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2011.01.19

「異形コレクション 江戸迷宮」(その一) 江戸という異形の場で

 毎回様々な趣向で読者を楽しませてくれるホラーアンソロジー「異形コレクション」ですが、最新巻のテーマはなんと「江戸迷宮」。収録された作品ほとんど全てが、江戸時代、そして江戸という場を舞台としたものであり、当然当方としても見逃すわけにはいきません。これから数回にわたり、全作品を紹介いたします。

「かくれ鬼」(中島要)

 別れ話のもつれからおこうを殺してしまった伊之助。しかしおこうの死体はどこからも見つからず、伊之助は疑心暗鬼に陥って…

 恥ずかしながら初めて読む作者の作品。火遊びの末に別れ話がもつれ、執拗に自分につきまとう女を思わず殺してしまった若旦那の破滅を描く短編ですが、これが実に良くできた時代ホラーという印象です。

 口論の末に柳原の堤で思わずおこうを絞め殺してしまった伊之助は、近づいてくるかに見えた提灯の灯に怯え、その場を逃げ出してしまうのですが、すぐに見つかるものと思われたおこうの死体はいつまで経っても見つからない。
 自分の犯罪の結果が露見するのではないか、いや、実はおこうは死んでいないのではないか…恐怖に取り憑かれた伊之助は、ついに犯行現場である柳原に舞い戻って…

 犯罪者特有の心理を克明に描き出す過程も良いのですが、初めてタイトルの意味に気付かされる終盤の展開が実にうまい。
 さらに、ラストシーンに漂うなんとも言えぬもの悲しさと、それと表裏一体のしたたかな強さが実に良いのです。
 本作の舞台が柳原という特殊な場であることの意味を見事に活かした、時代ホラーの佳品です。


「シイ」(朝松健)

 救いを求めて本所お化け坂の月白伊織のもとを訪ねた本草学者・南志野盤岳。彼に取り憑いた奇怪なあやかしの正体とは。

 表記が困難のためカタカナとしましたが、実際はタイトルは漢字であります(シは黒、イは生の下に目)。

 さて、異形コレクションでは毎回室町伝奇で楽しませてくれる作者ですが、今回は紛うことなき江戸伝奇。しかしその主人公は、以前「本所お化け坂 月白伊織」でデビューを飾ったゴーストハンターであります。

 本所お化け坂の第六天社に住み、奇怪なあやかしに苦しめられる人々を救う謎めいたヒーロー・伊織のもとを今回訪ねるのは、実在の本草学者・稲生若水の弟子である南志野盤岳という男。

 師と共に出かけた高尾山で、奇怪な黒い石の存在を知ることとなった盤岳は、そこで出会った男に強烈な嫉妬を抱くのですが…
 その晩、男を襲う奇怪な黒い獣。その獣があたかも自分自身のように思えた盤岳は、悩んだ末に伊織を訪ねたのでした。

 と、今回伊織が対決するのは、朝松ファンであればお馴染みのあの怪物。ある意味ドリームマッチの実現だけでも興奮しますが、そこに一ひねり加えてくるのは作者ならではでしょう。

 ただ残念なのは、依頼者側の物語がきっちりと描かれるほど、伊織の活躍があっさり目になってしまうこと。以前から感じていたのですが、このシリーズには長編が似合うのかもしれません。


「振り向いた女」(竹河聖)

 馴染みの御隠居を送る夜道で、妖しげな女を見かけた幇間の藤八。振り向いたその顔はあたかも鬼女のようで…

 作者は、「あやかし草紙」シリーズをはじめとして、様々な場で幕末を舞台とした時代ホラーを描いていますが、その主人公が、元御庭番の幇間・藤八。そう、本作もこのシリーズの一作であり、藤八の他にも旗本の御隠居(実は作者の…)とその息子など、ファンにはお馴染みのキャラクターが顔を見せます。

 お話的にはかなりシンプル、夜道で出会った鬼女のような女の正体を、藤八が追うというもので、文字通り鬼面人を驚かす態の作品ではあります。

 しかし本作においては、そのシンプルさが、物語全体を――決して明示的ではないにもかかわらず――包む江戸の「雰囲気」「情緒」を引き立ててくれるのです。
(地の文で時代考証を語りつつ、そこに巧みに突っ込みを入れるのも楽しい)

 「月白伊織」とは逆に、本シリーズは短編が似合うと再確認した次第です。


 次回に続きます。

「異形コレクション 江戸迷宮」(井上雅彦編 光文社文庫) Amazon
江戸迷宮―異形コレクション (光文社文庫)


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