呼び出されるのですが…

 残念ながら30分枠ということで、今回はほとんど人物紹介で終わってしまい、話の本筋に入る一歩手前で時間が来てしまったという印象なのですが、それでもかなりにぎやかな顔ぶれを見ることができました。
 堅物だった父親・庄左衛門と違い、どこか飄々とした又十郎、その又十郎に敗れてストーカー状態の若侍・源兵衛、又十郎とは顔なじみの手裏剣使いの大道芸人姉弟のおときと春之丞(釈さん相変わらず美形すなあ)、そして唯一過去の事件の真相を知る老僕・喜八郎と、老若男女入り交じったチーム(になるのでしょう)構成で、メンバーを見ているだけでもなかなか楽しいのです。

 個人的には、江戸の怪奇事件マニアにはお馴染みの青く光る官人ネタ(たぶん初映像化でしょう…喜んでるのはごく一部だと思いますが)を使ってきたのも嬉しいのですが、その官人の衣に田沼の七曜紋が入っていた、というアレンジが実に面白い。
 それをきっかけに、(本作の悪役になるのであろう)水野忠成が田沼の隠し金の存在に目を付けるという展開も、うまいものだと思います。

 その一方で、又十郎の後ろ盾になるであろう楽翁は――喜八郎が糾弾したように――又十郎にとっては実質的に父の仇同然であり、この辺りのドラマの流れも気になるところ。
 これでさらに庄左衛門が遺した備忘録(これがすなわち「隠密秘帖」!?)が物語に絡んでくるのであれば、非常に面白いのですが…さて。

 全九回、短い時間ではありますが、この調子であれば最後まで楽しめそうです。


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2011.01.08

「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」2月号 伝奇者も必読!

 これまでほとんどノーマークだった「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」誌ですが、最新号は五大新連載――の中に長谷川哲也による「陣借り平助」漫画化があったり、森秀樹による「駿河城御前試合」があったりと、実にこのブログ向けの内容。というわけで、掲載作品の中から目に付いた作品をいくつか紹介します。

「陣借り平助」(長谷川哲也&宮本昌孝)
 というわけで、個人的には一番の目玉作品。昨年末に「ナポレオン 獅子の時代」打ち切りフェイク騒動でファンに冷や汗をかかせた長谷川哲也が、宮本昌孝の快作を漫画化であります。

 宮本作品に長谷川絵というのは、意外なようなそうでないような取り合わせですが、本作ではイエスの印象。豪快極まりない平助の活躍をいい具合にビジュアル化しています。
 思っていたより平助がバタ臭い――大陸軍にいそうな――顔立ちですが、しかし設定を考えればOKでしょう。

 内容的には原作の第一話、信長の桶狭間の戦を舞台に、毛利新介(の許嫁)のために一肌脱ぐ平助のエピソードをほぼ忠実に漫画化。
 やや駆け足の印象もありますが、まずはデビュー戦としては上々ではないでしょうか。
 ちなみに全裸で馬を担いで池から現れるという平助の初登場シーンは、これは原作にあるもので、長谷川イズム(というより小池イズム)の発露ではありません。


「伊達忍風帖」(那葉優花&白川晶)
 特別読み切り。Webコミックでワイアット・アープ物語(!)を描いている那葉優花が、若き日の伊達政宗を支える忍びたちの活躍を描いた作品です。

 政宗にスカウトされた月山修験者の掃海坊右近らが、小手森城の撫で切りの陰で暗躍する様を描いた本作、撫で切りが忍び側の発案というのはなるほどと感じますが、タイトルほど派手な話ではないのが残念。
 伝奇ものというより、史実+忍者ものという印象でした。


「腕KAINA 駿河城御前試合」(森秀樹&南條範夫)
 同じく新連載。いまや南條作品でもすっかりメジャーなものとなった「駿河城御前試合」を、森秀樹が漫画化していく第一回であり、題材は当然「無明逆流れ」であります。

 まことに失礼ながら、今更「無明逆流れ」とは…と思いましたが、しかしさすがは森秀樹、原作に忠実に描きながらも、随所に唸らされるポイントがあります。

 虎眼が伊良子の無明逆流れに両断されるシーンの迫力。藤木が腕を断たれた直後、四人の男女それぞれの姿を描く四つのコマの味わい。そして何よりもラストの三重の選択を知った藤木の表情など、実にいいのです。

