「異形コレクション 江戸迷宮」(その三) 狂から笑までの奇譚
「異形コレクション 江戸迷宮」の全話紹介の三回目であります。そろそろバラエティに富みすぎる本書の姿が浮かび上がってきます。
「彫物師甚三郎首生娘」(薄井ゆうじ)
見世物小屋で生きているかのような生首を見つけた甚三郎。彫り物に生命を与えるのが夢の彼はその首に理想を見るのだが。
こちらも恥ずかしながら初めて拝見する作家の作品。
自らの作品に生命を与えるというのは、おそらく芸術家であれば誰もが夢見る境地であり、その営為を描いた作品も様々存在していますが、本作もその系譜に位置するものです。
彫り物に命を与えるということに取り憑かれた主人公・甚三郎が見世物小屋で出会った美しい女の生首。
見世物としては面白くもないそれは、しかし彼にとっては理想の産物であったのですが…
奇怪な過去を持つ小屋主から聞いた、これまた奇怪な生首の来歴。
それを信じ、畢生の大作を仕上げた甚三郎が取った行動は、ある意味予想の範囲内ではありますが、しかしその果てに待っていたのは、恐ろしくも哀しく、そして妖しい境地。
京極夏彦の、いや江戸川乱歩のある作品を思い出させられました。
「異聞胸算用 其ノ弐」(平山夢明)
おくずが出会った親子巡礼。自分よりも惨めな暮らしを送る彼らの、さらに惨めな姿を見たくなった彼女は…(地獄草鞋)
ほとんど単行本化されていないため、ご存じない方も多いかもしれませんが、実はコンスタントに時代ものを著している作者。本書のある意味先駆と言える時代伝奇アンソロジー「伝奇城」に掲載された「異聞胸算用」の名を冠した、三編の時代怪奇譚であります。
作品のうち、「めんない豆腐」「木違い障子」とも、なかなかに個性的で、それでいて江戸怪談らしい味わいの作品なのですが、残る「地獄草鞋」は、平山作品としか言いようのない狂気の一品。
醜い容貌を抱え、江戸の片隅で生きるおくず(という名前も強烈ですが)が、ある日出会った巡礼とは名ばかりの親子の乞食。
自分よりも惨めな存在に優越感を感じる彼女は、親が語る彼らの悲惨な来歴に胸を躍らせるうち、さらに彼らを苦しめたくなり…
単純にグロテスクという以上に、思わず目を覆いたくなるような、人の世の醜いもの、狂ったものをむき出しにする作者の筆の冴えには、勘弁して下さいと謝りたくなってしまうほど。
それでいて「世間の者は醜い心根の人間の奥底には、きれいな珠が宿っていると信じたいのだ。」という一文がサラッと登場するあたりにも唸らされます。
結末で描かれる怪異にホッとしてしまう逆転現象も含めて、まさに平山怪談というべき一編です。
「江戸珍鬼草子」(菊地秀行)
元禄の冬の夕暮れ、日本橋に現れた奇妙な獣。それを迎えに来た者は?
「幽剣抄」で数々の時代ホラーの佳品を描いてきた作者によるショートショートは、雪の江戸を舞台とした怪作。
勘の良い人であれば最初のページで、そうでなくても数ページ後でオチに気づくかと思いますが、ぬけぬけとすっとぼけた物語を繰り出してくるのは、貫禄というものでしょうか。
「大江戸百物語」(石川英輔)
本堂で百物語の会をやれば、必ず化け物が出るという寺で百物語をすることになった物好きな連中。最後に出てきたモノは…
ある意味江戸を語らせるのに一番相応しい作者の異形コレクション初参加作品は、怪談会を舞台としたコミカルな一品。
百物語も終盤、話も尽きてきてメタメタな雰囲気になってきた中で語られる怪談は、登場人物たちからも突っ込みを受けるような可笑しさで、これは○○でやったら面白そう…と思っていたら、そのものズバリのオチにひっくり返りました。
まだまだ続きます。
「異形コレクション 江戸迷宮」(井上雅彦編 光文社文庫) Amazon

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