« 「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘! | トップページ | 二月の時代伝奇アイテム発売スケジュール »

2011.01.29

「ご落胤隠密金五郎 しのび姫」 琉球の美姫、江戸の休日

 水野忠成の妾腹の子・金五郎は、家を飛び出して市井に暮らし、家老の土方縫殿助の依頼で隠密の真似事をしていた。ある日、町で侍たちに取り囲まれた娘・真美由を助けた金五郎だが、彼女は琉球王家の姫だった。大奥入りを嫌って逃げ出した彼女を匿う金五郎だが、二人に薩摩の追っ手が迫る。

 新年も快調に作品が刊行されている早見俊の新シリーズは「ご落胤隠密金五郎」であります。
 将軍家斉の側用人・水野出羽守忠成の妾腹の子で、窮屈な武家暮らしを嫌って家を飛び出し、いまは気ままな市井暮らしの主人公・金五郎が半ば道楽、半ば生計の手段としているのが、なんと隠密稼業。
 実家の家老・土方縫殿助が持ってくる依頼を受けては小遣い銭を稼ぐという、何だか色々な意味ですごい設定の作品であります。

 それにしてもご落胤が隠密とは…という気もしますが、金五郎は実は習い事マニア、武芸十八般はおろか、忍術も修行したことがあるという設定なので心配ご無用(?)
 作中でも金五郎は長屋の隣人の落語家に弟子入りして、落語を習い始めたりするのですが、この辺りから察せられるように、本作はかなり明るいタッチの、肩のこらないエンターテイメントとなっております。

 とはいえ、単にお気楽ヒーローが脳天気に事件を解決するだけではないのが本作の面白いところ。実のところ、彼の挑む事件も、彼を取り巻く環境も、なかなかに重いのです。

 今回、金五郎が巻き込まれるのは、琉球の姫にまつわる事件であります。
 薩摩藩の手により江戸に連れてこられたところを逃げ出し、追っ手に囲まれたところを金五郎に救われた本作のヒロイン・真美由姫が金五郎と共に市井の暮らしを経験し、二人の間には淡い想いが…
 という時代劇版ローマの休日パターンの本作ではありますが、しかし、彼女を取り巻く状況は、ロマンチックなものでは決してありません。

 何しろ、薩摩藩が彼女を江戸に連れてきた理由は、彼女を大奥に入れて、将軍家斉の側室にすること。つまりは彼女を人身御供に、将軍家とのパイプを太くしようという企みであります(それも、家斉の寵が島津家出身の正室から薄れたから、という理由なのもけしからん話)。

 そして、美女には目のない家斉のために彼女を連れ戻そうというのが水野忠成。その意を受けた縫殿助の依頼が、当の姫を匿っている金五郎のところに回ってくるのも皮肉な話ですが、いずれにせよ、女性一人の人格を無視して、自分の利益のために動かそうということは変わりません。
 さらにそこに、将軍愛妾・お美代の方の養父である中野清茂(後の中野石翁)も絡んできて、物語は、狐や狸の化かし合い的な様相すら呈してきます。

 考えてみれば、いくら本人が望んだとはいえ、実の子に、表に出せない陰働きをさせるというのもひどい話ではありますが…
(しかし妾腹の子をこき使う父というのは、時代ものでは定番の設定ですな)。

 そんな重たく綺麗事ではない現実に対して、金五郎は真美由を守って戦うこととなります。果たして何が彼女にとっての幸せなのか、そして現実に取り得る道は…終盤で金五郎の打った手は、苦く切なくも、現実を見据えたものと言えるでしょう。


 …と、必要以上に重い印象を持たせるような書き方をしてしまいましたが、やはり本作の基本はエンターテイメント。
 無邪気で野放図な主人公の言動に、悪人たちが勝手に振り回されていく展開などは、なかなかに愉快なのです。
(特に、金五郎が儒者髷にしていたために薩摩藩が勝手に金五郎像を作り上げていくあたりはうまい)

 眠狂四郎をはじめとして、様々な時代劇に悪役として登場する土方縫殿助が、本作では金五郎に手を焼く爺的役回りなのも、個人的には楽しめました。

 これから先、金五郎は何を挑み、何を学んでいくのか、当然発表されるであろうシリーズ第二弾も楽しみであります。

「ご落胤隠密金五郎 しのび姫」(早見俊 徳間文庫) Amazon
しのび姫―ご落胤隠密金五郎 (徳間文庫)

|

« 「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘! | トップページ | 二月の時代伝奇アイテム発売スケジュール »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/50722429

この記事へのトラックバック一覧です: 「ご落胤隠密金五郎 しのび姫」 琉球の美姫、江戸の休日:

« 「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘! | トップページ | 二月の時代伝奇アイテム発売スケジュール »