 正直なところ、森秀樹(の絵)がどこに行くのかは心配ではあるのですが、それはさておいてやはりいいものはいい。
 結末に原作にない一捻りがあるのも面白く、次回以降も期待できそうです。(戦国…? とか言わない)


「関東三国志外伝 乱波」(木村直巳)
 こちらも新連載。ベテラン木村直巳による、風魔乱波から見た北条・上杉・武田の関東三国志を描く作品…でしょう。

 序章とも言うべき今回は、かの河越夜戦を舞台に、戦場で青い瞳の赤子を見つけた風魔の小頭・二曲輪猪助を主人公としたエピソード。
 ついつい赤子に情が移り、背中におぶったまま任務に当たる猪助の人の良さが、作者の太い描線で描かれるのが楽しいのですが、その猪助と赤子の絆が思わぬ形で示されるラストもよい味わいです。
(しかし、上杉方に足軽として潜入した猪助が赤子を背負っていても不思議に思われないあたり――考証的に正しいかどうかは別として――当時の合戦の雰囲気が出ていて面白い)

 予告によれば、どうやら赤子が五代目風魔小太郎になるようですが、赤子の出自も含めてなかなか面白そうです。


 というわけで、伝奇者的にも非常に面白くなってきた「戦国武将列伝」、しばらく購読決定であります。

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2011.01.07

「無限の住人」 第十二幕「斜凛」

 アニメ版「無限の住人」も、この第12話を入れて残すところあと2話。今回はそれぞれの行く道に翳りの出てきた凛と天津の出会う「斜凛」であります。

 逸刀流の初期メンバーが次々と倒され、槇絵にも去られた天津。
 溜まり場(?)である「雪待」に行ってみれば、いつの間にか(本当にいつの間に)逸刀流を抜けた凶津は遊女とイチャコラしている有様…
 気持ちが優れない時は山に籠もって刀を振り回すという手もあると、天津に対し凶津はアドバイスします。

 一方、前回の川上新夜と錬造のことが頭に残り、心ここにあらずの態の凛。
 気持ちがクサクサしている時は体を動かすに限ると、凛に対し万次は野外で稽古をつけると言い出します。

 万次の荒っぽい稽古に、凛が自分の無力さを痛感したのはさておき、休憩時間に川で水浴びする凛ですが――サービスシーンもそこそこに、上流から流れてくる真っ二つになった木の葉が凛の目に止まります。
 それに興味を持った凛が上流に向かってみれば――そう、そこで木の葉を相手に変形の斧・頭椎(かぶつち)を振るう天津の姿。

 相手が天津と気付いてしまった凛は、先手必勝とばかりに殺陣黄金蟲で勝負をかけるのですが…君は数分前の万次先生の教えを何と聞いていたのか。
 当然と言うべきか、僥倖というべきか、当たったのは一発のみであります。

 効かぬと見るや、天津が置いた頭椎を奪って戦おうとするのは褒めてもよいかと思いますが、敵の武器を奪って…というのはある意味フラグでしょう。
 痩身の天津が軽々と振り回していたにも関わらず、頭椎の大変な重さに自分が振り回された凛は、得物を捨てて逃げ出しますがもちろん逃げ切れるわけもなく――天津に捕らわれてしまうのでした。

 さて、ここからが今回のメインと言うべき天津と凛の対話であります。
 両親の仇に全く歯が立たず、逆に囚われの身となった口惜しさに涙し、早く殺せという凛に対し、何故自ら死に急ぐのか、命乞いをしてまでもその後の機会を窺わないのか、と不思議そうに訪ねる天津。

 もちろん、女性である凛はともかく、一廉の武士が同様の目に遭えば、自ら命を絶つのがもののふの道というやつでしょう。抜きんでた剣力を持ちながらも、しかし、天津のこの言葉は、当時の武士の枠を完全に外れたものであります。

 しかし、次いで天津が喩えに出すのは長篠の戦の信長の戦法と、宮本武蔵の二刀流。優れた武将であり、優れた剣士――すなわち、優れたもののふである彼らの取った戦法は、しかし太平の時代では、卑怯とは言わぬまでも埒外のものと呼ばれかねません。

