« 「武蔵三十六番勝負 2 水之巻 孤闘!吉岡一門」 その剣は何のために | トップページ | 「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘! »

2011.01.27

「東海道四谷怪談 日本の妖異」 三重構造の怪談

 松の廊下の刃傷で改易となった浅野家。赤穂家の浪士たちが仇討ちに逸る中、伊右衛門が田宮お岩に夢中になっていた。しかし求婚をお岩の父に断られた伊右衛門に、田宮家の中間・直助権兵衛がある誘いを持ちかける。直助の悪魔の囁きの背後には、人知を超えた妖異の世界の戦いがあった。

 「ゲゲゲの女房」効果か、何度目かのブームのただ中にある感もある水木しげる作品。今回「東海道四谷怪談」が何度目かの復活を遂げたのも、そのブームのおかげもあるでしょう。ありがたい話です。

 さて、この「東海道四谷怪談」、あまりにも有名な怪談ではありますが、しかしそれが水木しげるの手にかかれば、四世鶴屋南北の原作から、驚くべき飛躍を遂げることとなります。

 何しろ、最初の場からして、地の底深く、八百万の妖怪たちが妖怪城に集う祭りの場面なのですから凄まじい。
 妖怪たちの王の御前で催されるこの祭りを司るのは、竜一族と天邪鬼一族。しかし、天邪鬼側の奸計により恥をかかされた竜が暴れたことから、竜一族は誅戮されることになります。

 どこかで聞いたような展開ですが、滅びたはずの竜一族の生き残りが人間界に逃れたことから、それを追って天邪鬼一族の使者も、人間界に向かうことになります。
 その天邪鬼こそは、原作でも伊右衛門と組んで悪事を働いた直助権兵衛。
 直助は、お岩こそは竜の魂を宿す者と睨み、伊右衛門を操ってお岩を殺そうとするのですが…

 というわけで、ここで妖怪たちの世界の物語は、お馴染みの四谷怪談の世界と、見事に融合することとなります。
 この後も、伊右衛門とお岩が原作に近い運命を辿る一方で、、不動明王の呪法を用いる怪僧・浄念や妖怪谷の妖怪たちが登場したり、かと思えば原作でも重要な役割を持つ赤穂浪人・佐藤与茂七が、彼らと関わりを持ったり…
 野放図に展開していく物語が、実に楽しいのであります。

 考えてみれば、原作の「東海道四谷怪談」は、「仮名手本忠臣蔵」外伝として、忠臣蔵の世界と対比される二重構造となっていたわけですが、本作ではさらにその上に妖怪の世界を設定することにより、三重構造を形作っているのが面白い。

 忠義に凝り固まった忠臣蔵に対し、人間の生々しい欲望を描き出した原作。そこに、それを超越した――しかし、やっていることは人間の世界と大差ない――妖怪の世界からの視点を持つことにより、本作はさらに俯瞰的な、人間のせせこましい感情を笑い飛ばす視点を持ったと言えるかもしれません。

 結末での伊右衛門の扱いはいかがなものかと思わないでもありませんが、作者が赤穂浪士側に共感するとも思えないことを考えれば、むしろ人間の欲に忠実な伊右衛門は――後半の所業はともかく――好ましいものなのかもしれませんね。

「東海道四谷怪談 日本の妖異」(水木しげる&鶴屋南北 ホーム社漫画文庫) Amazon
東海道四谷怪談 日本の妖異 (HMB M 6-9)

|

« 「武蔵三十六番勝負 2 水之巻 孤闘!吉岡一門」 その剣は何のために | トップページ | 「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「東海道四谷怪談 日本の妖異」 三重構造の怪談:

« 「武蔵三十六番勝負 2 水之巻 孤闘!吉岡一門」 その剣は何のために | トップページ | 「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘! »