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2011.01.20

「異形コレクション 江戸迷宮」(その二) 苦界の中の怪

 「異形コレクション 江戸迷宮」の全話紹介の二回目であります。想像以上に一話当たりの語りに時間(分量)がかかって驚いております。今回紹介する三話は、奇しくもその身を売る女性たちの奇譚であります。

「萩供養」(平谷美樹)

 吉原の花魁・七瀧の周りにいつの間にか現れる萩の花。相次ぐ怪事に心を痛めた彼女に招かれた修法師・ゴミソの鐵次の見立ては。

 岩手出身・岩手在住の作者による本作は、江戸を舞台としつつも、東北の香りを遠く漂わせる作品。
 主人公・ゴミソの鐵次の「ゴミソ」とは、津軽などで祈祷・卜占・神降ろしを呼ぶ者のことを指します。

 その鐵次――まとった着物に、それまでに祓った魂の名残として端布を縫い付けた異装が面白い――のデビュー作である本作は、吉原の花魁を襲う怪異に挑みます。

 どこからともなく現れる萩の花、虚空を歩む若者、どこからか持ち込まれる小動物の死体…人の欲が詰まった吉原という場だけに、思い当たる節は多すぎる。
 心を痛めた花魁のために鐵次は原因と思われるものを一つ一つ当たっていくのですが…
 お話的にはよくある退魔ものかと思いきや、終盤で示されるどんでん返しが実にフェアかつユニークで嬉しい本作、だめ押しとばかりに(?)ラスト数行で交わされる会話には、思わず顔がほころびます。

 ちなみに本作、地の文で考証をかなり細かく書いてるのが、気になるといえば気になります。作者の真面目さの現れでしょうが――


「雛妓」(長島槇子)

 刀匠の子で今は深川の雛妓・菊弥は、水揚げを目前に控えながら、恋しい彦三郎を求めていた。彼女の一念の窮まるところ…

 「遊郭のはなし」で我々読者を震え上がらせた作者が、これも躰を売るしか生きる術のない女性を描いた、哀しくも恐ろしすぎる短編であります。

 刀匠である父が亡くなり、その借金のために深川で芸者となった菊弥。まだ雛妓(半玉)の彼女は、ある座敷で出会い、一度情を交わした若者・彦三郎を一心に慕うも、再び会えぬまま時間は流れます。
 そして、芸者として水揚げ(=客に初めて抱かれる)こととなったその日、彦三郎の正体を知った彼女が引き起こしたのは…

 苦界に生き、死ぬ女性たちを見事に描くと同時に、思わずのけぞるほどの無残絵を描き出す作者らしく、本作のクライマックスで描かれるのも、唖然とするような地獄絵図。
 実のところ、展開はある程度途中で読めてしまうのですが、しかし自らの想いを貫いた主人公の姿には、恐怖だけでない何ものかを感じてしまうのです。


「常世舟」(倉阪鬼一郎)

 築地で船饅頭のおゆうと二人身を寄せ合って暮らす船頭の常吉。そのおゆうの躰にはある秘密が…

 最近は時代小説にも進出している作者ですが、個人的には普通の作品が多く不満に思っていたところでした。
 しかし本作は紛うことなき時代ホラー、それももしかするとあの世界の…であります。
 築地の明石橋、通称寒さ橋で船饅頭(小舟の上で躰を売る私娼)のおゆうと共に暮らす常吉。舟の上で安い金で躰を売るおゆうと、その間、船を沖に出すという常吉という、何とも物悲しい二人の姿を描く本作ですが、しかしそこに異次元の色彩が混じることとなります。

 生まれつき異形の足を持ち、それがために虐げられ、孤独に生きてきたおゆう。彼女と寄り添うように生きる常吉もまた、死病に冒された身。
 明日をも知れぬ身の二人の想いは、やがて彼らだけの常世を求めるように流れていくのですが――そこで!

 これも展開はある程度予想できるのですが、しかし、あの存在が、「人の情」にすがることもできなかった者たちの救いとなる皮肉な結末の味わいは、見事としか言いようがありません。


 再び続きます。

「異形コレクション 江戸迷宮」(井上雅彦編 光文社文庫) Amazon
江戸迷宮―異形コレクション (光文社文庫)


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