 天津が凛の両親を殺した理由は、そうした埒外の技を求めたことで破門された祖父の復讐が第一の目的ですが、しかし彼にとっては、武士の体面に拘り続けて老いた祖父もまた、唾棄すべき存在に過ぎません。
 彼の向かう先はその遙か彼方――単なる飯の種に堕した剣術を、ただ強さのみを唯一の価値であり規範とするかつてのそれとして、復興することにあったのです。

 そんな彼にとって、剣術としてみれば邪道としか思えぬ黄金蟲を遣う凛は、半ば自分たちと同類の剣士であると…そう告げて、天津は凛を残し去っていきます。
(原作ではこの場面の天津の表情が素晴らしかったのですが――アニメではぼかされてしまったのが残念)

 初めて知った天津の想い――それはもちろん、強者の勝手な理屈に過ぎないものではありますが、しかし一定の理を備えたもの。
 そして自分が、仇である天津に同類と見なされたことが、凛にどれだけの衝撃を与えたことか。

 槇絵、そして新夜との戦いの中で自らの復讐の正当性を問われ、そして今また、逸刀流の大義の前に自らの大義を揺るがされた凛(実はこのエピソード、原作では新夜篇の前に位置しているのですが、これはアニメのナイスアレンジでしょう)。
 彼女がどのような道を選ぶのか。それは原作と同じ道か、はたまたアニメ独自の道なのか――次回、最終回であります。


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2011.01.06

「雪月記」第2巻 メフィストフェレスとともに

 ぼやぼやしているうちに連載終了してしまいましたが、「雪月記」の第二巻、未来を視る「浄天眼」を持つ神子・緋乃の戦いを描く戦国ファンタジーの続巻であります。

 人里離れた隠れ里・照遠を救うため、人の死をあらかじめ体験することにより、未来を知る能力「浄天眼」を使い、軍師として活動する緋乃。
 激しくしのぎを削る戦国大名の間を巧みに泳ぎ回り、自らの、いや照遠の利のために動く彼は、今回、馳宗頼が治める土狩の地に目を付けます。

 第一巻で描かれた戦いの戦後交渉の折衝役として宗頼に招かれた緋乃に依頼されたのは、しかし硫黄鉱山のある流山の地の攻略。
 その依頼を受けた緋乃ですが、しかし彼がそのままおとなしく従うわけもありません。

 そもそも宗頼という男、美女をコレクションして、自らの下から逃れようとした者を殺して剥製にしておくという変態。
(そもそも「土狩」の名の由来が「人狩り」に由来するというのだから凄まじい)

 いくら戦国時代でもそれはいかがなものかというレベルのアレですが、そういう相手であるからこそ、容赦なくカモにすることができる…と言いたいところですが、しかし、緋乃の計は、様々な人と土地を巻き込み影響を及ぼしていくこととなります。

 作中で言われるように「強きを助け弱きをくじき そこから染み出た汚れた上ずみをすする」緋乃の生き方は、それが照遠の地を、民を救うという大義があってこそのもの。
 それがあるからこそ、彼は汚れ役を演じるのであり、また演じることができるのですが…

 しかしこの巻では、本筋と平行して、緋乃自身も知らない浄天眼の秘密が、緋乃の近くに仕える謎の男・過徒の口から語られることになります。
 照遠の民を救うため、緋乃に用いられる浄天眼。その力の源となるのが、実は…というのは、かなり衝撃的などんでん返しであり、物語の構造すら一変させかねぬもの。

 実は第一巻でもそれが遠回しに語られていたのですが、それが今回のエピソードでも、そのルールが、更なる悲劇を招くことになります。

 しかし神子である緋乃も知らないその秘密を、なぜ過徒が知っているのか…明らかに人外と見える力を持ち、含みのある言動で緋乃を惑わす彼は、緋乃にとってのメフィストフェレスと言えるかもしれません。


 …が、面白くなりそうな要素が散りばめられつつもこの第二巻が今一つ盛り上がらないのは、一つには今回の緋乃の最終的な狙いがわかりにくかったこともありますが、それ以上に緋乃と過徒の関係がわかりにくいことが大きい。

 過徒にどう見ても尋常ではない依存心を見せる緋乃と、その緋乃にどう見てもヤンデレな執着心を見せる過徒…
 この二人のニアホモ的関係性が強烈すぎて――その割にはその中身が見えず――ストーリーがぼやけてしまった印象があるのは残念です。
(その煽りを食ってか、この巻のラストで描かれる悲劇が、どうにも取って付けたものに見えてしまうのが何とも)

 帯では大河時代劇画を謳いつつも、キャラクタードラマ的な側面が強いのが、本作の違和感の源なのかもしれませんが…
 おそらくは残り一巻、それがどこまで解消されるのか、見届けたいと思います。

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2011.01.05

「隠密独眼竜」 六連銭真田流vs柳生家一門隠密陣

 大坂夏の陣より二十五年、豊臣秀頼の娘・夜叉姫を頭に戴く真田残党が暗躍を開始した。真田幸村の子・幸之助、霧隠才蔵の子・疾風道人らによる将軍家光暗殺の魔の手が迫る。お家再興の悲願に燃える一党の陰謀に挑むのは、幕府隠密隊を束ねる柳生十兵衛光厳。柳生剣法と真田忍法の死闘の行方や如何。

 突然ですが、これから高木彬光の時代伝奇小説を紹介していきたいと思います。
 高木彬光といえば、本格推理小説界の巨匠でありますが、しかし決して少なくない数の時代小説を――それも時代伝奇小説を――発表しています。
 これまでも時折このブログで取り上げてきましたが、今年は不定期ながら(ほぼ)全作品紹介を目指していきたいと考えている次第です。

 さて、その第一回は、柳生十兵衛が、江戸に現れた真田家残党と対決する「隠密独眼竜」であります。

 徳川家に滅ぼされ、炎に消えた大坂城。しかしそこから、豊臣秀頼の子を身ごもった女が落ち延び、真田家残党の庇護の下、女児を産んでいた、というのが本作の基本設定。
 美しく成長したものの、夜叉姫なる恐ろしげな名乗りを上げた彼女を奉じ、幸村の子や才蔵の子、さらには老いたる猿飛佐助が、豊臣家のお家再興、そして何よりも徳川将軍家への復讐のため、様々な策を巡らし、将軍家光の命を狙うこととなります。

 一方、それに対するのが、隻眼の剣士・柳生十兵衛その人。
 本作における十兵衛は、将軍家指南役の座を退き、変わって幕府隠密の総元締めというべき座にある――それゆえ本作のタイトルは「隠密独眼竜」――人物ですが、自らも剣を執って最前線で活躍するヒーローです。

 かくて、太平の世の反映の陰で激しくぶつかり合う柳生と真田…時に江戸城を炎に染めて繰り広げられる戦いは一進一退、手段を選ばぬ真田側のテロ行為に対し、柳生側は時にこれを未然に封じ、時にこれを逆に利用して一歩一歩迫ることになるのであります。


 …と、書けば実に面白そうなのですが、実際に作品に触れてみると、かなりテンションが低い、というかなかなか読んでいてこちらが燃えてこないのが、本作の不思議なところ。
 いや、実は本作に限らず、高木時代伝奇小説はほとんどがこの調子なのですが――

 これは想像するしかないのですが、作者の時代小説に向ける熱意がどうも…という印象で、それが作品の妙な堅さ、体温の低さに繋がっているのではないかな、という気がしております。

 柳生十兵衛対真田十勇士残党という、ある意味ドリームマッチにあってこれは実に残念なお話で、作中、柳生宗矩の台詞で、
「真田幸之助みずからが幸村譲りの六連銭真田流の兵法で大江戸将軍家のおひざもとを揺さぶろうというならば、それに対抗するものはわが柳生家一門の隠密陣をおいてほかにはないのだ」
などと実に格好良い台詞もあるだけに、いやはや勿体ないお話であります。

 なお、作者の柳生十兵衛ものには、短編連作「隠密飛竜剣」もありますので、近日中にこちらも取り上げてみたいと思います。


 ちなみに何故か本作の十兵衛の名は「三厳」ではなく「光厳」。
 実は光厳と三厳、柳生十兵衛は二人いたのだ! という展開だと面白いのですが、そういうことはもちろん(?)ないのでした。

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2011.01.04

「快傑ライオン丸」 第10話「死の水 ドクイモリ」

 里見村でイモリが異常発生し、不吉な事件が起こるという噂を聞いてきた獅子丸一行。そこで小助は、ドクイモリが吐く毒の水が混じった沼の水を飲んでしまう。重兵衛という男なら治せると効いた獅子丸は、単身山向こうに向かう。重兵衛が薬を作る間も襲い来るドクイモリとドクロ忍者。獅子丸は重兵衛の子・京太とともに戦ってドクイモリを倒し、重兵衛の薬で小助も救われるのだった。

 「快傑ライオン丸」第10話は、怪人ドクイモリの登場回。このドクイモリは、デザイン的にはむしろ鮫っぽいイメージですが(ギンザメより鮫っぽい)、配下のドクロ忍者が変じたイモリを操る描写など、なかなか印象的な怪人です。
 しかもこのドクイモリ、失敗した部下には容赦なく、お払い箱にして去っていくところを後ろからデボノバに与えられた短筒(またか!)で狙撃するという冷酷さ。
 しかしこの時、脳天ぶち抜かれて血だらけの大穴が開いたドクロ忍者の頭をどアップで映すのはいかがなものでしょうか。

 それはさておき、今回お話の方はかなりシンプル。毒水を飲んで苦しむ小助を助けるために獅子丸が奔走するお話であります。
 山を越えたところに住む重兵衛という男であれば治せると知り、沙織に看病を任せて重兵衛のもとに向かう獅子丸。
(ここで小助の代わりにヒカリ丸を呼ぼうと沙織が笛を吹くのですが、スースーとしか音が出ないのが可笑しい。小助だけが吹ける笛なんでしょう…と思ったら)

 さて、途中妨害を受けつつも重兵衛の元に辿り着いた獅子丸ですが、重兵衛は単なる薬師とは思えない雰囲気の男、獅子丸の腕前も一目で見抜いてしまいます。
 実は彼は医術と武術で鳴らした男、武芸比べで人を殺して以来、こうして隠棲しているというのですが…

 一方、その息子の京太は、獅子丸に憧れ、獅子丸の助っ人を買って出るという展開。
 ここで戦いが怖かったという京太に、獅子丸も自分もそうだが、しかし何かを守るためにはどんなに怖くっても戦わなければいけないと語りかける場面は、ありがちな内容ではありますが、獅子丸の内情を吐露したものとして印象に残ります。

 さて、薬作りにはしばらく時間がかかるということで待つことになった獅子丸ですが、そこに次々と敵は襲いかかります。
 まずはデボノバ殺法「五月雨」――デボノバが胸から赤い光線を放ち、当たったところからドクロ忍者が湧いて文字通り降ってくるという攻撃ですが、獅子丸に片っ端から斬られてあっさりデボノバ敗走。

 次にドクイモリ配下のドクロ忍者は忍法「横車」で襲いかかってくるのですが…
 まず第一段階、不気味な黒装束でドクロ忍者が現れるのですが…これが妙に背が高い。それもそのはず、二人肩車しているのですが、まさかリアル「中の人などいない」を見せられるとは思いませんでした。
 これが破られた第二段階、三人一組で円陣を組んだドクロ忍者が、まとっていた黒布を頭にかぶり、外側に刀を突き出してぐるぐる回りながら襲ってくるという…
 確かに横車なのですが、京太の放った矢を喰らってあっさり破れる始末。そもそも、頭に黒布被ってたら外が見えないのでは…

 しかしこの面白攻撃は陽動だったか、薬を完成させた重兵衛のもとに現れるドクイモリ。しかしドクイモリの攻撃を素手でいなす重兵衛が格好良い!

 そして駆けつけた獅子丸との最後の対決、屋内での戦いで梁に刀を引っかけてしまうという初歩的なミスを見せる獅子丸が微笑ましい(?)のですがそれはさておき…
 毒液噴射を「風よ!」で弾き返して変身したライオン丸、太刀を右腕のかぎ爪に受け止められて至近距離で毒液をくらったりもしますが、闘志は十分。
 空に飛んで姿を消したドクイモリの影が地上に残っているのを見破り、ジャンプ一番ドクイモリの首を叩き落とすのでした。

 己の術に溺れることなく精進されよと言葉を贈る重兵衛、いつか自分にも忍法を教えて欲しいという京太の言葉を背に、獅子丸たちは再び旅立つのでした。

 しかし今回、沙織さん(小助も)がいつにもまして豪快にチラチラさせていて…


今回のゴースン怪人
ドクイモリ

 里見村で人々を苦しめていた怪人。口から毒水を放ち、飲んだものは激しい痛みに苦しみ、ついには血が固まって死んでしまう。右腕に金属製の三本爪を装着している。また、背景に溶け込んで姿を消すことが可能。
 解毒薬を巡り獅子丸を襲うがいずれも破られ、姿を消したところを見破られて斬られた。


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2011.01.03

「天下人ソウル」 目指せ天下の大スター!

 天下分け目の関ヶ原の最中、謎の祠に「天下人(スター)になりたい」と願った石田三成は、不思議な力によって魂が家康に乗り移ってしまった。成り行きから戦に勝ってしまった三成は、唯一真実を知る天海とともに天下人への道を歩み始めるが、その前に立ちふさがったのは意外な存在だった!?

 最近は石田三成が色々と人気者のようで、様々な作品に登場していますが、間違いなくその中で最もユニークな部類に入るのは本作でしょう。
 こともあろうに関ヶ原の最中に三成と家康の魂が入れ替わり、三成が家康として、天下人(スター)への道を歩もうとするのですから、まさに空前絶後…というのは言い過ぎかもしれませんが、他に類のない怪作コメディであります。

 これはジャンルと言って良いのかわかりませんが、時代ものに限らず(というよりむしろ時代もの意外で)「入れ替わりもの」とでも表すべき作品があります。
 ある人物が、自分と全く異なる境遇の人物と入れ替わり(取り憑き)、他者の人生を歩むことで、自分の人生を見つめ直したり、新たな可能性を見いだしたり…という趣向の作品のことですが、本作もまさにその系譜に属するものでしょう。

 何しろ本作の三成は、後世の我々が受けるイメージをそのまま形にしたような人物。
 優等生タイプで、そのくせ調子に乗りやすく、自分の才能を鼻にかけて周囲を見下し、その挙げ句どんどん孤立していってしまう。
 そんな三成が天下人一直線の家康の中に入ってしまったわけで、これは大変なことに…なるかと思えば別の意味で大変なことになるのがオカシいのです。

 古文書の予言から唯一この事態を予見していた南光坊天海の補佐はあるものの、戦後の論功行賞や不肖の息子・秀忠の扱いなど、天下人といっても楽しいことばかりではなく、ままならぬことばかり。
 それでも悪運と周囲の勘違いで何とかクリアしてきたものの(この辺りの展開も入れ替わりものの定番であります)、しかし三成の家康の前にとんでもない敵が立ちふさがることになります。

 それこそは、真の家康…の魂が入ってしまった淀君。実は魂の入れ替わりがあったのは三成と家康の二者ではなく、三成と家康と淀君の三者――すなわち、ここに誕生したのは三成の家康と、家康の淀君と、淀君の三成だったのです。

 そのうち淀君の三成は、あわれ六条河原で首を討たれてしまい、残る二人が天下を巡って争うことになるのですが、家康の謀略に淀君の権力を併せ持ったのが相手では、いくらなんでも相手が悪い。
 また肝心なところで変にプライドの高い三成の悪癖が出て、徳川方の命運は風前の灯火に…


 と、ここから先は読んでのお楽しみですが、さんざんおバカなことをやっておいて、実は…というのも、お約束ながら実に良い。
 そう、無茶苦茶をやっているようでいて、本作はきっちりと成長物語の王道を行く作品――と言い切るのもどうかと思いますが、思い切り笑わされて、最後の最後でグッとくる展開が待っていたのには、思わず「やられた!」と言いたくなりました。
(個人的には、終盤で「あれ、パラレルワールド…?」と思わせて実は、というのが何とも心憎いのです)

 人はスターに生まれるのではなく、スターになるのだと、そんなマジになることもないかもしれませんが、ヘタウマ調の絵柄に二の足を踏んでいると勿体ない作品であります。

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2011.01.02

正月時代劇「隠密秘帖」 贅沢な予告編…?

 天明四年三月、江戸城内で田沼意次の子・意知が佐野善左衛門に斬りつけられ、八日後に没した。刃傷の原因を探るよう密命を受けた小人目付・神谷庄左衛門は、同僚と二人、佐野の周囲を調べ始める。その中で、私怨と思われた事件の背後の陰謀の存在を知る庄左衛門だが、彼らの身に魔の手が迫る…

 今年のNHKの正月時代劇は、舘ひろし主演の「隠密秘帖」
 いかにも伝奇的なタイトルといい、八日からスタートする土曜時代劇「隠密八百八町」の主人公の父を描くというユニークな趣向といい、楽しみにしておりました。

 物語の中心となるのは、佐野善左衛門による田沼意知への刃傷事件です。
 江戸城内で突然佐野に斬りつけられた傷が元で意知が亡くなったこの事件は、江戸城内での刃傷沙汰という事以上に、当時の最高権力者・田沼意次の子が殺され、田沼時代終焉のきっかけとなったという点で、大きな意味を持ちます。

 当然というべきか、この事件は様々な時代ものの題材として扱われていますが(例えば最近では上田秀人の「奥右筆秘帳」など)、多くの場合、佐野の動機に焦点が当てられているように感じます。

 それというのも、佐野が凶行に及んだ動機というものが不明であるためで――役に付くために賄賂を送っていたのを無視された、家系図を田沼に簒奪された、領地の佐野大明神を田沼大明神にされた等々――一応私怨ということになっていますが、その不明瞭さが、フィクションの介在する余地として好まれるのでしょう。

 本作において、主人公・神谷庄左衛門が探ることになるのは、まさにこの点であります。
 小人目付としてこの事件の探索を命じられた庄左衛門は、佐野の同僚や馴染みの女郎屋、さらに意知を手当した医師などを巡り、佐野の動機と意知の死の真相、そしてその背後のある意志の存在を知ることになるのですが…

 上に述べたように、佐野の刃傷は題材的には決して珍しいものではありませんが、刃傷から意知の死まで八日の間があることに注目し、そこに陰謀の存在を描くというのは、なかなか面白いアイディアではあります。
 さらに、そこに実は幕府内のガス抜きのためだけに命を与えられた(当然本人はそれを知らない)庄左衛門が頑張りすぎてしまったために、隠したかった真相が露わになってしまうという構図も、むしろ社会派ミステリ的で面白いのですが…


 しかし、実際に映像で見ると、これが誰得としか言いようのない作品となっているのには、驚かされます。
 主人公の剣戟が半分過ぎてからようやく出てくることに象徴される展開の地味さもさることながら、舘ひろしをはじめとするキャストも――さすがにNHKらしくかなり豪華ではあるのですが――地味。
(さらに言えば舘ひろしの殺陣はかなり心配になる代物で…)

 さらにストーリー的にはかなり悲惨な結末を迎えるとくれば、元旦のゴールデンタイムにこれを流したのはある意味英断とすら感じられます。
 売りの一つである「隠密八百八町」への繋がり、親から子への絆も、小人目付の子として苛められ、その仕事に疑問を持った子を、庄左衛門が張り飛ばす程度で示されても…と言うほかありません。


 終わってみれば、贅沢な新番組の予告編という印象の本作、映像など丁寧な作りではあっただけに、正月早々勿体ないというほかありません。
 シリーズの方はチームもののようですので、もう少し派手な作品になる(そして舘ひろしの殺陣もカバーできる)と思いますが…

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2011.01.01

あけましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。昨年もこのブログをご覧になっている皆様のおかげで完走できました。
 本年も一日一日欠かすことなく頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 時代小説界では、昨年も文庫書き下ろし時代小説が相変わらずの人気であった一方で、若い層でも手に取りやすい内容・装幀のソフトカバー時代小説が増えてきました。

 この辺りに一つの希望があるようにも思いますが、まだまだ寂しいところ。
 口はばったいようですが、伝奇時代劇アジテーターとして、ここが頑張りどころと感じている次第です。

 今年も、少しでも伝奇時代劇の楽しさを知っていただくために、自分にできることは何でもブチ込んで頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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